高垣彩陽|10個のキーワードで振り返る、私の10年間

キーワード4ミュージカル

──ミュージカルも高垣さんのルーツの1つですよね。

私が「歌える声優になりたい」と思ったのは、小さい頃に両親が観せてくれたディズニーのミュージカルアニメーションの影響が大きくて。特に「ポカホンタス」の吹き替え版で、ポカホンタス役の土居裕子さんの歌と演技に魅了されたんです。だから中学でミュージカル部に入ったし、実はミュージックレインのオーディションを受ける前、2005年に1度だけミュージカルに出演したことがあって。それが「ひめゆり」という、沖縄戦で犠牲になったひめゆり学徒隊を描いた作品なんです。当時は「レ・ミゼラブル」でエポニーヌを演じた島田歌穂さん、そして土居裕子さんと共演したいという感情だけで、ダメ元でオーディションを受けたんですけど、合格して学徒の1人として舞台に立つことができました。

──おお。

ミュージックレインに入ってからも「ミュージカルをやりたい」と言っていたんですけど、ミュージカルのオーディションの案内が来る事務所ではない。今はわからないですが、当時はとある大手のミュージカルの制作部門に「今受けられるオーディションありますか?」と誰でも電話で聞けたので、私は定期的にマネージャーのフリをして電話して……。

──そんなことをなさっていたんですか?(笑)

高垣彩陽

はい(笑)。オーディションがあるときは写真だけ事務所から借りて自分でエントリーシートを書いて送ったり、直接持ち込んだりしていました。そして、初めて先方から「このミュージカルのオーディションを受けませんか?」というお話をいただいたのが「ZANNA ザナ ~a musical fairy tale~」という作品で。ようやく前進できた気がして、それだけでうれしかったんですけど、オーディションにも受かりまして。その「ZANNA」の公演が2013年なので、声優になってから8年越しで夢が叶いました。

──高垣さんは2018年に「ひめゆり」に主演のキミ役で出演されています。それもすごい縁ですよね。

そう、縁なんですよ。「ひめゆり」は1996年の初演から今に至るまで上演され続けていて、キミ役は過去に本田美奈子.さんなども演じられているんですけど、かつて学徒を演じた人が主演になるケースは初めてだそうで。2018年の「ひめゆり」のとき、学徒役の皆さんの中には13年前の私と同じように初舞台で大学生という方もいて、彼女たちに「私もいつか主演できるようにがんばります」と言ってもらえたのが……うまい言葉が浮かばないんですけど、とにかくエモい体験でした。

──ミュージカルが高垣さんに及ぼした影響って、言葉にできます?

私は声優として、台本を持って画面を通してキャラクターの心情を表現しているんですけど、「ZANNA」に出演したときに「人って、抱きしめると温かいんだ」「視線が合うとこんな気持ちになるんだ」という生身の人間の当たり前の感覚を、自分の体と役を通して再確認したんです。そういう感覚は声優としてマイク前に立つときも持っていなきゃいけないし、持っていたつもりなんですけど、知らず知らずのうちにキャラクターの目で見ている景色や感じているであろう温度を想像する大切さを忘れかけていて。それを思い出させてくれたのがミュージカルや舞台なんです。

──音楽活動への影響は?

めちゃくちゃありますね。特にレコーディングに生きていると思います。私は音が高くなるとつい声を強く出したくなるんですけど、そうすると単語本来のアクセントではなくなってしまい、その単語として聞こえない場合がある。でも、ミュージカルは歌詞がセリフとして聞こえるように歌わなければいけないので、アクセントの高低や言葉と言葉のつなぎ目や発音の仕方を意識したり。

──めちゃくちゃテクニカルな話ですね。

例えば「きっと」という歌詞を「きいっと」と母音をはっきり歌うと、もう「きっと」には聞こえないよね……とか、そういうことを「きみはいい人、チャーリー・ブラウン」(2017年)でお世話になった歌唱指導の先生が厳しく教えてくださって、すごく感謝しています。私はよく「歌の滑舌がよすぎる。だから全部の言葉が強く、流れで聞こえない」と指摘されたんですけど、改善するためのテクニックや注意点を丁寧に教えていただきました。それ以降、キャラソンでも高垣名義の曲でも、言葉の聞こえ方というものを深く考えるようになりました。

キーワード5戦姫絶唱シンフォギア

──高垣さんはアニメ「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズで雪音クリスを演じるとともに、5期にわたってエンディングテーマを歌われています。

