スカートとPUNPEE|シンガーソングライターとラッパー 2人の視点で描く夜の街

澤部さん以外の選択肢はなかった

──お二人で「オッドタクシー」の主題歌を共作することになった経緯を教えてください。

PUNPEE まず自分がVaVaちゃんやOMSBと一緒にアニメの劇伴を担当することが決まり、劇伴制作中にオープニングテーマも作ろうということになって、スカートさんにお声がけすることになりました。やっている音楽の感じからして、澤部さんとならすんなりできそうって思ったんですよね。

──澤部さん以外にコラボの候補はいたんですか?

澤部 (耳を塞ぐ)

PUNPEE いや、澤部さん以外の候補はいなかったっすね。

澤部渡

澤部 絶対いたでしょ(笑)。

PUNPEE いやいや(笑)。確か澤部さんが挙がる前に声優さんと一緒にやる案もあったんですけど、やっぱり板橋出身だし、作曲もできる人とのほうがやりやすいだろうなってことになって。そしたら澤部さん一択だった気がしますね。

──澤部さんはそのオファーを受けてどう思いましたか?

澤部 率直に「おお、そうきたか」という感じですね。「いい趣味してるジャン……」って(笑)。

PUNPEE アニメの音楽は初ですか?

澤部 テレビシリーズでは初めてですね。映画ではありましたけどね。

PUNPEE 自分もアニメは今回が初で。

──劇伴の制作が終わってから主題歌の制作がスタートしたんですか?

PUNPEE どっちだったっけ? 確か劇伴の制作途中でオープニングの話をもらったので、劇伴の制作を1回置いて、主題歌に集中して完成させたあと、劇伴をバーッと仕上げた気がします。劇伴に取り組むのも初めてだったんですよね。

──劇伴はPUNPEEさん、VaVaさん、OMSBさんの3人で担当したということですが、どのように作っていったんですか?

PUNPEE 共作するということではなく、それぞれ制作したものを持ち寄る感じでしたね。「憤り」「罪」「悲しみ」みたいなテーマがあるのを3人で分担して、テーマごとにどういう違いを出したらいいのか悩みながら作りました。普段作らないジャンルの曲もあるし、面白かったですね。もちろんヒップホップがベースの音楽もたくさん作りましたけど、全部にそういうビートを入れるわけにはいかないので、いろんな映画の音楽を参考にしながら作りました。

──具体的にどんな作品を参考にしましたか?

PUNPEE 例えば不穏な展開が始まるときの曲って、ドラムから始まる感じではないだろうし、どうやってるんだろうと思って、「遊星からの物体X」(1982年公開のSFホラー映画)っていうジョン・カーペンター監督の作品を調べてみたら、不穏な空気のときはシンセの低い音がブーンって差し込まれる。そこから徐々にいろんな音が入ってく感じで、ヒップホップではそういう展開ってあんまりないから参考になりました。あとトレント・レズナー(Nine Inch Nails)もけっこう聴いたっすね。「ソーシャル・ネットワーク」(2010年に公開されたデヴィッド・フィンチャーの映画。トレント・レズナーとアッティカス・ロスが共同で劇伴を担当)では、不穏な空気の曲にコード進行と関係ない高い音が入ってて。そういうロジックに凝らない作り方を取り入れたり、いつもと違うアプローチをしたりしながら作ったので楽しかったです。

澤部 僕は何回か劇伴を担当したことがあるんですけど、こういうムードというフワッとした感じではなく、すでに画があって秒数にも指定があって、それに向かって投げるという形でしたね。

PUNPEE なるほど。コンセプトがしっかり決まってるほうがイメージはしやすいですね。

澤部 いやあ、大変でしたけど、燃えましたね。

PUNPEE 自分は脚本の段階でコンテがあったか、なかったかくらいな状態で曲を作っていたから、映像に合うかちょっと心配だったんですよね。でも一番わかってるだろう木下麦監督からOKが出たので「じゃあそれでお願いします」ってお任せしたら、ちゃんとハマっててよかったです。なんだっけ、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984年公開のギャング映画)かな? あれは先に音楽があって、役者が音楽を流しながら演技したって聞きましたね。それもいいなあと思うし、いろんな作り方があるんだなあと。

左から澤部渡、PUNPEE。

いいパスをもらえてすんなり

──主題歌の制作について詳しい流れを教えてください。最初にスタッフも交えた打ち合わせなどはあったんですか?

