音楽ナタリー Power Push - 高橋優

自分の中にあるものを全部出したアルバム「来し方行く末」全曲解説

高橋優が5枚目のアルバム「来し方行く末」をリリースした。ベストアルバムの発売を挟んで約2年ぶりのオリジナルアルバムとなる今作には、彼の代表曲の1つになった「明日はきっといい日になる」などヒットシングル4曲を含む12曲を収録。今回の特集ではこのアルバムに収められた1曲1曲について高橋自身に解説してもらい、作品に込められた彼の思いを聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 西田周平

今までとこれからをとても意識した2年間だった

──2年ぶりのオリジナルアルバムが完成しました。これまで高橋さんがずっと表現してきた“生の肯定”が強く感じられるアルバムですね。

ありがとうございます。

──「来し方行く末」というアルバムタイトルについて聞かせてください。

高橋優

デビュー5周年を迎えた去年が今までを意識する1年だったとすれば、逆に今年はこれからを意識する1年だったような気がしたんです。自分自身についてもそうだし、時代に関しても各メディアの報道を見ていると今年って大きな転換点だった気がして。今までとこれからをとても意識した2年間だったので、過去と未来という意味の言葉を使いました。

──それぞれの曲にも共通する言葉が使われていたりしますよね。今回は全曲紹介ということで、どうぞよろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。

「Mr.Complex Man」と「君の背景」は2曲で1セット

1. Mr.Complex Man

──1曲目から「人見知りベイベー」(3rdアルバム「BREAK MY SILENCE」収録)あたりを彷彿とさせる、激しい感情を吐露した楽曲ですね。

このアルバムの中で最後にできた曲です。イントロダクションであると同時にアルバムを象徴する言葉が並んでるような1曲目が欲しくて。じゃあ、どういうことを表現したいのか考えたとき、なかなか自分のことを好きになれない自分がいることが1個大きいキーワードとしてある気がしたんです。それを逆手に取って、「そういう自分でもやれることはあるんじゃないか」みたいな曲になればいいなってところから書き始めました。日々過ごしてると腹立たしいことってあるじゃないですか? 単純に心の余裕が持てないときとか。そういうところから目を逸らすアルバムにはしたくなかったんです。自分の弱い部分も惜しみなく出していこう、みたいに思って。

──自分はこういう人間なんだよと提示することをアルバムの導入部にしたかった?

そうです。超個人的な思いって意外といろんな人がシンパシーを感じる部分だったりすると聞いたことがあって。今回のアルバムでは全体的に、万人に共通する言葉を探すというより、自分の内側から言葉を探すことを今まで以上にやった気がします。

2. 君の背景

──こちらは一転して心温まるラブソングです。

「Mr.Complex Man」の1個前にできました。僕、よく2曲同時にできることが多くて。光と影が一緒に出てくるんです。陽でいったら陰。プラス思考でいったらマイナス思考。視点は全然違うんですけど、「Mr.Complex Man」と「君の背景」は、ほぼセットだと思います。「君の背景」は僕の中で珍しいラブソングにチャレンジしているんですけど、これも作り方としては一緒で、すごくピンポイントで。一緒に道を歩いていて、どっちが車道側を歩くとか、どっちが歩道側を歩くとか。「いつも側にいるからね」みたいな、もしかしたら誰しもが経験することではないシチュエーションよりは、そういう超個人的なエピソードから入っていきたいなと思って書き始めました。

──「ずっとこの手を離さない」というフレーズは、5曲目の「拒む君の手を握る」と呼応するのかなと思ったんですが。

あっちはもうちょっとダメな男ですね。今回わりとダメな男がよく登場するんです(笑)。

──「君の背景」の主人公はダメな男じゃないですよね?

いや、ダメな男です。というのも、よく女の子が言いがちな言葉なんですけど、「なんで私を選んでくれたの? ほかにかわいい子いっぱいいるのに」みたいなことを僕もよく思うんですよ。世にいう“金持ち、イケメン、仕事できる人”のところに行きゃいいものを、「なんで自分みたいな者に興味を持ってくれたの?」って。この歌の2番でも表現してるんですけど、「妥協せず、そうじゃない彼氏を見つけに行けばいいじゃないか?」なんてことを言っちゃって、それでケンカが始まってしまうという。

──よくないですね。

最低なんです、そういうこと言う男って(笑)。これは自信が持てない自分の手を離さないでいてくれた女の子の背中を想像しながら書いたんですけど、最初に書こうと思ったエピソードは全然ラブソングと関係なくて。

──何があったんですか?

