鈴木実貴子ズ「いばら」特集|インタビュー&47都道府県路上ライブツアー「いばらのみち」福岡編レポート

鈴木実貴子ズが1月28日にメジャー2ndアルバム「いばら」をリリースした。

1年前の2025年1月に発表した1stアルバム「あばら」で広がった支持の先で、2人が選んだのは47都道府県路上ライブツアー「いばらのみち」という過酷な選択だった。本特集では鈴木実貴子(Vo, G)とズ(Dr)へのインタビューに加え、1月5日の福岡路上ライブの模様をレポートする。

取材・文・撮影 / 田中和宏

迫りくるプレッシャーとの折り合い

──メジャー1stアルバム「あばら」のリリースからちょうど1年。2025年は、いい1年でしたか? それとも大変な1年でしたか?

鈴木実貴子(Vo, G) 両方だよね。めっちゃ大変だったし、めっちゃいい1年だった。

ズ(Dr) めっちゃいいのと同時に、あなた(実貴子)の考え方の変化を見た1年だった気がするね。すごく売れたってわけじゃないけど、メジャーデビュー前と同じように活動していたら、できなかったことがいくつもあって。それによって、ライブのプレッシャーも高まった。

実貴子 そうだね。プレッシャーはすごく感じやすくなった。

 それを横で見ているから、大変そうだなと思うことが多い1年だったかな。

実貴子 まあ、正直なところ大変さが勝るけど。

 俺は楽しい1年でした(笑)。

──「メジャーデビュー前ならできなかったようなこと」というのは?

 わかりやすいのは、スピッツ主催の「豊洲サンセット」とか「TOKYO GUITAR JAMBOREE」みたいな大きなイベントに出演できたことですね。お客さんが3000人以上集まる景色は、まったく知らなかったから。数百人規模なら想像できていた部分もあったけど。

実貴子 そうだね。

 1人ひとりに歌う、届けるという気持ちは鈴木実貴子ズとしてあるけど、果たしてその思いを保ちながら演奏できるのか?と考えるような規模のライブに出られたのは、すごくいい経験だったなって。

鈴木実貴子ズ「いばらのみち」福岡路上ライブの様子。

鈴木実貴子ズ「いばらのみち」福岡路上ライブの様子。

実貴子 “人”の多さがプレッシャーにつながっているんですよ。12月に「危機一発」をやったときは、単純に関わるスタッフの数も増えたし、お客さんもたくさん集まってくれて(参照:鈴木実貴子ズ最大規模ワンマン「危機一発」、物販届かず弦が切れても大団円)。あの日も「もう声もボロボロですみません」と思ったし、この1日のためにどれだけの人が関わっているのかを考えると、それだけでプレッシャーを感じた。

──どうやってそのプレッシャーと気持ちの折り合いをつけてるんですか?

実貴子 折り合いは、たぶんまだついてなくて。ただただ必死にしがみ付いているだけかもしれない。喉や体のことを気遣う、曲をがんばって作る。スタッフからの提案を一生懸命やっていくことは大事だなって。ずっと、あくせくしている感じもある。

──目の前でやることが見えているのは、いいことですよね。

実貴子 そう。ちゃんと1つずつ見えてる。言われたことにも納得しているし、曲を作らなきゃいけないのもめちゃめちゃわかる。納得しながらやっている感じ。

やってみないとわからない

──「いばら」はいつ頃から制作期間に入ったんですか?

実貴子 「あばら」ツアーのときには、もう入ってたよね?

 うん。新譜を出したあとのリリースツアーで、その新譜に入ってない新曲を毎回やっちゃうんですよ。ライブで演奏しないと、次の作品に入れられるかどうかが決められないというのもあって。曲を作ったら、ライブでやってみて収録曲を決めるから同時進行なんです。

──47都道府県ツアー「いばらのみち」でも新曲を演奏している?

 「いばら」にも入らない、できたてホヤホヤの新曲も演奏してますね。

実貴子 やってるね。自分たちになじむかどうかは、やっぱり演奏してみないことにはわからないから。

鈴木実貴子(Vo, G)

鈴木実貴子(Vo, G)

──実貴子さんが曲を作ってズさんに聴かせて、それをズさんが鈴木実貴子ズとして演奏するかジャッジしてるんですよね。

実貴子 いつもその流れです。元日に出演したラジオ番組の楽屋で、年末にできた曲を高橋(ズ)さんに聴いてもらってました。

 3、4曲あったよね。「ちょっとギター弾く」って実貴子さんが言い出したんで、「あ、どうぞ」という感じで。

実貴子 その曲は年明けからの路上ライブでさっそく歌ってます。

9mmから衝撃の言葉「ズ、知ってるよ」

──いろんなアーティストと競演する機会が増えてきましたが、印象に残ってる対バンは?

実貴子 9mm Parabellum Bulletだなあ。どこで一緒だったんだっけ?

