いつもsumikaのそばにいてくれた人
──黒田さんが作曲した「春風」はエモーショナルで温かなサウンドが印象的です。どのようにしてできた曲なんですか?
黒田 「春を感じる曲にしよう」って作り始めたときに、お世話になってる人の顔が頭に浮かんだんですよ。JMS(ジャパンミュージックシステム)の栖原(聡)さんっていう方なんですけど。
──sumikaの作品の流通を担当している方ですね。
黒田 sumikaが初めて流通音源を出すときからずっと、休止しているときもそばにいてくれて。大変なときも「大丈夫だよ、なんとかなるよ!」って言って、いつも一緒に乗り越えて来てくれたんです。この曲を作るときに「栖原さんとこれからも一緒に仕事がしたいな」って思って、気付いたらこの曲ができていたって感じです。
──ご本人には伝えたんですか?
黒田 はい。愛の告白と一緒に(笑)。
片岡 デモが上がってきた段階でそれを聞いていたので、とりあえず歌詞を書くときに机の上に栖原さんの写真を置いて……(笑)。そういうお世話になっている大切な人に、まだ目に見える形で恩を返せていなかったとしても、いつの日か春風に乗って自分のがんばりが届きますように。その人の笑顔に変わりますようにって、そんな思いを歌詞にしました。
「Dress Farm」を“経験”として買ってくれた
──「春風」は5月に価格設定自由という方法で販売された最新シングル「Dress Farm #3」にも収録されています。これまで2回行われている「Dress Farm」企画ですが、ひさしぶりにやってみてどうでしたか?(参照:sumikaが本日“価格設定自由”のニューシングル発売、新木場COASTワンマン決定)
黒田 今まではライブ会場での手売りのみだったんですけど、今回はタワーレコードとオフィシャルサイトで販売して。タワレコの店員さんに提案する側に立っていただいて、その規模でみんなでやれたのが前回とは大きく違うところですね。
──企画が発表されたときのSNSでの反響はすごかったですね。
片岡 議論が起こったっすね、やっぱ。今の情報過多な時代の中で、情報を自分で受け止めて、クエスチョンを持つっていう機会を作るというのが、「Dress Farm」の一番の意図なんです。その結果正しく議論が起こっているのはすごくうれしかったし、思ったよりマイナスな意見も少なかった。ただやっぱり、99%いいことを言われても、1%の嫌なことが気になっちゃうのが日本人じゃないですか(笑)。それで「うわー」って思った部分もあったんですけど、「いや、それでもやってよかった」と思えたのは、メンバーやsumikaのスタッフだけじゃなく、タワレコチーム、流通会社の方々が協力してくれたおかげです。
──今作はまずタワーレコード10店舗で発売されたにも関わらず、全店を対象としたシングルチャートで1位を獲得しました。自ら店舗に足を運び、値段を付けて購入した人がそれだけいたということですよね。
小川 正直、「わ、そんなことが起こるのか」って驚きました。でも実際お店に行くと、ブースの前でたくさんの人がCDを手に取ってくれていて。「初めて価値を付けた」とか「こういう経験がなかったので、すごく大切に聴きたいと思います」とか、いろんな声をTwitterでいただきました。僕が「Dress Farm」に関与するのは今回が初めてだったんですけど、皆さん、自分の中の大きな経験として買ってくれてるんだなって。それは僕にとっても初めて見た景色だったし、すごく大きなものになりました。
──sumikaのお客さんには10代の方も多いと思うんですが、大勢の若者が自ら値段を付けて物を買ったという事実はすごいですね。
片岡 10代の方に「Dress Farm」がちゃんと届いたっていうのは、これからの僕らの活動の自信にもなりますね。手に取ってくれた人はきっと、これから人生を歩んでいく中で、出会う物や人に対する価値観も考えるようになると思うので。若い方もそうだし、大人の方からも「こんな買い方、今まで生きてきてしたことないよ」っていう感想をいただいて、そこから先の人生もまた変わっていくだろうなってポジティブな想像ができたので、すごくうれしかったです。
黒田 そして「Dress Farm」を流通するにあたって、タワレコチームとつないでくれたのはもちろん栖原さんです。すごくやりがいの感じられる1枚になりました。
休養中の片岡さんに、何か起きちゃったのかな……
──そして問題の「KOKYU」です。
小川 問題作ですね。
──これはファンクなサウンドに乗せて、その名の通り「呼吸」の大切さを歌っている曲ですよね?
片岡 そうです。呼吸って大事だよっていう。僕、休養しているときにヨガにハマりまして。休養中は体調を整えるために、身近なものを1個ずつ正して行こうっていう時期だったので、食事と睡眠を見直したのちに、ヨガに行って呼吸法を変えたら、すごいひらけてくるものがあったんです。それで、呼吸と同じで精神面でもインプットした分はなんでもいいから一度アウトプットしないと、結局新しいものを作れないなあって、休養中に学びを得て「これはいいこと知ったぞ! みんなに教えてあげないといけないな!」と。そういう気持ちにかられて、“呼吸の神”が私に宿って……。
小川 KOKYU神ですね、KOKYU神。
片岡 その神が私に曲を書かせたら、リズムが跳ねてたっていう。文章にすると怪しくなりますが、“歌うだけで健康になる曲”です(笑)。
小川 片岡さんからデモが上がってきたのは、復帰直前の頃で。だいぶ曲も作れるし、元気になってるっていうのは聞いてて、上がってくる音源をすーっごい楽しみにしてたんです。そしたらこれだったんで……何か起きちゃったのかなって。
一同 あはははは(笑)。
黒田 「KOKYU」と同時期ぐらいに「まいった」(昨年12月発売のCD「SALLY e.p」と本作に収録されているバラード)のデモも聴いてるんで(笑)。
──「KOKYU」にはベースで山口寛雄さん、バイオリンでBIGMAMAの東出真緒さん、パーカッションで桑迫陽一さんが参加されていますが、3名がこの楽曲の楽しさをさらに引き上げていますよね。
荒井 曲の最後のセッションはフェードアウトで終わってるんですけど、レコーディングだと寛雄さんのうねうねしたベースがどんどんどんどん行って、東出さんもバイオリンでソロが入り、桑迫さんのパーカッションも自由にボンボンボンボン行っていただき……。
片岡 で、メンバーはおとなしく(笑)。ゲストメンバー!
