SHISHAMOは恋とどう向き合ってきた?デビュー10周年記念盤インタビュー

SHISHAMO初のコンセプトアルバム「恋を知っているすべてのあなたへ」がリリースされた。

「恋を知っているすべてのあなたへ」はSHISHAMOのデビュー10周年を記念して発表された、ラブソングを集めたCD2枚組の作品。各CDには異なるコンセプトが設けられ、DISC 1は「恋の喜びを知っているあなたへ」、DISC 2は「恋の痛みを知っているあなたへ」と題して、それぞれ15曲が収録されている。

音楽ナタリーでは、1月に東京・日本武道館公演を終えたSHISHAMOにインタビュー。3度目の武道館公演で感じた特別な思いや、ラブソングとの向き合い方、今後に対する率直な気持ちを聞いた。

取材・文 / 小松香里撮影 / 梁瀬玉実

武道館公演は奇跡のうえで成り立つ

──1月4日の3回目の武道館、おつかれさまでした。松岡さんは「珍しく楽しみだった」とMCで言っていましたね(参照:「忘れられない日になりました」SHISHAMOがデビュー10周年を記念して3回目の武道館ライブ)。

松岡彩(B) 本当に楽しかったですね。ライブはいつも楽しいですが、緊張のほうが勝ってしまうことが多いんです。でも今回は心から楽しむ気持ちのほうが勝ちました。お客さんと1つになれたような感覚が大きくて、温かくていい空間にできたのかなと思いました。

SHISHAMO

──今回は何が違ったんですかね?

松岡 なんですかね? 10周年ということにちょっと浮かれてたんですかね(笑)。お祭り感もありましたし、みんなに感謝を伝えたいという気持ちもすごくありました。いつもはライブを成功させることに気を取られがちなんですが、今回はファンのみんなに対する思いが段違いに強かったからかもしれないです。

吉川美冴貴(Dr) お祝いをする意味での武道館公演だったので、「ステージに立っていろんなことに思いを馳せたりしたらエモくなっちゃうのかな」と思ってたんです。でも、誤解を恐れずに言うと、いつものライブと変わらないステージ上の自分たちと、皆さんの温かい空気がすごく幸せで。過去のことを思い出すというよりは、今のこの時間が過去を凌駕したいい時間になっていると思いました。過去を更新するライブを皆さんと作れたことがすごくうれしかったですね。

──「皆さんに生かされてる」とMCでも言ってましたね。

吉川 本当にその言葉通りだと思いました。

──宮崎さんはいかがでしょう?

宮崎朝子(G, Vo) 武道館公演は3回目ではあるんですが、自分たちも成長して年も重ねていく中で、武道館でライブできることのありがたみをこれまで以上に感じました。昔は、なぜ武道館でできるのか、会場にみんなが集まってくれるのかということをあまり意識していなかったというか。高校を卒業してすごいスピード感で武道館公演を2回やって、そういうことを考えてる暇もなかった。それから6年空いて、コロナ禍やいろんなことがあって、武道館でライブをやることの難しさ、お客さんが来てくれることのありがたさを実感して。ステージからお客さんを見たときに強く込み上げる気持ちがありました。それが不思議でしたし、自分の成長を感じた日でした。

SHISHAMO

──この状態は当たり前のことじゃないんだと実感したんですね。

宮崎 そうですね。でも、がんばらないとできないし、いろんな奇跡が起きて成り立つものなんだと感じましたね。前は子供だったんだなと思いました。

──吉川さんが面白い話をするライブ恒例のMC「吉川美冴貴の本当にあった○○な話」は今回グッとくるものでしたね。

宮崎吉川 暗いMC(笑)。

──(笑)。暗いというより、しんみりするようなもので珍しかったですが、お二人は事前に内容を聞いてたんですか?

宮崎 なんとなくの流れをライブ前に3人で考えるんですが、吉川さんのコーナーについても話し合っていて。打ち合わせのときはもっと前向きな感じだったよね?(笑)

松岡 うん、ちょっと違った(笑)。

吉川 楽屋で「だいたいこういう話をするよ」と伝えていたことと本質は変わってないんですけど、いざ具体的に説明しようとした結果、過去の挫折についてとか暗い部分が増えてしまって。それで、皆さんに心配されたのかもしれませんね。

宮崎 バランスの問題だね(笑)。

──結果的にジーンときてた人は多かったんじゃないでしょうか。

宮崎 確かに、終わったあとSNSで「MCがすごくよかった」と書いてくれてる人はいたんですけど、「そんなつもりじゃなかったのに」と思った(笑)。10周年だからこその話題ではあったね。

SHISHAMO
SHISHAMO

ライブで育った「恋する」

──セットリストにはどんな思いを込めましたか?

宮崎 とにかく10周年のお祭り感を出したかったので、2013年に出した1stアルバム(「SHISHAMO」)からみんなが楽しんでくれるであろう曲と、今のSHISHAMOもちゃんと知ってもらえるような曲を考えて、ベストなセットリストが組めたかなと思います。

──1曲目に披露されたのは「恋する」です。コンセプトアルバム「恋を知っているすべてのあなたへ」には「恋する -10YEARS THANK YOU-」バージョンが収録されていますが、改めてレコーディングしたことで、自分たちの成長をどう感じましたか?

