音楽ナタリー Power Push - 焚吐
“自分のための音楽”から“人に向けた音楽”に 18歳新人SSWの決意
ハマっていたのはフォーク、サウンドはロック+ボカロ
──そういった気持ちを、この曲ではロック的なバンドサウンドに乗せて歌っています。ロックは昔から好きで聴いていたんですか?
中学の頃にハマっていたのはロックではなくフォークソングでした。さだまさしさんとか、森田童子さんとか。内面を吐露する歌という意味で、そうした1970年代のフォークソングが自分にはしっくりきたんです。
──あ、そうなんですか!? じゃあ、作っていた曲もフォーク的なものが多かった?
そうですね。アルペジオだけの純粋なフォークソングってわけではないんですけど、アコギをひたすらかき鳴らすという手法は採っていて。
──そうすると、「オールカテゴライズ」のようなバンドサウンドは、焚吐さんにとっては新しいものなんですか?
自分がこれからやっていきたいことと過去にやってきたことの折り合いを付けるために重要になってくるのが、このようなアレンジだったということですね。今自分が一番やりたいのは、周りの人にとっては聴きやすく、自分にとってはバンドのメンバーと意志疎通がとりやすい音楽なので、それでこういうバンドアレンジにしていただいたんですけど、いつかはフォーク寄りの曲も出したいと思っています。
──この曲はそうしたアレンジを人気ボカロPのNeruさんが手がけているのが、かなりユニークなところですよね。フォークが好きだった焚吐さんからすると、ボカロはずいぶん遠い音になるんじゃないですか?
いえ、フォークソングと並行してVOCALOID曲も好きで聴いていたので。VOCALOIDもすごく表現が自由というか、人間にできないことを代行して表現してくれる手段の1つだと捉えていて、人とのコミュニケーションが普段とれない自分が歌に気持ちを込めて吐露することと似たものを感じていたんです。だから自分の中ではアコースティックギターの音と電子音とがないまぜになっている感覚があるんですよ。
──面白いですね。つまりフォークから影響された感情表現や言葉の量と、届きやすいバンドサウンドと、現代的なボカロの音を1つにしている。過去に例のないものですね。
自分自身、前例を見たことがないものなので、満足のいく仕上がりになったなと思ってます。唯一無二の存在になりたいと思っているので。
──Neruさんを起用したのは?
自分がお願いしたいと提案しました。すごく作品群が好きだったので。
──アレンジが上がってきたとき、聴いてどう思いました?
とにかく驚愕というか。もともと自分が弾き語りで作っていたときからバンドバージョンとしてのイメージもあったんですけど、そのイメージを遥かに越えていた。アレンジが加わることでこんなにもキャッチーになるんだということに感動しました。
よりわかりやすく、複雑化しないで音楽を伝えていければ
──「オールカテゴライズ」はアニメ「ヤング ブラック・ジャック」のエンディングテーマとしてもう流れているんですよね。反響はどうですか?
予想をはるかに超えるお褒めの言葉をいただいてます。自分は今まで声に対してコンプレックスがあったんです。たくさんのアーティストの方々があんなに個性的な声で歌っているのに比べ、自分だけすごく無個性に感じてしまっていて、だからその分を歌詞とか曲で補おうという気持ちがずっとあった。でも今回たくさんのお声をいただく中で、自分の歌声に対して褒めてくださる意見がとても多かったので、これからもっと歌唱方法も磨いていかなきゃいけないんだなという自覚が芽生えました。
──それまで、自分が特別な声を持っていると感じたことはなかったんですか?
まったくなかったですね。
──シンガーであるという意識や自負もなかった?
なかったです。だからとにかく曲数を増やすことで、そこを補っていかないとって思っていました。
──いや、その歌声こそが一番大きな個性であり魅力だと思いましたけどね。
ありがとうございます。
──では、この先のビジョンは?
やっぱりたくさんの方に聴いていただきたい、外に踏み出していきたいという思いがあって、そのためには楽曲制作はもちろんのこと、ライブのパフォーマンスも磨いていかないとって思ってます。そうして本気でお客さんとコミュニケーションをとれるようにしていきたい。そのためにはよりわかりやすく、複雑化しないで音楽を伝えていければと。
──わかりました。ところで「焚吐」って読みが難しいですよね。ふりがながないとなかなか読めない。でも一度覚えると忘れられないという。
「焚」という字には過去の自分の負の感情を火を使って燃やすという意味を込めているんですが、それだけじゃいけないという気持ちもあって、「吐」くことで周りにも働きかけたい。それでこの名前にしたんです。
- メジャーデビューシングル「オールカテゴライズ」 / 2015年12月2日発売 / Being
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / JBCZ-6033
- 通常盤 [CD] / 1000円 / JBCZ-6034
CD収録曲
- オールカテゴライズ
- 子捨て山
初回限定盤DVD収録内容
- 「オールカテゴライズ」ミュージックビデオ
焚吐(タクト)
1997年2月20日生まれ東京都出身のシンガーソングライター。某大学芸術学部在学中。小学4年生でギターに目覚め、1年後には自分で歌を作るようになりストックはすでに100曲にのぼる。2012年、ビーイング主催「トレジャーハント~ビーイングオーディション2012~」において、独自の世界感を持つ歌詞、繊細さと透明感を併せ持つ歌声が評価され審査特別賞を受賞。2015年12月にシングル「オールカテゴライズ」でビーイングよりメジャーデビューを果たした。