ハジ→|原点回帰の夏 誰かの隣にいるような存在でありたい

心の中ではいつでも再会できる

──今のお話を伺って、新曲「来年の夏。」は「証。」と通底するものがあるように感じられました。ハジ→さんはこの曲をどんな気持ちで作られましたか?

ハジ→

夏って誰もがワクワクして楽しい気持ちになるし、ミュージシャンだったらライブやってみんなで汗だくになる季節じゃないですか。だけどコロナ禍のせいでフェスやイベントもたくさん中止になってしまっているし、エンタメに関わる人たちだけじゃなくて、多くの人たちがいつも通りの夏を過ごせなくて悲しい思いをしている。そのやりきれない思いと、「来年こそは!」という希望を歌に込めたくて書き始めた曲でした。実はサビの部分は、去年の夏の終わりに降りてきてくれたんですよ。

──なるほど。

去年の僕は、「来年こそは元通りに、楽しい夏が来ているはずだ」と思っていたので、この曲を発表するタイミングはもう来ないだろうなと思っていたんです。だけど、やっぱり今年も「来年の夏こそは」と思わないといけなかった。そんな状況だから、8月4日のハジ→の日にこの曲をリリースして、みんなの気持ちを少しでも和らげることができたらいいなと思ったんです。インディーズ時代でもブログを通してファンの方に手紙を書いていたんですが、ひさしぶりにそれを動画形式で、現代版にアレンジする形でお届けしたりしながら。

──ブログなどで手紙を届けるというのは、インディーズ時代からやられていたことだったんですね。

はい。僕はお金をかけて高貴な人間であるようにブランディングするよりも、身近で、手作り感があって、そばにいるような人でありたいというか。そういう昔のハジ→らしいことをことをもう1回やってみようという意味を込めて、原点回帰という気持ちでこの曲と向き合わせてもらっているところです。

──会いたくても会えない人たちに寄り添った優しい歌ですね。3000万回再生された「指輪と合鍵。feat. Ai from RSP」(2011年発表)も、離れて暮らす恋人同士を歌った曲でした。

「指輪と合鍵。」は遠距離恋愛をしている人たちを応援したかった曲で。というのも、この曲を作った当時、僕も今の奥さんと遠距離恋愛をしていたんですよ。その実話を元にしたストーリーにたくさんの人が共感してくださって、遠距離恋愛してる方からは「この曲でがんばれたんです」とか「恋は終わっちゃったけどハジ→のこの歌を聴いてがんばってたよ」とか。遠距離恋愛してない人からも「関西弁の女の子かわいいなあ」とか(笑)。そういう意味では、「来年の夏。」もコロナ禍で感じた悔しい気持ちだけじゃなく、いろんな受け取り方を感じてもらえると思うんです。例えば、夏の高校野球で負けてしまったけど「来年の夏こそは……」と思っている子たちにも、サビの部分は寄り添えるかもしれないとか。みんながこの曲を思い思いに感じ取って、SNSなどでこの曲を使って動画を作ったり、心を浄化したいときなどにも寄り添える曲になったらうれしいなあという気持ちもあります。

──なるほど。

ハジ→

あと、この曲には僕の個人的な思いも反映されていて。父と母への手紙の部分はそのまんまです。「そうだ お母さんに 一緒にそろそろ会いにゆこう」という部分なんかは、この歌詞をリアルにしようと思って、ひさしぶりに仙台に帰って母の誕生日をお祝いしてきました。そして、2番は父のことを書いてるんですけど、実は僕の父は2年前に他界していて。

──「別れたことなど まるでウソのよう」はそういうことなんですね。

はい。「姿なき人とも 音色を交わし」という部分も。会いたいけど会えない人がいる人へ、心の中ではその人にいつでも再会できるんだよということも歌っています。だからお盆の時期にもこの曲を聴いてもらえたら父も亡くなって2年以上経つんですけど、何度か夢に出てきてくれたんです。やっぱり会えたときはすごくうれしくて。生前一緒に聴いていた音楽だったり、思い出の場所に行くことで、その人を感じることもできますし、その風景を夏に重ね合わせてみました。シンプルだけど、1年かけて書き上げた歌詞なので、たくさんの人の心に寄り添うことができたらうれしいです。

音楽の未来はこれから

──「来年の夏。」はこれまでのハジ→さんの楽曲の中でも特別なものになりそうですね。

ハジ→

ありがとうございます。人間、どんなに成功しているように見えても裏で地道に努力されていたり、悩みを抱えていたりするのは一緒だなと思うんです。ミュージシャンという職業も特別に思われがちですけど、何も特別じゃない。僕のことをみんなと同じ場所にいる人なんだって感じてもらいたいし、僕自身がその位置に立って「ここが自分のポジションです」と胸を張って言いたい。みんなにとって「おお、ハジ→!」「今日こんなことがあってさあ」くらいの人でありたいなと。

──そういうハジ→さんの言葉に励まされる方々もたくさんいると思います。

僕も独立してからすごく大変だったし、正直今日に至るまで思うような結果も出せていないです。だけど、そういう人間だからこそ、みんなと同じ目線で「俺もがんばるから一緒にがんばろうよ」と声を掛けられると思うんですよね。この感覚は、まさに僕がデビューしてヒット曲に恵まれる前の気持ちとすごく近いので、この「来年の夏。」で原点に戻って、またここからガンガン行くぞという気持ちでいます。

──最後になりますが、「来年の夏。」はSOUNDALLYを通して配信されるということで、ハジ→さんはこれからの音楽マーケットについてどのように考えていらっしゃいますか?

言葉を選ばずに言うと、僕はお金が稼げるか稼げないかで音楽をやってるわけじゃない。声が出なくなるまで歌い続けますし、CDが売れなくなったから音楽をやめようなんて気は1mmもなくて。たくさんの人たちのためになる音楽を作って発信し続けていきたい。その結果として、たくさんの人たちにシェアされたらいいなという気持ちです。とはいえ今回新曲を配信させていただくSOUNDALLYさんは、利用者側が配信費用を負担することなく楽曲をリリースできるというサービスなので、どんな人にもみんな平等にヒット曲を誕生させるチャンスがあるんじゃないかなと考えていて。中高生はもちろん、小学生だって気軽に自分の歌を配信できるし、それがもしかしたらTikTokでバズって一気にスターになれるかもしれない。僕も「来年の夏。」が大きなヒット曲になったらうれしいですし、これからも若い世代のアーティストがどんどんとSOUNDALLYを通して世に出てくることを期待しています。音楽の未来はこれからが楽しみです。

ハジ→
宮城県仙台市出身のシンガーソングライター。2005年に仙台にてHAZZIE名義で音楽活動を開始し、クラブを中心にライブを重ねる。2010年にアーティスト名をハジ→へ改名。また同年にデビュー作となるミニアルバム「ハジバム。」を発表した。2013年にシングル「Only One。」でメジャーデビュー。その後もコンスタントに楽曲のリリースを重ね、2019年にデビュー前から所属していた事務所から独立。2020年に配信シングル「SDGs for LIFE。」を発表したほか、SPICY CHOCOLATEとのコラボ曲「最後に笑おう feat. ハジ→&寿君」に参加した。2021年8月4日、“ハジ→の日”にシングル「来年の夏。」をデジタルリリース。同日に生配信ライブを開催した。