ナタリー PowerPush - 竹達彩奈

幼少期から歌手デビューまで あやち伝説徹底検証

お母さんのひとことで歌手活動を決意

──その「けいおん!」をきっかけに、キャラクターソングを歌うのみならず、ライブ活動にまで仕事の手が広がりましたよね。それも横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナという大規模な会場で、あまつさえ楽器を演奏するという。子供の頃は自分の中で“主食”ではなかった音楽の世界に飛び込むのは、さらに大変だったんじゃないでしょうか。

楽器の演奏は元々「けいおん!」のWEBラジオ企画で始めて、「うまくいったらイベントとかで披露したいねー」っていう軽い感じだったんですよ。まさかあんなに規模が大きくなるとは思ってもなかったし、歌に関しても不安でした。いざ歌うとなると「キャラソンって一体なんなんだろう?」って考えちゃって。キャラソンを聴いてくださる方はそのアニメのキャラが好きで聴いてると思うんですけど、ライブだと“中の人”が出てくるわけじゃないですか(笑)。私が歌っていいんだろうか、みんなの夢を壊さないかなって。みんなあずにゃんをイメージして、黒髪でツインテールのちっちゃい子が出てくるのをイメージしてるんじゃないかなーとか。それが横浜アリーナのときですね。

──ずいぶんでかいところで悩んでたんですね(笑)。実際ステージに立って歌ってみたらどうでしたか?

緊張と不安でいっぱいだったんですけど、みんなが緑のあずにゃんカラーのサイリウムを振って応援してくれている姿を観て、歌ってる途中で幸せな気持ちがあふれてきて。ライブのあとは充実感がありました。歌って良かったなって思えたし、あずにゃんを通して「けいおん!」ファンのみんなとひとつになれた気がして「こういうお仕事も素敵だな」って。

──そこからは声優としてさまざまなアニメでの活躍があり、並行して数多くのキャラソンがリリースされました。そして今年の春、まさに満を持してのソロアーティストデビューとなったわけですが。

竹達彩奈

最初にお話をいただいたときは、ちょっと悩みました。それまで声優の仕事に付いていくのに一生懸命だったから正直「無理だよ!」って(笑)。今の力量では、声優としても歌手としても中途半端になっちゃうんじゃないかって思ったんです。でもお母さんはすごく応援してくれてたし、周りの友達に相談してもみんな「やってみたほうがいいよ」って肯定的な意見だったんですよね。いろいろ悩んだ結果、1枚出してみてダメだったら……うふふふ(笑)。

──なかったことに(笑)。ちなみにお母さんからの後押しはどんな言葉だったんですか?

「あんたの好きな堀江由衣さんだって歌の活動がんばってるじゃない」って(笑)。私がずっと前から由衣さんのことが好きで、CDとかDVDをいっぱい持ってるのを知ってたから、お母さんとしては私にも由衣さんのように歌もできてお芝居もできる声優になってほしかったみたいなんですよ。それで「やんなさいよ」っていうふうに。自分もファン目線で考えてみれば、確かに納得できるんです。歌を出されている声優さんたちって皆さんファンの方たちを大事にされてるし、ライブをしたり歌を出したりすることで、よりファンの方たちとの強いつながりが生まれるんだろうなあって。やっぱり好きな人から「新しい曲がでます!」「次はいつどこどこでライブをやります!」って発表があったらうれしいですし。そういうファン心理は私にもすごくわかるので、私だったらうれしいことをファンの方にもしたい、と思ったら「せっかくのチャンスだし、やってみるべきかもしれない」って。

──なるほど。

一度やってみて、自分自身「向いてないな、やっぱダメだな」と思ったり、みんなにも喜んでもらえなかったら、それでやめようって決めました。でも始めてみたら、みんなすごく喜んでくれたし、たくさんの人が応援してくれて。曲を聴いてから興味を持ってくださる方も多いし、歌を始めたことによってより音楽も好きになって、たくさんの出会いにも恵まれて。一歩踏み出せて良かったなって思います。

みんなが私のために魔法をかけてくださってるような

──また、その記念すべき第一歩となったソロデビュー曲「Sinfonia! Sinfonia!!!」を手がけたのが沖井礼二さんだというのは、ナタリーのニュースでも大きな話題を集めました。沖井さんファンからしてみれば「ようこそ、こちら側へ!」みたいな。

あはは(笑)。そうだったんですね。

──どんな曲になるんだろうと思ったら、もう面白いぐらい容赦のない沖井節で(笑)。素晴らしい第一歩だなと。リリース時のコメントやTwitterでもおっしゃってましたが、レコーディングには歌入れだけじゃなく、楽器の録音にも足を運んだとか。

