sumika「For.」インタビュー|結成10周年のその先に向かうために──“終わりと始まり”のアルバムが生まれるまで (2/2)

何かを始めるためには、何かを終わらせなきゃいけない

──その話の流れで聞きますが、「New World」の結論とも言うべき、ラストを締める「Lost Found.」も作詞・片岡、作曲・黒田のコンビで、まさにOasisを思わせるUKロックのニュアンスを強く感じました。

黒田 かなり意識はしてますね。

──「New World」が決意表明だとすると、「Lost Found.」にはどういう思いを込めたんですか?

片岡 アルバムを作るとなって、「ここにこういうテーマの曲が欲しい」「最後はこういう曲が欲しい」というだいたいの14曲のマッピングをしたときに、1曲目の「New World」と、中盤に「透明」が入ることと、最後は「Lost Found.」で終わるということは決めていました。始まりの曲と終わりの曲という役割は決まってたんで、そこに向かって曲作りをしていったんですね。

黒田 「Lost Found.」を作り始めたときは、アルバムの曲になるとも思わず、新しいことに挑戦しながら自由に作ったんです。でも、やっぱりライブがしたいという気持ちと、ライブを観ている人に一緒に歌ってもらいたいという気持ちが強くあって。僕の脳内では、片岡さんがアコギを弾きながらこの曲を歌い始めて、観てくれてる人が思わず歌ってしまい、途中で片岡さんは歌うのをやめてお客さんが歌ってるのを聴く、というふうなスケールの大きな曲になったらうれしいなということを考えながら作っていた曲です。

──すごくわかります。まさにそういう曲になってますね。

黒田 まだライブではやれてないですけどね。

黒田隼之介(G, Cho)

黒田隼之介(G, Cho)

──近いうちに、ライブを観ている人たちがまた一緒に歌えるようになったときに、ぜひ聴きたい曲です。片岡さんは、アルバムを締めくくる「Lost Found.」の歌詞で、何を伝えようと思っていましたか?

片岡 やっぱり、何かを始めるためには何かを終わらせなきゃいけない。アルバム全体のテーマにも関わってくるんですけど、じゃあ終わらせたあとにどうすればまたちゃんと始まって、続くのかということを、この曲の中で特に突っ込んで考えています。表面的に終わらせることって、人間の死であったり、別れだったりすると思うんですけど、僕たちが求めているのはそういうことではなくて、ちゃんと過去を過去として浄化させて次へ進みたいということなんです。浄化させるためにやるべきことは1個しかなくて。それは「許す」ということだと思うんですね。過去を全部振り返ったときに、どういう人生を歩んできたのか。その中で後悔もたくさんあるし、ああすればよかったなとか、いろんな気持ちがよみがえってきて、それを吐き出しそうになる瞬間があると思うんですが、そうならないように、人間って忘れようとするんですね。蓋をして、黒歴史というフォルダの中に入れて、もう思い出さないようにする。でもそうなると、結局成長しないんですよ。だからそれを全部こじ開けていく必要があって、過去にやってしまったことを全部認めたうえで、それを許すことでしか人は先に進めないんじゃないか。音楽の中でちゃんとそれを表現することができたら、次からは本当に新しい一歩を踏み出せる。そういうものをsumikaの音楽としてもそうだし、人としてもどこかでやるべきだと思うし、それが10周年イヤーというわかりやすい節目だったんですよね。

──なるほど。

片岡 それと、sumikaはメンバー間で一緒に過ごしてきた時間に差があって。僕たちは2013年に始まったバンドで、小川くんは2015年に入って、2年のタイムラグがあるんですが、長さは関係なくて、深さで言ったらまったく関係ない。お客さんもそうで、10年間追ってくれてる人はすごくありがたいし、でも昨日僕らの音楽を知ってくれた人もすごくありがたいし、比べられるものじゃない。僕たちが1回そこをフラットにして、「ちゃんと終わったから次の一歩目はみんな一緒だよね」というものを作って、2020年からの暗闇を全員で抜けようとする必要があると思って、それを今回のアルバムでやりました。

──素晴らしい考え方だと思います。

片岡 みんな自分に厳しすぎるんですよ。そう思います。過去を許せたら次に進めるのに、それを許せないからトラウマばっかり増えていって、ということだと思うので。終わったことはどうやっても変えられないし、だったらまず、償うより先に許すしかないと思うんですね。

──「Lost Found.」にも「許す」「赦す」という言葉が出てきますし、この曲を聴いた人にもきっと伝わると思います。

片岡 ちょっと重いかなとも思ったんですけどね。

──この曲だけ聞くとそうですけど、楽しい曲もたくさんありますし、カラフルなアルバムになっていますよね。

小川 楽しい曲、いっぱいあります。安心してください(笑)。

sumika

sumika

ちゃんと伝えきって、やり切れたのちに次の10年が見えてくる

──プレイヤーとして楽しめたのは、例えばどの曲ですか?

小川 「何者」は楽しかったですね。バンド感があって、進行もヘンテコで、レコーディングもすごく面白くて。みんなでケラケラ笑いながら作りました。もともと“カオスな曲”という枠でみんなで曲を書いてみようかという話になって、片岡さんが出してきた最適解が「何者」という曲なんです。この曲だけあとからピアノを入れたんですよ。デモの段階でギターの幅が分厚くて、そのあとに隼ちゃんがもう1本足すことになり、そのあとに自分は何を入れたらいいかを考えてみたかったので。昔は最後にピアノを足すことをよくやってたんですけど、ひさびさにそのやり方をやってみたら面白かったですね。

──荒井さんが演奏していて印象に残った曲といえば?

