sumika「For.」インタビュー|結成10周年のその先に向かうために──“終わりと始まり”のアルバムが生まれるまで

sumikaが4thフルアルバム「For.」を9月21日にリリースした。

2022年5月に結成10周年イヤーに突入したsumika。既発曲6曲に、今のsumikaができる限界を極めたバラエティ豊かな曲を加えた全14曲の「For.」は、まさにアニバーサリーにふさわしい充実ぶりだ。

音楽ナタリーでは、新たな傑作を作り上げた4人にインタビュー。話の中では「バンドを終わらせる」という衝撃的なキーワードも飛び出した。なぜ彼らは「終わらせる」という言葉にたどり着いたのか? 今の彼らの思いをじっくりと感じ取ってほしい。

取材・文 / 宮本英夫撮影 / 後藤壮太郎

やったことないことをやろう

──結成10周年のアニバーサリーイヤーの始まりを飾るにふさわしい、素晴らしいアルバムだと思います。まずはメンバー全員から、完成した作品の手応えについて聞かせてください。

荒井智之(Dr, Cho) すごくいいアルバムだなと思いますし、今のsumikaをしっかり表現できているんじゃないかと思います。楽曲のバリエーションとか、表現の仕方とか、今まではsumikaというラインの中でどれだけの幅があるか、「このラインまでは見せて大丈夫」というものを少しずつ広げてきたと思っていて。各々やりたいことがあったとしても、それをいきなり全部出すのではなくて、「次はこういうこと」「その次はこういうこと」と、1つずつ挑戦していった段階を経たうえでの今作なんです。今回は「これ以上やったらやりすぎかな」とかは考えずに、今の自分たちがやりたいと思っていることを表現できているのではないかなと。自分たちが信じて歩いてきた道はちゃんと今につながってるんだなと思ったし、完成したアルバムを聴いて、ここまでの10年を自分の中で肯定できたというか、すごくいい旅をしてこれたんだなということを感じました。

黒田隼之介(G, Cho) 今までで一番いいアルバムができたと胸を張って言いたいです。作る過程で、スタッフチームも含めた話し合いをいつもよりも細かくたくさんしていて、誰が何を考えているかということが、いつも以上に強く感じられている状態で制作に臨めた印象があるんです。それが完成したアルバムの手応えにもつながっているような気がします。アルバムを作るときはいつも不安があるんですけど、間違いなく一番いいものができて、1つの悔いもなく全部出しきったなという気持ちがあるので、よかったと思っているところです。

小川貴之(Key, Cho) 全体として見ても個別の収録曲で見ても、今までで一番完成度の高い作品になったんじゃないかなと思っています。sumikaの体制として、ゲストを招かないと作品を作れない状況があるんですけど、毎回その楽曲に合ったアーティストの方をお迎えできるのはとても幸せなことだし、どんどん作品を重ねるごとに呼べる人が増えるというのは、アーティストとしてこれ以上幸せなことはないです。その都度自分も勉強させてもらって、非常に完成度の高い、個人的にはもうやり残したことがないぐらいのところまで各曲を持っていけたので、心残りはありません。今作に関しては「これが最後でいい」というメンタルで挑んだので、「次作があるから」という考えは1つもなかったです。

小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

──片岡さんはアルバムの制作前、どんなことを考えていたんですか?

片岡健太(Vo, G) このアルバムを作るうえで最初にやった作業は、アルバムタイトルを決めることだったんですね。「For.」というタイトルは、4人のメンバーのsumikaの4枚目のアルバムということで、「4=FOUR」という意味をまず考えて、それをずっと考えているうちに「FOR」という言葉が出てきて。「そもそもなんのために俺たちはバンドをやってるんだっけな?」というところに立ち戻って、今一度4人が1人ずつ答えを出し合って、それを結実させてアルバムを作りたいなという気持ちになったんですね。

──なるほど。

片岡 4人それぞれ育ってきた環境も違うし、前に組んでいたバンドがあったり、聴いてきた音楽の趣味趣向も違う中で、この4人がどんな答えを出すのかな?と考えていたときに……4人の共通したゴールとして、「音楽を続けていく」ということがあるんですよね。じゃあ続けていくためにはどうしたらいいか?というと、「やったことないことをやろう」と。それは何かというと、過去のバンドを僕たちは、自分の手で終わらせたことがないんですよ。メンバーが抜けてしまったり、不可抗力で休止したり解散したり、そういうことはあったんですけど、そうじゃなくて、自分の手でバンドを終わらせてひと区切りを作る。それがやれないと、11年目、15年目、20年目とか、その先へ行けないなと思ったんですね。映画やドラマも1、2、3とシリーズになっていたり、シーズンになっていたりする。そうやって分けることで区切りができて次に行けるから、メンバー4人が「終わらせること」を考える、というテーマをみんなに話して、そこから曲作りを始めました。おがりん(小川)も言っていた「これが最後になってもいい」という気持ちは、毎回思ってますけど、そのテーマを話したあとなので、より色濃く出たのかな?とは思いますね。そんなアルバムです。

