SPYAIR「青」インタビュー|新体制始動、「オレンジ」の大ヒット──駆け抜けた日々と現在の充実感を語る (2/2)

深みを増した青になっていく季節

──では今回のニューシングル「青」について聞かせてください。この曲はテレビアニメ「青のミブロ」オープニングテーマですが、どんなイメージで制作されたんでしょうか?

UZ 完全に「青のミブロ」のために書き下ろした楽曲ですね。原作を読んで、作品の世界観を引き立てることを最優先にして。イメージを言葉にするのは難しいんですけど、戦いもありつつ“己との会話”という哲学的なところもあって、さらにロマンもあるという。

──「青のミブロ」は新選組をモチーフにした作品ですね。新選組は昭和の時代から何度もドラマや映画になってきた、ある意味日本の伝統的なコンテンツです。

KENTA そうですよね。「銀魂」もそうですけど、この時代を下敷きにしたマンガもけっこうあるし。

MOMIKEN 歴史モノはあまり詳しくないんですけど、幕末を舞台にしたマンガはよく読んでました。「青のミブロ」もすごく面白くて、「青」のデモ音源をUZからもらう前に読んでたんです。自分の中でなんとなく「こういう歌詞かな」って考えていたんだけど、デモを聴いたときに「すごく日本語がハマりやすいメロディだな」と思って。そこからサビ頭の「青く 青く 澄んだ」という歌詞が出てきたんですよ。メロディとのハマりがいいフレーズが浮かんで、そこから歌詞の内容を考えていきましたね。

MOMIKEN(B)

MOMIKEN(B)

──UZさんは日本語がハマるメロディにしようと意識していたんですか?

UZ というより、しっかりしていてわかりやすいメロディということかな。「洋楽的でなんとなくカッコいい」ではなく、ちゃんと口ずさめるようなメロディというか。

MOMIKEN 感覚的なものなんですけど、鍵盤で弾いたメロディを聴いて「日本語がハマりそう」か「英語のほうがよさそう」かわかるんです。「青」は完全に日本語でしたね。歌詞の内容としては、“成り上がり”とか“成長”みたいなものを描けたらいいなと思ってました。それと秋にリリースすることが決まっていたので、季節の移り変わりになぞらえて人の成長を描くというか。純粋無垢な子供がいろんなものを得て、深みを増していくイメージですね。

KENTA デモを聴いたきは、Bメロの展開がキャッチーで新鮮だなと思いましたね。サウンドとしては武骨な感じになるんだろうなと思って、それを踏まえて土台を作っていこうと。

UZ 音数も少ないし、バンドサウンドを強く出してますからね。とはいえ、ちゃんとアレンジは整えているんですけど。

──ボーカルのアプローチについては?

YOSUKE 最初に聴いたときは、シックで大人っぽい印象があって。「オレンジ」とは逆のアプローチで歌おうと思ってました。声のトーンを全体的に下げて、サビでしっかり抜けていく感じですね。歌詞もあえてそこまで読み込まず、雰囲気をつかんで歌うようにしました。

──基本的に自分でディレクションしているんですね。UZさんからアドバイスすることもない?

UZ いや、それは全然。やっぱり職種が違うじゃないですか。歌のことに対して俺があれこれ言うのは違うと思うし、のびのびやってほしいので。でも、例えばYOSUKEがテクニックを見せたくなって、変なビブラートとかで歌い出したら「それはちょっとやめようぜ」って言うかもしれないけど。

YOSUKE ハハハ。

UZ もちろんそんなことはないし(笑)、基本的には好きなように歌えばいいと思ってます。バンドですからね。

──メンバー全員のやりたいことをぶつけ合うのもバンドですからね。

UZ 歌のことはシンガーに委ねるしかないし、こっちが何か言ってよくなるとも思えないので。本人が気持ちよく歌うのが一番だし。

UZ(G, Programming)

UZ(G, Programming)

「YOSUKEの声で聴きたい」という人のために

──「青」は野音ライブで初披露されたそうですが、感触はどうでした?

YOSUKE ガチガチでした(笑)。

MOMIKEN 全員硬かったよね、アンコールだったのに(笑)。

UZ ライブでやるのはけっこう難しいと思います、「青」は。テンポ感も……。

KENTA ヒャッホー!という感じでいけないからね(笑)。

UZ そうなんだよね。勢いは欲しいんだけど、急いでる感じになるのはよくなくて。かと言ってしっとりした曲でもないという。

MOMIKEN それはこっち側の話で、聴いてくれる人はそんなこと意識してないと思いますけどね。

UZ うん。こういう曲を好きでいてくれる人はいるし、しっかり届けていきたいですね。

──そうですよね。今後のライブでも大事な役割を果たすと思います。

YOSUKE あとはライブで重ねていくしかないですね。

YOSUKE(Vo)

YOSUKE(Vo)

UZ 次のツアーのファイナルあたりで感覚をつかめるんじゃないかと(笑)。

──「青」はメロディメイカーとしてのUZさんのセンスが全面に出ている曲でもあるのかなと。ボーカルがYOSUKEさんになったことで、作曲に影響はありますか?

UZ いや、それはないかな。もちろんキーやレンジの違いはあるけど、自分が作る根本的なメロディの性質は変えようと思っても変えられないので。基本的に俺がいいと思うメロディはたぶん、中学生くらいのときから変わってないんですよ。それは生まれ持ったものでもあるだろうし、まったく違うタイプのメロディを作れと言われてもできない。だから歌はボーカルに委ねているのかもしれないですね。あなたの思ったように歌ってくださいと。しかも歌詞はMOMIKENが書いてますから。俺は曲を作るだけで、あとはあまり言うことないです(笑)。

──シングルのカップリングには今年春に行われた全国ツアー「SPYAIR TOUR 2024 -ORANGE-」のファイナル公演から、「ジャパニケーション」「ROCKIN' OUT」のライブ音源が収録されています。こちらについてはいかがですか?