この10年のアーティスト活動は「戦姫絶唱シンフォギア」を抜きにしては語れないですね。おっしゃる通り「シンフォギア」と出会ったことで高垣彩陽として5曲も歌わせていただいて。さらにエンディングテーマだけでなく、雪音クリスとしてキャラクターソングもたくさん歌わせていただきました。

──雪音クリス単独で歌う挿入歌・劇中歌だけでも10曲以上ありますね。

私はいつか「シンフォギア」の全曲ライブがあったらいいなって思っているんです。スタッフさんからは、やるとしたら第1期からいるあおちゃん(悠木碧)と(水樹)奈々さんと私は曲数が多いから大変だよって言われるんですけど(笑)。一連のエンディングテーマの作編曲はデビュー曲「君がいる場所」を書いてくださった藤田淳平(Elements Garden)さん。1期から4期までの作詞が「君がいる場所」のカップリング曲「わたしだけの空」で私と一緒に歌詞を書いてくださり、それ以降も超お世話になっているmavieさんで、5期の「Lasting Song」(2019年8月発売の12thシングル表題曲)は自分で作詞させてもらったという。そんなこと想像もしなかったし、「シンフォギア」のおかげで世界が広がりました。

──高垣さんのディスコグラフィ的にも。

そうですね。私はクラシックやミュージカルが基盤にあるので、好んで聴く音楽はバラード系に偏りがちで。ここまでクールでアップテンポでダンサブルな曲は「シンフォギア」と出会わなければ歌えなかったと思います。本当はベストアルバムに5曲ともフルで入れたかったんですけど、そうすると1/3以上が「シンフォギア」楽曲になるし、かといって1、2曲だけ選ぶわけにもいかない……ということでダメ元で「メドレーにできませんか?」と。

──1〜4期までのエンディングメドレーは高垣さんの発案だったんですね。

私のわがままです(笑)。作曲者の淳平さんにリアレンジをお願いして、1〜4期までのメドレーを経て、フルで収録した5期の「Lasting Song」につながるようにしていただきました。

──コンパクトな組曲みたいになっていますよね。

そうなんです! 私はメドレーでは基本的にA、Bメロとサビまでの1コーラスを聴かせたかったんですけど、4期の「Futurism」(2017年8月発売の11thシングル表題曲)はDメロが特に好きで。だから「Futurism」だけはAメロじゃなくてDメロから始まるようにお願いしたんです。そんないいとこ取りなメドレーから「Lasting Song」まで続けて聴いてもらえたら、「シンフォギア」のファンである“適合者”の皆さまはもちろん、「シンフォギア」をご覧になっていない方にも高まっていただけるのではないかなと。

キーワード6縁(えにし)

──高垣さんは“縁”というものをとても大事にされていますよね。

はい。このベストアルバムも縁の結晶だと思っていて。例えば「光のフィルメント」(2010年11月発売の2ndシングル表題曲)は「true tears」でeufoniusさんと、「ソプラノ」(「relation」リード曲)は「機動戦士ガンダム00」で石川智晶さんと、それぞれご一緒できたことで生まれた曲ですし、改めて縁に生かされているなと。

──高垣さんが初めて作詞・作曲された曲のタイトルもずばり「縁」ですし。

高垣彩陽

「縁」は2ndアルバム「individual」の収録曲なんですけど、このアルバムは私が29歳のときに作って、誕生日をまたいで30歳になってからリリースされた人生の節目の1枚で。だからこそ、自分の言葉と音で「ありがとう」を伝えたいと思ったんです。そうやってチャレンジするきっかけを与えてくれたのが、実は「ソプラノ」を書いてくださった智晶さんで。智晶さんが「ソプラノ」の歌詞を見ながら「高垣さんって、こういうところあると思うんです」と言ってくださったんです。そこで「どういうところですか?」と聞くのは野暮かなと思って、智晶さんの真意はわからないのですが、私は勝手に「自分の中にある感情を歌にする力が、私にもあるのかもしれない」と受け取って。そのとき「いつか作詞・作曲したい」という気持ちが芽生えたんです。

──いいですね。

そういうつながりに私は支えられていますし、私の知らないところでも縁は生まれていて。私は声優としても、スフィアとしても、ソロアーティストとしても10年以上活動させてもらっているので、ファンの方同士でご結婚なさったり、大切な思い出を共有されたりしているんですね。それって、大袈裟に言えば私の存在が誰かの人生を変えているわけじゃないですか。そうやって私から始まった縁が枝分かれして、誰かと誰かをつなげている。それはすごく尊いことだなって思います。

