ナタリー PowerPush - Sweet Vacation

Sweet Vacation×初音ミク「8 bit darling project」対談

“初音ミク”がSweet Vacationの人気楽曲を歌う──。そんな奇想天外なプロジェクトとしてスタートした「8 bit darling project」。スイバケの2人はプロデューサーとして新曲の骨組みだけを提供し、外部クリエイターに音素材&初音ミクによるボーカルエディット、WEBでの発表方法までをも預けてしまう、本体不在のリプロダクションという画期的なカバー&リミックス企画だ。

※ナタリー過去記事参照:「スイバケみっくみくリミックス、本家より先に全国流通」 / 「スイバケみっくみくリミックス配信&レンタル開始」

そして、プロジェクトの集大成として、最新CDアルバム「8 bit darling project;DELUXE」が8月5日にリリースされた(TSUTAYAのみ2週間先行発売 / その他ショップでは8月19日より発売)。今回ナタリーでは、このアルバムの魅力を掘り下げるべく、スイバケのDaichiと初音ミクの生みの親である伊藤博之社長の対談を企画。プロジェクト誕生のきっかけから、活動において垣間見えた音楽著作権問題、そして初音ミクはなぜ音楽ファンに受け入れられたのか?など、音楽ファンとして興味深い話題について、じっくりと語ってもらった。

出席者
Daichi(Sweet Vacation / 東京エスムジカ)
伊藤博之(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 代表取締役社長)
ゲスト / 津田大介(メディアジャーナリスト)

取材・文/ふくりゅう

「8 bit darling project」は僕ら的にも試金石なんです(伊藤)

インタビュー写真

Daichi もともとSweet Vacationは海外で結成して、メンバーがそれぞれ違う国に住んでいたので、インターネット上で活動することになったのは自然な流れでした。2007年の夏、MySpaceとmF247にページを作ったのが最初ですね。その後は、iTunesでの無料配信だったり、Yahoo!ミュージックと一緒に「2008年のテーマソングをつくろう」という特集企画でユーザー投票型のインタラクティブな楽曲制作プロジェクトを行なったり、ネットと音楽にまつわる活動を短期間に実践してきました。それで、今回の「8 bit darling project」ではもう1歩進んで、僕らが新曲のパーツだけを発表してユーザーがそれをリミックスして形作り自由に発表してもらうという、“新曲なのに第三者が介さないと完成も発表もできない”っていう謎解きのようなテーマで制作をしてみたんです。そのときに「だったらMayが歌うんじゃなくて、歌詞とMIDIメロディだけ公開して初音ミクに歌ってもらおう」ってアイデアを思いついたんです。

伊藤 メジャーレーベルからCDをリリースしているスイバケがこういった試みをするのは面白いですよね。自分たちの権利をどこまで手放すことができるかってことを考えたときに、それを嫌がる大人がたぶん多いと思うんで。プロモーションとして割り切れるならいいんですけど、そうじゃない場合はなかなかビジネスモデルの見通しがつかないところがある。今回はパーツをフリーにすることで、新しいコンテンツがユーザーやコミュニティの中から生まれて完成するという発想が面白いと思います。あと、スイバケとJRC(著作権管理団体)が、例外的に「こういうケースだったら料金を徴収しないよ」と決めて実践されたことは大きかった。まだこれがどれだけインパクトを与えられるかっていうのはわかんないですけど。ところで、Daichiさんは自分たちが作った音楽の一部分をユーザーに投げる不安ってなかったんですか?

Daichi 僕らはもともと活動の中で、段階的にMySpaceや無料配信をやってきてたので、割とすんなり入れました。でもアーティストによっては不安な人はいるかもしれないですね。やりたいんだけどレコード会社の方針でできないって人もいるでしょうし、本当にやりたくないって人もいるかもしれない。逆に僕ら以外の人たちからクリプトンに持ち込まれたプロジェクトで「お!?」っていうものはありました?

