syudou「露骨」インタビュー|自分をさらけ出した初の歌唱アルバムや音楽ルーツ、これまでの歩みを語る (3/3)

デンジの気持ちで作った「インザバックルーム」

──最初に歌唱曲を投稿したのが2021年3月の「へべれけジャンキー」でしたよね。どういうことを考えてシンガーソングライターとしての活動に踏み込んだんですか?

リスナーの方が、曲だけじゃなく僕自身のことを見てくださってるなと思うことが増えまして。そういう人に向けて、より自分の色が濃いものを提供できたらもっと盛り上がってくれるんじゃないかと思ったんです。覚悟をしたというよりは、新しいことをやってみたらみんなびっくりするかな、というような気持ちで始めました。

──ライブをやることを意識し始めたのはいつ頃ですか?

歌うと決めたタイミングから、いつかやりたいとは思ってました。やっぱモテたい人間ですし、キャーキャー言われたいので。

──初ライブは2022年5月に開催されたオンラインライブでしたね。ちなみにその年の2月に発表された楽曲「たりねぇ」は2021年を振り返る内容になっていますが、作ったときはどんなことを考えてましたか?

曲の中に「行くぜオンライン」という歌詞があるんですけれど、アホっぽいけれどちゃんと次を見せるみたいな歌詞にしようと思ってました。「そして流れるゆく年くる年」って歌詞に書いた通り、年が変わるタイミングだったので、1年を振り返って次の年に向かっていくぜ、みたいな気持ちで。曲の中で次のライブを匂わせるというのは、具体的に言うと、ラッパーのZORNさんの影響で。ZORNさんのことがものすごく好きで、あの方も歌詞の中でそれをめちゃめちゃやってるんですよ。「All My Homies」という曲をライブでやったときに「今度ライブあっから来い 武道館やっからよ」と言って、そのあとに本当に武道館でワンマンをやったという。ヘッズとしてブチ上がった体験があるので、曲の中で次のライブを匂わせるやり方は好きですね。

──その後2022年8月に中野サンプラザホールで、今年4月に幕張メッセの幕張イベントホールでライブが開催されました(参照:syudouが初の有観客ライブ完遂、満員の中野サンプラザで見せた大迫力のパフォーマンス / syudou、幕張メッセワンマンで感無量「今ここで歌っているのが誇らしい」)。「狼煙」「いらないよ」「ギンギラギン」は、それぞれライブの直前に発表された曲ですが、ライブをやるたびに、自分の意気込みを示すため、自分を奮い立たせるために曲を作るみたいな感じがあるんじゃないかと。

そうですね。そうしようと決めてるわけでもないんですけど、1つひとつのライブに向けて考えながら作ると自然とそうなります。あとは、いくら映像が残るとは言え、ライブはやっぱ生モノなので。曲だったらちゃんと残る。将来振り返ったときに、ライブは覚えてなくても曲を聴けば思い出せるかな、そうだとうれしいなという思いもあります。

2022年4月8日に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールで行われたワンマンライブ「syudou Live 2023『我武者羅』」より。(Photo by Shingo Tamai)

2022年4月8日に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールで行われたワンマンライブ「syudou Live 2023『我武者羅』」より。(Photo by Shingo Tamai)

──曲の内容が活動とリンクしてきたのは、この頃からじゃないですか?

そうですね。自分で歌うようになってから必然的にそうなりました。ボーカロイドで曲を作るときは初音ミクを使用しているので、女性ボーカルに歌ってもらいたい曲として作るんですけれど、自分が歌う曲だと自分がどう思ってるかが軸になってくる。ただ、それもアルバムを作っていくうちにけっこう変わってきて、自分の思いだけだとポップスとしての強度が足りないなと。試行錯誤する中で、どんどん視野が広がっていってるなと思います。

──特に「笑うな!」や「インザバックルーム」はポップスとしての広がりを持つ曲だと思います。

そうですね。タイアップのお話をいただくとそういう要素が強くなる傾向にあります。

──「インザバックルーム」はテレビアニメ「チェンソーマン」の第5話のエンディングテーマです。作るにあたってどんなことを考えてましたか?

まずお話をいただいて、本当にうれしかったですし、すぐには信じられなかったです。実際にアニメの制作サイドの方と曲の打ち合わせをするまでドッキリじゃないかと思ってたくらい。自分だけじゃなくいろいろなアーティストが関わっていて、その中にリスペクトしてる方もたくさんいて。横に並んだとは思わないですけど、ここまでやってきた結果がまた1つ形になったなと思える瞬間でした。そして、その瞬間の気持ちみたいなものを歌詞にしたいと思いました。音楽的才能、センス、技術でいったら自分より優れてる方がいっぱいいるとは思うんですけれど、「チェンソーマン」という作品に沿って自分が曲を書かせていただけるのであれば、やっぱりデンジ(「チェンソーマン」の主人公)のように「俺が俺が」という気持ちで作るのがいいのかなって。作品の内容を踏まえたうえで、自分が思ってることを軸に書いた曲です。

──「笑うな!」はどうですか?

