不安に押し潰されそうな日々
──お客さんから曲の感想は耳にしますか?
実貴子 具体的なものはあんまりないですね。「好きです」とか「助けられてます」とかはありますけど。
──昨年12月のワンマンライブ「危機一発」ではお客さんの顔がよく見えたと思いますが、表情から受け取るものもあったのでは?
実貴子 お客さんはうちより感動してる。「いや、何! そんな顔見せられたらウルウルしちゃうのこっちなんやけど!」みたいな。それが腑に落ちない部分でもある。本来なら、「こんなにたくさん集まってくれて」って思うから、うちのほうが感動するはずでしょ? でもお客さんのほうが感動してるのはなんなんだろうって。
ズ たまに言ってるもんね。「遠くにそんなお客さんの姿を見つけると、一瞬冷静になっちゃう」って。
──路上ライブツアー「いばらのみち」は過酷さを暗示するかのようなタイトルですが、始まってからの精神状態は?
実貴子 しんどいですね。一番大きいのは、不安に押し潰されそうになること。知らない駅でも「鈴木実貴子さんですよね」って声をかけてくれる人もいるし、観に来てくれる人も何人か必ずいる。そうなると、毎回全力で歌わなきゃいけない。喉や体力の管理もあって、しんどい気持ちも押し寄せてきて。それが爆発したのが、昨日(1月4日)の長崎だったと思う。
ズ 急に泣き出してね。
実貴子 歌を届ける以上、万全なものを見せたいから。路上ライブは無料とは言え、観てくれる人の時間をもらってるし、手を抜ける部分なんてない。お客さんがいてくれることは本当にありがたいですから。
──歌う理由みたいなことを考えたり、これまでとは違った視点で歌と向き合ったりする機会にはなっている?
実貴子 どうなんだろうな。うちの歌が必要な人もいるんだろうなって、ほんのちょっと思うようになった。ちょっと思うだけで、歌う理由まではまだたどり着けてないかも。でも、自分の歌を聴きたいと思う人がいるというのは再確認できたし、誰かの力に本当になってるんやなって。やっぱりXとかSNSの文字だけで言われるよりもずっと実感が湧く。ライブハウスにあまり来ないような人がちょっと気になるから来てみたってこともあるし。
ズ それこそ小さいお子さんがいるから、そんな気軽にライブハウスに行けないという人が路上に来てくれたこともあったね。
実貴子 地元の駅前なら、スッと車で来て、サクッと観て帰れるってこともあるみたいで。
カレンダー裏の似顔絵
──感動した瞬間はありましたか?
実貴子 クリスマスの時期に大阪で路上ライブをしたときはすぐ警察に止められて、2、30人くらいお客さんがいたんですけど、へんぴな公園まで移動して歌ったということがあって。うちはそれにやたら感動した。
ズ あれは感動したよ、俺も。
実貴子 その感動が何につながるかと言うと、年末の曲作り。正月にデモを3曲用意できたのも、その感動があったからで。集まってくれた人たちのために書いてるというわけではないけど、「もう声出ない、無理だ。キツい」ってときに、うちの歌を信じてくれている人たちの気持ちを感じて、もうちょっとがんばろうと思えたし、パワーになりました。
──素通りしていく人も多い中で、曲を聴いてくれる人が目の前にいるのはパワーになりますね。
実貴子 でも素通りしていく人がたくさんいる状況も、けっこう気持ちよくて。だって、うちの曲が必要ないのは、いいことでもあるような気がするから。ただ、私は歌ってますから、もし必要そうだったら戻ってきてもいいですよって(笑)。だから立ち止まってくれる人がいるのもうれしいし、通り過ぎる人がいるのもうれしい。ただ、若い子が止まってくれるとめちゃめちゃうれしい!
ズ 女子高生が観に来たとき、すっごいオバちゃんみたいになってたもんな(笑)。
実貴子 マクドナルドのポテトの油でベッタベタのスマホを渡されて、「サイン書いてください!」って言われてな。「どっから来たの? 夜遅いの大丈夫か?」なんて話しかけちゃって。あとは大学1年生の子がそんなにお金がないだろうに投げ銭してくれたり、手紙を入れてくれたり。小さな子がカレンダーの裏に似顔絵を描いて持ってきてくれたこともあったなあ。あんなの泣いちゃうから。でも「みきこ“さん”へ」って書いてあって、ズには「ズへ」って呼び捨てされてたよな。
ズ 子供ながらに何か感じることがあったんだろうか(笑)。でもめっちゃうれしかった。
路上ライブがもたらす影響
──路上ライブでの経験を積んでいくことで、今後のライブハウスでのライブの向き合い方に変化は生まれそうですか?