澤部 まず1回打ち合わせがありましたね。

PUNPEE 最初に顔を合わせて話して、そのあとは澤部さんと自分で直に連絡を取り合って作っていきました。打ち合わせでは「夜の街」みたいなざっくりしたイメージを共有しましたね。

澤部 僕はそれで「なるほど。じゃあ大貫妙子さんの『都会』だな」と。安直ですけど(笑)。

PUNPEE 自分はミッドテンポで、夜の街というか、そういう気分になれる曲というイメージがありました。それでまず澤部さんに歌とギターの音源を送ってもらい、そこにベースとドラム、歌詞をハメていった感じですね。澤部さんからいいパスをもらえて、すんなりと悩みなく作れました。

澤部 うれしい。1個出たら早かったですよね。でも僕がとにかく大スランプだったんですよ。コロナ禍でやられちゃって曲が全然書けなくて……。自分の中で曲の作り方がリセットされたような感じがあったんですよね。それで、いつもだったら自分の中でこれだっていうメロディを決めてからコードも考えていくんですけど、今回はコードを先に決めてから、それをループさせてメロディを書いたような気がします。最初にお渡ししたのは、ただのコードのループみたいな感じじゃなかったでしたっけ?

PUNPEE

PUNPEE いや、最初に聴いたときからメロディとギターが入っていて、もうこれでいいくらいに思いましたね。届いたものより速いテンポのものも作ってもらったんですけど、やっぱり最初に送ってもらったものをベースにして作っていくことにしました。ヒップホップ特有のゆったりしたテンポで、やりやすかったですね。

澤部 ヒップホップ感はあんまり意識しなかったけど、打ち合わせで出たいくつかのイメージからそういうテンポ感になりましたね。とにかく自分は歌詞を書くのが遅いんですけど、最初に冒頭の4行だけ詞を書いたんじゃなかったかな。

PUNPEE 「底流に寄り添って」って入ってましたっけ?

澤部 恥ずかしいからラララで歌ったかもしれないけど、その部分の歌詞は最初からあった気がしますね。

──スタッフさんに確認したところ、どうやら最初の音源から歌詞が入ってるみたいですね。

PUNPEE 今聴いたらイヤですか?

澤部 いいっすよ!

PUNPEE どんなだろ。

(澤部が制作した最初の音源を流す)

PUNPEE あ、ドラムも入ってた。イントロもある……「底流に寄り添って」ってすでに歌ってますね。

澤部 本当だ。

PUNPEE 全部できてますね(笑)。

一同 ハハハ(笑)。

澤部 僕も忘れてましたね。

PUNPEE ここからドラムを抜いて、イントロを切って、急に歌から始まるのはどうでしょうって提案した気がします。それで自分のほうでベースやドラム、ローズピアノとかを打ち込んでいって。

左から澤部渡、PUNPEE。

澤部 ドラムについて僕は適当に打ち込んでクオンタイズしたものを送っていたんですけど、PUNPEEさんから送られてきたドラムのモタり方が衝撃でしたね。

──ドラムはSoulquariansを意識したとか。

PUNPEE そうですね、ディアンジェロとか。わりと乾いた感じで。それと最近オオスミさんが亡くなられてしまったんですが、SHAKKAZOMBIEのTSUTCHIEさんがソロで曽我部恵一さんとやっていた「カフェインの女王」という曲があって。普通に1、2、3、4じゃなくて、ツト、ツトみたいな感じのモタってるドラムなんですよね。

──なるほど。最後のサックスも印象的でした。

PUNPEE あれは著作権フリーのループが上がっている「Splice Sounds」というストリーミングサービスから拾ってきたんですよ。誰かが吹いたサックスソロを4つくらい組み合わせて作りました。編曲について言うと、澤部さんの歌について、別の場所にあったものを切り取って貼り付けるみたいなこともやったんすよ。どこだったかな。

澤部 たぶん冒頭の「こたえてよ」ですね。

PUNPEE そうだ、最初はこの部分がなかったんですけど、サビの最後の「たどり着けるか」のメロディをここに持ってきて入れたんすよね。そういうエディット的なこともしました。