着飾ることなく、日記を書くように自然に
──1stアルバム「You don't know yet how to taste seasonal change.」のプリプロ段階の音源を聴かせていただいたんですけど、全体を通して、「音楽が日常的にある人たちが作った曲だな」と感じたんです。あと、音楽をポップスという範疇だけで捉えていない、もっと音や響きを大きな枠組みで捉えている人たちが作る音楽だなと感じて。アルバムの全体像に関してはどのようなことを考えられていましたか?
yutori 「いい音楽ってなんなんだろう?」ということを考えたときに、例えば、高い演奏技術があればいいのか、多くの人に共感される歌詞を書けばいいのか、たくさん聴かれればいいのか、とか……いろいろあると思うんですけど。影響力のある誰かが「いい曲だ」と言ってしまえば名曲になってしまうような今の音楽シーンがちょっと怖いっていうか、自分で選んで音楽を聴いてなかったりする人が多いのかな?と感じます。このアルバムに関してはそういう観点で「いい曲を作ろう」とは思っていなくて。「いいBGMを作ろう」という感じだったんですよね。聴いた人の生活にスッと入っていけるようなアルバムを作りたかった。日常的な音楽を作りたかったというか。着飾ったりするんじゃなくて、自然体でありたいと思ったんです。一時期、僕が「削ぎ落とす」というワードにハマっていた時期があって。歌詞も曲もそうなんですけど、削ぎ落として洗練させるのって難しいんですよ。それって「シンプル」とはまた別のところにあるもので。シンプルは“できなかった”ことの結果だと思うんですけど、削ぎ落とすことは引き算がちゃんとできないといけない。
──なぜ、削ぎ落すという方向に向かったんだと思いますか?
yutori 飽きてきたからだと思います。周りを見ても、高度で、足し算によって作られた音楽が多いような気がしていて。それは、前に僕らがやっていたこともそうだし。僕は絵も好きなんですけど、絵画の世界で印象派が生まれたときの流れに今の音楽の状況は似ているなと思ったんです。印象派以前って、階級の高い人間がどれだけ精密な画を描くかという世界だったと思うんですけど、印象派が出てきた頃に、チューブ入り絵の具が開発されたりして、一般の人も絵を描けるようになった。そこで、自然の風景や自分が感じたことを描く人たちが増えていって、時代がひっくり返った。今って、音楽でもそういうタイミングなのかなって思うんですよね。だって、レコーディングやリリースだって、どんどん自分でできるようになっているわけだから。もっともっと、自由になったらいいなと個人的には思うんです。この先、音楽をやることやリリースすることへのハードルがどんどんと下がってほしいなと思う。誰かの鼻歌がチャートに入っていてもいいわけだし。
──わかります。
yutori それなら僕らも、音楽の印象派じゃないですけど、あるがままの思いを曲にぶつけたいなと思ったんです。着飾ってハードルを上げた音楽というよりは、本質より実存が先にくるような、そのとき思ったことを日記のようにできるだけ自然に、日常的に残すように、音楽を作りたいなと。
──「日記のよう」というのは、アルバムを聴くとすごくしっくりきますね。
yutori そうは言っても、僕が書く歌詞は実体験でもないんですけどね。「フィクションにしよう」という意識は常にあって。ただ、フィクションといっても仮想現実とかSF的なものではなく、現実味を帯びているフィクションというか。非日常なものにはあまりしたくないんです。あくまでも日常的なフィクション。だから、本当にあった話かどうかわからないくらいのバランスが、僕にとってちょうどいいんです。
──そうした言葉を音楽に乗せていくときに、聴き手に対してはどのような思いがありますか?
yutori 意味があるようでないことを言うのが僕は好きかもしれないです。意味がないことに意味がある、というか。これは僕が歌詞を書くときに意識することなんですけど、伝達と放出は違うと思うんです。伝達は「こういう意図があってこういう曲を書いたので、共感してくれ」みたいなことだけど、放出はパッと出してあとは受け手の感性に委ねる。今回のアルバムの曲たちは放出のほうが大きかったと思います。そういう曲のほうが、狙ってできない分、実は書くのが難しいんですけど、聴いた人が深い部分で共有してくれることが多い気がします。もちろん、迂闊に聴いた人の傷口をえぐってしまう可能性もあるし、その分いろいろ考えるんですけど。
──今、yutoriさんがおっしゃってくださったアルバムの方向性に関して、皆さんはどのように向き合われていましたか?