実貴子 いい意味で、歌うことのハードルが下がりそうとは思った。これまでギラギラしすぎてた部分が、もう少し自然になるんじゃないかなって。路上だと最初は人前で声を出すことにすら恐怖があったけど、なくなってきたから。
ズ 路上の1本目は準備してるときから「ここでやっていいかな?」ってドキドキで、ちょっと音出してみたら、音量が大きすぎないか気になったりして。でも慣れるもんですね。今は「どうする?」「ここで一旦やってみよう」でドンとやれちゃう。
実貴子 いい意味であきらめがついた感じはあるから。それがライブハウスでもいい形で出るんじゃないかと思ってる。
──路上ライブのときにズさんは主にビラ配りと撮影担当ですが、続けることで磨きがかかった部分はありますか?
実貴子 MCの腕は落ちてってるんじゃない? 路上では別にMCスキルは磨かれてないから。
ズ 磨いてったほうがいい? 路上でもMCやったほうがいいんかな? マイク持ってさ、「続いての曲は」とか口上を入れる? いや、恥ずかしいから絶対やらない(笑)。
実貴子 でもチラシを配るのがうまくなったんじゃない? この人、路上だとビラ配りと撮影が担当だから。
ズ ビラ配りがうまくなってどうすんの?
実貴子 次の仕事に生かせる。
セットリストは決めてない
──アルバムの話に戻して、「いばら」でご自身が好きな曲は?
ズ 「止まるな危険」かな。
実貴子 おい、かぶんなよ(笑)。でも2人のオススメってことか。この曲は路上で毎回やっていて、歩みを止めたら死ぬみたいな感じが、今の鈴木実貴子ズの雰囲気に合ってる。昔作った「都心環状線」と似てますね。自分たちにとって普遍的な曲調だったりするのかもしれない。
ズ 俺は最初からこの曲を推してたんです。リード曲でもいいくらいの気持ち。
実貴子 あと、「0月0日」も好き。歌って楽しい。疲れている私に優しい曲で、ふわっとした感覚になれる。「まあええやんええやん! いろんなこと忘れて、夏よ! いろんな私のモヤモヤを溶かしちゃってくださいよ! お願いしますよ夏!」と代弁してくれるみたいで、この曲に救われてる。
鈴木実貴子ズ「いばら」収録曲 / ゲストアーティスト
- ががが
各務鉄平(G) / 舟橋孝裕(B) - ゆれる6弦
各務鉄平(G) / 舟橋孝裕(B) - イッキ
菅原卓郎(G / 9mm Parabellum Bullet) / 舟橋孝裕(B) - 四月の風
亀谷希恵(Violin) / Shinox(Pedal Steel Guitar) / 木田麻斗(B) - ブルース
山内幸次郎(G / Climb The Mind) / 富田昌樹(B / Climb The Mind) - 0月0日
村上友哉(G / 明日、照らす) / 判佳典(B / 明日、照らす) - パンダ
高野京介(G / ゲスバンド) / 舟橋孝裕(B) - 止まるな危険
矢矧暁(G / 3markets[]) / 舟橋孝裕(B) - ハックオフ
あーちゃん(G / きのこ帝国、MY TEMPLES、KRISHNV) / 舟橋孝裕(B) - ちいさなうた
※ゲストなし
──路上ライブのセットリストはどう決めているんですか?
実貴子 事前には決めてないです。前の曲のアウトロで次の曲を考えてるから、ズに「アウトロが雑」って言われがちで。どうしても路上だと気持ちの矢印が内側に向いてることもあって、セットリストが決められない。ズが動画を撮るから、次の曲をわかっとるほうが、無駄がないのもわかる。でも決められない。どうやって決めたらいいのかわかんないし。
──路上ライブは実貴子さんのその瞬間の気分で曲が決まると考えたら、毎回新鮮でいいですね。
ズ ライブハウスでもこのスタイルになりそうで怖い。
実貴子 ぶっつけ本番やな。
スタッフ ワンマンのときはセットリスト決めてください!
ズ あ、やっぱりダメか。ワンマンはこれからも決めます。





