shallm「境界戦」インタビュー|才気あふれる19歳のボーカリストliaが紡ぐ、“境界”で戦う者の物語

19歳のボーカリストliaが中核を担い、作詞作曲を手がけるバンドプロジェクト・shallmの新曲「境界戦」が配信リリースされた。

shallmは今年9月に配信シングル「センチメンタル☆ラッキーガール」でユニバーサルミュージックのVirgin Musicからメジャーデビューしたばかり。今秋は「TOKYO CALLING 2023」や「FM802 MINAMI WHEEL 2023」といったイベントに積極的に出演し、12月には初ワンマンライブの開催も控えている。

音楽ナタリーでは今年3月に初のオリジナル曲「夢幻ホログラム」が発表されたタイミングからshallmの活動を追ってきた。liaに話を聞くのはこれで3度目となるが、純真無垢な彼女の言葉には、いつも独特の感性と才気が満ちあふれている。今回の楽曲のモチーフになっているのは、liaが好きだという、とあるマンガの主人公。インタビューを通して、彼女の頭の中をじっくりと紐解いていく。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作

緊張しすぎて冷静さを失った初ライブ

──liaさんはメジャーデビューシングル「センチメンタル☆ラッキーガール」のリリース日である9月18日にサーキットフェス「TOKYO CALLING 2023」に出演し、shallmとしての初ライブを行いました。

はい。

──さらに10月8日は大阪でショーケースフェス「FM802 MINAMI WHEEL 2023」に出演しましたが、まず初ライブ、率直に言っていかがでした?

もうとても緊張して、手足はブルブル震えるし喉は乾くし、過去に組んでいたバンドでライブをした経験はあるんですけど、ひさしぶりすぎて「ライブってどうやってするんだっけ?」みたいな。しかも初めてshallmのオリジナル曲を人前で歌うので「歌詞が飛んじゃったら?」「歌えなくなったら?」「お客さんが誰もいなかったら?」と不安でドキドキしていました。

shallm

──そのままじゃステージに上がれませんよね? どこかで腹を決めないと。

バンドメンバーの皆さんに「大丈夫ですかね?」と聞いて回っていたら「大丈夫だよ」と励ましてもらったので、「じゃあ大丈夫だ! よっしゃ行くぞ!」と決心がつきました。

──インスタに上げられていたライブ動画を拝見するに、よい出来だったのでは?

そう思っていただけてよかったです。ただ、自分はもっとできると思っているので、点数を付けるなら50点ですね。とにかく緊張しすぎて冷静さを失っていたので、どうしたら緊張しなくなるのか考えた結果、2回目のライブで目をつむればいいということがわかって。

──ステージ上で?

そうです。そうすると、当たり前ですけど何も見えなくて「あれ? ここはカラオケボックスかな?」みたいな感覚になって。緊張しがちな人にオススメです。

──僕もこういった取材は何回やっても緊張してしまうのですが……。

では、今日は目を閉じてやってみましょう(笑)。

──絵面的にヤバいですね。ともあれ、大阪のライブでは東京の反省を生かせたと。

私は大阪に行くのが初めてだったので、移動の時点から旅行みたいで楽しすぎて。前乗りはしたのですが朝からバタバタで、顔を洗って歯を磨いて会場に入ってリハをして……といろいろやっていたら終わっていました。東京のライブとは違って、家で不安がっている時間がなかったのもよかったかもしれませんね。あと「ミナホ」の空気って独特で、お客さんのノリがすごくよくて、みんな音楽が大好きなのが伝わってきたのもよかったです。

──東京でも大阪でも、反省点はあるにせよやれることはやったという感じでしょうか?

やり切りました。どちらもフェス形式のライブで、shallmを知らない方も多いというか、知らない方がほとんどだと思うので「12月のワンマンも来てほしい! お願い!」という気持ちもいっぱい込めて。

──10月下旬からは新宿駅南口で路上ライブをなさっていて、活発に動いていますね。

あれも「ワンマンライブ、来てね!」という意味合いが強いです。以前から路上ライブはよくやっていたんですけど、やっぱりひさしぶりなのでちょっと恥ずかしかったですね。南口は路上ライブをやっている方がほかにもたくさんいるので「負けないぞ!」と思いながら歌いました。

shallm

さまざまな葛藤の中、その境界で戦っている

──新曲「境界戦」はポップな「センチメンタル☆ラッキーガール」とは対照的な、シリアスなロックナンバーですね。

「境界戦」は、実は私の大好きなマンガの主人公に思いを馳せながら書いたんです。その主人公はある事故がきっかけで、人間と、人間ではない別の種族のハーフになってしまって。その境界で、さまざまな葛藤を抱えながら戦っている。だから「境界戦」なんです。

