syudou「露骨」インタビュー|自分をさらけ出した初の歌唱アルバムや音楽ルーツ、これまでの歩みを語る (2/3)

ほかのボカロPと差別化するための発明

──syudouさんがボーカロイドの楽曲を作っていく中で、最初に手応えをつかんだ曲、これが自分の作風だという感覚を得た曲はどれですか?

それは明確に「邪魔」ですね。2018年に大学の卒論を書きながら作った曲です。もともとモテたいという承認欲求から音楽を始めた人間なので、それまでは「こういう曲がモテるだろうな」と考えながら曲をいっぱい作ってたんですけど、全然ダメで。それなら一度何も考えずにやってみようと、自分の思ったことを歌詞にして、自分が一番気持ちいいと思う音で作ろうと決めたんです。結果めっちゃ暗い内容になったんですけど、それが自分的には気に入っていて。当時からネット上でやり取りしていたヤスタツさんというイラストレーターの方に絵をお願いしたこともあってか、最初からドカーンといったわけではないんですけど、明らかに今までと違う反応があった。「こっちのほうがいいんだ」って。そこからですね。

──自分に嘘もついてないし、これが求められてるという感触もあった。

ありました。これは友達に対する愚痴みたいな曲なんです。その友達とは今も仲いいし、そいつの結婚式にも行ったんですけど、「だったら印税を何%かくれよ」と曲のことをいじられたりして。これだけ悪口を言ってるのに関係性がよくなるんだという不思議な感覚もあって、これは音楽のパワーだなと思いました。

──不思議なことなんですが、ロックとヒップホップに影響を受けたというわりに、syudouさんの作る多くの曲のリズムやサウンドプロダクションは、ロックでもないし、ヒップホップのスタイルでもないですよね。

そうですね。

──これってどういうことなんですか?

確かに、なんででしょうね。もしかしたらボーカロイドの楽曲や、打ち込み、DTMをたくさん聴いてきたというのは理由としてあるかもしれない。

──とはいえ、ボーカロイドシーンのメインストリームともちょっと違う気がするんです。たとえばエレクトロスウィングのようなおしゃれな感じではない。

そうなんです。本当はそういうのが作りたかったんですよ。でも、技術がどうしても追いつかなかったのか、全部自分でDTMでやってると、強いところより下手なところ、ウィークポイントが自分でわかる。低音の処理やギターの演奏とか、そういうところが目立っちゃって。それを誤魔化していくうちに今の形になりました。

──速いテンポの四つ打ちの曲も多いですが、ガバやハードコアテクノは聴いていました?

聴いてました。ガバだとアンガーフィストさんがすごく好きです。ヒップホップのアーティストでもクラブでブチ上げるためにガバを取り入れている方もいますし。でも、そのままやりすぎるとちょっとな、みたいな気持ちもありまして。あとはやっぱり、心の中で「四つ打ちが正義」と思っているところがありますね。というのは、2010年代のいわゆる“フェスロック”も聴いてきたし、フェス自体にもちょいちょい行っていたので。もし急に「今から1曲だけ書いてください、これでキャリアは最後になります」と言われたら、サビは絶対四つ打ちの曲にしちゃうだろうなっていう気はします。

──ただ、細かいところですけど、syudouさんがよく使う四つ打ちって、ロックバンドのそれとはちょっと違いますよね。キックもスネアもハイハットも全部同じ拍で打つじゃないですか。その頭悪い感じがいいなと思って。

そうそう、「ドッパンドッパン」みたいな。バカっぽくていいですよね。それがめっちゃ好きでして。フェスロックの四つ打ちって、要はハイハットを裏拍で叩いてるということだと思うんですけど、ドラマーとしては、あれ、まあまあムズいんですよ。最初は絶対一緒に手が動いちゃう。その感じを曲で出したいんですよね。DTMで曲を作るとなんでもカチッとしすぎちゃうので、極力バカっぽくしたらほかのボカロPと差別化が図れるんじゃないかなという。

──なるほど。これは発明だと思っています。ジャンル名がまだない。

そうですね。ガバではない。あのドラム、なんなんでしょうね。でも好きですね。

Ayase(YOASOBI)へのライバル心と「うっせぇわ」ヒットでの体験

──syudouさんにとっての大きなターニングポイントはAdoさんの「うっせぇわ」を作ったことだと思います。自分の作った曲が一気に世の中に広まっていったというのは、振り返ってみるとどういう経験でしたか?

もちろん「うっせぇわ」はAdoさんのものではあるんですけれど。ただ、やっぱり同期というか近いところにAyase(YOASOBI)がいて。「うっせぇわ」を作った1年前にYOASOBIの「夜に駆ける」がめちゃめちゃ跳ねて、テレビに取り上げられた。会社を辞めた直後にそれを見せられて「ぐぬぬ、俺のほうが先にボカロPやってたのに」「俺のほうが絶対ボカロPとしての素質はあるはずなのに」と思っていて、そのあとにAdoさんのおかげで「うっせぇわ」が跳ねて、爆発的なヒットによって起こる状況を体験させてもらったような感覚でした。テレビに出させていただいたり、いろんなところで取り上げてもらえたり、否定的な意見がバーッと来たりっていうのをひと通り経験して「なるほどな」と。これくらい跳ねるとこういうことが起きるんだなということがわかりました。自分のことを好きじゃない人、興味ない人にまで曲が届くことがヒットですし、起こるのは楽しいことばっかりじゃない。めっちゃ勉強になりました。

──1stアルバムの収録曲の中で、ポイントになる曲は「ギャンブル」だと感じました。これは今おっしゃっていたようなAyaseさんとの友人関係やライバル関係が歌詞を読むほど伝わる曲になっていて。

そうですね。特にボーカロイドのリスナーの方は歌詞をよく見てくださるので。ただ、ネームドロップまではいかないですけど、そういうアプローチをやってる人はあまりいないなと思ったんです。音的にはロックサウンドではあるけど、歌詞のビーフ感はヒップホップに近いんじゃないのかなと思います。でも、Ayaseは友達だし、ちゃんと聴けばラブだとわかるという。