私は自分で曲が作れるわけではないので、自分の曲をどんな人が作ってくれたのか、どんな人が演奏しているのか知らないまま「竹達彩奈の曲です」って言えないなって思ったんですよね。関わってくださる方に「私に力を貸してくださってありがとうございます」という気持ちを伝えるためにもご挨拶に行きたくて。

──キャラソンの場合はまず作品ありきだけど、個人名義の場合は自分の名前が先に立つから、ちょっと心構えも違ってくるかもしれませんね。

マネージャーさんも「まあ一発目だし、観ておくのはいいかもしれないね」って言ってくれて観に行ったんですけど、もう皆さんの熱がすごかったんですよ。汗水たらしながら一生懸命、何度も何度も演奏して。妥協せず何時間もかけてやってくださっている姿がすごく素敵で。皆さんが魂のぶつかり合いでこの曲を演奏してくださってるんだ、というを目の当たりにして「私も絶対に妥協しちゃだめだ」って気が引き締まりました。レコーディングを観るのは楽しいですね。もう、皆さんの指先が魔法みたいなんですよ! みんなが私のために魔法をかけてくださってるような(笑)。

ちょっとずつ、一歩ずつ

──そして2作目のシングル「♪の国のアリス」ですが、「1枚出してだめならやめる」と考えていた竹達さんが次の一歩を踏み出したということは、「Sinfonia! Sinfonia!!!」はご自身の中でも手応えを感じたんですね。

うーん、なんて言ったらいいんだろう。もちろん、2枚目以降のことは話には当初から出ていたんですよ(笑)。でもそれとは別に、「Sinfonia! Sinfonia!!!」は作る過程がすごく楽しかったし、もっと歌に携わってみたいって自発的に思えたんですよ。それは自分の中でも新しい変化で。不安はまだあるんですけど、それを上回るぐらいの楽しい気持ちが生まれたのは本当に幸せなことだなって。そういう幸せな環境を作ってくださった皆さんにすごく感謝していて、このまま終わったら私は皆さんに恩返しができないって思ったんですね。

──前回の沖井さんに続き、今回は末光篤さんの楽曲提供で、演奏にも鈴木俊介さん、ミト(クラムボン)さん、柏倉隆史(toe)さんというそうそうたるメンバーが揃っていて。

次の一歩を踏み出してみたものの、まだまだ不安は大きかったんです。でも「真っすぐになら歌えるわ」という歌詞を見たときに、「自信はないけど、持っている力を全部絞り出して歌うことはできるんじゃないか」ってちょっと吹っ切れたんですよね。私自身パワーをいただけた曲なので、気持ちを込めて歌うことができました。

──ポップなサウンドも最高ですけど、歌詞の世界観も竹達さんにぴったりな感じがしました。サビの「Hello…!!! 新しい私」は、前作「Sinfonia! Sinfonia!!!」の「おはよう僕の世界」に続くキラーフレーズですね。ハッと耳を奪われるような。

ありがとうございます。やっぱりふと聴こえてきたときに耳に残るのっていいですよね。

──こうして新しいシングルができたことで、1枚では点だったものが線としてつながったわけですよね。子供の頃から辿ってきた「声優」という1本の線上に、歌手、アーティストとしての線が並行して生まれたと。これからこの新たな線をどうつなげていきますか?

……どうしていけばいいんだろう。あはははは(笑)。まだ始まったばかりだし、本当に毎回手探りなので。

──ファンの皆さんはきっと「次はアルバムを」「今度はツアーを」と望んでいるはずですよ。

あー。機会があればやってみたいなと思いますが、まだまだ自信がないので……(笑)。そういう自信も経験とともに培っていけたらなって。自分の活動なので、自分発信でどんどんやっていかないとなと思っています。今はこうして無事二歩目を踏み出せたところで、焦って前に進もうとしてもいけないと思うので、皆さんの力もお借りしつつ、ちょっとずつ、一歩ずつ進んでいきたいですね。

竹達彩奈

2ndシングル「♪(おんぷ)の国のアリス」 / 2012年9月12日発売 / PONY CANYON

CD収録曲
  1. ♪の国のアリス
  2. CANDY LOVE
  3. ♪の国のアリス(instrumental)
  4. CANDY LOVE(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • ♪の国のアリス(Music Video)
竹達彩奈
竹達彩奈(たけたつあやな)

埼玉県出身の声優アーティスト。2009年放送のテレビアニメ「けいおん!」中野梓役で大きな注目を集める。「けいおん!」から派生したユニット「放課後ティータイム」では数々のヒット曲を生み、2009年12月には神奈川・横浜アリーナ、2011年2月には埼玉・さいたまスーパーアリーナにてコンサートを行った。2012年4月には初の個人名義によるシングル「Sinfonia! Sinfonia!!!」でソロアーティストとしてデビュー。9月12日には2ndシングル「♪(おんぷ)の国のアリス」をリリースする。