曲を聴いてもらうことに価値がある
──アーティストとしてもリスナーとしても、ストリーミングサービスが普及していることについてポジティブな考えを持っているんですね。
橘 純粋にうれしいですね。みんながいろんな音楽をチョイスして好きな音楽を見つけやすくなったのは素晴らしいことですし、音楽を作る側としては曲を再生してもらうのが一番価値のあることだと思っていて。今の音楽シーンのように同じCDを何枚も買ってもらうことはビジネスとして大切かもしれないですけど、それであまり聴かれない音楽が増えてしまうのは不健康だと感じているんです。その状態がストリーミングサービスによって本来あるべき姿になってきたのかなと。あと新しいシンガーやトラックメーカーが自分の楽曲を広めやすくなって、世に出てこられるようになったのも健康的なことだと思います。
──最近ではSpotifyのモバイル版アプリが刷新され、フリープランでのレコメンド機能が強化されたほか、プレイリストの作成が簡単になりました。リスナーにとっては音楽をより手軽に聴けるようになったのではないでしょうか。
橘 そうでしょうね。でも、僕は有料推しなんですよ。僕にとって音楽は人生そのものなので、曲を買うことをケチるのは感覚的に嫌なんです。ネットで曲を無料で楽しむことは音楽に対するリスペクトが欠けているんじゃないかと感じていて。お金を払うという行為自体が大切だと思うんです。音楽好きな人なら誰しも音楽に人生を救われた経験があるだろうし、値段の大小にかかわらずお金を落とすことは大切だと考えています。
千葉 観たい映画を無料で観ようと思わないもんね。レストランで料理を食べてお金払わないこともないし。
橘 ご飯が無料のお店に入って、ご飯だけ食べて帰ることもしないよね(笑)。
千葉 それと一緒だと思います。音楽の価値が軽視されがちに感じることもあるので、みんな大切にしてほしいですね。
橘 Spotifyのプレミアムプランではいい音質で、しかもシャッフルじゃなく曲を聴ける。フリーがプレミアムへの入り口になってくれたらいいですね。
J-POPを世界に広めていきたい
──w-inds.はこれまでアジアを中心に海外でも公演を行ってきましたが、Spotify上での楽曲の総再生数は57%が海外、43%が国内のリスナーによるものだそうです。
千葉 意外ですね。みんなどんな聴き方をしているのか気になります。
緒方 どういう人たちがどういう環境で聴いているんだろう。w-inds.のことはよく知らなくても曲を気に入って聴いてくれていたらそれが一番うれしいですね。俺らのキャラクターや顔を知って応援しているわけではなく。
──w-inds.は2007年から毎年香港でライブを開催していますが、現地のお客さんの反応はどうですか?
緒方 アゲ上手で、すごく盛り上げてくれます。アーティストの気持ちを引っ張ってくれるんですよ。ツアーの一環の日本と同じパッケージの公演でも、香港の人たちのw-inds.に対する期待値がすごくて「あんたたち、そんなもんじゃないでしょ!」って感じで煽ってくるんです。お客さんが楽しんでるのが伝わってくるし、それが心地よくて僕たちもできる限り応えたくなるんです。もちろん日本でのライブも最高ですけど、異国の地で音楽を通してコミュニケーションを取れるのはうれしいですね。
──香港以外でも、海外のお客さんは熱量が高いという印象がありますか?
橘 やっぱり日本とは違う空気感があると思います。日本と比べたらライブをできる頻度が少ないので、1つの公演に対するお客さんの気持ちが違うのかもしれないですね。
緒方 歓声もすごいし、演出に対するリアクションも激しくて。歌や踊り、照明など細かく意識して表現しているので、そこに気付いてくれるのはうれしいです。スタッフさんも気持ちいいんじゃないかな。
──まだ経験がなくて、これからライブをやってみたい国はあります?
