音楽ナタリー Power Push - 焚吐
街から生まれた混沌の音楽
過去の自分も引き連れていく
──「クライマックス」の歌詞はゲーム用語もありつつ、歌っている内容は人間味があるものになっていますよね。
池袋でたくさんライブをやって、たくさんインスピレーションを受けた中で生まれた曲が「クライマックス」なんです。池袋はゲームやアニメなどサブカルチャーに強い場所なので、この曲の歌詞にもゲーム用語を入れ込んで、サウンドもゲームのテーマソングっぽく仕上げてみました。ゲームは高校時代にたくさんやっていたんですけど、その頃は自分の中で不幸の最高到達点だったんじゃないかなって思うくらい、人間的に落ちぶれていて。でも、デビューしてからたくさんの人たちと触れ合っていく中で、あえて自分の過去のことを描きたくなったんです。さっき「先導していく」と言いましたけど、この曲については過去の自分を引き連れていくイメージもあるんです。
──逆に不幸の真っ只中にいるときには、この歌詞は書けなかったでしょうね。
そうですね。つらい出来事って自分の中で消化するのに時間がかかるし、インスピレーションや起爆剤にはなるかもしれないけど、そのまま形にするのは難しいので。お客さんと触れ合うことで、長い間言葉にできなかったことが、曲に表せるようになったんじゃないかなって思います。
──編曲を担当したササノマリイさんとは初のタッグになります。
作詞作曲の面で新しい要素を加えたものが作れたので、アレンジャーも初となるササノさんにお願いしてみました。予想をはるかに上回る完成度で、親和性を感じました。
──ミュージックビデオでは楽曲に寄ったストーリーが描かれつつ、演奏シーンとうまく混ざり合ったものになっていますね。映像の構成などもご自身で考えたんですか?
今回は監督にいくつもイメージをお話ししました。いつもギターを持って歌っているんですけど、今回はハンドマイクで歌いたい、ということも僕が提案したもので。「オールカテゴライズ」のMVはパフォーマンスがメインで、「ふたりの秒針」のMVは映像美みたいなものを求めたので、今回は過去2作のMVを踏襲して、うまく入り混じっているものにしたいと話しました。あとは楽曲にも人間味が出てきたので、そういった部分を視覚的にも表していきたかったんです。
つらい出来事をコミカルに
──「四捨五入」はカラスヤサボウさんのアレンジにより、ユニークな仕上がりになっています。
歌詞では自分の中でつらかった出来事を取り上げているんですけれど、それを乗り越えるためにあえてコミカルな語り口にするっていうのは意識しました。
──つらい出来事をコミカルに昇華するのは、強くなければできないですよね。
デビュー前はフィルターに通さず、悲しみや怒りをそのまま楽曲に表していたんですけど、デビューしてたくさん楽曲を作って、皆さんの反応が見えるようになってからは、前に進んでいくためにいろんな側面を見せられたらなって思うようになって。この曲はシリアスとコミカル五分五分くらいで作ってみました。星新一さんの短編集とか、藤子・F・不二雄さんのシニカル、アイロニカルな短編集マンガが好きなので、僕も一筋縄ではいかない表現ができたらと思います。
──カラスヤさんのアレンジも、その考えに呼応したものになっていますよね。
デビューシングルのカップリング曲「子捨て山」でもカラスヤさんにアレンジしていただいたのですが、突飛なアレンジが得意だと知っていたので、安心して託せました。この曲はAメロ、Bメロ、サビ、間奏でそれぞれ転調していて、短調から長調になったりするので、アレンジが大変だったと思うんです。そんな中でカラスヤさんの遊び心も入った楽曲になりました。
──そして、焚吐さんのこの夏のテーマソングともいえる「人生は名状し難い」も再録されています。
「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を終え、この公演を通して思ったことを改めてぶつけたくて録り直しました。限定盤「人生は名状し難い」に収録されているバージョンはメジャーデビューの半年以上前、「オールカテゴライズ」よりも前に録っていたもので、歌い方や表現方法が今と違うんです。同じ曲だけどまったく異なる雰囲気になっているので、聴き比べて楽しんでいただきたいです。新バージョンでは「生涯をかけて歌っていきたい」という僕の思いがより強く感じられると思います。
──「人生は名状し難い」はNeruさんが作詞作曲を手がけていますが、「人生」という単語の入るタイトルをいただいて重く感じませんでしたか?
「人生」は大きなテーマではありますけど、歌詞の隅々を見ると自分が普段思っていることや、まさに“名状し難い”ことが散りばめられているんです。だから身近に感じたし、どんなにやるせない思いを抱えていても、怒りに打ち震えても、これを聴くと腑に落ちるというか。聴く人に対してとても寛容な曲だと思います。
次のページ » ほかの方の力を借りることで、自分の作品を高めていける
収録曲
- 僕は君のアジテーターじゃない
- クライマックス
- 四捨五入
- 人生は名状し難い(e.p. Ver.)
ライブ情報
リアルライブ・カプセル Vol.1
- 2016年11月4日(金)東京都 池袋 RUIDO K3
- OPEN 18:30 / START 19:00
リアルライブ・カプセル Vol.2
- 2017年2月25日(土)大阪府 ヒルズパン工場
- OPEN 17:00 / START 17:30
- 2017年2月26日(日)愛知県 ell.FITS ALL
- OPEN 17:00 / START 17:30
- 2017年3月5日(日)東京都 WWW
- OPEN 16:15 / START 17:00
「トーキョーカオス e.p.」リリース記念イベント “ニッポンカオス”
- 2016年10月26日(水)東京都 タワーレコード渋谷店
- START 21:00
- 2016年10月28日(金)愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店 店内イベントスペース
- START 18:30
- 2016年10月29日(土)兵庫県 ミント神戸 2Fデッキ特設ステージ
- START 13:00
- 2016年10月29日(土)大阪府 枚方 T-SITE 2Fオーディオスペース
- START 16:30
- 2016年10月30日(日)東京都 タワーレコード池袋店 6Fイベントスペース
- START 18:00
- 2016年12月3日(土)神奈川県 タワーレコード横浜ビブレ店
- START 18:00
焚吐(タクト)
1997年2月20日生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。小学4年生でギターに目覚め、1年後にはオリジナル曲の制作をスタートさせた。2012年、ビーイング主催「トレジャーハント~ビーイングオーディション2012~」において審査特別賞を受賞。2015年12月にはシングル「オールカテゴライズ」でビーイングよりメジャーデビューを果たす。2016年5月には2ndシングル「ふたりの秒針」をリリース。表題曲はテレビアニメ「名探偵コナン」のエンディングテーマとして使用された。さらに同年7月から8月までの期間中には、P'PARCOで計60公演にわたるアコースティックライブ「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を実施。10月にはNeru、ササノマリイ、カラスヤサボウをアレンジャーに迎えた新作CD「トーキョーカオス e.p.」を発表した。