世界で1億5000万人以上のアクティブユーザーを持つ音楽ストリーミングサービス、Spotify。昨年11月に日本に上陸したこのサービスは、再生回数やSNSでのシェアなどをもとにした各種チャート、気分やシーンにマッチする多様なプレイリスト、ビッグデータをもとにした高精度なレコメンド機能を通して、多くの日本人アーティストの楽曲を海外のリスナーにも紹介し続けている。
音楽ナタリーではデビュー曲「Best Part of Us」がSpotifyのグローバルチャートにランクインし、約8カ月の間に900万回以上の再生回数を記録しているクリエイティブユニット・AmPmにインタビューを実施。楽曲のクオリティを武器に、無名であっても国境を超えたヒットを生み出せることを証明した彼らに、ユニットのコンセプトやSpotifyの魅力などを語ってもらった。また特集の後半では、現在Spotify上で海外リスナーからも注目されているアーティストのコメントを掲載する。
取材・文 / 近藤隼人 撮影 / 西槇太一
AmPmインタビュー
ただ曲だけが先にあった
──本名ではなく、AmPmとしてそれぞれお二人に呼び名はあるんでしょうか?
右 特にないのでインタビューではいつも、右、左と書いてもらってます(笑)。
──なるほど(笑)。最初にAmPmという音楽プロジェクトの立ち上げの経緯、コンセプトを聞かせていただけますか?
右 私たちはデザインや音楽の制作会社をやっていまして。2人共もともとデザインや音楽の仕事をしていて、2015年3月に一緒に会社を立ち上げたんですけど、それぞれ忙しくて別々に動いてたんです。このままだと一緒に会社をやってる意味がないので、「2人がやれることを融合させられるようなプロジェクトがあるといいね」と話して、いくつか考えた企画の1つとして楽曲を作ったのがAmPmプロジェクトの始まりでした。それが「Best Part of Us」という楽曲ですね。ただその段階ではAmPmという名前も、我々2人が表に出るということも一切決まってなくて。ただ曲だけが先にあり、そこからどうしようかという状態でした(笑)。
──2人組の音楽ユニットというわけではなく、1つのプロジェクトなんですね。
左 そうです。事業なので。AmPm事業です。
右 いろいろアイデアがあった中、結局我々2人でやったほうが早いという話になったんですけど、普段の制作の仕事の都合上、本名が前面に出るのは避けたくて。午前のAMと午後のPMからとってAmPmという名前にしました。
──そうなんですね。楽曲は英語詞ですし、お二人は白熊の被りものをしているので、海外のリスナーはAmPmのことを日本のアーティストと思っていないかもしれないですね。被りものをしているのには、無国籍感を出すという狙いがあるんですか?
右 いえ、名前を出さないのと一緒で、見た目が出ちゃうと我々だとわかってしまうので隠そうという話になったんです。最初は被りものをするということだけイメージしていて。お正月に会社のスタッフと買い物をしていたときに、雑貨屋さんに入ったら白熊の被りものが置いてあって、「これは面白いぞ」と思ってこのビジュアルに決めました。最初からマーケティングのことは考えてなくて、単純にお店に置いてあった白熊の被りものが素敵だったんです。
──ということは、今後白熊じゃなくなる可能性も?
左 はい。もうすぐ変わるんですよ。
右 間に合えば今日も新しいものを持って来たかったんですけど、今ちょうど船の中なんですよ。海外から発注したんです。
──流動的にビジュアルが変わっていくんですね。
右 ビジュアルへのこだわりはあまりないんです。お面作家さんから「こんな面ありますよ」というお話があればぜひ採用したいですね。(笑)。
ボーカリスト紹介プロジェクト
──楽曲の制作は、どういった役割分担とプロセスで進めているんですか?
右 曲を実際に制作しているメンバーが別に何人かいて、我々は企画立案とプロデュースを担当しています。2人でどんな音でどんな楽曲にしようかという構想をある程度考えて、各制作者にお願いしているんです。
──オリジナル曲以外に、「Addicted To You」「Traveling」という宇多田ヒカルさんの楽曲のカバーも発表されているのが印象的でした。なぜこの2曲を選んだのでしょう?
左 日本人によるプロジェクトなので、海外で活躍している日本人アーティストの方の曲をカバーしようと思いまして。プロジェクトを始動させたのが宇多田ヒカルさんが新作をリリースしたタイミングだったのもあり、彼女の過去の曲をリバイバルさせられたらいいなと思って企画しました。
──ボーカリストも固定せず、その都度楽曲に合った方を起用しているんですか?
左 活動を始めたばかりで、まだデビューしていない方に声をかけることが多いですね。
右 実力はあるけどもまだまだ世に出ていないボーカリストを、メディアとして紹介していければと考えています。ただ、メディアにはキャッチーなわかりやすい要素も必要だと思うので、今後は実績のあるボーカリストにも声をかけることはあると思います。うまくバランスをとっていきながら、ボーカリスト紹介プロジェクトとしても活動していきたいですね。
──基本的には、英語の曲を歌えるボーカリストを選んでいるんですか?
右 いえ、そういうわけではないです。世界には英語を話す人の人口が多いので、英語が話せればなおよしですけど、スペイン語やポルトガル語の楽曲を出すこともあると思いますし。もちろん、日本語の可能性もあります。
次のページ »
もうわけがわからない
- Spotify
-
2008年10月にヨーロッパでスタートした、スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス。2011年にアメリカに進出し、日本では2016年11月に本格的にスタートした。国内外4000万曲以上の楽曲ラインナップを保有し、2017年6月時点で世界での有料会員数が6000万人超を記録。世界各国のキュレーターやアーティスト、音楽ファンが作成した膨大なプレイリストや、アルゴリズムに基づく独自のレコメンド機能を持つ。また、新進気鋭のアーティストが集まるライブイベント「Spotify Early Noise Night」も定期的に開催している。
- AmPm(アムパム)
- 顔出しをせずに活動している、不特定多数によるクリエイティブユニット。2017年3月にデビュー曲「Best Part of Us」を配信リリースした。キャッチーなサウンドで多くの海外リスナーを獲得し、Spotifyでは同曲の再生回数が2017年11月時点で900万回を突破。8月にはインドネシアで行われたSpotify主催のライブイベント「SPOTIFY ON STAGE」に出演し、初ライブを披露した。