橘 メキシコやブラジルかな。情熱的なイメージがあるので。
緒方 熱量がすごそう。踊りと音楽の関係性が近そうだし。
──今後、Spotifyをきっかけにw-inds.の音楽がより世界に広まっていくといいですね。
橘 w-inds.の音楽をJ-POPとして世界に広めていきたいです。K-POPがアメリカのEDMを取り入れて、最初は真似ごとだったのがどんどんオリジナルになっていったのはホントにすごいことだと思っていて。今ではK-POPというサウンドのジャンルがありますし、いつかJ-POPも世界に注目されて多くの人に聴かれる日が来たらいいなと思います。
自分の世界に入りたいときに音楽は最適
──現在、Spotifyのプレミアムプランとスポーツ専門の動画配信サービス・DAZN両方を月額1750円で利用できるキャンペーンが実施されています。Spotifyにはランニングに最適なプレイリストなどもありますが、お三方は音楽とスポーツの親和性についてどう思いますか?
千葉 スポーツで外の世界を遮断して自分の世界に入りたいときに、音楽を聴くのはいいことだと思います。
橘 サッカー選手ってバスの中で集中するときに音楽を聴くことが多いらしいじゃないですか。僕たちもそういう人を奮い立たせるような楽曲を作りたいですね。僕自身はスポーツをやるときくらいは音楽から離れていたいですけど(笑)。集中したくても「このスネア、いい音だなあ」とか考えちゃうから(笑)。
緒方 試合に集中するためのツールとして音楽を聴いてもらえるのはミュージシャンにとってはうれしいですね。あとワークアウトのときに音楽は必須です。
橘 ワークアウトではリズムが一定であることが大切ですから、音楽を聴きながらやるのは効果的だと思います。
緒方 意識が音楽のほうに反れるので、疲れを感じにくかったり、時間を忘れたりするよね。
──ちなみに、思い出に残っているワールドカップやオリンピックなどのスポーツの大会のテーマソングってありますか?
橘 僕はCHEMISTRYさんやSoweluさんが歌ってた「2002 FIFAワールドカップ」のテーマソング(「Let's Get Together Now」)が印象に残ってますね。
緒方 俺はDragon Ashの「FANTASISTA」かな。
橘 あー、わかる! 奮い立たされるよね。
緒方 最近、音楽フェスでのライブ映像を観て。Kjくんがお客さんを煽ってる様子がスポーツのように思えました。
千葉 最近だとSuchmosの「VOLT-AGE」(2018年のNHKサッカー放送テーマ曲)の印象が強いです。実験的な曲だったし。
橘 RADWIMPSの「カタルシスト」もよかったな。僕たちは以前、「GOAL!」という映画の日本語吹替版や「全国高校サッカー選手権大会」のテーマソングを担当しました。サッカー好きなのでうれしいタイアップでしたね。今後、スポーツをテーマに曲を作ってストリーミングサービスで配信するのもいいかもしれないです。
- Spotify
-
2008年にヨーロッパでスタートした、スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス。2011年にアメリカに進出し、日本では2016年11月に本格的にスタートした。国内外4000万曲以上の楽曲をラインナップし、2018年9月時点で世界での有料会員数が8300万人超を記録。世界各国のキュレーターやアーティスト、音楽ファンが作成した膨大なプレイリストや、アルゴリズムに基づく独自のレコメンド機能を持つ。また、新進気鋭のアーティストが集まるライブイベント「Spotify Early Noise Night」も同名プレイリストと連動して定期的に開催している。
- w-inds.(ウインズ)
- 橘慶太、千葉涼平、緒方龍一からなる3人組ダンスボーカルユニット。2000年11月から毎週日曜日に東京・代々木公園や渋谷の路上でストリートパフォーマンスを行い、徐々に注目を集めていった。2001年3月にシングル「Forever Memories」でメジャーデビュー。同年12月には1stアルバム「w-inds.~1st message~」をリリースしたほか、「第43回日本レコード大賞」で最優秀新人賞に輝いた。翌2002年には「NHK紅白歌合戦」に初出場。現在までに数々のヒット曲を発表し、アジア諸国でも積極的な活動を展開している。デビュー15周年記念作品となる2017年1月リリースのシングル「We Don't Need To Talk Anymore」では、橘が作詞作曲および編曲を担当。2018年7月には初のセルフプロデュースアルバム「100」を発売した。