菅田将暉が11月9日に新作「クワイエットジャーニー - EP」をリリースした。
10月から12月にかけて開催中のツアーのタイトルを冠した本作には、菅田自身と、彼の音楽活動を初期から支えているライブバンドメンバー“KNEEKIDS”が制作した新曲4曲を収録。気心の知れたメンバーたちとリラックスしたムードの中で生み出された楽曲群は、どの曲も菅田のナチュラルなクリエイティビティが感じられる仕上がりになっている。
音楽ナタリーではKNEEKIDSのメンバーである川口圭太(G)、sooogood!(G / シミズコウヘイ)、越智俊介(B)、タイヘイ(Dr)、モチヅキヤスノリ(Key)、そして菅田の6人にインタビュー。バンドの関係性やEPの制作エピソード、そしてツアーへの意気込みまで語り合ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / 笹原清明
対等な関係で活動できている菅田将暉とKNEEKIDS
──菅田さんとライブバンドメンバー“KNEEKIDS”の付き合いももうだいぶ経ちますよね。
菅田将暉 そうですね。もう5年くらい経つのかな。……みんなで取材を受けるのは初めてだから、なんか変な感じだな(笑)。僕らって、取材されるようなことをしてるかと言われたら、たぶんしてないんですよ。そういう感じが僕は好きなんですけど。
──俳優業も含め、いろいろな分野で活動されている菅田さんにとって、KNEEKIDSと音楽を鳴らす時間はどんなものになっているのでしょうか?
菅田 なんだろうなあ。何事に対しても人様に見せる以上はちゃんとクオリティを保たなきゃいけないんけど、音楽に関してはそれだけが先行するのは違うなと思っている部分があって。要は楽しさが僕にとっての音楽の原点だし、それを埋めてくれているのがKNEEKIDSなんだと思う。それはきっとメンバーとの出会い方も大きかったんじゃないかな。動物って最初に見たものを親と思っちゃうみたいなのがあるじゃないですか。KNEEKIDSに関しては、ホントにそういう感じで。たまたま最初に出会って、友達として仲よくなれたのがけっこう大きいんですよね。「何者」という映画の中で僕がギターを持って歌うシーンがあって、そのときにカラスは真っ白(sooogood!、越智俊介、タイヘイが在籍していたファンクポップバンド)だった3人がバンドメンバーとして演奏しているという出会い方だったんです。で、その後に圭太くん(川口圭太)とやっくん(モチヅキヤスノリ)とも出会って。
──今年3月に行われたオンラインライブ「菅田将暉 LIVE STREAMING VOL.2」のMCでは「本番感がない」とおっしゃっていましたけど、菅田さんとKNEEKIDSの間にはそれくらいリラックスした心地よいムードが漂っていますよね。
菅田 そうですね。
sooogood!(G) 将暉が言った、根底にあるフレンドシップみたいなものは、ライブをはじめとするいろいろなクリエイティブな面に影響していると思うんですよ。この関係性があるからこそ生まれるものがあるというか。そういう意味では、ただ菅田将暉のサポートをしているということではなく、対等な関係で音楽をやれていることが如実に感じられる。だから自分としてもすごく好きな現場ではありますね。
──ライブでバンマスを務める川口さんはKNEEKIDSをどうご覧になっていますか?
