sumika「Vermillion's」インタビュー|“同じ色”を共有し合う3人が奏でる、等身大のアルバム完成 (2/2)

抱え込んでいるものをあえてさらけ出した

──小川さんが作曲して自ら歌った「シリウス」は本当に素晴らしいバラードで、アルバムの中でも特にグッとくる曲の1つだと思います。

小川 ありがとうございます。「シリウス」は心の中で閉ざしていた実体験というか、抱え込んでいるものをあえてさらけ出して、なんとか制作していった曲で。作るのがしんどかったです。自分の“リアル”が詰まったアルバムを象徴する1曲なのかなと思います。なので、僕が歌うことになったときも、素直にスッと気持ちが入りました。コーラスもいつもはゲストの方にお願いしたりするんですけど、今回は下ハモも上ハモも全部自分で歌っていて。自分の心を表現した曲なので、自分の声だけで完結させるのが筋が通っているというか、一番心が乗るんじゃないかなと思って、そうしました。

──この曲を聴いていると、言葉はいらないというか、解説しなくてもいいという気持ちになります。

小川 最初の「ラララー♪」の仮歌の段階で、すさまじい感情が入っていたと思います。

小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

──それを片岡さんが汲み取って、歌詞にしたんですね。

片岡 この曲は“宇宙”をモチーフにして歌詞を書きました。(スマホを見ながら)今、小川さんに歌詞を送ったときのメッセージを読んでいたんですけど、人の出会いって……いや、出会いだけじゃなくて何事においても、その時々で物事の受け取り方って変わると思うんですよね。例えば10年後と、10年前では受け取り方は違う。「10年前だったら許せなかったな」ということもあるし、「今はいいけど、10年後だったら怒ってるかも」ということもある。逆に「今だからうれしいな」と思うこともたくさんあると思う。おがりんと話していて、人の感じ方ってそういうものなんだろうなって思ったときに、“誰にも証明できないこと”を歌詞のモチーフにしたいなと考えたんです。そうなると、頭に宇宙のことが浮かんできて。宇宙での事象は、学者さんがいろんな研究をして説明しても、数年後にはひっくり返ることがたくさんある。それってさっきの話とも符合すると思うんです。物事の捉え方は常に変化していくというところから、そういうモチーフになりました。

──なるほど。

片岡 ただ、たぶん忘れてはいけないこともあって……例えばシリウスって、連星なんですよ。2つで1つという定義の星。それを1つの光の塊だと思って見つめる時期も必要だと思うんですけど、「本来、光は2つあったよね」と認識することが大切な時期もあって。星が2つあることを忘れちゃいけないというか。今じゃなくても、10年後、20年後、過去に自分が感じたことが何かの助けになることもあるかもしれない。自分の身に起こったことについて、解像度を低くする時期も必要だけど、「忘れちゃいけないこともあるよね」と……抽象的な話ばっかりになっちゃってすみません。

──いえ、わかる気がします。記憶とか体験って、そういうものですよね。ライブでもぜひ歌ってください。

小川 がんばります。

──「シリウス」「Dang Ding Dong」「Love Later」と、“おがりん作曲三連発”はアルバム後半のハイライトになってます。いろんなパターンの曲を出しましたね。

小川 いやー、出しました。その曲ごとに伝えたいことが明確にあって。例えば「Dang Ding Dong」は、歌詞が入ってない仮歌の段階で、「私は間違っていない」と自分を肯定できる曲を作れたら、いろんな人の力になれるんじゃないかと考えていて。さらに「Dang Ding Dong」は中京テレビのお昼の情報番組「ぐ~たくさん」のテーマソングになるということもあって、音楽で視聴者の方々に力を与えることができたらいいなという思いがありました。「Love Later」に関しては「マイペースに生きていく」というテーマがあって。いい意味でゆるさもありながら、自分はこれまで音楽、特に歌声に救われることが多かったので、曲の最後に合唱っぽいパートを入れたくて、そういう構成にしました。

“自分を救える曲”しか世に出さない

──片岡さんの書いた曲は、さっきおっしゃっていたように明るい曲やリズミカルな曲が多いですよね。「Vermillion」も、既発曲の「Starting Over」「運命」「VINCENT」「マシロ」なども。

片岡 今思えば、世相みたいなものが反映されているかもしれないですね。コロナ禍を経て、今は音楽に対する向き合い方が開かれてきて、「みんなで楽しくやろうよ」とようやくアクリル板を挟まずに言えるようになった。シンガロングできる曲が多いことも、合唱してはいけない期間がめちゃめちゃ長かったので、そこに対するカウンターもあると思う。お客さんの声にも1人ひとりちゃんと個性があって。それぞれ違ったよさがあるという、パーソナルな部分を肯定していきたいから、合唱パートのある曲が増えたのかもしれないです。

──アルバムリリース後のツアーが楽しみです。荒井さん的にライブで叩いたら楽しそうなのはどの曲ですか?

荒井 全部楽しいと思います(笑)。ただ、「リビドー」に関しては本当に脳が休まらない曲で、“楽しい”と“大変”が同居しているので、「どうなるんだろうな?」って。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井智之(Dr, Cho)

片岡 「リビドー」は何気に歌もキツい。テンポが速いんですよね。急勾配の坂道みたいな感じだから、駆け下りたら気持ちいいけど、転んだら地獄(笑)。レコーディング、めちゃくちゃ難航したもん。

荒井 でもうまくハマれば、歌もリズムも、何から何まですごく気持ちいい。

片岡 靴紐をきつく締めて、坂道を駆け下りていきたいと思います。

──3月にライブツアー「sumika Live Tour 2025 『Vermillion's』」がスタートします。どんなツアーにしたいですか?

