ローラズ井上花月が「君に会いに行こう」に与えた客観性
──以前インタビューさせていただいたときにコロナ禍はスランプ状態だったと話していましたけど、EPの制作ではいかがでした?
「君に会いに行こう」は、真造圭伍くんのマンガ「ひらやすみ」とのコラボPVのために作ったんですけど、3曲分のデモができたんですよ。1本目はあまりに自分本位な曲になってしまったから、クライアントに提出すらしてないんだけど。そういう意味ではスランプは抜けているといいですね。コロナ禍の頃は本当にギターを持ってもどうにもならなかったんですけど、今はギターさえ持って「ラララ」と言えば曲っぽい何かができるくらいには戻ってきました。
──調子よさそうですね。ちなみに何か迷いがあってデモを3曲分作ったんですか?
「SONGS」を出して、なんとなくフォーキーな曲はやり切った感覚があったんです。それで何か違う表現をできないかと思っていたんだけど、「ひらやすみ」にスカートとして何かを投げかけるんだったら得意技でもフォーキーな曲がいいだろうと開き直って「君に会いに行こう」を作りました。
──この曲にはLaura day romanceの井上花月さんが参加していますが、井上さんを単なるゲストではなくメインボーカルとして迎えたのには何か理由があるのでしょうか。
真造くんとは本当に古い付き合いだから、曲を作っているとだんだん客観性がなくなってくるわけですよ。もう「ひらやすみ」を飛び越えて、「俺と真造くん!」という感じになってきちゃう。これはまずいと思いまして(笑)、冷静さを保つためにも自分は歌わないほうがいいだろうという判断に落ち着きました。それで誰に歌ってもらうべきだろう?と考えていたら、自然と井上さんの名前が挙がったんです。
──ローラズとはもともと接点が?
もちろん曲は聴いていたけど、去年ライブでご一緒したのがはじめましてですね。井上さんも「ひらやすみ」のファンだったようで、「よかった」なんて思いながら仮で歌録りをしたらその時点でもうバッチリでした。本当に井上さんにお願いしてよかった。正しい判断だったなと思います。
刺激をもらっていた旧友・真造圭伍とのコラボ実現
──ちなみに真造さんとはいつ頃出会ったんですか?
昔「ジオラマ」という自主制作のマンガ雑誌があったんですけど、僕が所属してるトーベヤンソン・ニューヨークというバンドのメンバーが編集長をやっていて。その雑誌では西村ツチカさんや、ふみふみこさん、西尾雄太さんがマンガを書いていて、その中の1人に真造くんもいたんです。当時、僕は僕で原稿を書いたりしてその界隈をうろちょろしていて。「COMITIA」の打ち上げがあったときに、ベロンベロンに酔っ払った真造くんを介抱したりしたこともあって仲よくなったんです。
──そんな古くからの友人とクリエイター同士、メジャーのフィールドで仕事ができたというのはいいですね。
そうですね。真造くんと僕はほぼ同い年なんですよ。同世代のクリエイターって少ないから、真造くんの作品が映画化したりドラマ化したりというニュースを見ては僕までうれしい気持ちになっていました。真造くんの活躍を見ると僕もがんばれるみたいなところがある。だから「ひらやすみ」のヒットは本当にうれしいし、まさかこうやって自分にPVの話が来るなんて思ってなかったから感慨深いです。
パソコン音楽クラブの解釈で生まれ変わった「ストーリー」
──EPのラストはパソコン音楽クラブによる「ストーリー」のリミックスバージョンです。この曲は取材前日までデータが届かなかったので「どんな仕上がりになるんだろう?」と想像していたのですが、三浦透子さんのコーラスをフィーチャーしたリミックスが新鮮で本当に素晴らしかったです。
いいですよね! 昔、DJ WILDPARTYくんがブート的な形で「都市の呪文」のリミックスを作ってくれたことはあったんですけど、オフィシャルで出すのは初めてなんですよ。パ音の2人にパラデータをお渡しして、最初はどうなるんだろう?と思ったけど本当にめちゃくちゃよかった。
──選曲はどなたが?