荒井 ドカーン!! みんなすげーぞー!って(笑)。
片岡 楽しかったですねえ。ホントはアウトロ4倍ぐらいありますからね。
黒田 ぜーんぶ聴かせたいぐらいです!
曲と歌詞の煮え切らなさ
──そしてもう1つ、問題作として挙がっていた「Someday」です。
黒田 出た、突然のイメージチェンジ(笑)。
片岡 ここが一番情緒が乱れる(笑)。
──確かにこれまでにはない、スローなジャズナンバーですね。作曲は黒田さんですが、もともとこういう曲をやりたいと思っていた?
黒田 やりたいなっていう気持ちはもちろんあって、練習したり、デモを作ったりしてました。でもなかなかちゃんと音源にできる機会がなかったので、「今回チャンスだ! やった!」って。
荒井 けっこう早い段階で曲はあったよね?
黒田 はい。僕がアルバイトをしてるときに作った曲です。
小川 働かずに?
黒田 休憩中です!(笑) おかしな話ですけど、バイト先にギターを持って行ってずっと練習してたんです。そのときに、こういうのができたらカッコいいなあと思って。その頃デモを作ってみんなに聴いてもらったら、「いい雰囲気だねえ」で終わるっていう……でしょうねって感じでしたけど。
一同 あははは(笑)。
──尺は2分44秒で、今作の中では短めですよね。
黒田 男女の煮え切らない関係が描かれた歌詞なので、曲も煮え切らない感じで終わろうって。いろいろ試行錯誤した結果、この長さが一番煮え切らないんじゃないかなって。
──その歌詞の煮え切らなさには、片岡さんの経験も反映されているんですか?
片岡 完全に反映されているわけじゃないですけど、報われない恋みたいなものもやっぱりあるんで、そういうものを思い出したり、人とお酒を飲んでるときに聞いた話を増幅させたり。この曲は歌詞を書くというよりかは、ショートショートの脚本を書くような形で物語を描こうって。ちょっと「Answer」にも通ずるものがあると思うんですけど、短い尺の中でちゃんと物語を起承転結させるっていうのをやってみたかったんです。
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ようやく出せた「Familia」
- sumika「Familia」
- 2017年7月12日発売 / [NOiD] / murffin discs
-
初回限定盤 [CD+DVD]
4860円 / NOID-0019 -
通常盤 [CD]
3024円 / NOID-0020
- CD収録曲
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- Answer
- 春風
- Lovers
- KOKYU
- Someday
- アネモネ
- ここから見える景色
- ピカソからの宅急便(Instrumental)
- MAGIC
- アイデンティティ
- Summer Vacation
- まいった
- 「伝言歌」
- Door
- 初回限定盤DVD収録内容
-
sumika「SALLY e.p」Release Tour Final@Zepp DiverCity TOKYO
- Lovers
- ソーダ
- カルチャーショッカー
- MAGIC
- 1.2.3..4.5.6
- sara
- まいった
- 知らない誰か
- リグレット
- リフレイン
- グライダースライダー
- チェスターコパーポット
- マイリッチサマーブルース
- ふっかつのじゅもん
- オレンジ
- 雨天決行
- 「伝言歌」
ツアー情報
- sumika 1st FULL ALBUM「Familia」Release Tour
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- 2017年9月18日(月・祝)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
- 2017年9月22日(金)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
- 2017年9月24日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年9月30日(土)新潟県 新潟LOTS
- 2017年10月1日(日)石川県 Kanazawa AZ
- 2017年10月6日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年10月8日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年10月9日(月・祝)熊本県 熊本B.9 V1
- 2017年10月13日(金)京都府 磔磔
- 2017年10月15日(日)香川県 高松オリーブホール
- sumika 1st FULL ALBUM「Familia」Release Tour -ファイナルシリーズ-
- 2017年10月26日(木)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2017年11月5日(日)大阪府 フェスティバルホール
- 2017年11月24日(金)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- sumika(スミカ)
- 片岡健太(Vo, G)、荒井智之(Dr, Cho)、黒田隼之介(G, Cho)により2013年5月に結成されたバンドで、sumika[camp session]名義のアコースティック編成でも活動している。同年10月に1stミニアルバム「新世界オリハルコン」をリリース。2014年11月にはmurffin discs内レーベル・[NOiD]の第2弾アーティストとして2ndミニアルバム「I co Y」を発売する。2015年2月にサポートメンバーの小川貴之(Key, Cho)がバンドに正式加入し、6月に3rdミニアルバム「Vital Apartment.」をリリースした。8月には片岡の体調不良によりライブ活動を休止。その後11月に東京・shibuya eggmanで行ったワンマンライブをもって活動を再開させる。2016年3月には活動再開後初の作品として両A面シングル「Lovers / 『伝言歌』」を、5月には4thミニアルバム「アンサーパレード」を、12月には4曲入りCD「SALLY e.p」をリリース。2017年7月には1stフルアルバム「Familia」を発売した。