伊藤 いや、ないですよ。音楽業界全体としては、基本まだまだコンサバですね。コンテンツの一部分を開放してマッシュアップで成功した例もないし。だからあえてクリプトン側から「いじれることしませんか?」って提案することはあるんですけど(笑)、でも経営者側がそこで「はいはい、どうぞどうぞ!」って気安くOK出せる状況があるわけでもなくて。なので「8 bit darling project」は僕ら的にも試金石なんです。これで何か面白いことができたら次に繋がるなって期待があるんですね。

今の時代は音楽の作り方からして以前とは違うんだから(伊藤)

インタビュー写真

伊藤 著作権の話ですけど「音楽著作権と原盤権は2つに分かれてるんだよ」って言っても一般ユーザーには全然何のことだかわかんないわけじゃないですか? 今の時代は音楽の作り方からして以前とは違うんだから、そもそもそれを分けること自体に無理があって。今は譜面なんかなくて直接パソコンに打ち込んで作っちゃうから、音楽著作権と原盤権は同時発生的ですよね。音楽をコンピュータで作って楽しんでいる人達にとって、それを分ける意味もないでしょうし。原盤コストも相当下がっていて、無料のソフトで作れば下手したらタダで作れちゃうわけですからね。

Daichi 初音ミクをボーカルに使うとさらに原盤コストが下がるし(笑)。

伊藤 1回買うと一生歌ってくれますからね(笑)。そういう意味でもコストは非常に小さくなっているので、原盤に大きな費用をかける必然性もなくなってきています。バーチャル・インストゥルメントっていう、コンピュータの中に楽器をインストールするソフトウェアがあるんですけど、例えばグランドピアノを自宅でレコーディングすることってほぼ無理じゃないですか? でもバーチャル・インストゥルメントを使えばそれがコンピュータ上でできてしまうんですよ。ピアノに限らずドラムでもオーケストラでも、どう考えても個人で所有するのが難しい楽器でも手軽にコンピュータの中で作業してレコーディングができる。ボタン1つで原盤を書き出して、ボタンを何度か押せばiTunesで配信もできる。それがもう全然普通なんですよね。だから初音ミクに限らずそういう制作側のイノベーションはどんどん一般に広がっていて、今は高校生くらいでも使えるようになってるわけで。これからの音楽がどうなっていくのかっていう可能性は、まあ始まったばかりですけど気になりますよね。

Daichi 僕が面白いと思ったのは初音ミクのパラメータ等の使い方のスキルが、CGM(消費者生成メディア)を通してユーザー間で蓄積されているところですね。リナックスなどのソフトウェア開発もそういう形態ですもんね。

Sweet Vacation meets 初音ミク コラボアルバム「8 bit darling project ; DELUXE」 / 2009年8月19日発売(8月5日TSUTAYA先行発売) / 2500円(税込) / BUG Music / CFM inc / BUG-1024

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CD収録曲
  1. あいにいこう ~ I・NEED・TO・GO (SEXY-SYNTHESIZER meets 初音ミク Re-mix)
  2. 8 bit darling “remix Rev.2” (U-ji meets 初音ミク Re-mix)
  3. Trick Or Treat (eighteen degrees. meets 巡音ルカ Re-mix)
  4. I Feel So Good (metagalaxies meets 初音ミク Re-mix)
  5. 遊びに行こうよ (Vacation Brothers meets 鏡音リン Re-mix)
  6. 8 bit darling “hi-channel! REMIX” (hi-channel! meets 初音ミク Re-mix)
  7. Brandnew Wave (★STARGUiTAR meets 初音ミク Re-mix)
  8. I miss you ~ユメデアエタラ~ “うっとりタイプ” (Sugimoto Tomoyuki meets 初音ミク Re-mix)
  9. Sexy Girl (dj_miya meets 初音ミク Re-mix)
  10. 8 bit darling (ちゃぁ meets 初音ミク Re-mix)
  11. さよならマイデイズ (太郎 meets 初音ミク Re-mix)

※Daichiとクリプトン伊藤社長との対談「初音ミクはスイバケの夢を見るか?」を収録したスペシャルブックレット付

Sweet Vacation(すうぃーとばけーしょん)

アーティスト写真

東京エスムジカのDaichi Hayakawa(サウンドプロデュース)とMay(Vo)によるハウスポップ・ユニット。2007年8月に音楽SNS・MySpaceで楽曲を公開して以降、まず海外のJ-POPファンを中心に口コミでアクセスが急増。日本国内でもネットユーザーを中心に注目を集めることになる。その後音楽配信サイトmf247やiTunes Store「今週のシングル」での音源の無料配信を経て、2007年11月に初のCDパッケージ作品「Do the Vacation!!」をリリース。翌2008年4月には、このアルバムの姉妹編的な内容となる「More the Vacation!!」を発表している。この2作を経て、同年初夏にはメジャーデビュー。2009年8月に初のフルアルバム「pop save the world!!」をリリースする。


2009年8月5日更新