パ音に選曲も含めてお願いしました。ただ、最初は「期待と予感」を候補に挙げてくれていたんですよ。それも絶対いい仕上がりになるだろうけど、せっかくリミックスしてもらうなら昔の曲に光が当たってもいいんじゃないかとも思って。特に「アナザー・ストーリー」はコロナ禍真っ只中のアルバムだから、今でもリリースした実感がないんです(笑)。それでパ音の2人に「『アナザー・ストーリー』の中から選んでもらえるといいかもしれない。でも、ほかに『やっぱりこれだ!』という曲があれば全然自由にやっちゃってください」とお伝えしました。
──リミックスというのもありますけど、スカートの楽曲で尺が6分弱あるのは珍しいですよね。
そうそう。スカートの曲は長くても5分超えたことないんじゃないかな。でも、このリミックスは全然長く感じなかったし、さすがパソコン音楽クラブだなと思いましたね。
「もっと聴かれたい」と思った
──リミックスを入れたのも、やっぱり「期待と予感」のことがあったから?
そうですね。「期待と予感」を出して、認知度であったり聴かれ方であったりの限界を如実に感じたんです。「期待と予感」も今まであまりやったことのないアプローチとして、四つ打ちに改めて向き合ってみたり、エンジニアを別の方にお願いしたりしているんですよ。でも、そのぐらいじゃ何も変わらなかった。この挫折を経て、少しでも世の中に向けて何かやれることが残っているならやれるうちにやっておこう、というのがEPのコンセプトの裏側にあります。
──なるほど。
スカートとして14年も活動しているので、そりゃ限界も来ますよね(笑)。でも、不思議なのはこの2年間で「まだ曲は書けるんだな」と強く感じたんです。「SONGS」を出したあとに「期待と予感」「君はきっとずっと知らない」「波のない夏」の3曲ができて、「自分もまだこういう曲が作れるんだ」「こんな曲も作れるんだ」という発見があった。で、その先に「もっと聴かれたい」とも思ったんです。
──その「もっと聴かれたい」という思いから、一度これまでの形式から離れてみようと。
そうですね。自分もそういうふうに音楽を聴いてきたからわかるんですけど、キャリアが長くなれば長くなるほど新規リスナーは入りづらいですよね。それもスカートのように14年もふわふわ漂ってるバンドなんか特に(笑)。だからこそ、今回のEPで一発風穴を開けられたらなと思ったんです。
「Extended Vol.1」は実験の場
──少し話が変わりますけど、澤部さんが昔どこかの媒体で「3rdアルバムで一度、バンドの限界がくる」という話をしていたのを思い出しました。
1つの集合体が新鮮に何かをやれる限界、それが3枚目のアルバムまでだと個人的には思っていて。それ以降は新しい何かがないと続かなかったり、破綻しちゃったりする。3枚目で1つのことをやり終えるというか。はっぴいえんどやフリッパーズ・ギターを見てると、むしろそれが自然なんだろうなとは思いますね。YMOのようにアルバムごとに形を変えてくのであれば継続できると思うけど、そうじゃないのにずーっと同じ感じでアルバムを作れないかと考えていたのがスカートなんです。要は一カ所だけを掘り下げていくような音楽を永遠にやっていたかった。あとあと気付くんだけど、Teenage Fanclubとかはまさにそういうバンドなのかもしれないですね。
──澤部さんの今のモードとしては、その一カ所を掘り下げる音楽ではなくて、外に向かっていってるということなんですかね。
いや、無理矢理外に向けたっていうのが正しいかもしれない。僕個人としては今のバンドの感じでずーっとやっていたいんです。でも「期待と予感」の反応を見るにこればかりやってると聴くほうも飽きてくるのかな、とか思ったりもしましたし、心のどこかではサバンナバンド歌謡や、いつかはリミックスをお願いしてみたい、とも思っていた。今回はそれを一度実験してみましょうということですね。
──バンドメンバーから今回のEPについて何か感想はありました?
感想は特に……。そういうタイプじゃないから続いているんでしょうね(笑)。
──9月13日には代官山UNITでEPのリリースを記念したフリーライブが開催されます。EPの曲はもちろん演奏するんですよね?
基さんの曲はビッグバンドだから今回は大目に見ていただけると(笑)。当日はスペシャルゲストとして井上さんとPUNPEEさん、DJでパソコン音楽クラブが出演してくださるので、それも楽しみにしていてください。あとスカートのジレンマとして、ライブの集客がここ何年も横ばいなんですよ。
──そうなんですか? ライブ会場はいつも埋まってるじゃないですか。
そう、埋まってはいるんですよ。でも、こんなに何年も500人台をふわふわしていることってあるんだ、と思って(笑)。だからライブにも何か変化があればいいなとフリーライブを企画しました。私もそうですけど、結局みんなフリーライブが一番好きですから(笑)。スカートの音楽に興味はあるけどライブは観たことない、という人はこの機会にぜひ遊びに来てほしいですね。