「笑うな!」は「クールドジ男子」というテレビアニメのタイアップのお話をいただいて作ったんですけど、もともと作品も好きで、アニメも観ていました。男の子のキャラクターたちが、和気あいあいと、ドジなんでミスはするんですけど、そこも助け合って笑い合っていて。そういう、ミスをしたところもかわいいと捉えるポジティブさがいいなと思ったんです。僕はお笑いが好きで、落語家の立川談志さんが「お笑いとは“業の肯定”である」ということを言っていたんですけれど、それと近いなと思って。人間はミスをする生き物なので、それを肯定する生き方っていいよねというのを、あえて「笑うな!」というニュアンスで伝える曲にしました。で、自分的にはポップさが足りてないと思ったのと、「クールドジ男子」は友達というテーマもあるので、友人であるすりぃにアレンジしてもらって、ポップなサウンドに仕上がったという感じです。

自分の音楽を1つのジャンルに

──ポップな曲が増えた一方で、最近はダークな曲や心の中の葛藤を描いた歌詞の曲が増えているように思います。アルバム収録曲では「アンチテーゼ貴様 -改-」や「アタシ」からそういったムードを感じました。

最近はそうなってるかもしれないですね。どれだけハッピーに生きていても絶対しんどいことはあるので。それでも人と比べちゃうという。

──それはなぜなんでしょうか?

一番は、周りに売れてる友達や先輩がいっぱいいるからだと思います。僕は才能のない人間だと思うんですけれど、周りに比べて圧倒的に恵まれているのが、人の運で。いい人だけじゃなく、そのときそのときでいい負荷を与えてくれる友達がどの時期にもいまして、それが「邪魔」のモデルになった友達だったりするんです。なかなか天狗にさせてくれない。ずっとコンプレックスが消えず、ネタが尽きないという意味ではめっちゃ恵まれてる反面、負荷が強いなと思います。

──「恥さらし」や「結局」も、そういう嫉妬や葛藤を抱えつつ、自分のリアルをさらけ出して決意を歌うような曲ですよね。

そうですね。「恥さらし」は自分でもめっちゃ好きなんですよ。

──「恥さらし」の「友達はタワマンでシャンパン」というフレーズは、パンチラインだと思いました。

そこ、ラッパーっぽくて好きです。誰とは言わないですけど、タワマンでシャンパン飲んでる友達、複数いますからね。ヒップホップの本質ってどれだけリアルかというところだと思うんです。自分がどう思ってるかを正直に言う。リスナーに対しても、自分に対しても、音楽に対しても、どれだけ正直に向き合えるかがヒップホップのカッコいいところだと思います。

──アルバムの「露骨」というタイトルはどういう意図で付けたのでしょうか?

最初は「恥晒」というタイトルにしたかったんですけれど、読みづらいのでやめて。同じく漢字2文字でバシッと決めたいなと思って「露骨」という言葉に行き着きました。自分で歌うようになったという意味、自分の表現はこういうものだという意味もあります。「露骨にやっていきます」という感じです。

syudou「露骨」初回限定盤ジャケット

syudou「露骨」初回限定盤ジャケット

──ここまで語ってもらった通り、syudouさんは基本「さらけ出す」ということをずっとやってきたわけですよね。それはこの先も変わらなそうですか?

そうですね。いろいろやってダメで今にたどり着いたし、逆に今のスタイルの音楽活動がダメになったらほかにやることないという気もしてるので。タイアップであっても、自分の要素を入れないと成立しないという。表現の仕方はもちろんその都度で一番いいものを選びたいですけど、根幹はこの名義でやっている以上変わらないんじゃないかなと思います。

──最後の質問ですけれど、今後やりたいこと、やってみたいことはありますか?

ずっと言っているのが、武道館で素晴らしいワンマンライブをやりたいということですね。これはもう目標というよりも「やるからね」みたいな、武道館ワンマンの実現から逆算してスケジュールや自分の行動を決めていくくらいの気持ちです。できなければ今までやってきたことが全部失敗だったと思うくらいの覚悟です。あとは、もっと大きいところで言うと、ポップス界隈の中に、自分をさらけ出して、ありのまま歌うということがカッコいいんだよという概念をもっと擦り込ませて、浸透させていく。10年、20年経って、そういうジャンルが確立していて「このジャンルの祖はsyudouだったんだ」となったらうれしいです。自分の音楽を1つのジャンルにできたら最高です。

ツアー情報

syudou Live Tour 2023「露骨」

  • 2023年8月24日(木)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2023年8月25日(金)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2023年8月31日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

syudou(シュドウ)

インターネット上で活動を始め、「邪魔」や「ビターチョコデコレーション」など多くのヒット作を発表。YouTubeの登録者数は70万人、総再生数は2.6億回を超えている。歌い手やVtuberなどさまざまなアーティストに楽曲を提供をしており、2020年10月にAdoに提供した「うっせぇわ」はさまざまなチャートで1位を獲得。Billboardの作曲家・作詞家チャートでも最高位6位を獲得した。2021年3月に自身初となる歌唱楽曲「へべれけジャンキー」を発表し、シンガーソングライターとしての活動もスタート。2022年5月にオンラインライブ、同年8月に初の有観客ライブを東京・中野サンプラザホールにて開催し、チケットは即日ソールドアウトとなった。2022年10月クールのテレビアニメ「チェンソーマン」の第5話エンディングテーマ、2023年1月クールのテレビアニメ「クールドジ男子」第2クールオープニングテーマなどタイアップ曲も多く制作。2月にはゲーム「BLUE REFLECTION SUN/燦」のタイアップソングとして、まふまふとのコラボ楽曲「クロックワークス」を提供した。4月には自身最大規模となる千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールでワンマンを開催。6月には1stアルバム「露骨」をリリースする。