Sou×武市和希(mol-74)インタビュー|「ことばのこり」に込められた思いを昇華する表情豊かな歌声 (2/3)

こんな神曲をいただいていいんですか

──Souさんは楽曲を作ってもらうにあたって、mol-74サイドにどんなことをお伝えしたのでしょうか?

Sou 最初の打ち合わせでmol-74さんの既存曲をリファレンスに挙げながら、自分の中でイメージしているサウンド感や曲調をお伝えしたのですが、歌詞のテーマや細かい部分についてはお任せしました。僕は楽曲提供してもらうとき、自分からテーマを設けるのではなく、その方が自分にどんな曲を書いてくれるのかを楽しみにしているところがあって。mol-74さんとご一緒するのは初めてだったので、今回もそういう感じでお話しました。

──武市さんとしては、そのオファーをどのように受け止めましたか?

武市 Souくんから楽曲提供のお話をいただいたとき、ちょうど僕らも今年の5月にリリースした3rdアルバム「Φ」の制作を行っていて、楽曲のタネのようなものをいろいろ用意していたんです。実はそのタネの1つとしてすでにあったのが「ことばのこり」で。ただ、メロディラインや楽曲の展開は気に入っていたのですが、「Φ」という作品には少し合わないのではないか、という話をメンバーとしていたんです。そんなときにSouくんからの話がきて、打ち合わせでリファレンスに挙げてくれたのがバラードというよりも疾走感のある楽曲だったので、もしかしたら「ことばのこり」が合うんじゃないかと思って。

Sou そうだったんですね!

武市 いい曲ができたとしても「自分の声質に合っているんだろうか?」と思うことがあって、「ことばのこり」に関しては僕の声の質感よりも、Souくんのほうが合いそうだなと感じたんです。自分たちとしてもすごく気に入っている楽曲だったので、試しに聴いてもらおうと思って、タネに少し手を入れたデモをSouくんサイドに送りました。

Sou いやあ、「とんでもない楽曲がきた! こんな神曲をいただいていいんですか……」と思いました。

武市 いやいや、それは言いすぎ(笑)。でも、それくらい気に入ってもらえたのであれば本当にうれしいですね。それからSouくんが歌入れしたデモが届いて「めっちゃいいな」と思いました。

Sou うれしい!

武市 そのデモがマネージャーさんから送られてきたときに、僕はちょうど街で買い物をしていたんですけど、聴いたらあまりにもよくて。興奮してその場ですぐマネージャーさんに電話して、「めちゃくちゃいいということを先方に伝えておいてください」と言ったくらいです。

Sou いただいた楽曲デモに入っていた武市さんの仮歌を聴いて、「どうする、これ?」とハードルが上がっていたので、そう言っていただけてよかったです。mol-74のファンとしては「これでいいじゃん!」と思う部分もあったので、自分なりのアプローチで納得できる歌にするのが本当に大変で。特に仮歌が楽曲提供いただいたご本人の場合は、いつも食らうんですよ。

Sou「ことばのこり」ミュージックビデオより。

Sou「ことばのこり」ミュージックビデオより。

武市 僕はSouくんが歌う「ことばのこり」を聴いて、今までに味わったことのない感情になりましたよ。仮にSouくんと大学のバンドサークルで一緒だったとして、僕が作った楽曲をSouくんに歌ってもらっていたとしたら、たぶん、僕はボーカルをやっていなかったと思います。

Sou それは完全に言いすぎです(笑)。

武市 いや、マジでそれくらいの衝撃というか、感動を覚えました。「自分よりもこの曲をうまく歌われた」というような悔しさもなくて。ボーカリストであればそう思うべきかもしれないけど、僕はいちリスナーとしてめっちゃうれしかったんですよね。こういう感動は今までなかったので、「ことばのこり」をSouくんに歌ってもらえて本当によかった。

Sou ありがとうございます! 歌い手冥利に尽きます。この曲、サウンドやメロディは言わずもがなですが、歌詞もすごく素敵で。僕は自分で歌詞を書くのが苦手なんですけど、この曲は歌を聴いた時点で、歌詞における解像度の高さが伝わってきました。通して聴いたときにサウンドと歌詞とメロディが同じ方向を向いている感じがして、感動しました。

武市 でも、実は僕も歌詞を書くの苦手なんですよ。

Sou えっ! 本当ですか? 信じられないし、信じないです。

武市 本当です(笑)。

「ルックバック」から感じた思いを込めた「ことばのこり」

──「ことばのこり」はもともとmol-74の楽曲として制作していたとのことですが、武市さんのどんな感情や思いが込められているのでしょうか。

武市 実はこの曲、「ルックバック」というマンガを読んで思ったことを曲にしたものなんです。Souくんにデモを送ってOKをもらったときに、歌詞をそのままでいくか、一度解体してSouくんの世界観に合わせるか、悩んだんですよ。でも、さっきのSouくんの「サウンドと歌詞とメロディが同じ方向を向いている」という話を聞けてよかったなと思いました。僕の中では楽曲から感じた世界とメロディと歌詞はいつも一体になっていると思っていて。そもそもmol-74の楽曲の作り方自体が、最初にメロディや楽曲ができたときに浮かんだ情景やイメージを歌詞に当てはめていくスタンスなので、Souくんがこの曲に一体感を感じてくれてよかったし、歌詞を変えなくて正解だったなと思いました。

Sou「ことばのこり」ミュージックビデオより。

Sou「ことばのこり」ミュージックビデオより。

──mol-74として作った楽曲がSouさんにハマったわけですね。

武市 完全にそうですね。なので「歌ってみた」ではなく「歌ってもらった」みたいな感じです(笑)。人生や生活には別れがつきものだと思うのですが、僕もここ数年、永遠の別れを含めて多くの別れを経験してきて。そんな中で、肉体はもうなくなったかもしれないけれど、自分の記憶や心の中にはその人が生きていた世界が確かに存在していて、その人が自分に対してくれた言葉や、「この人ならきっとこう言うんじゃないか」という希望が自分を支えてくれているんです。

Sou そういった思いが込められていたんですね。

武市 そういう別れや自分の経験とか、「ルックバック」を読んで感じたことをアウトプットしたのが「ことばのこり」。ただ、自分の声質では表現しきれない部分があることを感じていて。Souくんの歌ったデモを聴いたとき、その表情豊かな声の力で、立ち止まってしまっている人の背中を押してあげたり、支えたりできる曲になったと感じたんです。自分が歌うよりも楽曲や歌詞の説得力、ひいては曲世界の強度が出たというか。「ルックバック」も、ある種、2人で1つのマンガを描くようなストーリーですけど、そこにも通じる部分があるんじゃないかと思います。

Sou 改めて楽曲に込められた思いを深く聞くことができて、僕にとってもすごく大切な楽曲になりました。今後もさらに大切に歌っていこうと思います。

武市 いつかライブでも聴きたいですね。