SUGAR IN THE CLOSETが語る1stアルバムや初ライブへの思い、作家やボーカリストとしての強み

SUGAR IN THE CLOSETが1stアルバム「You don't know yet how to taste seasonal change.」を6月10日に配信し、17日にCDリリースする。

SUGAR IN THE CLOSETは2020年2月に解散したペンタゴンのメンバーだったyutori(G)、Taku(B)、Atsuki(Dr)がKai.(Vo)を迎えて結成した4人組バンド。1stアルバムには「季節の変わり目を美しい瞬間と捉え、日常に溶け込む音に耳を傾けよう」というメンバーの思いが込められている。

音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューを行い、1stアルバムの制作エピソードはもちろん、SUGAR IN THE CLOSETの成り立ちや、ソングライターであるyutori、Taku、Atsuki、ボーカリストであるKai.のそれぞれの魅力について聞いた。さらに最後には6月17日に東京・Spotify O-WESTで行う初ライブへの率直な思いを語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬

音楽は習慣、ずっと身近にあった

──SUGAR IN THE CLOSETが活動を開始するというニュースが出たときに、yutoriさん、Takuさん、Atsukiさんというもともとペンタゴンにいた3人が始めたバンドであるという点に驚いた人も多いのではないかと思います(参照:元ペンタゴンメンバーによる新バンドSUGAR IN THE CLOSETが1stアルバムリリース)。そもそも、SUGAR IN THE CLOSETはどのような経緯で始まったのでしょうか?

Taku(B) 前のバンドが終わってからちょっと時間が経った頃に「また音楽やりたいね」という話が出て、この3人(yutori、Taku、Atsuki)が集まったんです。ただ、それからコロナもあり、「どうやってバンドを始めればいいんだろう?」と悩んでいた時期があって。その間にKai.と知り合ったんですよね。

yutori(G) ずっと曲は書いていたんですよ。バンドが始まるとか終わるとか関係なく書き続けていて、自分が歌ったり、ほかの人に歌ってもらったデモもあった。そういう状況でTakuから「友達にこういうボーカリストがいるから、自分たちの曲で歌ってみてもらおうよ」と電話があって。新鮮だし、楽しそうだなと思って1曲歌ってもらったときに「あ、この人の声いいな」と思ったんですよね。

Kai.(Vo) 僕はまったく別の用事でTakuの家に行ったんですけど、急に「この曲を歌ってみてほしい」と言われて(笑)。アルバムにも入っている「slowly」という曲のサビの一節を歌いました。ただ、僕はそれまでシャウトとかがあるような、メタルの要素が入った音楽をずっとやっていて。

Taku 漠然とKai.のイメージって「デスボイスの人」だったので、メロディを歌っている印象がなくて。でも、いざ歌ってもらったら「こんな声してたんだ!」と衝撃だったんです。行列ができる前の飲食店を見つけた感覚でしたね(笑)。「あと半年もすれば行列ができてしまうから、引き留めておかないと」って。それで、この4人がそろいました。

SUGAR IN THE CLOSET

SUGAR IN THE CLOSET

──ペンタゴン解散以降もyutoriさんは曲を作り続けていたということですけど、曲作りは日常的な行為としてあるということですよね。

yutori うん、習慣という感じですね。僕にとって音楽は辞める、始めるとかではなくて。家にいたら楽器に触るし、今回もかしこまって「始動します!」という感じではないんです。前のバンドが解散してから今までの期間って、僕にとっては単純に「人に聴いてもらうのを止めていた」という感覚です。僕とAtsukiは一緒に仕事をしていたので毎日会っていた時期にも音楽は身近にあったし、TakuとAtsukiも曲を書いていたし、自分たちだけで消化していく曲が溜まっていったときに、「ひさしぶりに誰かに自分たちの曲を聴いてもらって、どう思われるのかを確かめてみたい」と思いました。

──曲を世に出すときはやっぱりバンドがいいですか?

yutori そうですね。今思い描いているイメージに一番近いです。

Taku yutoriとAtsukiが一緒に仕事をしていたとき、僕は僕で楽曲提供の仕事をしていて。ただ、バンドをやっていた頃は自分で作った曲を自分で演奏するのが当たり前だったのに、その機会がまったくなくなってしまって。自分の曲だけど作ったあとに手元を離れていってしまう感覚が強かったんですよね。そういうこともあって、「またバンドがやりたいな」と思っていました。

──Atsukiさんは、ペンタゴンの解散からSUGAR IN THE CLOSETが始動するまでの期間、どのような気持ちでいましたか?

