ナタリー PowerPush - 山下達郎

全音楽ファンに贈る、究極のオールタイムベスト

リマスタリングをする理由

──今回アルバムの収録曲は、全曲リマスタリングをしているんですか?

してます。

──その都度ベストなマスタリングでリリースしているはずなのに、改めて全曲リマスタリングをする理由というのは?

インタビュー写真

うーん、一言で言うと、CDになってから時代が進むにつれてレベル(音量)が上がっていくっていう傾向があって。だから昔の曲は今の時代に合わせてリマスタリングをして音量をアップしてやらないと、ラジオとかでほかの曲に比べてショボく聞こえてしまうんですよね。

──時代に合わせてレベルを上げる。

というか、上げざるを得ない。ホントは上げたくない(笑)。音楽の内実に関してはトレンドなんて全く気にしてないんですけど、オーディオは常に最先端のトレンドを取り入れないと成立しないんですよね、ソフトもハードも。

──ハードも?

CDプレイヤーなんかもそういう時代のトレンドに合わせて作られてますから。だから20年前のCDプレイヤーで今の、例えばEXILEの曲をかけたら音量が大き過ぎて割れて聞こえるでしょう。逆に20年前のCDを今のプレイヤーでかけたらボリュームがめちゃくちゃ小さく感じますし。今「TREASURES」を聴くと、音質はともかく音量が小さいと言われる。音圧競争といわれるものに、我々はどれだけ泣かされてるか。デジタルっていうのはなかなか音圧感っていうかガッツが出ないから、どんどんレベルを上げていくことになる。そうするとなんとなく根性がある音に聞こえるんですよね。

──デジタルのほうがガッツが出にくい?

とっても出にくい。アナログLPっていうのはあのアセテートの溝を引っ掻いて音を出してるわけでしょ。そこから音の歪みが生まれる。ギターでもアンプの入力を大きくすると音のエネルギーで割れて歪む。そういった歪みが音の疾走感やロック的なエネルギーとして感じられる。ロックンロールっていうのは要するに歪み、ディストーションの音楽なんです。

──はい。

ところがデジタルっていうのはいろいろな理由で、そういう形の歪みっていうのが生まれにくいし、逆にデジタルの出す歪みはアナログと違って人間には実に不快なもので。だからどうするかっていうと、アナログ的な歪み感をデジタル上で人工的に作るしかない。それがデジタルリマスタリングなんです。人工的に歪みを作って、いかにもガッツのある音のように聴かせるという。でもそれがエスカレートするうちにどんどん音が大きくなってきて……。最近ちょっとそれを見直す動きも出てきてはいるんですけど、ヘンテコな時代ではありますよね。

──ちなみに達郎さんは、ご自身のラジオ番組でかける曲も全部自分でリマスタリングをされると聞いたんですが。

ええ、してます。僕がラジオでかけるのは50年代60年代の古い音源が多いんで、あれを前後の番組でかかる新譜と比べられたらもう全然かなわないから。

──じゃあラジオ用のリマスタリングは、達郎さんの音の好みを反映させるという意図ではなく……。

うん、なんでそういうこと始めたかっていうと、ラジオのレギュラー番組を始めたときが前の番組がキムタクで後番組がドリカムだったんです。だから古い音楽を現代のレベル競争の中で作られた音楽と拮抗させなきゃならなくて。それでラジオの出力に見合うように自分でリマスタリングを始めたんですよ。

再レコーディングには興味がない

──今回のベストアルバムにはかなり古い曲も収録されていますが、新たにレコーディングしているものはないんですね。

僕、リレコ(再録音)には全く興味ないです。だってそのときのトラックがその曲だから。クラシックは同じ曲でも演奏者によって違うものになるでしょ? あれの逆です。ポピュラーミュージックの場合、曲というのは詞とメロディだけじゃなくて、編曲、演奏、歌、ミックスからマスタリングまで全部含めて曲なんです。「DOWN TOWN」は1974年にレコーディングされたあのトラックが「DOWN TOWN」であって、再録したものが元のトラックを上回ることなんてできっこないんですよ。それだったら新しい曲を書いたほうがいい(笑)。

──でもそうは言ってもライブで演奏しているうちに曲は成長していきますよね。今のバンドメンバーの演奏で改めてスタジオ録音をしたいと思うことはないですか?

うーん、ライブっていうのは一期一会で、レコードとは全然違いますからね。今のドラム、ベース、ギター、キーボードっていう構成でスタジオ入って、「せーの!」でライブと同じように演奏して素晴らしいものが録れるか、レコードのトラックとして成立するかっていうのは疑問ですよね。

──どういうことでしょう?

ライブはその瞬間の、観客とのリアルタイムで一度きりの共有体験だけど、レコードは反復鑑賞に耐えなきゃいけない。そこが違うんです。レコードはレコードの中の独自のイデアを追求してきた60年代からの長い歴史があって、現実には存在しないバーチャルな音世界を作れたためにこれだけの発展を重ねてきたわけです。だから「サージェント・ペパーズ(・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)」は実演できない。

──そうですね。

もちろん昔はそうじゃなかったんですよ。スウィングジャズの時代のレコードっていうのは、単に実演を録音しただけのものだった。それが録音技術が発達するにつれて、いろんな試みが生まれて、その行き先が「サージェント・ペパーズ」だったり「ペット・サウンズ」だったりするんだけど。

ライブとレコードは似て非なるもの

──THE BEATLESもTHE BEACH BOYSも、ライブで再現できない音楽をレコードで追求してきたわけですね。

だからTHE BEATLESはライブをやめたんです、再現できなくなって。ライブみたいな音でレコードを作るのもいいんだけど、僕はそういう時代を生きてこなかったんで。やっぱりレコードにはレコード独自の世界がある。で、それをライブでどれぐらい再現するかはまた全然別の問題ですよね。

──レコードをライブで再現することには興味がない?

はっきり言えばそうです。例えば「高気圧ガール」とか「LOVELAND, ISLAND」みたいな曲は、レコードにはパーカッションがたくさん入ってて、だから例えばライブのときにパーカッションを3人入れれば、レコードとほとんど同じ音をステージで作り出すことは可能なんだけど……、それをやっちゃうと他の曲でその3人は邪魔になるわけで。

──確かに(笑)。

ロックンロールっていうのは基本的に全力疾走の音楽です。特にライブでは、遊んでるヤツがいてはいけない。全員が100%駆動してギリギリのところで汗を流しながらやるのがロックンロールなんです。パーカッションとかブラスとか入れると手持ち無沙汰になって余計な振りを始めたりするでしょ。そういうの大っ嫌いなんです(笑)。ですから、本来ライブでやるのがすごい難しい曲でも、僕のバンドのメンバーは演奏力があるからある程度再現できるんですよ。でも、それは常にギリギリのところで成立させているので、そのギリギリ感が逆に演奏上のエネルギーとなって、ライブの質を向上させることにもなっていくわけで。

──なるほど。

だからライブとレコードっていうのは実は発想のまるで違う、似て非なるものなんです。よく、僕のライブがCDと同じだとか言われますが、厳密にはレコードとは全然違います。メンバーが同じであれば、同じサウンドはしますが、それでもレコードとは違うんです。なかなか説明が難しい(笑)。

オールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」2012年9月26日発売 / 3980円 / Warner Music Japan

山下達郎(やましたたつろう)

1953年東京出身の男性シンガーソングライター。1975年にシュガー・ベイブの中心人物として、シングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がけている。また、代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から四半世紀にわたってオリコン年間チャート100位以内を記録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースする。


2012年9月25日更新