──ああー。なんとなくその作品の見当がついたのですが、そう考えると歌詞の見え方が変わりますね。例えば「喰らい合った」とか。

「何者にもなれない姿で」は、人間と人ならざるもののどちらでもあり、どちらでもない主人公のことです。「肺に疼いた衝動」は、主人公があるものを食べたいという欲求に駆られたときに呼吸が荒くなるシーンを思い浮かべて書いていたり、ほかにもたくさん要素をちりばめていて……。

──「センチメンタル☆ラッキーガール」はドラマ「女子高生、僧になる。」のオープニング主題歌でしたが、ドラマの主題歌というお題があったほうが歌詞を書きやすいと話していましたね(参照:shallm「センチメンタル☆ラッキーガール」インタビュー)。

そうなんです。私の19年のちっぽけな人生で言えることなんてそんなに多くないと思うので……。

──そんなことないでしょう。

だから、映画とかマンガの主人公の濃い人生をちょっとお借りして。実は、リリースは未定なんですけど、ほかにもとあるアニメ作品をイメージして書いてる曲が2曲あるんですよ。

──でも、shallmの初オリジナル曲「夢幻ホログラム」(2023年3月配信)では、事務所の先輩であるAdoさんのライブを観たご自身の体験を歌詞にしていましたよね(参照:shallm「夢幻ホログラム」インタビュー)。

あれは、ちっぽけなりに、思ったことを書いてみました。

──素敵な歌詞でしたよ。ちなみに、その次にリリースした「短夜の星」(2023年5月配信)は?

ちっぽけな私の体験と、「殺さない彼と死なない彼女」という映画のミックスみたいな感じで、会いたくても会えない人のことを思って書きました。この「殺さない彼と死なない彼女」はめっちゃいい映画なのでオススメです。ぜひ観てください。

──曲の宣伝をしましょうよ(笑)。

「短夜の星」も聴いてください!

人間同士でもわかり合えないことはたくさんある

──「境界戦」はとあるマンガ作品をモチーフにしたとのことでしたが、liaさん自身の気持ちなりメッセージなりを重ねている部分もあるのでは?

さっきの「何者にもなれない姿で」はそのマンガの主人公のことであると同時に、どこにでもいる平凡な自分のことでもあって。私も自分は何者なのか、なんのために生きているのかわからなくなることがあるんです。あと作品内では人間と、人間ではない別の種族という相容れない、わかり合えない存在の関係が描かれているのですが、現実でも、同じ人間同士なのにわかり合えないことはたくさんありますよね。

──めちゃくちゃあります。

私も「この人とは絶対にわかり合えない」と思ったりするんです。でも、わかり合えないことを理解したうえで、お互いを認め合うことはできるんじゃないかなって。それから「会えたのは偶然か? それか既に決まったフォーチューン」というのも、私が普段からよく考えていることなんですよ。

──運命みたいなものを信じるタイプ?

「運命なんじゃないか?」と考えるのがすごく好きです。自分のとった行動とか、その結果起こったことはあらかじめ全部決まっていて、例えば今こうやって(水の入ったペットボトルに手を伸ばしながら)お水を手に取ることすら決まっていたのかなって。

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──そういえば「センチメンタル☆ラッキーガール」でも、たまたま見たテレビの星座占いで自分の星座が1位だったことに運命的なものを感じたとおっしゃっていましたね。

運命だと思うと、なんだか楽しくなっちゃいます。

──「境界で戦う」ことについてはいかがですか? モチーフになったマンガの主人公には人間として生きるか、人ならざるものとして生きるかという葛藤があって、歌詞には「ジレンマ」という言葉も使われていますが。

うーん……朝、起きなきゃいけないんだけど、まだ寝ていたいとか?

──思ったより手近な例を挙げてきましたね。

だから私はちっぽけな人間なんです(笑)。

──では「不条理」は? これは主人公が、自分の意思に反して別の種族とのハーフになってしまったことを指していると思いますが、liaさんが不条理だと感じることは?

駅とかで、わざとぶつかってくる人がいるじゃないですか。こっちはただ歩いているだけなのに、いきなり肩をぶつけてきて、怖いし、痛いし。

──腹立たしいですね。「境界戦」の歌詞は全体としてネガティブではありますが、ネガティブなりに、ある種のエールソングのようにも聞こえます。

それはもう、主人公に幸せになってほしいから。