高垣彩陽|10個のキーワードで振り返る、私の10年間

高垣彩陽が4月21日にソロアーティストデビュー10周年記念ベストアルバム「Radiant Memories」をリリースする。

スフィアとして活動しながら、2010年7月に1stシングル「君がいる場所」でソロアーティストデビューを果たし、音楽大学の声楽科で培った卓越した歌唱力や表現力で多くの人々を魅了してきた高垣。クラシックやミュージカル音楽をルーツとする彼女は、2011年よりカバーミニアルバム「melodia」シリーズを発表し、2016年11月には東京・Bunkamuraオーチャードホールでソロコンサート「LAWSON presents 高垣彩陽クラシカルコンサート『Premio×Melodia』」を開催するなど、アーティストとして独自の道を歩んできた。

ベストアルバムには高垣が5期にわたってエンディングテーマを歌ってきた「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズの楽曲をリアレンジしたメドレーを含む14トラックを収録。完全生産限定盤には過去のライブの中から高垣がセレクトした映像を収めた“ライブベストBlu-ray”が付属する。

音楽ナタリーでは高垣のソロアーティストデビュー10周年を記念して、10個のキーワードをもとに彼女にインタビューを行った。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 塚原孝顕

キーワード110年

──高垣さんは2020年7月21日にソロアーティストデビュー10周年を迎えました。

2019年にスフィアで10周年を迎えたときにも感じたんですけど、必死に駆け抜けてきて、気が付いたら10年経っていましたね。私は声優を中心に歌も含めていろんなことがやりたくて「ミュージックレイン スーパー声優オーディション」(2005年から2006年にかけて開催)を受けて、事務所に入ったときから「いつか高垣彩陽として歌を歌いたい」と思っていたんですが、なかなかそれが叶わなくて。その間に身近な人たちがソロデビューして、当時は「自分の歌には需要がないんじゃないか」と焦る気持ちもあったんです。

──そうだったんですね。

だから、四ツ谷駅から会社までの道の途中で、(寿)美菜子と「ソロデビューできるようにお互いがんばろうね」って、思いを語り合って手を握り合ったことがあって……。

──おお……。

そのときのことを、何かの節目を迎えるたびに思い出すんです。でも、そこからアニメ「世紀末オカルト学院」のオーディションを受けて、黒木亜美役に決まって、その流れで「エンディングテーマを高垣に」となり、それがデビュー曲「君がいる場所」(2010年7月発売の1stシングル表題曲)になったので、本当にこのオーディションに受かってよかった。しかも、私と美菜子はデビューのタイミングがほぼ同じで、私が2010年の7月で美菜子が9月なんです。だから美菜子も去年ソロデビュー10周年だったんですよ。10年前もお互いのデビューを喜び合ったし、なかなかデビューできなくてもどかしく思っていた時期の記憶も、今となってはここまで活動させてもらった感謝の気持ちにつながりますね。

高垣彩陽

キーワード2声優

──声優であることは音楽活動にどのような影響を与えていますか?

私は小学生のときから声優になりたかったし、“アーティスト”ではなく“声優アーティスト”であるからこそ、声優としてだけでなく別の角度からも作品を表現させてもらっているなと感じます。例えば1つの作品がパズルみたいに、出演者やスタッフの皆さんが各1ピースずつ担うことでできあがっているとしたら、私は2ピース分関わらせてもらえる。

──キャラクターを演じる声優として、主題歌を歌うアーティストとして。

私はミュージカルも大好きで、芝居の延長線上に歌があるという考えを持っています。あと、私に音大へ進学することを勧めてくれた声楽の先生が「いい歌手というのは“演唱”できる人だ」と教えてくれて。例えばオペラもミュージカルも役として、その状況や思いを歌い上げているから、その表現が観客の心を打つんですよね。だから私も歌を歌うときは声優として、演者目線で歌詞を読み取っているんだと思います。逆に言うと、どうしても客観的になれない部分があったりするので、ソロの楽曲のレコーディングでは「高垣、ちょっと感情出しすぎ」とリテイクになることもあるんですけど。それはタイアップの有無にかかわらないので、私は歌い手である前に演じ手なんでしょうね。

──高垣さんはキャラクターとして、キャラクターソングもたくさん歌われていますよね。

キャラクターソングを歌えることは、声優の特権だと思っています。私は子供の頃からキャラソンが好きで、初めて自分で買った……いや、父に買ってもらったのかもしれないんですけど、とにかく初めて手に入れたCDシングルが「ふしぎ遊戯」のキャラクターソングだったんですよ。あと「らんま1/2」のキャラソンアルバムとかもしょっちゅう聴いていましたね。単純に「キャラクターが歌ってる! すごい!」って楽しくなっちゃって。

