試行錯誤の時雨流レコーディング ニューアルバム制作秘話を語る - 凛として時雨
ナタリー PowerPush
凛として時雨がニューアルバム「just A moment」を5月13日にリリースする。本作は、シングルとしてリリースされた「Telecastic fake show」「moment A rhythm」を含む計10曲を収録。バンドの新たな一面を提示する意欲的な内容に注目が集まっている。このアルバムについて、TK(Vo,G)、345(Vo,B)、ピエール中野(Dr)の3名に話を訊いた。
取材・文/岡本明
メロディも歌詞も毎日変化する
──アルバムとしては1年9カ月ぶりのリリースですね。間に「moment A rhythm」を挟んでいるので、変化してきたバンドの姿を提示しつつ、今回のアルバムに向かえたんじゃないかと思うんですけど?
TK でも、出したい音を変えていこうという時期でもないんです。今回のアルバムでは今までの時雨とは違う部分が少し見えたかなというくらいで。だから、僕らはそこまで意識はしてなくて、単純に今までの作り方で作品を作った結果、そう聴こえたのかなという感じですね。
──ただ、「moment A rhythm」は攻撃性の表現方法がこれまでと違いますよね。直線的に刺すように攻撃するわけじゃなく、違うところから攻めるような。
TK そうですね。その前に「Telecastic fake show」というシングルを出したんですけど、それは聴いた人が想像しやすい時雨の攻撃性、そういうタイプの楽曲だったんです。そのあとに、そうじゃない時雨の世界観をパッケージしてみたいというのがあって。その結果、特殊な作品になっているんです。そこが今までと違う形態だったというだけの話ですね。
──そういう流れや積み重ねがあって出来上がったアルバムなんですね。ということは、アルバムの方向性も見えやすかったんじゃないですか?
TK 見えやすかったと言いたいんですけど(笑)、毎回、作品を作るときはまったく見えない状態から始まるので。その2曲がスタート地点に自分を置いてくれてはいたんですけど、そこから先 は音を出しながら、自分が出したい音を探す作業を積み重ねていきました。フレーズやメロディを探す作業が長かったですね。
──それは個人作業の段階ですか?
TK それもありますし、曲の一部分、パーツが出来上がったとき、それを3人で具現化する作業の中でもありますね。3人で出したフレーズからどこに向かうかとか、それをどういった形でパッケージするかということもあって、そこでまた構築する時間がかかったり。一度フィックスしたものをもう一度アレンジし直したり、毎日それを繰り返したりするんです。同じ曲でも毎回フレーズが変わるんですよ。歌詞も変わる、メロディも変わる。違う曲になっていたりしますから。
──バージョンごとにいろんな曲が存在するような?
TK そうです、日替わりランチぐらいの勢いで変わっていきます(笑)。それも毎回という感じですね。
──それはどこで完成したという線を引くんですか?
TK 明確なボーダーラインというのは自分の中では見えてないですけど、音を聴いた瞬間、これだなって思う瞬間がなんとなくあって。もちろん、その瞬間の判断が必ずしも正しいわけではないんですけど、そのときにそう思ったら、作っている自分を遠ざけてもう一度聴いてみて、同じ感触を得られたらそこでOKというか。
──客観的に作品を眺める時間が必要なわけですね。じゃあ、制作のトータルな時間もかなりかかっているんじゃないですか?
TK でも、2、3カ月ですね。他のバンドと比べてというのはわからないですけど、割と短いと言われます。曲を作り始めてからマスタリングまで2、3か月なので。
──それはすごい集中力ですね。
TK そのときぐらいしか集中しないですから(笑)。
マスタリングのときもまだ曲を作っていた
345 今年の1月からレコーディングに入るという話は聞いていたんですけど、本当に入るのかなっていう感じで。曲がまだできてなかったりしたんですよ。だから終わったときは、ああ本当に 終わった、という感じでした。マスタリングのときまで曲作りしていましたから。
──やっていて、これって先が見えないなというのは?
345 まあ、見えないですね(笑)。
──ということは、形が見えた瞬間は満足度が高い?
345 私はそうですね。でき上がった後もよく聴きます。こっそり聴いてます(笑)。
──別にこっそり聴かなくても(笑)。短期間に集中した作業だったわけですね?
345 でも、意外とゆるい感じですよ、レコーディング自体は。空気が張り詰めているとかじゃないです。TKが怖いとかはないです(笑)。
ピエール中野 レコーディングはいつもどおりですよ。本当にわからないんですよ、どうなるか。パーツごとに聴かされたり、丸ごと1曲デモでもらうこともあるんですけど。「このリフに 対してリズムちょうだい」と言われて。入れると「ありがとう」で終わっちゃうんですよ(笑)。しばらくして、そのリフやパターンで構築した作品が戻ってきて、それをみんなで合わせてみる、その繰り返しですね。だから曲の展開もコロコロ変わっていくんですけど、その感じはずっと前から変わらずですね。僕にとってはそのパーツの段階でもものすごくカッコよくて、大好きなんです。それを持って帰って聴いているときが一番楽しい瞬間かもしれない。楽器が合わさってない状態だと、これどうするんだろうって全然わからないんです。そこから形になっていくじゃないですか、そういうタイプのバンドって珍しいと思いますね。
──上がってみて、実はこういう曲になったんだって思うことも?
ピエール中野 ありますよ。今回は特に多かったですね。メロディも歌詞も歌入れの直前まで決まらないこともあるので。
──それはある意味、新鮮ですね。自分が聴き手にもなれるというか。
ピエール中野 新鮮です。1曲目の「ハカイヨノユメ」はライブでもやっていたんですけど、割と変わりました。サイズも決まっていて、ドラムも録り終えて、という状態のときにミックス 作業の現場に行ったんですけど、だいぶ印象が変わっていて。いい方向になっていたんですけど。そういうのもあります。
──TKさんの頭の中で出来上がっていくのをみんなは待つしかないですね。
TK そうですね、僕も待ってますから(笑)。
CD収録曲
- ハカイヨノユメ
- Hysteric phase show
- Tremolo +A
- JPOP Xfile
- a 7days wonder
- a over die
- Telecastic fake show
- seacret cm
- moment A rhythm (short ver.)
- mib126
凛として時雨(りんとしてしぐれ)
TK(Vo,G)、345(Vo,B)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを虜にし続けている。