電車に乗ってるとき、お母さんが赤ちゃんを抱っこしたまま僕に背を向けて窓の外を見てたんですけど、赤ちゃんの視線の先に僕が座ってたんです。その赤ちゃんが僕のほうをお母さんの肩越しに見てる姿がかわいくて。僕、赤ちゃん大好きだから、おどけた表情をしてたらケタケタ笑い出したんですよ。お母さんには何が起こってるかわからないから、「どうしたの?」ってこっちを振り返る。でも、僕はお母さんに見られたくないから知らないふりをする(笑)。抱き締め合うって面白いなって。そんなちっちゃな子でも、お母さんが見えない景色を見ながら育ってるんだなと思ったとき、抱き締め合う意味について考えたんです。2人で360°見渡せる構図を何か曲にできないかなって。そこから「君の背景」のモチーフが生まれました。

音楽だけでも「いい日になる」って口ずさんでくれたら

3. さくらのうた

──高橋さんのシングルでは珍しいバラードでしたね。

自分の帰るべき場所、約束した場所を歌ったものです。思春期の頃にした約束を意外と僕、覚えてることが多くて。同窓会で友達に会うと、「そんなこと言ったっけ?」とか言われちゃうことがあるんですよ。例えば「お互い夢を叶えてまた会おうね」みたいな約束をしたのが僕はうれしくて覚えてたりするんですけど、大人になると「あの頃は若かったなー、ビッグになるとか言ってたよねー」とか言われて、「いや、俺は今でもそう思ったまんまだけど?」みたいな(笑)。そのちょっとした寂しさと、言い合ったことが意外と自分の励みになってる気持ちを、桜の花に見立てながら歌ったんです。

──それが「10年先も笑い逢おう」「同じ木の下でまた会おう」という思いにつながっているんですね。

僕、「同じ空の下」(3rdアルバム「BREAK MY SILENCE」収録)という曲もあるんですけど、誰かと同じものを見ているときにつながりを感じたりするような気がするんです。Twitterで「今流星群が見えるよ!」とか言い合ってるのを見て、「あの人も見てんだ?」みたいな。それで言うと、東京って秋田よりも早く桜の花が咲くんで、東京に住んでると地元の人と通じ合ってるなと思う時間が短いんです。でも、僕らが高校を卒業した年は秋田にしてはすごく早い段階で桜が咲いてて。その景色を思い浮かべて曲を書いた気がします。

4. 明日はきっといい日になる

──シングルとして発売されてから1年越しのオリジナルアルバム収録です。ダイハツ「CAST」のCMソングにも使用されて耳にする機会の多い曲ですが、高橋さん自身にとっても大きな存在の楽曲になりましたか?

自分ではあまり実感ないんですけど、一番うれしかったのは、いろんな人が歌ってくれたことですね。例えば、友達がカラオケで歌ってくれたり、親戚の子の学校でこの曲を流しながら順番に跳び箱を飛んでたり(笑)。その映像をLINEで送ってくれたんですけど、とても微笑ましいムードの中で自分の楽曲を使っていただいて。それから同じ事務所のRihwaちゃんがシングルの表題曲としてリリースしてくれたことも僕にとって初めてだったので、すごくうれしかったですね。自分の歌を自分以外の人が歌ってくれている瞬間が、今のところ人生で一番ハッピーを感じられるので。

──みんなに歌ってもらうことで完成する楽曲ってありますよね。

ありますね。この曲はもしかしたらそういう性質のものかもしれないですね。言霊が1つのテーマになっていたので。今の時代、いい日になるかどうかわからないと思うほうが自然じゃないですか? なかなかプラス思考になるにもしんどいこのご時世、音楽だけでも「いい日になる、いい日になる」って口ずさんでくれたら、その人にとっての明日がちょっとはいい日になりやしないかなっていう言霊を信じて書かせてもらったので。どこかの誰かが口ずさんでくれてたらいいなって願いは今もあります。

