「クワイエットジャーニー」は菅田将暉が求めていた曲

──そしてもう1曲。EPのタイトル曲となる「クワイエットジャーニー」に関してはどう作っていったんでしょうか？

菅田　「ゆだねるギター」「愛と右脳」「八月のエイリアン」がなんとなく形になってきたところで、表題になる曲が欲しいと思ったので、しみちゃんと2人でざっくり形にして、その後で圭太くんとタイヘイに投げた感じです。

sooogood!　静かな感じで、淡々とやれる曲を作りたかったんですよ。僕は将暉の普段しゃべってるときのちょっと低い声が好きなので、将暉が歩きながら話してるみたいな曲が作れたらいいなって。

菅田　こういう曲が僕も欲しかったんだよ。例えば映画ってさ、映画館に入ってシートに座っても、まだ館内が明るいじゃん。そこから予告編とかを見ながら徐々に暗くなっていって、映画会社のオープニング映像のあと、いよいよ本編が始まるっていう。そういう道のりがいいなって思うわけ。でもライブってわりとドーンといきなり始まる感覚があるでしょ？ だからライブへなだらかに入っていけるような、こういう曲があったらいいなって。そのへんをあんまり伝えずとも理解してくれたのがうれしかったな。

sooogood!　いいように言ってくれてありがたいっすね（笑）。で、この曲はアレンジが最高なんですよ。

──タイトル通り静かに幕を開ける曲ですけど、後半には音の洪水によって歌声がかき消されていく展開が待っているのが面白いですよね。

菅田　よかった。あれはホント面白いですよね。

モチヅキ　あんなフレーズなかなか弾くことないよ（笑）。あの展開はものすごく川口っぽい。

菅田　僕も思った。圭太くんの変態性が出たよね。

川口　あははは（笑）。僕の中では目的のない旅に出ている人たちのイメージがあって。ちょっとSFっぽいというか、地球がもうダメになっちゃうから脱出したんだけど行く当てナシ、みたいな。

菅田　へえ、そうだったんだ。

川口　で、いろんな声を乗せていくことで、悲しいのか希望があるのかわからないみたいなことを表現したいなと思ったら、あんな洪水みたいなことになっちゃったっていう（笑）。実はうちの子供の声が入ってたりもするんだけど、それもどこか悲しくて寂しい雰囲気を出したかったからなんだよね。

菅田　わかるわかる。本人にそんなつもりはないけど、切なく聞こえるっていうね。あの展開はめっちゃよかったな。

越智　俺が演奏を入れた段階ではまだ今ほど洪水みたいな感じにはなってなかったんだけど、なんとなく「なんだここ？」っていう感覚はあって。それを深読みするべきなのか、しないべきなのかでちょっと迷ったところはあった。

モチヅキ　結局、深読みしたの？

越智　ちょっとした（笑）。なんとなく今の形にたどり着くような片鱗はあったから。

菅田　僕がこの曲で表現したかったことが映画の「NOPE／ノープ」と近くて。何かあるんじゃないかって思わせといて、別に何もないっていうナンセンスジョークというか。そういうのってなんか面白いじゃん。気になったら映画を観てほしいけどね。

越智　なるほどね。じゃ俺が聴いたのは、そういう状態のときだったんだ。

sooogood!　先に説明しとけよって話ですけどね（笑）。

菅田　そこは単純に僕らの人間性の問題だよね。マメじゃないっていう（笑）。まあでもそれによって生まれる面白さもあると思うので。

今までの菅田将暉は派手だった

──EPのタイトルであり、同時にツアータイトルにもなっている“クワイエットジャーニー”という言葉にはどんな思いがあったんですか？

菅田　今までの菅田将暉は、音楽以外のことも考えると、やっぱり派手だったなと思うんですよ。でも、その裏には台本を読んだり、会議したり、めちゃくちゃ地味な誰も知らない時間があるわけで。そういう時間がないと作品は生まれないという思いが根底にあったうえで、人生は旅だし、ツアーも旅だしって考えた中で行き着いた言葉ではありますね。

──なるほど。

菅田　で、どう行き着いたかというと、今年の5月くらいに撮影のロケ地の壁に佐藤一斎の名言カレンダーが貼ってあり、「忙中閑あり」という言葉とともに閑古鳥の絵が描いてあって……それを見ていたら“クワイエットジャーニー”という言葉が浮かんできたんです。英語にして縮めると“QJ”になるし、カッコいいかなと思い。

──でもここ数年のコロナ禍の状況を考えると、そこにはいろんな意味が含まれているようにも感じられますよね。

菅田　そうですね。面白いもので、あとからいろんな意味が乗っかってくるものなんですよ。今年、僕は俳優業をちょっと休んでたりするので、そういう意味での“静かな”みたいな意味も含まれてくるだろうし。

──お話を聞いていて、ツアーが俄然楽しみになってきました。

越智　僕らもとにかく楽しみです！

sooogood!　越智家の扇風機の音を生で聴いてもらうのもありだよね（笑）。

菅田　持ってツアー回る？ 実機じゃなくサンプラー使えよって話だけどね（笑）。

sooogood!　でも扇風機にピンスポ当たってたら面白いよね。

越智　俺じゃなくて？（笑）

モチヅキ　その光景はちょっとかわいいね。で、ツアーの意気込みで言うと、これまでの将暉の曲とは明らかに毛色の違う曲たちが今回加わったわけなので、それがどう混ざり合い、どんなふうに聴いてもらえるのかが興味深いところですよね。リハの段階ですごくいい手応えがあるので、とにかく楽しみ！

sooogood!　僕は全公演、泣かないのが目標ですね。前回、前々回のツアーでは、確実に1日は号泣してるんで。

モチヅキ　それはなにゆえ？

sooogood!　何かしらの失敗をしちゃって、「ごめーん」みたいな。今回はうれし泣きができるくらい、いいツアーになるようにがんばります。

菅田　いい話だわあ。

タイヘイ　シミズ（sooogood!）さんはKNEEKIDSの中の燃える炎だと思ってるんで、僕はその炎を消さないように燃料を足したり、酸素を供給できるようなプレイをしたいですね。で、僕も最後にはうれし泣きできたら。

川口　今回のEPを作ったことで、コピーバンドからオリジナルをやるバンドになった感覚があるので、ライブでもそこを思いきり楽しみたいなと思ってますね。今までやってた曲の雰囲気もきっと変わってくるんじゃないかなっていうのもあるし。

──では最後に菅田さん、お願いします。

菅田　地に足をつけるツアーになればいいなと思ってますね。今までも地に足をつけようとはしてたけど、まだ全然ふわふわ浮いてた感じなんですよ。きっと今回のライブでもそういう部分が出てくる瞬間はあるとは思う。でも、このツアーを経て、次の5年10年ってなったときに何か変わってくればいいなって。たぶん今のタイミングでこのツアーをやってなかったら、もうふわふわーっとどっかに浮いてっちゃう気がするので、それを止めることがまず1つの大きな目標ですね。