Spotify特集 田中宗一郎インタビュー|会話自体がエンタテインメントになり得るポッドキャストの可能性

2020年7月時点で世界のアクティブユーザー数が2億9900万人を超える音楽ストリーミングサービス・Spotify。アーティストと世界中の音楽ファンを結ぶこのプラットフォームは今、ポッドキャストを軸とするオーディオコンテンツの強化に注力し、オリジナル番組を含む数多くのプログラムを配信している。

音楽ナタリーでは近年のポッドキャスト人気やSpotifyにおけるプログラムの配信状況を紹介すると共に、Spotifyのオリジナルポッドキャスト番組「POP LIFE: The Podcast」でホストを務めている田中宗一郎氏へのインタビューを掲載。映画や音楽をはじめとするさまざまなポップカルチャー、その時代背景や社会の変化を多彩なゲストと共に“超・雑談形式”で語るこの人気プログラムについて、成り立ちやコンセプトを聞きつつ、今後のポッドキャストの可能性を語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 池田博美

エンタテインメントの新たな潮流となり得る
ポッドキャスト

インターネット上で配信される音声コンテンツ、ポッドキャスト。2005年頃にスタートしたこのメディアが、ここ数年、急激に人気を高めている。最初に火が付いたのは、海外のポッドキャストの“犯罪シリーズ”。実際に起きた事故を題材に、徹底した調査をもとに構成される「Serial」シリーズは2014年の配信スタート以降、8000万回以上のダウンロードを記録し、“トゥルークライムもの”というジャンルを生み出した。Netflixでドラマ化された恋愛サスペンス「ダーティ・ジョン -秘密と嘘-」、ジュリア・ロバーツが主演を務めるAmazonプライム・ビデオのスリラードラマ「ホームカミング」も、もともとはポッドキャストの人気コンテンツだ。そのほかにニュース、スポーツ、カルチャー、コメディ、トークショー、インタビュー番組など、ポッドキャストのコンテンツの種類は多岐にわたり、欧米を中心にニーズが拡大。2019年には、全米の人口の約1/3が日常的にポッドキャストを利用しているというデータも発表された。

スマートフォンやスマートスピーカーなどの普及、仕事や家事の合間・移動中などの“スキマ時間”に聴ける気軽さ、そして何より魅力的なコンテンツの増加によってさらなる広がりを見せているポッドキャスト。同じく世界でニーズを拡大している音楽ストリーミングサービス・Spotifyでもこの音声メディアの拡充に力を入れている。2019年2月にSpotifyのCEOダニエル・エクが“オーディオ・ファースト”という言葉を掲げ、ポッドキャストのコンテンツ配信に注力することを発表。既存のプログラムをSpotifyで聴けるプラットフォームを作る一方、オリジナル番組の制作も積極的に行っている。実際、Spotifyで配信されるポッドキャストの番組数は、2019年はじめには1万だったが、現在は150万にまで急増。その勢いは日本にも波及し、多くの人気番組が生まれている。

「ヒプノシスRADIO -Spotify Edition-」

「ヒプノシスRADIO -Spotify Edition-」

幅広い層のリスナーを対象にしたラジオなどに比べ、あらかじめジャンルを絞り込んだコアなコンテンツを発信できることも、ポッドキャストの特徴だ。ここからは音楽系、カルチャー系を中心にSpotifyで人気の高いプログラムをいくつか紹介したい。まずは、人気男性声優18人による音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」から派生したコンテンツ「ヒプノシスRADIO -Spotify Edition-」。登場キャラクターがDJを担当し、リスナーからの悩み相談に応じるTOKYO FMのラジオ番組「ヒプノシスRADIO supported by Spotify」(2020年3月で放送終了)を未公開部分を含めて再編集したこの番組は、日本はもちろん、海外のリスナーからも注目されている。声優とラジオ番組はもともと親和性が高い関係ではあるが、この番組のヒットは、熱心なファンダムを持つアーティストと音声コンテンツの相性のよさを改めて証明したと言えるだろう。

「kemioの耳そうじクラブ」

「kemioの耳そうじクラブ」

また、「ヒプノシスマイク」の楽曲制作にも関わっている西寺郷太(NONA REEVES)の「西寺郷太のGOTOWN Podcast」、モデルの三原勇希、音楽評論家の田中宗一郎がホストを務める“超・雑談形式”のカルチャー系番組「POP LIFE: The Podcast」、RHYMESTERの宇多丸による「TBSラジオ・アトロク放課後podcast」なども人気が高い。音楽、映画、本、ゲームなどさまざまなカルチャーを独自の視点でディープに語る内容が、ポップカルチャーに関心を持つSpotifyユーザーを強く惹きつけているようだ。6月20日には、YouTubeやソーシャルメディアを通じて若者に支持されるkemioによるトーク番組「kemioの耳そうじクラブ」の配信がスタートした。Z世代のオピニオンリーダーでもある彼が、今一番会いたい人、興味がある分野の第一線で活躍する人をゲストに招くトーク番組で、第1回目のゲストはHIKAKIN。YouTuberシーンを牽引するHIKAKINのキャリアやコンテンツ作りなどを巡るトークは幅広いリスナーから大きな注目を集めた。

昨年6月にはアメリカとヨーロッパの一部で音楽とポッドキャストを組み合わせたプレイリストをAIがユーザーの聴取傾向に合わせて作成してくれる「Your Daily Drive」がローンチされるなど、Spotifyのポッドキャスト戦略はさらに大きく進化している。音楽リスナーが音楽以外のものを含む音声コンテンツを利用し、SNSを通してそれを拡散するという流れは、2020年代のエンタテインメントの新たな潮流となる可能性を十分に秘めている。