SHISHAMOのニューアルバム「SHISHAMO 8」がリリースされた。
「SHISHAMO 8」はボートレースのCMソング「最高速度」やマッチングアプリ「with」のCMソング「私のままで」、テレビ東京系ドラマ「姪のメイ」のオープニングテーマ「わたしの宇宙」などタイアップ曲が多数収録された13曲入りのオリジナルアルバム。3ピースにこだわったサウンドや、恋愛の痛みを表現した歌詞でSHISHAMOらしさが表現されている。
音楽ナタリーでは「SHISHAMO 8」の制作においてメンバーが成長を実感したこと、今作での新たな挑戦、目標をあえて設定しないSHISHAMOの今後について語ってもらった。さらに、アルバムと同時リリースされたライブBlu-ray「SHISHAMO 10th Anniversary Final Live『FINALE!!! -10YEARS THANK YOU-』」に収録されている神奈川・ぴあアリーナMM公演を振り返ってもらった。
取材・文 / 小松香里撮影 / 飛鳥井里奈
まだまだ恋愛の曲を作れる
──約3年ぶりのオリジナルアルバム「SHISHAMO 8」の具体的なイメージはあったんですか?
宮崎朝子(G, Vo) 3年の間にリリースした曲がけっこう多かったので、もともとアルバムのイメージがあったというよりは、最近のSHISHAMOが自然と形になった感じがします。
──「SHSIHAMO 7」から今作の間にコンセプトアルバム(2023年2月リリース「恋を知っているすべてのあなたへ」)とアコースティックアルバム(2023年11月リリース「ACOUSTIC SHISHAMO」)を作った影響は何かありましたか?(参照:SHISHAMOは恋とどう向き合ってきた?デビュー10周年記念盤インタビュー)
宮崎 ずっと恋愛の曲を書いてきたので、それを集めた作品を出したいと思ってコンセプトアルバムを作りましたが、改めて過去の曲を聴いて「まだまだ恋愛の曲を作れるな」と思ったんですよね。その気持ちは今回のアルバムに表れてると思います。
松岡彩(B) 今回のアルバムにも恋愛ソングがたくさん入っていますが、まだまだ私の知らない恋愛がいっぱいあるんだなって思いました。そういう恋愛の曲をあっちゃん(宮崎)はたくさん生み出していってくれるので、毎回デモを聴くのが楽しみなんです。
吉川美冴貴(Dr) 私もデモをもらうときはいつも新鮮な気持ちで、まずリスナーとして楽しませてもらってますね。
──13曲中6曲がタイアップ曲です。宮崎さんは完全に詞先で、まず楽曲の主人公を設定して、妄想を広げて歌詞を書いていくことが多いそうですが、タイアップの場合も、お題から歌詞のイメージを膨らませていくという点では、普段と作り方はそこまで変わらないのでしょうか?
宮崎 そうですね。作り方自体はそんなに変わらないです。お題がよそから来るか、自分から出すかという違いぐらい。先方が求めてるSHISHAMOと自分たちが今見せたいSHISHAMOのバランスを取るのが難しいこともありますが、どんどん楽しんでやれるようになっていると思います。
背中で語るあっちゃんみたい
──まず、1曲目の「最高速度」はボートレースのCMソングです。タイアップのオファーがあったときは率直にどう思いましたか?
宮崎 たくさん流れるCMっていうイメージがあったので、「まだSHISHAMOを知らない人にも届く機会が増えるんじゃないか」とスタッフさんに言われてうれしかったです。SHISHAMO=恋愛の曲というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、恋愛の曲ではない「明日も」(2017年2月リリース「SHISHAMO 4」収録曲)でSHISHAMOのことを知ってくれた人もたくさんいて。「明日も」や「最高速度」みたいに誰かの背中を押すような曲もSHISHAMOの一面として好きでいてくれる方も多いです。自分発信だとどうしても恋愛の曲が多くなってしまい、「最高速度」のような曲はタイアップのお話をいただかないと書かないので、この曲があることでアルバムのバランスがよくなったと思います。
──かなりゴリゴリのアンサンブルで始まって、後半でハンドクラップや鍵盤が入ってカラフルに展開されます。
宮崎 そこが“抗いポイント”でした。「最高速度」は1曲の中でSHISHAMOのいろいろな面が見れる“全部乗せ”みたいな曲になってると思うんです。イントロは3人の音だけで戦っている感じがあって、サビはちょっとキラッとしたSHISHAMOっぽい手触りがある。ここ最近はずっと「もっと3ピースとしてできることを突き詰めていきたい」というモードなんですね。でも、違うものを求められることもあって、それがいいバランスでまとまった曲になったと思います。
吉川 ボートレースのCMソングと聞いてからデモを聴いたときに、「タイアップでこんなにゴリゴリのイントロなんだ!」と思ってテンションが上がりました。そのあとのサビではキラキラした部分があって。まさに自分たちが求められているものとやりたいことが両立されたすごい曲だなと、演奏するのがすごく楽しみでした。ボートレースのタイアップでもあるし、「最高速度」というタイトルを損なわないようなプレイを意識しましたね。
松岡 頭のベースを聴いたときに「私の見せどころだ」と思ったので、ライブで演奏するのがすごく楽しみになりました。同時に、CMで流れるのはサビなので、CMでSHISHAMOを知ってくれて、曲を最初から聴いてくれた人はイントロとのギャップにびっくりするだろうなって。
──歌詞はどんな部分にこだわりましたか?
