音楽ナタリー Power Push - サニーデイ・サービス
悪魔に憑かれた渾身ポップアルバム
アートという名の悪魔
──こんなふうに制作の苦労について話していると、読んでいる人はシリアスで重たい作品なんじゃないかと思うかもしれませんが、実際アルバムに入っている曲はどれもすごくポップなんですよね。
うん、できあがった曲を聴いても悲壮感とかはないでしょ?
──ないです。昔のサニーデイもどこかに怒りや苛立ちを抱えつつ、でも楽曲はポップで美しかった。今回はあの頃に近い印象を受けました。
ポップスを作りたいって気持ちでやってるし、泣きながら作ってる感じはあんまり出したくなかったから。だから表面はすごく優しいの。でも優しさの奥に常にどうしようもない、やりきれない感情がある。サニーデイっていうのはそういうバンドなんだと思う。
──20代の頃から地続きなんですね。
ただ、20代の頃は家族もいないし、24時間すべてをもの作りのためになげうってもよかったからね。どうなってもいいって思いながら、すべてを懸けてやってたわけ。でも今はさすがに家族もいるし、この状態けっこうまずいなみたいな気持ちもあるんだよ。
──お子さんに文句を言われたりもするんですか?
文句は言われるよね。「パパが起きてこない」とか(笑)。自宅でもずっとやってるからさ。子供たちが寝たら自分の部屋でずっと朝まで作業して、子供たちを起こして学校行かして、仮眠して、またずっと作業が続くみたいな。そういうボロボロの状態でやってたから。
──これまではちゃんと子育てをして、父親としての役目も果たして、そういう日常の中から音楽が生まれるんだっていう姿勢でやっていたはずなのに。
めちゃくちゃになっちゃいましたね、すべてが。
──今の曽我部さんをそれほどまでに突き動かしてるものはなんなんですか?
やっぱり“業”なのかな。このアルバム作ってるときに、ちょうどギュウチャン(篠原有司男)っていうアーティストのドキュメンタリーを観たのよ。今80代後半ぐらいで、ニューヨークに住んで前衛芸術をやってるんだけど、むちゃくちゃな生活だから子供も引きこもりで、完全にアル中で。
──「キューティー&ボクサー」(2013年)という映画ですね。
その映画の中で「なんでこんなことをやってんのか」って話になって「アートっていうのは悪魔だから、家族も子供もすべてダメになる。人生全部ダメになるけど、続けなきゃいけないんだ」って言ってて、こんなふうになるのイヤだなと思いながら観てたけど、でも自分もわりと近い感じになってたからね。もの作りの怖さっていうか、計算を超えた、わけのわかんないエネルギーによって作らされてるところがある。
──そういうところに足を踏み入れている感じは、この9曲を聴くとすごくわかります。メロディやサウンドは軽やかなのに、全体から受ける“圧”がすごい。
うん、やっぱりそういうところまでいきたかったんだと思う。
「等身大のサニーデイ・サービス」はいらない
──設計図がない中での制作だったということですが、まったく白紙の状態からスタートしたんですか?
最初はこの曲で始めてこの曲で終わろうとか、それくらいは考えてたんだけど、そういう理性の部分を超えて、全部を破壊しようとする何かが自分の中に生まれてきたんだよね。だから後半けっこう泣き入ってたもん。もうレーベルとか運営できないんじゃないかって。
──レーベルオーナーとしての視点で見れば、完全に破綻しているわけですよね。
お金もなくなるしね。うちのレーベルは基本的に自転車操業だからさ。年にアルバム1枚くらい出せれば、それに伴うツアーとかもあったりして、なんとなく回っていくの。でも去年は結局アルバム出せなかったから、経済状態も大変で。
──でもこのへんで完成ってことにしてリリースしちゃおう、とはならなかった?