 群馬のみなかみ高原でやった「New Acoustic Camp」ね。

実貴子 (菅原)卓郎さんに「ズ、知ってるよ」って言われたんだよね(笑)。

 まさかの、ズを知っているという。

実貴子 あの9mmがズを認識していることが衝撃だった。

 「カッコいいバンドだよね」と言ってくれたんですよ。「俺ら、カッコいいバンドと対バンしたいから、対バンしようね」って。ボイスメモに録音しておけばよかった(笑)。

実貴子 うれしかったね。あと、名古屋のHUCK FINNで対バンした炙りなタウンも、実貴子ズを好きだと言ってくれていて、それも衝撃だった。知らないうちに、そうやってうちらの音楽を聴いてくれている人、好きでいてくれる人が増えているんだなって。

──アルバムに収録されている「ハックオフ」は、昨年10月の炙りなタウンとのツーマンの日にも演奏していましたね。

実貴子 「MINAMI WHEEL」でもやったから、あのときが2回目とかで。今作でわりとできたてホヤホヤなのは「ハックオフ」かな。だからこの曲は、もうCDに入る音源とライブで歌い方が違うの。

ズ(Dr)

ズ(Dr)

──仮タイトルが“ファックオフ”だったという話がライブのMCでありましたね。

実貴子 勝手に大人の事情を想像してね(笑)。

 つまり「あばら」の「ファッキンミュージック」が、タイトル都合でラジオとかで流せないみたいな話があって。そんなに曲名にこだわってるわけじゃないし、HUCK FINNにお世話になってるし、という理由で「ハックオフ」になりました。

実貴子 HUCK FINNはずっと出演しているライブハウスで、黒崎店長とも仲がよくて。ツアー中に飼っている猫の面倒を見てもらってるくらい。うちらがツアーに行けるのは、HUCK FINNがあるから。大感謝なんです。

ズはときに歌いたい

──ズさんはドラムを叩きながら口ずさんでいる曲と、演奏に集中している曲があるように見えました。

実貴子 そうなん? なんか最近、よう歌っとるのが聞こえてきて「うわー」って思う。

 実貴子には「やめろ」なんて言われますけど(笑)。口ずさんでるのは、1曲単位というよりは、この曲のこの部分みたいなのが多いですね。「いばら」の曲だと「ががが」とかかな。

実貴子 「イッキ」もじゃない?

 そうだね。自分の好きなフレーズは口ずさむくらいのほうが気持ちが入る。口ずさんでいないから好きじゃないというわけじゃないですけど。

──実貴子さんは曲ごとに感情の込め方に差はありますか?

実貴子 ない! 曲ごとの差はマジでない。「パンダ」はまだ全然やってないからわからないけど、それ以外は全部同じ。

 アルバムには毎回“おまけ曲”みたいなのもあるから、それは少し軽い気持ちで歌ってるよね。

実貴子 「パンダ」はおまけ曲だからね。「あばら」だと「私、天使だっけな」がそれです。

正面衝突“やったろか”→“避けてたいわ”

──「イッキ」は、「かかってこいよバッドエンド」の延長線上のストーリーが感じられる曲でした。

実貴子 そうですか? 「イッキ」はバイト中に店が混雑して、テンポよく、感情をなくして仕事をこなそうとしたときの気持ちを曲にした感じで。

──歌詞としては「かかってこいよバッドエンド」では、「正面衝突やったろか」。「イッキ」では、「正面衝突避けてたいわ」。同じ「正面衝突」というフレーズでも浮かぶ心情が全然違うなと。「かかってこいよバッドエンド」のときは、疲弊していても捨て身というか、当たって砕けろみたいな思いきりのよさがあって、「イッキ」では疲れというかつらさがやや前に出てる感じがします。

実貴子 確かに。その説明、今後のインタビューで使わせてもらいます(笑)。でも、その通りで、日常を生きる中でどうしてもうまくやっていかなきゃいけない、いろんな人と関わるようになったからこその気持ちが出てたのかもしれない。曲を書いて自分を知る部分もあるので、今言ってくれたようなことがうちの中に無意識でもあるんやと思う。正直、窮屈さもこの1年で感じていたし。

ズ(Dr)は撮影とビラ配りを担当。

ズ(Dr)は撮影とビラ配りを担当。

 メジャー1stアルバム「あばら」を経て、2ndアルバムで今度こそメジャーにふさわしい作品を作ろうとか、もっと売れる曲を書きたいとか、いろんな葛藤を抱えながら作ってるから、そういう部分が出てるのかな。

実貴子 「正面衝突やったろか」だけじゃダメじゃんっていう、現実が出てる。

──弱気になってるところもあるけど、乗り越えようとしているんですよね。「かかってこいよバッドエンド」で歌ってるような気持ちがあっても、人はみんな「イッキ」みたいに悩む一面もあるよなあと。

実貴子 結局、1人が好きでも1人では生きてないからね。摩擦だって起きざるを得ない。