川口圭太(G) いやあ、完全にアマチュアバンドじゃないですかね(笑)。
菅田 確かにね(笑)。インディーズ感ハンパない。
川口 ほかの現場だと、例えば「ライブやります」ってなったときに最短ルートで進んでいくわけですよ。でもKNEEKIDSはいちいち寄り道するっていう(笑)。でも僕はそれがいいところだと思うし、将暉自身もそれを楽しんでますからね。いい形なんだと思いますよ。そういう寄り道って、バンドを始めたばかりの頃、街のスタジオにみんなで集まったことを懐かしく思い出せる感じもあるし。
越智俊介(B) 高校の頃に軽音楽部で味わった空気感がKNEEKIDSにはずっとあるのがすごいよね。ほかの現場ではそういう感覚ってほぼないから。もちろんそれが悪いことでもないんだけど。
菅田 僕はいまだに大きい音が鳴るだけで楽しいからね。それは普段、音楽以外のことをやってるからこそなんでしょうけど。
モチヅキヤスノリ(Key) でも、音楽じゃないところで出会った人と音楽をやるのって、どこかいびつな感じもするかな。バロック真珠みたいないびつさというか。それもまた面白さであり、私としては新鮮なところなんだけど。
菅田 まあそうだね。普通だったらありえない関係性かもね。確かにいびつではあると思う(笑)。
タイヘイ(Dr) でもやっぱり将暉と一緒に音楽をやるのはめちゃくちゃ楽しいですよ。このメンバーで音を出すのが楽しくてしょうがないというか。
自分が楽しむことが一番重要
──今回リリースされた「クワイエットジャーニー - EP」は、菅田さん含めKNEEKIDSだけで作られた4曲が収録されています。これまで曲単位ではありましたけど、CD1枚を丸々このメンツで制作するのは初めてですよね。
菅田 そうですね。さっきやっくんが言った「いびつさ」で言うと、そもそも菅田将暉が音楽をやること自体がいびつなんですよ。で、それを続けていくとなったときに、そのいびつな状態で活動をどう成立させるかっていうと、やっぱり自分が楽しむことが一番重要になってくる。この曲を歌いたいな、この曲をみんなに聴いてほしいなと純粋に思わないと、ライブでもいいものを届けられない。そう考えると、このタイミングで、KNEEKIDSとして1枚作らなきゃと思ったのはすごく自然な発想だったんですよね。
──これまでの楽曲も菅田将暉として全力で取り組み、すべてが大切な曲だということを前提として、ですよね。
菅田 もちろんです。今までのライブも心から楽しかったです。でも、KNEEKIDSと一緒に作ったEPを持って回るツアーの楽しさは、きっとまた違うものになるだろうなという思いがあったんですよね。なので今回は、自分たちのアイデンティティを作品として届けるべきだと。そう思ったのがEPを作る発端になって。そんな僕の思いを面白がってくれるメンバーたちで本当によかった。
──今年3月に出たアルバム「COLLAGE」にまつわるインタビューを拝見したんですけど、あのアルバムは思いを届けることにフォーカスした作品だったと。だから次の作品は日常の中に溶け込むような曲を作りたいとおっしゃっていましたよね(参照:菅田将暉×Creepy Nuts|ANNで仲深めた2組が初対談、“COLLAGE”された菅田将暉の歌声の魅力とは)。その思いが、気心の知れたKNEEKIDSとのリラックスした制作につながったのかなと予想したところもあったのですが。
菅田 いや、ホントその通りです。あのアルバムの曲は特にですけど、これまでの菅田将暉の音楽は情感豊かな曲ばかりなので、ライブをやると少ししんどい瞬間もあったんです。2時間のライブの中でずっと誰かが泣いてたり、誰かが傷付いてたり、ときには人が死んでたりする。僕としては登場人物が違う映画の主人公を1曲ごとに演じるみたいな気持ちなんだけど、「これはお客さんもしんどくないか?」という疑問もあって。人生って、毎日が奇天烈なわけじゃない。感情が激しく揺れ動く日ももちろんあるし、そういう日に寄り添う曲で救われることもある。自分自身、気持ちの揺れ動く日もあるから、基本的にそういう曲を歌うのは好きなんだけど、でもそれだけだと逆に「嘘っぽくないか?」と、この5年の活動の中で思ったんですよね。だったら、僕にとっての日常を歌う曲をまず作らなくちゃなっていう。その思いがこのEPにつながっていったところは確実にあったと思います。
sooogood! このメンバーで曲を作りたいねってずっと話はしてたんだけどね。なかなかその機会を設けることが難しかったというか。
菅田 うん。僕が忙しすぎたんだよね。
sooogood! 今回に関して言えば、盤になる大切さもあるとは思うけど、それよりは俺らの日常の延長線上として音楽を作っていくことがすごく大事だった。「よっしゃ、やるぞ!」って気合いを入れるというよりも、本当にリラックスして制作に向かえたのもよかったと思います。
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「ゆだねたギター」でいい味を出す越智家の扇風機