Atsuki(Dr) わしも曲はいつでも書いているし、yutoriと同じように「やる、やらない」を公言していないだけという感覚です。前のバンドの最後のツアーの頃から、個人的にアルバムを作りたいなとも思っていたんです。サーファーじゃないですけど波が来るまで待って、タイミングが来たなと思えばそれに乗る感じです。

歌声の魅力は独特な“揺らぎ”

──改めて3人から見てKai.さんの歌声にはどういう魅力がありますか?

Taku 最初、Kai.くんの声のことは「宝物」って呼んでいましたね(笑)。

yutori 呼んでたなあ(笑)。Kai.は話し声にも独特の“揺らぎ”があるんですよね。自分では気付いていないかもしれないけど、ヘルツとかでも表現できないような揺らぎがあるんじゃないかって、出会った当初は特に感じていました。「この声は自分たちがやりたいことの間口を広げてくれるんじゃないか」と思いましたね。

yutori(G)

yutori(G)

Taku 僕は3人(yutori、Taku、Atsuki)が同じバンドで活動していたこともあったので、またバンドを組むにあたって特別に意識はしてなかったけど新しい化学変化みたいなものを求めていて、そんなときにKai.の声を聴いて「この声なら次のステップに行ける」と感じました。

──Atsukiさんはどうですか?

Atsuki 一時期、旅に出ていて。

一同 (笑)。

──旅というのは……?

Atsuki それは言えないですが、その旅をしているときに「いいボーカルを見つけた」ってTakuとyutoriから連絡が来たんです。でも、さっきも言ったように伸るか反るかで生きているので、2人がやりたいならそれでよかった。東京に戻ってきてから初めて実際にKai.の声を聴いたんですけど、曲の幅が広がるなと思いましたね。歌い方が英語っぽいアクセントだったので英詞の曲もすでに書き溜めていたし、ちょうどいいかなと。

──そういう歌い方って、Kai.さんご自身は意識されていることはありますか?

Kai. 事務所の社長には「舌が長い」と言われたんですけど(笑)、自分で意識していることとしては、日本語で発音するときに「ら行」や「た行」に癖を付けるようにしてます。自分が好きな歌手の方を見ていて、自然とそうなっていきました。やっぱり、自分が素敵だなと思う歌い方をしたいので。

Kai.(Vo)

Kai.(Vo)

yutori ……でもさ、Atsukiは変わってるよね。普通、自分がいない間にボーカル決まったら「ちょっと待ってよ!」ってなるじゃん。でも、すんなりと受け入れてくれて。

Kai. そういう話は、一緒にやることが決まった最初の頃にAtsukiとも話したよね。Atsukiは「2人が一緒にやりたいと言ったボーカルだから、その時点で自分も認めている」と言ってくれて。僕自身、最初は不安もあったんですよ。Takuとyutoriとはけっこうなスパンで会っていたけど、Atsukiは旅に出ていたから(笑)、全然コミュニケーションを取っていなくて。「ちゃんと通じ合えるかな?」と心配だったんですけど、会った初日にその不安はなくなりました。初めて4人で集まった日に、「このメンバーでよかったな」と思いました。

自然体な音楽が好き

──3人がもともと同じバンドにいたところに入っていくのもハードルが高いと思うんですけど、Kai.さんもTRNTY D:CODEというバンドで活動されていたわけで、SUGAR IN THE CLOSETを始めることに対してどのような決断がありましたか?

Kai. SUGAR IN THE CLOSETに誘ってもらった時点で、僕はまだ別のバンドをやっていて。当時は自分のやっている音楽と好きな音楽にギャップを感じていた時期だったんですよね。僕自身、激しい音楽をやること自体は楽しんでいたけど、リスナーとしては、激しい音楽を普段はまったくと言っていいほど聴かなくて。それよりはポップスだったりR&Bだったり、静かに聴けるような音楽を好んで聴いていたんです。自分はそういう耳馴染みのいい音楽が好きだし、歌いたいという気持ちがずっとあって。SUGAR IN THE CLOSETはそれをさせてくれる場所であるというのが大きかったです。

──なるほど。

Kai. 今までバンドを組むときって、常にその人の経歴が絡んでいるような感覚があったんです。「前にこういうバンドをやっていて、知名度があるから一緒にやりたい」とか……人間だし、売れるためにはそういう考え方があるのも必要だというのはわかるんですけど。でも、このバンドに誘われたときはそういう感じが一切なくて。むしろ、本当に自分の声や歌を「いい」と思って声をかけてくれた。それがうれしかったです。「歌っていてよかったな」と思いましたし、「やるしかないな」って。