宮崎 ライブでずっと育ててきた曲なので、私としては1stアルバムのときの「恋する」とはもう別物になっている感じがあって。だから今のSHISHAMOで「恋する」を録れたのはすごくうれしかったですね。松岡は前の「恋する」をレコーディングしたときはまだバンドに入る前だったので、録るのは今回が初めてだもんね。

松岡 はい。私は「恋する」のレコーディングに参加できたので、単純にうれしかったです。ライブで育った部分をちゃんと表現できたかなと思います。

吉川 1stアルバムの「恋する」はベストを尽くしてレコーディングした音源ではあるんですが、あの頃は自分ができることよりもすごく高いハードルに向かってなんとかがんばっていて。曲の持ってるエネルギーに自分が達していないという葛藤がずっとあったので、何十回もライブで演奏していく中で、今やっと曲のパワーに追い付いた状態で改めて形にできたのが本当にうれしいです。

──武道館でも宮崎さんと松岡さんは吉川さんに対して「自分のことを凡人だと言うけど、凡人の努力の仕方じゃない」と言ってましたね。

宮崎 そうですね。「暇なの?」と思うくらいいつも練習してるので(笑)。

松岡 「休んだほうがいいんじゃない?」と心配になるほど、自分で自分を追い込んじゃうところがある。

宮崎 でも、自分を凡人だと思って、いつまでも自分のことをヘタだと思いながらやってるから、ドラマーとして成長していくんだと思うし、SHISHAMO自体もそういうバンドでありたいと思います。奢らずにいる姿勢を大事にしたいですね。新曲を作るたびに壁にぶち当たるんですけど、努力して乗り越える。それでできることが増えていって、作る曲の幅も広がって成長できてるんだと思います。

──武道館を経て、気持ちに変化はありましたか?

宮崎 10周年に向けていろんなことを予定しているのに、あのライブで感じたエネルギーが大きすぎて、ちょっと終わった気持ちになりそうで。でも、3月に大阪城ホール公演もありますし、そこでもきっといい景色が見られるはずなので、モリモリやっていかないとなと思ってます。

SHISHAMO

スランプはない、曲作りが一番楽しい

──10周年のライブをやったり、コンセプトアルバムを作ったりすることで、これまでの曲と向き合う機会も多かったと思います。

宮崎 そうですね。自分自身が歳を重ねるにつれ、歌詞の主人公も少しずつ年齢が上がっているように思いますけど、それ以外に変わってることってあまりなくて。ずっと新鮮な気持ちで曲を作ることができてます。あと、特に意識してるわけではないんですが、ちゃんとSHISHAMOらしい音楽を作り続けられている気がして。

──コンセプトアルバムを聴いても、SHISHAMOがブレずに曲を作り続けていることがわかります。

宮崎 すべての曲にSHISHAMOの色が出てるとは思うんですが、例えば「君と夏フェス」はまさに恋の喜びを、「忘れてやるもんか」は恋の痛みを表現していて、対照的な世界だったりします。「こういう曲を作ったから、またそれに近い曲を作らないといけない」とか「こういう曲を求められてるんじゃないか」みたいな感情に囚われることもあったんですが、それでも自由にやれてると思います。環境においても、ずっと苦しまずに曲を作ってこれたことがありがたいなと思います。

──スランプはないんですか?

宮崎 感じたことはないですね。バンドをやってると、ライブをやったりこういう取材を受けたり、いろんなことがありますが、曲を作ることが一番楽しいなと最近すごく思います。というか、これまで苦に思ったことがない。別に取材が苦なわけじゃないんですけど(笑)。

──(笑)。そうなんですね。ミュージシャンから制作で苦労する話はよく聞きますけど。

宮崎 うちは詞先なのが大きいと思います。歌詞がないと曲が作れないし、歌詞でつまづくことがないから苦しんでないっていう。

SHISHAMO

──今回、ベストアルバムではなく、恋をテーマにしたコンセプトアルバムを作ったのはどうしてだったんですか?

宮崎 10周年記念で何かリリースしようと決まったときに、ベストは5周年で出したし(参照:SHISHAMO「SHISHAMO BEST」発売記念プレイリスト企画)、SHISHAMOがずっとやってきたことをもっと見てほしいという強い気持ちがありました。「明日も」っていう曲でSHISHAMOを知ってくれた人がたくさんいますが、あの曲はわかりやすく言うと応援ソングで、“応援ソングのSHISHAMO”っていうイメージを持ってる人が多かったんですね。でも、あの曲はSHISHAMOとしては相当珍しい曲なので、「私たちがやってきたことってそうじゃないのにな」というモヤモヤした気持ちがありました。じゃあ何をやってきたかというと、ずっと恋愛について歌ってきたので、それをコンセプトにしたアルバムを作りたいと思ったんです。

──そこからさらに、恋愛の“喜び”と“痛み”というテーマに分けた2枚組にしたのは?

宮崎 2枚組にすることが決まったときに、喜びをテーマにした“表盤”と痛みがテーマの“裏盤”に分けたら、恋愛ソングのよさがより伝わるんじゃないかなと思いました。ポジティブな曲でSHISHAMOを知って、失恋ソングにもハマってずっと好きでいてくれるお客さんが多かったので、表と裏に分けることでSHISHAMOの恋愛ソングの真髄みたいなところが一番見えやすいんじゃないかなって。でも、収録曲を決めるとき、痛みの曲が喜びの曲の3倍くらいあったんです(笑)。

吉川松岡 めっちゃあったよね(笑)。

宮崎 それですごく絞りました。自分たちが力を入れているのは痛みの曲ではあるんですけど、なかなか日の目を浴びないコアな曲も多かったので、こうやって形にできてうれしいですね。

次のページ »
失恋にも種類がある