ニューアルバム「来し方行く末」 / 2016年11月16日発売 / unBORDE
初回限定盤 [CD+DVD] / 4212円 / WPZL-31246~7
通常盤 [CD] / 3240円 / WPCL-12461
CD収録曲
  1. Mr.Complex Man
  2. 君の背景
  3. さくらのうた
  4. 明日はきっといい日になる
  5. 拒む君の手を握る
  6. 悲しみのない場所
  7. 産まれた理由
  8. アイアンハート
  9. Cockroach
  10. 光の破片
  11. BEAUTIFUL
初回限定盤DVD収録内容
  • 秋田CARAVAN MUSIC FES 2016 at グリーンスタジアムよこて 2016.9.3-4
  • 秋田フェスお蔵入り映像「ユウタイム~あきたの時間」
  • 林卓の活躍 in 秋田フェス

高橋優 全国ホール&アリーナツアー 2016-2017「来し方行く末」

2016年12月3日(土)
埼玉県 狭山市市民会館(ファンクラブ限定公演)
2016年12月11日(日)
石川県 本多の森ホール
2016年12月17日(土)
福島県 郡山市民文化センター 大ホール
2016年12月18日(日)
新潟県 新潟県民会館
2016年12月20日(火)
長野県 ホクト文化ホール 中ホール
2016年12月21日(水)
埼玉県 大宮ソニックシティ
2016年12月25日(日)
沖縄県 沖縄市民会館
2017年1月7日(土)
宮城県 仙台サンプラザホール
2017年1月8日(日)
宮城県 仙台サンプラザホール
2017年1月14日(土)
福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
2017年1月15日(日)
鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
2017年1月21日(土)
香川県 レクザムホール
2017年1月22日(日)
高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
2017年2月3日(金)
広島県 広島文化学園HBGホール
2017年2月4日(土)
山口県 周南市文化会館
2017年2月10日(金)
秋田県 秋田県民会館
2017年2月12日(日)
岩手県 盛岡市民文化ホール
2017年2月19日(日)
熊本県 荒尾総合文化センター
2017年2月20日(月)
大分県 ホルトホール大分
2017年2月26日(日)
岡山県 岡山市民会館
2017年3月11日(土)
愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年3月12日(日)
愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年3月18日(土)
北海道 わくわくホリデーホール
2017年3月19日(日)
北海道 わくわくホリデーホール
2017年4月1日(土)
神奈川県 横浜アリーナ
2017年4月2日(日)
神奈川県 横浜アリーナ
2017年4月16日(日)
大阪府 大阪城ホール

「高橋優 来し方行く末ダイニング」

「高橋優 来し方行く末ダイニング」

東京都港区高輪4丁目10-8 ウィング高輪WEST-III 1階 あきた美彩館内

2016年11月16日(水)~11月30日(水) 期間限定オープン

※CDの販売期間、並びに時間は2016年11月16日(水)~11月20日(日) 11:00~20:00

アルバム「来し方行く末」の発売を記念してオープンしたダイニングで、アルバム収録曲をテーマにしたコラボフードメニューを用意。店内はのれん、のぼり、看板、ランチョンマットなどの装飾物が高橋優の「来し方行く末」にちなんだもので埋め尽くされ、高橋優の写真やレコーディング秘話が展示される。

また、11月16日から11月20日までの間に店舗でアルバム「来し方行く末」を購入すると、「秋田CARAVAN MUSIC FES 2016」で撮影された写真を使った5種類のポスターが日替わりでプレゼントされる。

高橋優(タカハシユウ)
高橋優

1983年生まれ、秋田県出身のシンガーソングライター。大学進学と同時に路上で弾き語りを始める。2008年に活動拠点を東京に移す。2010年7月にシングル「素晴らしき日常」でメジャーデビュー。2011年4月にリリースされたメジャー1stアルバム「リアルタイム・シンガーソングライター」はロングヒットを記録する。2013年11月には初の日本武道館公演を開催。2015年7月にはメジャーデビュー5周年を記念した初のベストアルバム「高橋優 BEST 2009-2015 『笑う約束』」をリリースした。2016年9月には地元・秋田のグリーンスタジアムよこてで野外音楽フェス「秋田CARAVAN MUSIC FES 2016」を開催。同年11月に5枚目のオリジナルアルバム「来し方行く末」を発表。12月からは神奈川・横浜アリーナ2DAYSを含む、全国ホール&アリーナツアー「来し方行く末」を開催する。