Atsuki 自分が感じていることともリンクしていましたね。自分も音楽で表したいのは日常的なものだと思うし。普段、家の風呂場やベッド、ソファで音楽を聴いているし、そういうところから音楽を作っているから、ミーティングとかで共有しなくてもリンクできていた部分だと思う。
Taku 僕もそうですね。新しいバンドを組むなら、やったことのないことに挑戦してみたかったというのはあって。今までエネルギーを必要とするような音楽を作ってきたので、この機会に「何も考えてないときにも聴けるような自然体の曲がいいよな」という思いはありました。
Kai. 歌う面でも、「自分と離れすぎていたくない」というのは思いますね。僕の手の届く範囲の歌を歌いたい。それは自分が書く詞もそうですし。
──「You don't know yet how to taste seasonal change.」というアルバムのタイトルはどのような経緯で付けられたんですか?
yutori 日本語訳は「季節の変わり目の味わい方を君はまだ知らない」で。これもやっぱり、「日常的な音楽でありたい」という感覚から出てきているタイトルだと思います。季節の変わり目って、気圧で頭が痛くなったり、体調が悪くなったり、気分が落ち込んだりするじゃないですか。あと、変質者が出てきたり。でも、そういう情緒が不安定になりやすい時期のほうが感受性は敏感になっていて、人間の記憶には残るらしいんです。だとしたら、季節の変わり目ってマイナスなイメージがありがちだけど、その時期に感じたことや、そこにある味わいを音楽にできたらなと思ったんです。
期待、不安、無関心……初ライブに向けたさまざまな思い
──6月17日にSpotify O-WESTでSUGAR IN THE CLOSETでの初ライブが予定されていますが、ライブに対してはどのような意気込みがありますか?
yutori ライブはまったく気難しく考えてなくて、「やりてー」という感じです(笑)。時代的になかなか動けない状況が続いていたので、楽しみですね。ここで手応えをつかんで、今後どう進んでいこうか考えたいです。
Taku もう2年、人前で演奏していないので、どうなるか全然わかんないです(笑)。家でだけ聴いていた音楽を誰かの前で演奏するって改めてどういう感じなんだろうって。それをして自分がどういう感情になるのかを楽しみたいです。
Kai. さっきyutoriが「放出」と言いましたけど、自分にとっても音楽はそういうものだし、ライブは特にそういう部分が色濃く出るものなんですよね。そのとき思ったこと、そのとき歌いたい歌い方が自然と出ていく場で。ただ、今回のライブはこのバンドで初のライブだし、自分以外の3人はずっと一緒にやっていた分、そこに自分が入っていく期待だけでなく正直不安もあって。本当にいろんな感情がごちゃまぜになっていますね。当日、ステージに立って曲が始まるまで、自分がどうなるか想像がつかないんですけど、逆に楽しみです。自分が知らない自分がそこにいてくれたらいいなと思います。
──最後に、Atsukiさんはどうですか?
Atsuki ライブですか……。正直、最近ライブにはあんまり興味ないんです。普段バーで演奏したりしているのでライブと境目もそんなにないですし。でも、ライブって深いですよね。ライブってスマホの拡大機能みたいで。自分たちの音楽をステージに広げて、観てもらう。わしにとっても、アルバムを拡大して深く感じるような作業になるんだろうと思います。
ライブ情報
SUGAR IN THE CLOSET 2022 1st LIVE "You don't know yet how to taste seasonal change."
- 2022年6月17日(金)東京都 Spotify O-WEST
プロフィール
SUGAR IN THE CLOSET(シュガーインザクローゼット)
Kai.(Vo)、yutori(G)、Taku(B)、Atsuki(Dr)からなる4人組バンド。2020年2月に解散したペンタゴンのメンバーだったyutori、Taku、AtsukiがボーカリストとしてKai.を迎え、2021年6月に結成した。2022年6月に1stアルバム「You don't know yet how to taste seasonal change.」をリリースし、東京・Spotify O-WESTで初のワンマンライブを開催する。
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