表情でも伝える恋愛の痛み
──「最高速度」で始まって、4曲目の「会えないのに」までアグレッシブに攻める曲が続きます。
宮崎 今回はすごく楽しんで曲順を決めました。頭3曲の既発曲で、多くの人が思ってくれているSHISHAMOらしさのある強い曲をまとめて、まず挨拶をするようなイメージにして。その後、リリースしていない「会えないのに」を早めに入れたかったんですよね。
──4曲目の「会えないのに」は、松岡さんのベースと宮崎さんの低音の効いたボーカルがすごみを放つ序盤が印象的です。
宮崎 3ピースでシンプルに鳴らそうという気持ちで。歌詞の世界は“これぞSHISHAMO”っていう恋愛の痛い部分を描いたので、すごくSHISHAMOらしい曲だと思っています。
松岡 SHISHAMOの曲はベースがルートで進んでいくことはあまりないんですが、この曲は頭がそうだったので珍しいなと思いました。でも演奏としては今あっちゃんが言った通り、シンプルでSHISHAMOらしいですよね。
吉川 SHISHAMOの曲の中でも速いテンポで、しかも派手なフレーズが多いドラムなので5、6年前の自分だったらいっぱいいっぱいになっちゃっていたと思うんです。でも、歌詞のストーリーに思いを馳せながら気持ちを入れて演奏することができました。10年やってきたからこそ、成長を感じることができたと思っています。
──例えば「嘘でしょ」という歌詞を歌うところで泣きそうな声色になったり、ボーカルの表現力にもすごく引き込まれました。
宮崎 こういう恋愛の痛みを描いた曲のほうが声の表情に出やすいと思っているので、私も気に入っています。
──歌唱のバリエーションはいくつか試したりするんですか?
宮崎 最初にデモを作ったときに自然と出てきたものをそのまま大事にして歌っています。その曲の主人公になりきる気持ちで録っていますね。
吉川 朝子のデモは完成度がすごく高いんです。デモの時点で「この曲はこういう感情なんだな」とはっきりとわかります。
松岡 歌詞の主人公がどういうキャラクターなのか、声でちゃんと表現されているので解釈しやすくてありがたいですね。
宮崎 曲の説明をあまりすることがないので、その分デモを丁寧に作ろうと心がけています。最初に聴かせる2人に一番正しく伝わらないと、お客さんにも絶対に伝わらないので。曲についての説明は抽象的なことばかりなので、口で言うほうが面倒くさいっていうのもありますが(笑)、2人の解釈が違ったときは言いますね。
「やっぱり恋っていいよね」という終わり方
──「ハッピーエンド」の生々しくリアルな世界観も見事だと思いました。
宮崎 この曲は2022年の夏のシングルなんですが、SHISHAMOは2014年からほぼ毎年夏にシングルを出してきているので、習慣的に「今年の夏の曲はどういうものにしようかな」と考えるところから始まりました。夏っていろいろな面があって、からっとしたイメージを持っている人もいれば、じめっとしたイメージの人もいますよね。今回はとにかく今までで一番暑いジリジリした曲にしようと思いました。バカみたいに増し増しの暑さっていうか(笑)。そういう暑苦しさを歌詞でもサウンドでも表現したいと思って作った曲です。歌詞は特に丁寧に書いていきました。みんながみんな誰かを死ぬほど好きになった経験があるわけじゃないと思いますが、主人公の子が本当に相手を好きだったことがしっかり伝わる歌詞にしたいと思ったので、言葉の1つひとつに気持ちの強さ、重さを込めて、「この言葉よりもこの言葉のほうが伝わるな」と吟味していきました。
──「犬ころ」あたりからどんどん鮮やかな曲調になっていって、後半は「ハッピーエンド」も含めて、ヘビーな世界観に突入していきます。
宮崎 きれいに波がつながっている曲順にしたかったので、「犬ころ」あたりはちょっとほっとするゾーンですね。そのあとにすごく歌詞が重たいゾーンがくるので、感情もひと休みできる場所になっていると思います。それで、最後に「恋じゃなかったら」で救いがくるイメージです。
──「恋じゃなかったら」は最後3人のハモリで終わるのが新鮮でした。
宮崎 3人で歌うことは珍しいんですが、アレンジしている最中に自然とそのアイデアが浮かんできたんです。それで、この曲をアルバムの最後にしたくて。わりとシンプルな3ピースの音なので、2人はこれが最後だとびっくりするかなと思いました。でもやっぱり「恋じゃなかったら」が最後にあることで、後半重たい歌詞の曲が続いたあと、「恋愛っていいこともあれば本当に苦しいこともあるけど、やっぱり恋っていいよね」という終わり方にできると思いました。それでまた頭から聴こうと思ってもらえたらいいなって。
吉川 確かに「恋じゃなかったら」が最後の曲と聞いて驚いたんですが、3人で歌うとエンディング感がありますし、その前の「ハッピーエンド」でアルバムの締めだとしたらズタズタに傷ついた恋愛の痛ましさで終わるので、「恋じゃなかったら」でまた立ち上がって走っていく終わり方のほうがいいなって。
松岡 「ハッピーエンド」でアルバムが終わると、気持ちがえぐられすぎるので、考える時間が欲しくなってアルバムをもう一度聴こうという気持ちになれないんじゃないかなと。「恋じゃなかったら」が最後だと、映画のエンドロールみたいに、「ああ、よかったな。あれはこういうことだったのかもしれない」と余韻に浸って、また最初から聴きたくなるような感覚になれるんじゃないかなと思いました。
「ハリボテ」をどう解釈する?