YOSUKE 「このときはこういう声だったんだな」という感じですね。季節とか気温によっても声質は変わるので。

──YOSUKEさんが歌う既存曲の音源を増やしていくことも大事ですよね。

UZ そうですね。SPYAIRはけっこう長くやってるバンドだし、もちろん過去をすべてゼロにするつもりはなくて。IKEの声のバージョンしかない曲がいっぱいありますけど、今後は「YOSUKEの声で聴きたい」という人も出てくるだろうし。それこそ「オレンジ」で俺らのことを知った人は、YOSUKEの声が好きだと思うんですよ。なのでライブ音源やスタジオ録音を含め、意図的にYOSUKEのボーカルで音源化しているところはありますね。

MOMIKEN 「オレンジ」で初めてSPYAIRを知ってくれた人、けっこういますからね。

KENTA 多いと思いますよ。

UZ SPYAIRの歴史を知らない人もいるだろうし……。

KENTA ライブのあと、セットリストの順番で音源を聴こうとしたら「あれ?」っていう。去年の「JUST LIKE THIS」のあとも、そういう声が上がってたんですよ。

──YOSUKEさんが歌っている音源が聴きたい、と。

KENTA そうです。その時点で出していたYOSUKEが歌った音源は3、4曲くらいしかなかったから。そういうことも踏まえて、YOSUKEが歌った音源も随時出していこうと。

KENTA(Dr)

KENTA(Dr)

UZ うん。バンド名を変えて新たに始めたわけではなくて、これまでの歴史もあるので。

バンドマンとして当たり前のことをやれているのがありがたい

──11月からは「SPYAIR TOUR 2024 -AO-」がスタートしますが(※取材は10月末に実施)、心構えはいかがですか?

KENTA 楽しみですね。もうセットリストも固まって、あとはやるだけなので。

MOMIKEN 今年は「オレンジ」ツアーから始まって、海外のライブ、フェスがあって、野音もあって。途切れることなくコンスタントにライブが続いているし、ライブに対する感覚もどんどん研ぎ澄まされているんですよ。そうやって重ねる中で安心感も出てきて。なんの不安もないですね、今は。

YOSUKE めちゃくちゃ楽しみです。やっぱりライブをやってるときが一番「バンドやってるな」という感じがあるし、普通に生きている中でも一番の楽しみなので。

UZ こうやってリリースがあって、その楽曲を引っさげてツアーをやって、全国のいろんな会場に行けて。バンドマンとしては当たり前のことだけど、それを普通にやれていることがありがたいですよね。俺らは右肩下がりの時期も経験しているんですよ。ツアーをやって、「この会場をソールドアウトにできねえのかよ」ってなんとも言えない気持ちになったこともあった。それが今は着実に一歩ずつ進めている感じがあるので、それもうれしくて。

──「オレンジ」「青」もそうですが、楽曲からも今のSPYAIRの状態のよさが伝わってきます。ちなみにYOSUKEさんとは好きな音楽の話もします? 世代的なギャップも少しありますが。

KENTA YOSUKEはけっこう古い音楽が好きなんですよ。お父さんがめちゃ音楽好きなんだよね?

YOSUKE はい。KissとかLed Zeppelinとか。70'sですね。

KENTA 「そこを通ってるんだ?」みたいなこともけっこうあって。面白いです。

UZ 俺らの世代はそれこそLinkin Parkとかがリアルタイムで。でも、そのあとはモンスター級のバンドが少なくなってるじゃないですか。なのでバンドミュージックが好きで、ヘビーな音楽を聴こうと思ったら、俺らの世代のバンドを聴くしかないんですよ。

MOMIKEN 確かにそうだよね。

KENTA なので意外と話は合いますね(笑)。

SPYAIR

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ライブ情報

SPYAIR TOUR 2024 -AO-

  • 2024年11月4日(月・振休)神奈川県 CLUB CITTA'
  • 2024年11月17日(日)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2024年11月21日(木)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2024年11月23日(土・祝)宮城県 Rensa
  • 2024年12月1日(日)大阪府 なんばHatch
  • 2024年12月2日(月)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年12月16日(月)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

SPYAIR(スパイエアー)

2005年に愛知県で結成されたロックバンド。地元名古屋の野外ライブでキャリアを重ね、2010年8月にシングル「LIAR」でメジャーデビュー。数多くのアニメとのタイアップ曲を発表し、2012年12月には初の日本武道館ワンマンを成功のうちに収めた。2015年からは山梨・富士急ハイランド・コニファーフォレストにて夏の恒例野外ワンマンライブ「JUST LIKE THIS」を行っている。2022年3月、IKE(Vo)が持病の再発を受け脱退。UZ(G, Programming)、MOMIKEN(B)、KENTA(Dr)によって同年11月から行われたオーディションを経て、2023年4月に新ボーカリスト・YOSUKEの加入を発表。同年8月の野外ライブ「JUST LIKE THIS」より新体制での活動を本格化させた。2024年2月に発表した新曲「オレンジ」は映画「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」の主題歌として大ヒットし、自身初のストリーミング累計1億回再生を突破。10月にテレビアニメ「青のミブロ」オープニングテーマの「青」をシングルリリースし、11月よりこのシングルを携えて全国ツアー「SPYAIR TOUR 2024 -AO-」を行っている。