片岡 3月から6月まで回るツアーなので、新生活シーズンを挟むんですよ。これまでいろんなところでお話してきましたけど、僕は春が苦手なんです。だからそういう時期にライブがあると、個人的には救いだったりして。その時期に全国を回らせてもらうからには、新しい生活や新しい環境に対して順応できずに悩んでる人や、うまくいかないなと思っている人に力を与えられたらなと。冬の終わりから夏の始まりまで、僕らはどこかしらでライブをやっているので、少しでもパワーが欲しいと思ったらぜひ来てください。

──五月病にも効くツアーという。

片岡 五月病にならないのが一番なんですけどね。僕は何度もなってきたから(笑)。フリーターをしながらバンドをやっていた頃、新しいスーツを身にまとって入社式に行く人や、新しいことにちゃんと向かっていってる人を見るのが、とにかくつらかった。自分は何年やっても生活につながらないバンドマンでしかなかったので。今はだんだん春が好きになってきましたけど、それはsumikaとして、春の歌をたくさん作ったからかもしれない。春を好きになるためにそういう曲を作ってきた部分もあると思うので。

──なるほど。セルフセラピーですね。

片岡 そうですよ。極論、自分のために曲を作っているし、“自分を救える曲”しか世に出さない。それがマイルールなので。

──最後にアルバムタイトルのお話を聞かせてください。「Vermillion's」は「朱色の」という意味です。タイトルトラックには「朱に交われば」という歌詞も出てきますが、「Vermillion」という言葉にどんな思いを込めましたか?

片岡 これはもう、メンバーとの関係性ですね。2017年に1stフルアルバム「Familia」を出したんですけど、年数を経過するごとに「もっとアジャストした表現ってないのかな?」と思うようになって。さっきも話した通り、僕らはそもそも、くくりで言えば“他人”。でも他人だと言い切っちゃうのはすごく切ないことで、じゃあ何か名前を付けようと思ったときに「僕らは同じ“色”ではあるよな」と。楽しいことをやったら楽しいふうに染まるし、悲しいことがあったら悲しいふうに染まる。ご結婚された方に言う常套句として、「喜びは2倍に、悲しいことは2分の1に」という言葉をよく聞くんですけど「果たしてそうなのか?」と。喜びが2倍なら、悲しいことも2倍だと思うんですよ。別に半分にはなっていない。

──確かに。

片岡 でもそれが「同じ色に染まる」ということのような気もしていて、それでいいじゃんと。それ以上でも以下でもないし、同じ色に染まって縁を組み合って、一緒に感動して生きていきたい。それで複数形の「s」と、その縁はそれぞれのものであるという意味で所有格の「's」を込めて「Vermillion's」になっています。あと、カタカナの「エス」には自我という意味もあるんですよね。僕たちはこのアルバムで奏でているような音楽をやっている集まりです、ということで、こういったタイトルになりました。

sumika

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公演情報

sumika Live Tour 2025「Vermilion's」

  • 2025年3月8日(土)埼玉県 越谷サンシティホール
  • 2025年3月15日(土)宮城県 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
  • 2025年3月16日(日)岩手県 トーサイクラシックホール岩手(岩手県民会館)大ホール
  • 2025年3月20日(木・祝)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
  • 2025年3月22日(土)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)大ホール
  • 2025年3月27日(木)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
  • 2025年3月28日(金)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
  • 2025年3月30日(日)北海道 函館市民会館 大ホール
  • 2025年4月5日(土)栃木県 宇都宮市文化会館 大ホール
  • 2025年4月6日(日)茨城県 水戸市民会館 グロービスホール
  • 2025年4月15日(火)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2025年4月16日(水)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2025年4月19日(土)新潟県 新潟県民会館
  • 2025年4月20日(日)富山県 オーバード・ホール
  • 2025年4月26日(土)鹿児島県 川商ホール(鹿児島市民文化ホール)第1ホール
  • 2025年4月27日(日)熊本県 熊本城ホール メインホール
  • 2025年4月29日(火・祝)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2025年5月10日(土)広島県 上野学園ホール
  • 2025年5月11日(日)鳥取県 米子コンベンションセンター BiG SHiP
  • 2025年5月17日(土)愛媛県 松山市民会館・大ホール
  • 2025年5月18日(日)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール
  • 2025年5月24日(土)長野県 ホクト文化ホール 大ホール
  • 2025年5月25日(日)福井県 フェニックス・プラザ エルピス 大ホール
  • 2025年5月29日(木)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2025年5月31日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2025年6月1日(日)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
  • 2025年6月6日(金)青森県 SG GROUP ホールはちのへ(八戸公会堂)
  • 2025年6月8日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2025年6月17日(火)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年6月18日(水)大阪府 フェスティバルホール
  • 2025年6月28日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
  • 2025年6月29日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

プロフィール

sumika(スミカ)

2013年5月に結成。2017年にバンド初のフルアルバム「Familia」をリリースし、2018年には東京・日本武道館公演2DAYSを含むホールツアーを開催。その後も映画「君の膵臓をたべたい」「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」「ぐらんぶる」、テレビドラマ「おっさんずラブ-in the sky-」、テレビアニメ「ヲタクに恋は難しい」「MIX」「美少年探偵団」「カッコウの許嫁」など、数々のタイアップソングを手がけてお茶の間に自分たちの音楽を広げた。2022年に結成10周年を迎え、9月に4thアルバム「For.」を発表。2023年5月に神奈川・横浜スタジアムでアニバーサリーライブを開催した。2024年2月からホール&アリーナツアー「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」を開催。5月にEP「Unmei e.p」をリリースした。9月に欧州サッカー“2024-25シーズン”のイメージソング「VINCENT」を配信リリース。2025年3月にアルバム「Vermillion's」をリリースし、全32公演の全国ツアーを行う。