──へええ。

私が声優になって初めてのレコーディングは「Venus Versus Virus」という作品の、名橋ルチアのキャラクターソング(2007年3月発売の「Venus Versus Virus : Character Vocal Album」収録の「inner world」)だったんですけど、ルチアは自分の感情を吐露せずに1人で使命を全うしようとする子なんです。でも歌詞を読むと、彼女の内に秘めた思いが書かれてあって。キャラソンには、キャラクターがアニメ本編では言えなかったことを歌でなら伝えられるという面もあるし、そういう曲と最初に出会えたのは私にとってすごくよかったなと。なのでキャラクターソングは私の中ではアフレコと一緒で、そのキャラクターのセリフやモノローグだと思って歌っています。

──キャラクターソングと、高垣彩陽名義の曲の切り分けはできていると。

はい。逆にデビュー曲「君がいる場所」は、キャラクターという拠りどころがなくて本当に苦労しました。テストレコーディングで「歌うたびに違う人みたいに聞こえる」「ある地点に自分を置いたらそこから離れないでほしい」「曲に入りすぎず、客観的にもなりすぎない場所を自分で見つけて」と言われたんですけど、本番でも迷子のままで。「私、もうわかんない!」と泣き出し、ブースに閉じこもって「電気消してください!」って(笑)。

──「電気消してください!」は相当キテますね。

私はいつもそうなんですけど、自分に対する期待値が高すぎるというか、実力が伴っていないのにハードルを上げてしまって「こんなんじゃない!」ってなっちゃうんです。そんな私を温かく見守って、ここまで育ててくださった音楽チームの皆さんにはいくら感謝しても足りないですね。

高垣彩陽

キーワード3クラシック

──高垣さんの音楽的なルーツの1つとして、クラシックがありますよね。

私は幼稚園から高校までカトリック系の一貫校に通っていて、小学校から聖歌隊に入って古典的な合唱曲を歌っていたりしたので、知らず知らずのうちにクラシック音楽というものに触れていたのだと思います。中学では歌と芝居がやりたくてミュージカル部に入ったんですけど、高校生のときに「卒業したら声優の養成所に行きたい」と思っていたら、中学・高校を通じて音楽の授業を担当されていた先生に「あなたは音大に進んだほうがいい。声楽の道を歩んでほしい」と言われまして。その先生はクラシック畑の方で、授業でもクラシックの曲を扱ったりしていて、私の歌に対してすごく厳しかったんですよ。なので「私、歌の才能ないのかな……」と落ち込んだりもしていたのに。

──むしろ逆で、期待されていた。

その先生の「音大に進んだほうがいい」という言葉に乗っかるように、母からも「声優になりたくて養成所に行く人はたくさんいても、音大に行く人はきっと少ない。音大での経験は、声優になったときに武器になる」と言われて。「いつか武器になるのかな」と音大を受験しました。

──お母さん、慧眼ですね。

母としては、とにかく私を大学に行かせたかったんでしょう(笑)。ただ、音大に通っていたときは「遠回りしちゃったかな」と思っていたんです。自分より年下の人たちが声優としてデビューしているのに、私は大学の勉強に必死で。私に音大を勧めてくれた先生は、私を声楽家にしたかったので「いずれはイタリアに留学」とか「大学院はどこを受けるのか」みたいな話もしていて。でも、やっぱり声優にチャレンジしない人生には納得できなくて、在学中にミュージックレインのオーディションを受けたんです。

──そこで見事合格されて、今があるわけですよね。

在学中から声優の仕事を始めていたので、仕事の都合で発表会を欠席したり、音大時代の先生方にはご迷惑をおかけして不義理をしてしまったと今も申し訳なく思っています。でも、母が言ってくれたように音大での4年間で培ったものは確実に今に生きていて。特にオーチャードホールのステージに立てたときは(2016年11月に開催された高垣彩陽クラシカルコンサート「Premio×Melodia」)、クラシックは私のアイデンティティになっていると実感しました。まあ、音大では歌の実技以外の成績は散々だったんですけど(笑)。

──ベストアルバムに収録された「夢のとなり」(2013年4月発売の1stアルバム「relation」収録曲)や「愛の陽」(2014年10月発売の8thシングル表題曲)などは「高垣さん以外に誰が歌えるんだろう?」と思います。あるいは「Live & Try」(2017年1月発売の10thシングル表題曲)もパッヘルベルの「カノン」を下敷きにした曲ですし。

オペラやクラシックの要素がある曲を歌えるというのは、とてもありがたいです。「Live & Try」にしても、私はパッヘルベルの「カノン」が大好きで、中学生の頃からいつかこの曲とクロスオーバーしたポップスを歌ってみたいと思っていたんです。あとベスト盤には入っていないんですが、「記憶の湖」(2015年11月発売の2ndアルバム「individual」収録曲)という曲もドビュッシーのアラベスク第1番をオマージュしたいという思いから生まれた曲で。そんなふうに中学時代からの夢を叶えられて本当に幸せです。