音楽ナタリー PowerPush - 高橋洋子

ボーカリストとして、母なる者として 今、伝えたいこと

自然とメロディにハマる言葉

──高橋さんはこれまでたくさんの楽曲を歌ってきていますが「真実の黙示録」のようにご自身で作詞した曲を歌うのと、及川眠子さん作詞の「残酷な天使のテーゼ」のように別の方が作詞したものを歌うのでは、どのような違いがあるでしょうか?

特に眠子さんについてお話するなら「プロだな……!」とうならされることが多いです。詞を渡されたときに手元に譜面さえあれば、歌い手自身がそのメロディラインに全部の言葉をキチッとハメられるんです。「ここ、どう歌うんですか?」という部分が一切ないんですよ。それぞれのパーツがすべてメロディに合っている。しかも言葉の歯切れもいいですし、本当にプロ中のプロです。例えば、さすがに今となっては(「残酷な天使のテーゼ」のサビのメロディライン)「♪タッタタタターンタン」を聴けば、そこにハマる詞が「♪神話になーれ」だということを皆さん知っていると思うんですけど、もし知らない方があの曲のサビの最後のメロディラインと「神話になれ」っていう言葉だけを渡されたとしても、すごく自然に歌うことができると思いますから。

──メロディを聴けば、それぞれの音符にどうやって言葉を置けばいいか理解できるように作られているんですね。

それが彼女のすごさなんですよ。だから「眠子さん! 神がかってますね!」と言ったら、ご本人は「ううん、私、なーんにも考えてないもん」って言ってましたけど(笑)。すごく素敵な方です。

“子供”たちの目覚めをエモーショナルに願う歌

──一方、ご自身の歌詞については?

自分の詞はもっと感情的。言いたいことを言っているので。ほかの作詞家さんからいただいた詞との大きな違いといえば、そこでしょうか。で、感情的に書いた詞だからこそ、歌うとき、より感情がこもる気はしますね。「真実の黙示録」でいえば、サビの「目覚めよ」は、溜めて溜めて溜めて溜めて……ウォリャーッ!という感じになっちゃいましたし(笑)。「真実の黙示録」には「母の言葉」のほかにもう1つ、「覚醒」っていうテーマがあって、だから「目覚めよ」という言葉を書いたんですけど、その作詞家である私が歌うと、より力が入るんですよね。私も視聴者の皆さんと同じで、今後お話がどうなるのかまったく知らないのですごく楽しみなのですが、できれば“目覚めた”先にあるのは「光」であってほしいなと思うし、その願いがどうしても顔を出してしまうんです(笑)。

──高橋さんは過去にあるインタビューで「できるだけポジティブなことを歌いたいなと思っています」とおっしゃっていましたけど「真実の黙示録」も、ハードなサウンドでありながら、やはり「光」を感じさせる曲なんですね。

口にしたことは実現すると思っているから、いい言葉を言っていきたいんですよね。私にとっては歌うこと=生きることですし、逆に自分の生き方が自分の歌になると思っているので。そういう意味では歌詞を書くことは文字通り“生み出す”ことなんです。

──そして生み出したいものはポジティブな言葉であり、“光”であるわけですね。

はい。でも、いくら私が争いや戦いを嫌っていたとしても、戦わざるを得ないアンジュの姿を描いた「クロスアンジュ」の主題歌で「戦いをやめなさい」と歌うことはできません。それでもアンジュにとって一番光となる言葉を選んで、光の差す方向を照らしていきたいと思っているんです。自分自身も母親ですし、子供に対して「未来は最悪だよ」とは絶対に言いたくないですから。究極的な状況の中にいるアンジュに、それでも光を感じさせる言葉ってなんだろう? と、すごく考えました。そして「引っぱたかれても立ち上がるような強さを持っている言葉こそが『クロスアンジュ』の世界をポジティブに生きていくために必要なものではないか」と思って、この歌詞を書いたんです。

アンジュが“新しい星”をつかむために

──カップリングの「新しい星」の歌詞とメロディにも今のお話がすごく息づいていると思いました。とても優しいバラードですが、実はハードな「真実の黙示録」と一対になっていて、同じメッセージを持っている曲というか。

実はこの曲もアンジュに向けて書いているんですよ。だから戦地が舞台になっているんです。彼女を通して、若い世代や子供たち……“大きなお友だち”も含めてですが(笑)……彼らに、私が何か大事なことを伝えられるとするならば、それはきっと「私たちは『新しい星』を生み出そうとして生きているのであり、その星はけっして遠くにあるものではない。1人ひとりに与えられた命だって新しい星なんだと気付いてほしい」「だから生きてほしい」ということなんですね。どんな苦しい状況に置かれていたとしてもあなたの命こそが星なんだよということをアンジュと彼女の姿を観ている皆さんに、なるべくシンプルなサウンドで伝えたかったんです。

──昔のアニメのエンディングテーマには、本当にこういう心が温かくなる曲や胸にしみる曲が多かったわけですし。

「はじめ人間ギャートルズ」のエンディング(かまやつひろし「やつらの足音のバラード」)とかね。私、アニメのエンディングテーマフェチなんです(笑)。自分も含めて世界には年だけとっている大人、目覚めていない大人がいっぱいいるかもしれないけど、それでも若い新しい星の子たちには私たちが見つけられなかった新しい何かを見つけてほしいなと思って、この曲の詞は書きました。

──アニメソングの作り手、歌い手の中で、高橋さんのように母の目線を持つことができる人は稀有だと思います。しかも上から目線だったり、親の説教だったりみたいにはならず、若い視聴者にコミットできているのは本当にすごいことだと思います。

ありがとうございます。本当にそういう存在、年長者として伝えられることは伝えたいけど、あくまで皆さんに楽しんでいただける形で伝えられる存在でありたいと思っていますから。

高橋洋子(タカハシヨウコ)

8月28日生まれ、東京都出身の歌手。2歳からピアノを習い始め、8歳で少年少女合唱団に入団するなど、幼い頃から音楽に囲まれた環境に育つ。1987年には久保田利伸のコンサートツアーのサポートメンバーとしてステージに立ち、その後松任谷由実をはじめとする数々のアーティストのコンサートツアーやレコーディングに参加。CMソングのボーカリストやボイストレーナーなど活躍の場を広げ、1991年にはソロデビューシングル「P.S. I miss you」で日本レコード大賞新人賞ほか多数の新人賞を受賞。1995年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を歌い脚光を集めた。その後もさまざまなアニメのテーマ曲やCMソングを担当。コンスタントにオリジナル作品を発表している。2015年1月21日にはニューシングル「真実の黙示録」をリリース。表題曲はテレビアニメ「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞(ロンド)」の後期オープニングテーマに採用されている。