竹内まりや|キャリア42年で初めて映像作品リリースに至った理由

75歳になった頃ロックンロールを歌っていたら

──「souvenir the movie」の話に戻りますが、映像の中でまりやさんは40年間についてお話ししたあと、「これからもよろしくお願いします」とさらりと言っているんですが、実はすごく重みのある言葉ですよね。40年続けてきた中でさらに「これからも」というモチベーションがあるのはすごいことだなと。これだけ長くやってきたんだから、いつ引退されてもいいと思うんですよ。だからこそ「これからも」はものすごくうれしい言葉でした。

あれは自分に続けさせるために意識的にそう言っていますね。考えたら私だってもう前期高齢者の仲間入りをしてるわけですけど(笑)、どんな形であれ音楽は続けていきたいと思っているんです。歌えなくなっても曲は書き続けたいとか、音楽に関わっていきたいという意思がある限りはそれを表明しておこうと思って。そんなふうに言えたのも、疲弊しない形で活動を続けてこられたからです。やりたいことはまだあるけれど、昔より私の残り時間は短くなっている。その中でそれを実現させるのはある種覚悟が必要ですから。だから私はこれからも自分のペースでやり続けていきますので見守っていてください、というような意味合いで言ったんだと思います。

──「やりたいこと」って具体的にどういうことがあるんですか?

それはイベント的なものというよりも、音楽の表現の部分ですね。例えば私が75歳になった頃にどんなタイプの曲を歌っていたら面白いかなとか漠然と考えるんです。ゴリゴリのロックンロールをその年齢でも歌っていたいとかね(笑)。私たちみたいなこういうミドルオブザロードの音楽って逆になんでもアリなので、自分の体の中にあるいろんな音楽の片鱗をさまざまな様式で出していく、そういうことを全部やってみたい。ロックもジャズもソウルもボサノバもフォークも、好きな音楽の要素を自分のフィルターを通したポップスという形にする、そしてさらに年齢を重ねた私がどんな言葉と一緒にそれを届けるのか、自身が見てみたいんです。そしてそれをまた達郎がどうプロデュースするのか、あるいはほかのプロデューサーとトライしてみることもあるんだろうかとか、そういうことを考えるのが楽しいです。

──もしなんの足かせもなく好き勝手に作品を作ったらどうなると思いますか?

完全に好き勝手に10曲ぐらい作ったとしますよね? そしたら好き勝手やってないもう1枚のアルバムとセットにして出そうかな(笑)。やっぱり自己満足で終わりたくないんですよ。ちゃんと皆さんに喜んでもらえるものを作ったうえで、よければこちらの方も聴いてみてくださいと。

──自己満足だけの作品を出したいという気持ちはないですか?

それじゃたくさんの人に届かないので、出す意義がないんですよ。やりたければ勝手に家で歌っていればいいわけですから。先ほども言ったとおり、ポップスは人々に聴いてもらえて初めてポップスと呼びうるものになると思ってるんです。自負心や自己顕示欲だけではなくて、そのどこかに利他の精神がないと商業音楽は続いていかないような気がしますね。

「souvenir the movie ~MARIYA TAKEUCHI Theater Live~(Special Edition)」より。

私の変化はたぶん音に出てくる

逆に私からも質問させていただきたいんですけど、ナタリーでいろいろインタビューされる中で、ほかのミュージシャンの方たちはサブスクリプション中心となった今の音楽の聴かれ方や変化をどう受け止めていらっしゃるのでしょうか?

──そこに関しては本当にさまざまではありますね。レコードやアルバムの概念がなくなっている状況をよしとしている人もいれば、それを捨てたくない人もいる。逆にアルバムという概念がもともとなかった若い人が、アルバム表現というものに興味を持っていたりすることもあって。

単曲買いとかできる時代ですものね。自分で自由にプレイリストを組み合わせるとかね。だから曲順は関係なくなるだろうし、アルバムのコンセプトはもういらないというか。

──そうですね。ライブに関しても、無観客というスタイルにどうしても納得できないアーティストもいれば、逆に積極的に配信ライブならではの魅せ方を楽しんでいる人たちもいます。あと最近はコロナ禍によって楽曲の作り方にも変化があるようで、ライブでの表現を主体としているロックバンドが、ライブを想定しない作品を出したりもしていて。世の中の変化によって音楽的なムーブメントにも変化があるかもしれません。

自粛期間を経て内省的になったりもしますよね。クリエイションはそういう社会状況の影響を絶対受けると思うんですよ。この前、たまたまテイラー・スウィフトの新しいアルバム「folklore」を聴いてみたんです。テイラーってポップで明るい女の子というイメージを勝手に持っていたんですけれど、このアルバムは以前よりもずっと内省的な感じですよね。音像の作り方も歌詞も今までとは違っていたし。前宣伝も予告もしないで発表したそういう作品がしっかり聴かれているというのは、リスナーたちもコロナ禍で明らかに心のモードが変わってきてるんだなと思いましたね。

──コロナ禍の状況でテイラーのように、まりやさん自身も自分のクリエイティビティに変化はありましたか?

まだ変わったかどうか自覚はないんですけど、曲を書きたいと思う動機として、自粛期間に物理的にあり余る時間を与えられたこと自体が大きな変化でしたね。でも、こういう状況だからそれにまつわることを直接的に歌にするということはしようとは思っていません。いずれ気付けば何かが自分の中で変わっているのかもしれないですが。例えば、よりシンプルな音が好きになったり、逆にストリングスがいっぱい入ったゴージャスな音が好きになったりするのかもしれない。私のそういう変化はたぶん音に出てくるんだと思います。コロナ禍によってもたらされたこの状況はどんなミュージシャンにとってもいろいろ大変ですが、業界全体の変化も含めて、音楽で食べていくことがどんどん難しくなっているということは感じますね。

──あるミュージシャンは、コロナの状況を見て以前のように細かい音符に言葉をたくさん詰め込むことができなくなったと言っていました。1個1個の音を長く取るような曲しか書けなくなっちゃったって。

それはなんなんでしょうね。非常にゆっくりとした時間の中に身を置くことになったという要因もあるんでしょうか。ずっと家にいざるをえなかったから、とか。

──今までの生活とスピード感が変わっているのかもしれないですね。のちのち振り返ったときに2020年、2021年にリリースされた作品には独特の匂いがあるかもしれない。

なるほど、そうかもしれません。音楽的には、ある意味楽しみですよね。

ツアー情報

ケンタッキーフライドチキン presents
souvenir2021
mariya takeuchi live
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  • 2021年4月3日(土)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2021年4月4日(日)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2021年4月10日(土)大阪府 大阪城ホール
  • 2021年4月11日(日)大阪府 大阪城ホール
  • 2021年4月17日(土)愛知県 名古屋 日本ガイシホール
  • 2021年4月18日(日)愛知県 名古屋 日本ガイシホール
  • 2021年4月25日(日)広島県 広島グリーンアリーナ
  • 2021年5月1日(土)福岡県 マリンメッセ福岡
  • 2021年5月2日(日)福岡県 マリンメッセ福岡
  • 2021年5月15日(土)宮城県 宮城 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2021年5月16日(日)宮城県 宮城 セキスイハイムスーパーアリーナ
  • 2021年5月29日(土)神奈川県 ぴあアリーナMM
  • 2021年5月30日(日)神奈川県 ぴあアリーナMM
「souvenir the movie ~MARIYA TAKEUCHI Theater Live~(Special Edition)」より。