荒井 8曲目の「透明」という曲は、レコーディングする前にライブで披露したんです。それは今までにやったことのないやり方で。お客さんとメンバーと一緒に育てていくみたいなことをしていって、ある程度形ができてからのレコーディングだったので新鮮でした。ゲストメンバーもツアーで一緒にやっていた人とやりたいという隼ちゃんからの提案で、一緒に作ってきたものを改めてみんなでレコーディングする過程がすごくよかったなと思っています。もちろん曲自体もすごくいいですし、そこに自信があったから先にライブで披露するという決断もできたと思っています。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井智之(Dr, Cho)

──ほかにも既発曲の「Glitter」「Jasmine」「Shake & Shake」など、ホーンの入ったにぎやかなsumikaらしい楽曲も入っていますし、ライブで聴きたい曲ばかりです。9月23日から始まる次のツアーは、タイトルが「Ten to Ten」。“てんとてん”、ですか。

片岡 そうです。ダブルミーニングですね。点と点なので、過去の点を拾い集めて、つなげて線にしていくという作業がしたいので、アルバムツアーと銘打ってはいなくて。アルバムの曲ももちろんやるんですけど、この10年間、sumikaというバンドがこういうふうに歩んできて、今こういう気持ちでステージに立って音楽を鳴らしていますということを、ちゃんと伝えきって、やり切れたのちに次の10年が見えてくると思うんです。それを「Ten to Ten」でやりたいと思っています。

──アルバムには、CD作品ならではの仕掛けもあるみたいですね。

片岡 手に取ってくださった方だけに伝わるものとして、アートワークだったり、“秘密のもの”だったり、新規で撮った映像とか、いろいろ入っています。今の時代に物として手に入れたいと思ってくださる方を裏切りたくない気持ちがすごく強いので、細部までめちゃめちゃこだわって作ったアルバムです。「終わらせること」を狙いとしたアルバムではあるんですけど、ちゃんと救いがあって、春夏秋冬で言うと冬で終わるわけではなく、次の春までつなげるつもりで作り切ったので、どうしても手に取って聴いてほしいです。伝わると信じています。

sumika

sumika

ツアー情報

sumika Live Tour 2022-2023「Ten to Ten」

  • 2022年9月23日(金・祝)埼玉県 サンシティホール 大ホール
  • 2022年10月1日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2022年10月2日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2022年10月8日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2022年10月10日(月・祝)奈良県 なら100年会館 大ホール
  • 2022年10月15日(土)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
  • 2022年10月16日(日)岐阜県 長良川国際会議場 メインホール
  • 2022年10月22日(土) 福島県 いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
  • 2022年10月23日(日) 茨城県 ザ・ヒロサワ・シティ会館(茨城県立県民文化センター)
  • 2022年10月29日(土) 沖縄県 沖縄コンベンションセンター
  • 2022年11月3日(木・祝)石川県 金沢歌劇座 大ホール
  • 2022年11月6日(日) 島根県 島根県民会館 大ホール
  • 2022年11月11日(金)富山県 オーバード・ホール
  • 2022年11月19日(土)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2022年11月20日(日)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2022年11月23日(水・祝)愛媛県 松山市民会館
  • 2022年11月26日(土)栃木県 栃木県総合文化センター メインホール
  • 2022年12月4日(日) 山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)
  • 2022年12月9日(金)東京都 J:COMホール八王子
  • 2022年12月10日(土)東京都 J:COMホール八王子
  • 2022年12月16日(金)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2022年12月17日(土)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2023年1月14日(土)大阪府 大阪城ホール
  • 2023年1月15日(日)大阪府 大阪城ホール
  • 2023年2月18日(土)愛知県 日本ガイシホール
  • 2023年2月19日(日)愛知県 日本ガイシホール

プロフィール

sumika(スミカ)

片岡健太(Vo, G)、荒井智之(Dr, Cho)、黒田隼之介(G, Cho)によって2013年5月に結成。2015年2月にサポートメンバーの小川貴之(Key, Cho)が正式加入し、現体制の4人組バンドとなった。2017年にはバンド初のフルアルバム「Familia」をリリース。2018年には東京・日本武道館公演2DAYSを含むホールツアー「sumika Live Tour 2018 "Starting Caravan"」を開催した。その後も映画「君の膵臓をたべたい」「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」「ぐらんぶる」、テレビドラマ「おっさんずラブ-in the sky-」、テレビアニメ「ヲタクに恋は難しい」「MIX」「美少年探偵団」「カッコウの許嫁」など、数々のタイアップソングを手がけ、多くの人々に音楽を届ける。2021年5月より2022年6月にかけてアリーナ、ホール、ライブハウスを舞台にしたロングツアー「sumika Live Tour 2021『花鳥風月』」を行った。2022年に結成10周年イヤーを迎え、9月に4thアルバム「For.」をリリース。9月より全国ツアー「sumika Live Tour 2022-2023『Ten to Ten』」を開催する。