音楽ナタリー Power Push - 焚吐
“自分のための音楽”から“人に向けた音楽”に 18歳新人SSWの決意
自分の音楽に影響を与えた「ボッコちゃん」「気楽に殺ろうよ」
──ところでプロフィールに「焚吐's Favorites」というのが載っていて、星新一の「ボッコちゃん」や藤子・F・不二雄の「気楽に殺ろうよ」といった本を挙げてますね。これらは日常のすぐ裏にある世界をシニカルな視点でアイロニーを込めて描くといった意味で共通してますが、こうして話を聞いたり曲を聴いたりしていると、焚吐さんがそうした世界観に惹かれていたのもよくわかる気がします。
ありそうでない世界観といった感じは、自分の歌詞にも少なからず影響を及ぼしていると思います。リアリズムに寄りすぎると説教くさくなってしまうし、かといってファンタジーに寄りすぎると胡散くさくなってしまう。お二方に共通しているのはそこのバランスですよね。あと単純明快で、テーマがわかりやすい。言いたいことを言い切ったらそこでブツッと切ってしまうというか。そういうところが、フィクションとノンフィクションが五分五分で、しかもわかりやすさに重きを置きたいと思っている自分の音楽に影響を与えていると思います。
──あと、見ている世界の虚構性といったものがありますよね。こうして目に見えている世界は果たして本当の世界なのだろうか、自分だけがだまされているんじゃないかといった恐怖を僕も子供の頃によく感じていたんですが、星新一や藤子・F・不二雄の世界観はそういう気持ちにフィットする。焚吐さんもそのあたりに惹かれていたんじゃないかな、と。
そうですね。自分もそんなふうに思ったり、自分が今いるここじゃないどこかに行きたいという気持ちをずっと持ってました。だけど、これがウソの世界であっても本当の世界であっても、やっぱりここで生きていかなきゃいけないんだというような気持ちがだんだんと芽生え始めたので、それが今の自分の歌にも反映されているんじゃないかと思います。
──そのような気持ちが芽生え始めたのはいつ頃ですか?
高校からですね。高校の頃に今の会社(ビーイング)と契約させていただいて、そこから地に足を着けてシンガーソングライターとして活動していくことになったので。「オールカテゴライズ」のだいたいの構想ができたのも高校のときでした。
「オールカテゴライズ」を作ってようやく一歩を踏み出せた
──では、その「オールカテゴライズ」の話を伺っていきますね。楽曲ストックは100曲以上あるそうですが、この曲はその中でも焚吐さんにとって特別な曲なんでしょうか。
そうですね。「オールカテゴライズ」を作って一番感じたのは、ようやく一歩を踏み出せたなということでした。
──というと?
今まではずっと内向的に、自分が自分の過去を浄化するためだとか、自分の痛みを和らげるために曲を書いていたんです。でも「オールカテゴライズ」はもっと外に働きかけて、外とのつながりを明確に意識しながら書けた最初の曲だったので。
──今まではひたすら自分のために自分の内面を書くことをしていた。
そうですね。人とコミュニケーションをとりたいという願望はずっとあったんですけど、今までは「お前と話したいから自分は今心情を吐露してるんだ!」というような気持ちがあった。相手のことを考えた歌の作り方をしてなかったんです。でも、独りよがりでぶつけただけでは、相手に気持ちを汲んでもらえない。相手のことを思ってわかりやすく伝えないと、伝わらないと思って。だから「オールカテゴライズ」は相手に少し気持ちを委ねるというか、自分1人で消化しない書き方をしました。これから聴いてくださる方々と仲よくなっていくために自分がすべきことが、「オールカテゴライズ」を書いたことで見えた気がしますね。
──どうしてそれができたんだと思います?
「子捨て山」と「オールカテゴライズ」は近い時期に作った曲なんですね。「子捨て山」は外に働きかけたいんだけど働きかけられないという迷いの歌なんですけど、それができあがったことによって自分の中で絡まっていたものがようやくほどけた気がして、そこから「オールカテゴライズ」の制作に臨めたんです。
──理解してほしいのにしてもらえないという思いで、絡まっていたわけですか?
そうですね。自分はこれを伝えたい、でもどうせ理解してもらえないだろうという二元論のようなものがあって。「子捨て山」を書く以前は特定の人に向けて書くことが多かったんですけど、それがいい加減、不毛だってことにこの頃気付きまして。「子捨て山」はその当時の自分にとっての叫びですが、そこからもう少し人と関わりを持つためにはどうすればいいかということを考えるようになって「オールカテゴライズ」ができました。
ネガティブに思えていたものをポジティブに捉え直したい
──それにしても「オールカテゴライズ」というタイトル自体、引っかかりを持つものですね。どういう意味なのか気になって歌詞に耳を傾けたくなる。
外に向けて歌う曲の第1弾ということでキャッチーなものにしたくて、曲の中で伝えたいことを伝え切った上で決めゼリフとなるような印象的な言葉が必要だなと思ったんです。それで、今の自分の心情を一言で表すなら、この言葉だろうと。
──カテゴライズされるのがまっぴらだというのではなく、もっと肯定的にカテゴライズという言葉を使っているようですね。
積極的にカテゴライズしていこうという気持ちですね。普段は散り散りになってしまってあまり共通点の見えないもの、自分とかけ離れたところで生活してるように思えるものも、自分の考えの範疇にカテゴライズする。それによって自分の中で納得させるというか。ネガティブに思えていたものをポジティブに捉え直したいという気持ちがあって、この言葉をタイトルにしました。
──以前は特定の人に向けて書くことが多かったと話してましたが、そういう人や、この歌詞に出てくる「褒めようのないもの」「ろくでもない人」でさえも、ただ失望して突き放してしまうのではなく、カテゴライズすることで前向きに捉えたいということですね。
そうですね。いくら嫌だと思っていても、つき合っていかなきゃいけない人って、これからもっとたくさん現れるだろうと思っていて。その人とどう向き合えばその人のことを理解できるだろう?って考えたときに、カケラでも優しさを見つけられたらいいんじゃないかと思って、そのことを歌にしました。自分のネガティブなところはそう簡単には変わらないけど、いくら回り道をしてもポジティブに持っていかなければいけない。そういう気持ちが芽生えたんです。
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- メジャーデビューシングル「オールカテゴライズ」 / 2015年12月2日発売 / Being
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / JBCZ-6033
- 通常盤 [CD] / 1000円 / JBCZ-6034
CD収録曲
- オールカテゴライズ
- 子捨て山
初回限定盤DVD収録内容
- 「オールカテゴライズ」ミュージックビデオ
焚吐(タクト)
1997年2月20日生まれ東京都出身のシンガーソングライター。某大学芸術学部在学中。小学4年生でギターに目覚め、1年後には自分で歌を作るようになりストックはすでに100曲にのぼる。2012年、ビーイング主催「トレジャーハント~ビーイングオーディション2012~」において、独自の世界感を持つ歌詞、繊細さと透明感を併せ持つ歌声が評価され審査特別賞を受賞。2015年12月にシングル「オールカテゴライズ」でビーイングよりメジャーデビューを果たした。