──とても深い話です。「終わらせる」というのは、言葉にするとかなりヘビーに聞こえるかもしれないですけど……。

片岡 そうですね。でも「やったことないことをやろう」というところから始まっているので、それは単純に楽しかったです。別に、解散はしませんから。

──そこは大事ですね。誤解なきように。

黒田 解散しませんよー。

片岡 そこ、太字で書いておいてください(笑)。この1作を聴いてsumikaがどういうバンドかちゃんとわからないと、自分たちとしては納得できないということですね。

──腑に落ちました。初めに全員の意思統一を済ませてからアルバムの楽曲制作に取りかかったと。

片岡 そうです。「どういうストーリーを作っていったらその結末にたどりつけるか?」ということを考えながら、既存曲の置きどころも考えました。

sumika

sumika

新しい世界に行かせていただきます

──先に結論めいたことを言ってしまうと、1曲目「New World」と、ラストの14曲目「Lost Found.」はテーマ的につながっている曲ですよね。

片岡 そうですね。

──テーマを掲げてから作り始めたという話を聞いて、なるほどなと思いました。それにしても「New World」には驚きました。まさかの強烈なファンクメタルで、度肝を抜く1曲目。

片岡 これはもともと隼ちゃんがデモを作ってきて、アルバム制作の早い段階で1曲目にすることは決まってました。

黒田 ずっと同じことをやっていてはバンドは続いていかないから、新しいことをやっていかないと、ということは常々みんなで話していて、僕も新しくシンセサイザーを買ったんですよ。それで「うわー楽しい」と言いながらバーッと5曲ぐらい作ったうちの1つがこれです。同じタイミングで、Blurの「The Magic Whip」というアルバムの制作ドキュメンタリー映画(2016年公開の「ブラー:ニュー・ワールド・タワーズ」)をたまたま観る機会があったんですけど、日本人では出せないようなニュアンスを強く感じて。これまでsumikaではやってきてないけど、高校生のときに洋楽を聴いてカッコいいなと思っていた気持ちで、そういう切り口でトライすることで新しいものになったらいいなという気持ちで作りました。

──狙い通り、めちゃくちゃカッコいいです。

黒田 編曲で入ってくれているGeorge(MOP of HEAD)さんの力も大きいです。ずっと一緒にツアーを回って、この人となら一緒に新しいものが作れるという圧倒的な信頼感があったので。僕が作ったものを全部壊してもらって、そこから相談して作っていくやり方ができて、すごく楽しかったです。

──こういう曲、ドラマーは絶対燃えますよね。

荒井 カッコいいですよね。sumikaは今までこういう表情をあんまり出してこなかったので、アルバムがこの曲から始まるのはすごくいいと思います。これはもう完全に、聴いた瞬間に方向性が見えたので、チャド・スミス(Red Hot Chili Peppers)みたいなドラムを叩きたいなと。それでレコーディングの前日に、チャドがよくかぶっているNEW ERAのキャップをネットで購入して、被って叩こうと思ったら、翌日に届かなくて(笑)。代わりのキャップを被って叩いて、すごくよかったとは思うんですけど。NEW ERAのキャップはレコーディングが終わって1週間後ぐらいに届きました。

黒田 遅っ!

荒井 その日リハがあったんで、とりあえずそれを被ってリハをやって。

片岡 全然関係ない日にチャドになってた。バラードを叩くチャドとか、意味がわかんない(笑)。

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G)

荒井 「実はこれを被って録りたかったんだよねー」って、ちょっとスケジュールが噛み合わなかったですね。そこだけが心残りです。これからこの曲をライブでやるときは、NEW ERAのキャップを被ってやろうかなと思ってます。いや、ライブではちょっとどうかな。リハまでですかね(笑)。

──形から入ることも大事ですよね。

荒井 でも真面目な話、チャドはすごいなと思いましたよ。なかなかあんなダイナミックには叩けないです。

──「New World」は片岡さんが書いた歌詞のメッセージ的にも、「終わらせて次へ行くんだ」ということを強い口調で歌っていますよね。もう最初の1行目から。

片岡 今は長い時間音楽を聴くことのハードルがどんどん上がっていると感じていて。下手したらワンフレーズでこの曲がいいものかどうか、もっと言うとワンフレーズでこのアルバムがいいものかどうかを判断されてしまうんだとしたら、最短距離でまず伝えたいことを言っておかなきゃいけないと思って。最初のブロックで今のモードを伝えることに注力して歌詞を書きました。

──出だしが「安定くだらねえ 停滞なら衰退です」ですから。単刀直入です。

片岡 今の自分たちはこういうモードだから、「New World=新しい世界」に行かせていただきます、と最初に言いたいことを言わせてもらいました。僕も隼ちゃんと同じ時期に、たまたま映画館でOasisのネブワースのライブ(映画「オアシス:ネブワース1996」)を観て、リンクしたんですよね。あんまりUKロックについて話す機会はなかったんですけど、たまたま隼ちゃんがその時期Blurにハマってて、僕はOasisの映画を観てて、めちゃめちゃ面白いなと思って、そのマインドみたいなものがあったんじゃないですかね。

──というと?

片岡 イギリスと日本はどこか似ていると思っていて。天候的に曇りが多いとか、寒い時期もある国だということもそうだし、ちょっと混沌としているというか。2020年から続く日本のSNSとかの空気感と、Oasisの映画で観た、90年代のイギリスの現状に不満を持っている若者たちが半ば暴動のようにライブ会場に集まって来る情景が似ているのかもしれないと思ったんですよね。憤っている感じとか、思うように物事を進められない感じとかが。今の日本でも、就職が難しいとか、内定していたのに取り消されたとか、受験もそうだし、たぶん思い描いていた将来設計が2020年で崩れ去ったと思うんですね。僕らもそうなんですけど、「このままで終わっていいのか?」という気持ちがあって。そこにポジティブなものを見出して、自分の中に落とし込んで歌詞を書けたというのは、先人たちが音楽を作ってきたマインドというものがけっこうヒントになった気がします。