キーワード7作詞

──高垣さんは新曲「Dear One」の作詞をなさっていますが、作詞に関してはかつて「私だけの空」で菅原拓ディレクターにトラウマを植え付けられたと(参照:高垣彩陽「Lasting Song」インタビュー)。

そうです。そのときもお話ししましたけど、「手垢のついた言葉ばっかり使いやがって」と言われ(笑)。でも、感謝しているんですよ。そのトラウマ級の発言があったからこそ、言葉を選ぶときはちゃんと理由を持って選びたいという気持ちが高まったので。それは今回の「Dear One」にしてもそう。この曲の作曲は上松範康(Elements Garden)さんで、私は雪音クリスとして上松さんが書いてくださったキャラクターソングをたくさん歌わせてもらってきましたが、高垣彩陽として歌うのは初めてなんです。そしてアレンジは藤田淳平さん。

──高垣さんとは縁の深いお二人ですね。

そんなお二人が10周年のために作ってくださった曲にどんな歌詞を乗せようか、私はなんのために歌おうか考えた末に「私のために歌おう」という結論にたどり着きました。もちろん「感謝を伝えたい」という思いもあったけれど、それは「縁」に託して、とにかく自分のことを素直に包み隠さず書きました。ちょうど楽曲会議でも、私は「曲の頭と最後はアカペラがいいです」とお伝えしていたんです。というのも、もともと私は自己肯定感が低いほうなんですけど、ベストアルバムの企画がスタートした2020年はそれがさらにガクンと下がってしまい。自分の嫌なところに気付かされて打ちのめされて、自分のことがどんどん嫌いになっていく中で改めて自分を見つめ直そうと思ったので、どんな歌詞になるにせよ飾らない自分で、素っ裸な気持ちで歌い始めたかったんです。

──必ずしもポジティブな歌詞ではないかもしれませんが、とても誠実な言葉で書かれていると思いました。

うれしい。そう、言葉のチョイスがどうしてもポジティブじゃなくなっちゃって、例えば「足掻いて」という歌詞はいかがなものかとか、すごく悩んだんです。でも、ちょうどそのとき、たまたまアーティスト活動もされている声優の先輩が「元気にしてる?」みたいなメッセージを送ってくださって。私は歌詞が書けなくてもがき苦しんでいたので「元気じゃないです」と(笑)。

──ははは(笑)。

高垣彩陽

それで、私が「自分について正直に書きたいけど、正直に書くと歌詞にならない気がする。聴き心地が悪くなるんじゃないか」と相談したら「音楽も助けてくれるから、素直に今思うことを書くべき」と言ってくださったんです。確かに、もしこれが詩の朗読だったらしんどいけど、歌ならメロディやリズムが思いを届ける手助けをしてくれる。それが歌の力なんだなって、改めて実感しました。問題の「足掻いて」も、スタッフさんは難色を示したんですけど、直に気持ちを吐露しようと。

──いいと思いますよ。繰り返しになりますけど、高垣さんの誠実さが伝わります。

よかった。私としても、これ以外に相応しい言葉が見つからなかったんですよ。今を愛したいと思っているんだけど、それって簡単なことじゃないし、苦しみながらでしか今を愛せないので。ともあれ、書き上げられてよかったです。あまりにも書けなくて、最悪の場合、ピンチヒッターとしてプロの作詞家さんにお願いすることも考えていたんですよ。でも、なんとか1コーラスだけ書けたのをマネージャーさんに投げたとき、「おつかれさまでした。A&Rと共有します」みたいな業務メールとは別に、個人的に返信してくれて。そこには歌詞に対する長い感想に続けて「高垣さんに最後まで書き通してほしいと思いました」と書かれていて、「がんばろう!(泣)」ってなりました。

──いいマネージャーさんですね。

だから本当にいろんな人に支えられて……そう、イギリスにいる美菜子も「私たちはプロの作詞家じゃないから、『いい歌詞にしなきゃいけない』と思わなくていいんじゃない?」と言ってくれて、その言葉にも救われたんです。結局いつもの癖で「私はもっと素敵な歌詞が書けるんじゃないか」と自分に対して過度な期待をして背伸びしていたことに気付かせてくれましたね。