宮崎 ボートレースは性別も年齢も関係なく競う競技だと聞いて「すごい」と思ったんですよね。自分たちがいる音楽の世界もそれに近いと思うので、この業界に身を置いて感じることやつらいときにどう乗り越えてきたかということを考えながら作りました。
吉川 私はメンタルが弱いのでSHISHAMOの活動を続けていく中ですぐにくじけたり、ネガティブになったりしてしまうのですが、「最高速度」は「本当はこういうたくましい気持ちでいたいな」と思う歌詞です。演奏しているときやライブで聴いているとき、いつもこの歌詞に鼓舞されています。
松岡 私もすごく奮い立たされる気持ちになります。あっちゃんは「応援ソングはあまり好きじゃない」とよく言ってますが、応援されてるというより、この曲の主人公を通して自分も「やらなきゃ!」と感じる。背中で語るようなあっちゃんの性格を投影している曲だなと思いました。
宮崎 みんな毎日生きることで精一杯だと思うんですよ。ライブで「明日も」を歌ったとき、泣いているお客さんがいると「この人はきっと毎日がんばっているんだろうな」と想像します。そういうふうに、「最高速度」によって少しでも「明日もがんばろう」と思ってもらえればいいなって。最後に「君だってそうだよ」という歌詞があるんですけど、デビュー10周年を経てお客さんとの絆が深まっていく中で、「みんな幸せに生きていってほしい」という気持ちが生まれたんです。この曲を作っているときに自然とお客さんの顔が浮かんだこともあって、こういう歌詞になりました。
自分自身もSHISHAMOを愛してる
──10周年イヤーの幕開けを飾った武道館と、締めくくりのぴあアリーナMMのライブはお客さんとの距離感も違いましたよね(参照:「忘れられない日になりました」SHISHAMOがデビュー10周年を記念して3回目の武道館ライブ)。
宮崎 そうですね。ぴあアリーナは大きな会場だけどお客さんとの距離を全然感じなくて、「こんなにリラックスしていいんだろうか」と思うくらいでした。それはたぶん、10周年イヤーの1年間でお客さんといい関係を築けたからだと思いますし、すごく感謝しています。
──吉川さんはぴあアリーナのMCで「緊張より楽しさが勝っている」と語っていましたね。
吉川 本当にその通りでした。本来なら、ぴあアリーナみたいな大きな会場にたくさんの人に来てもらって、しかも10周年イヤーの締めくくりのライブとなるとすごくプレッシャーを感じて緊張すると思うんですが、それ以上にこの場所に立てる楽しさとうれしさを感じていました。すごく愛があふれてる日だったと思うんです。お客さんのSHISHAMOへの愛、スタッフの皆さんがSHISHAMOに対して抱いてくれてる愛、あと自分自身もSHISHAMOを愛していて。だから楽しさが緊張を上回ったんだと思います。
宮崎 (吉川の口から)「SHISHAMOを愛してる」って初めて聞いたのでびっくりしました(笑)。
吉川 (笑)。
松岡 まず10周年が始まったときにみんながお祝いしてくれていることに対する感謝の気持ちがありました。曲を届ける機会をたくさんいただけた1年を駆け抜けて、ぴあアリーナでまたいろいろな人が「本当におめでとう」と言ってくれて、さらに皆さんに対する感謝の思いが深まったんです。その気持ちが最高に高まった状態でのライブだったので、あっちゃんもMCで言っていた通り、みんなとひとつになれたんだと思います。
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表情でも伝える恋愛の痛み