──いろいろと新たなアプローチのあるアルバムですが、特に新しいトライだと思うポイントはどこですか?
宮崎 6曲目の「ハリボテ」ですかね。最初、2人に「この歌詞、どういうことかわかる?」って聞いたら、「比喩的なことでしょ?」と返ってきたんですけど。
松岡 そうですね。歌詞に出てくる2人にしか見えない世界と現実の世界を比べて表現している歌詞なのかなと思ってました。
吉川 私も。
宮崎 私の気持ちとしては、この歌詞の世界は比喩ではなくSFで、現実の世界とはまったく違う“ハリボテの世界”を書いたつもりなんですよね。今までそういうアプローチの曲は書いたことがなかったので新しいと思っています。でも、恋愛をしているとこういう気持ちになることってあると思うんです。
──世界に自分たち2人だけしか存在しないような気持ちになるというか。
宮崎 そうですね。そもそもSF的な世界をバンドサウンドで表現できた達成感がありました。いろいろな上物の楽器を入れると、簡単に世界観を変えることができるんですが、それをやらずに3ピースで物語が広がっていく感じをちゃんと表現できたと思っています。
──途中で「きっと『私』も同じ 君のために作られたハリボテなんだろう」という歌詞が入ってくるところにスリルを感じました。SFがいきなりホラーになるというか。
宮崎 歌詞を書いていく中で変わっていったんです。最初は「全部が2人のための世界」というテーマで書こうとしていたんですが、途中で「もしかしたら“私”もハリボテなんじゃないか。命あるのはこの彼だけなんじゃないか」と思い始めました。そっちのほうがちょっと怖くて面白いんじゃないかなって。
目標を掲げないSHISHAMOのその先
──現時点で「SHISHAMO 9」「SHISHAMO 10」の構想はあるんですか?
宮崎 ……ないです(笑)。今は3ピースとしてできることを突き詰めたいと思っていますが、明日には全然違う考えになってるかもしれないですし。次のアルバムもそのときのSHISHAMOがちゃんと作品になっているんだと思います。
──10周年のときも、「最初から“続けたい”という気持ちも“続けられる”という気持ちもなかった」とおっしゃってましたよね。
宮崎 そうですね。本当に「10周年までがんばろう」とは一切思わなかったです。目の前のことをやっていくうちに自然とそういう節目がくるんだと思います。
吉川 朝子の言う通りですね。私たちはあまり明確に目標を立てずに活動しているバンドなので、その時々にできること、やるべきことを全力でやっていくという姿勢で変わらず続けていきたいですね。
松岡 私も同じ気持ちです。今やれることを全力でやることの先に未来があるんだと思っています。
ライブ情報
SHISHAMO ワンマンツアー2024初夏「退屈なハッピーエンドに迷い込んだのは君のせいだ」
- 2024年6月2日(日)神奈川県 KT Zepp Yokohama
- 2024年6月8日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2024年6月9日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2024年6月16日(日)北海道 Zepp Sapporo
- 2024年6月23日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2024年6月30日(日)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
SHISHAMO ワンマンツアー2024初夏「退屈なハッピーエンドに迷い込んだのは君のせいだ」in 台北
2024年7月13日(土)台湾 台北 Zepp New Taipei
SHISHAMO NO YAON!!! 2024 WEST
2024年7月27日(土)大阪府 大阪城音楽堂
SHISHAMO NO YAON!!! 2024 EAST
2024年8月17日(土)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
プロフィール
SHISHAMO(シシャモ)
宮崎朝子(G, Vo)、松岡彩(B)、吉川美冴貴(Dr)からなる3ピースロックバンド。神奈川県川崎市で結成され、高校卒業と同時に本格的にバンド活動を開始する。2013年11月にデビューアルバム「SHISHAMO」をリリース。2017年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2018年にCDデビュー5周年を迎え、2019年6月に初のベストアルバム「SHISHAMO BEST」をリリースした。CDデビュー10周年イヤーにあたる2023年2月にはコンセプトアルバム「恋を知っているすべてのあなたへ」を発表。2024年4月にニューアルバム「SHISHAMO 8」、ライブBlu-ray「SHISHAMO 10th Anniversary Final Live『FINALE!!! -10YEARS THANK YOU-』」を同時リリースした。6月から「SHISHAMO 8」を引っ提げたツアー「SHISHAMO ワンマンツアー2024初夏『退屈なハッピーエンドに迷い込んだのは君のせいだ』」を、7月に大阪、8月に東京で野音公演「SHISHAMO NO YAON!!! 2024」を行う。
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