ダメだったね。許してくれない感じ。もうやめようかなっていうのも途中で何回か思ったんだよ。何十曲作っても納得いかないし、どんなに人がいいねとか言ってくれてもしっくりこなくて、これはちょっと頭がおかしくなってるんじゃないかと思って。
──でもやめなかった。
うん、やっぱりこっそり続けてて、そんな中で新しい曲が生まれたりとかして。今年の春、ちょうど桜が咲いてる時期に下北沢の緑道で、夜桜見ながら犬の散歩とかしてて、きれいだなって思ってすごくセンチメンタルな気分になったりして。そうやってぼーっと歩いてたら「桜 super love」っていう曲ができたの。そこからやっと終わりに向かって進み始めた感じ。だから最初に入ってる2曲とかは先月ぐらいにできたやつ。
───そうなんですか。
それまではもっとサニーデイっぽいどっしりしたいい曲があって、それを1曲目にしようってずっと思ってたんだけど、それも結局なくなった。代わりに最近パパッとできた2曲が入った。
──どんどん更新されていったんですね。
身体が思い出しちゃったのかもしれない。最初の頃は結局自分ができる範囲で作ってたわけ。3人でスタジオに入れば何かはできるんだけど、これじゃダメだなと思って1回全部捨てた。身に付いたものを全部なかったことにしてまた新たなものに取り組むっていうのがすごく重要だった。「等身大のサニーデイ・サービス」みたいなものが見えない作品にしたくて。
──等身大で自然体のサニーデイも嫌いじゃないですけど。
そう、お客さんもわりとそういうものを望んでたりとかするし。でもそれができなくて。もちろんサニーデイのいろんな曲があって、今お客さんの前でそれを歌う意味ってのはすごくあると思うのね。ライブで古い曲をやってても過去をなぞってる感じは全然ないし。でも新作を作るとなると、それだけじゃ足りなくて、今を生きてる何かをどうしても表現したいなと思ってしまって。
──前回のインタビューのときは、昔のサニーデイが持ってたヒリヒリした感覚はもういらない、今はもっとくつろげるものをやりたいんだって話をしてたと思うんですけど。
そのときは本当にそう思ってたんだけどね(笑)。でもやっぱダメだったな。新しい作品を作り始めてみて、とにかくお客さんに向かって思いっきり剛速球をぶつけていかなきゃならないんだって思い直した。
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収録曲
- I'm a boy
- 冒険
- 青空ロンリー
- パンチドランク・ラブソング
- 苺畑でつかまえて
- 血を流そう
- セツナ
- 桜 super love
- ベン・ワットを聴いてた
サニーデイ・サービス TOUR 2016
- 2016年10月21日(金)
- 大阪府 umeda AKASO
- 2016年10月28日(金)
- 岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2016年11月3日(木・祝)
- 北海道 札幌PENNY LANE24
- 2016年11月6日(日)
- 宮城県 Rensa
- 2016年11月12日(土)
- 広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2016年11月13日(日)
- 福岡県 BEAT STATION
- 2016年11月19日(土)
- 香川県 DIME
- 2016年11月20日(日)
- 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2016年11月23日(水・祝)
- 京都府 磔磔
- 2016年11月26日(土)
- 新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2016年11月27日(日)
- 石川県 Kanazawa AZ
- 2016年12月14日(水)
- 東京都 LIQUIDROOM
- 2016年12月15日(木)
- 東京都 LIQUIDROOM
サニーデイ・サービス
曽我部恵一(Vo, G)、田中貴(B)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年にミニアルバム「星空のドライブep」でデビューし、1995年には1stアルバム「若者たち」をリリース。フォーキーなロックサウンドと文学的な世界観が音楽ファンの間で好評を博し、7枚のアルバムを世に送り出すも2000年12月に解散。2008年8月に再結成を果たして以降はスローペースで活動を重ね、2015年までにオリジナルアルバム2枚とライブアルバム1枚を発表。2016年8月に通算10枚目のオリジナルアルバム「DANCE TO YOU」をリリースした。