19歳のボーカリストliaが中核を担い、作詞作曲を手がけるバンドプロジェクト・shallmが1stフルアルバム「charme」をリリースした。
shallmは昨年9月に配信シングル「センチメンタル☆ラッキーガール」でユニバーサルミュージックのVirgin Musicからメジャーデビューし、精力的に楽曲を発表してきた。満を持してリリースされる1stフルアルバムには、アニメ「姫様“拷問”の時間です」のオープニングテーマ「まっさかさマジック!」やドラマ「私をもらって~追憶編~」の主題歌「ヘミニス」などの既発曲に、新録3曲を追加した計13曲を収録。「魅力、魅了する、魔法をかける」を意味するタイトル「charme」の通り、shallmの多彩な魅力を詰め込んだ1枚となっている。
秋に複数のイベントに出演予定で、来年3月には3度目のライブ「shallm 3rd Live 決起集会」を控えているshallm。音楽ナタリーではliaにインタビューを行い、アルバムの制作過程ついて語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
負の感情を曲にするのが好き
──shallmは今年3月から8月にかけての6カ月連続配信リリースを含めて、昨年9月に配信シングル「センチメンタル☆ラッキーガール」でメジャーデビューして以降、毎月のようにリリースをしています。以前のインタビューで「事務所に所属してから最初に10曲ぐらい、一気に曲を作った」とおっしゃっていたので(参照:shallm「センチメンタル☆ラッキーガール」インタビュー)、ある程度はストックがあったと思いますが、飛ばしていますね。
新規で書き下ろした曲もあるんですが、おっしゃる通りもともとあった曲を出していったところもあり、純粋に楽しかったです。毎月新曲をリリースしていくことで、毎月自分の名刺が増えていくような感覚もあって。持ち曲はあっても、音源として配信されていないとライブでしか聴いてもらえないことにもどかしさを感じてもいたので、いつでも聴いてもらえる状況になったのが何よりうれしいですね。
──それらのメジャーデビュー以降に配信されたシングル曲に、新たに3曲加えて1stフルアルバム「charme」としてこのたびリリースされました。ちなみに、shallmとしては初のCDリリースになりますね。
はい。もううれしくて、家のどこに飾ろうか迷っています。アルバムタイトルの「charme」には「魅了する」「魔法をかける」という意味があるので、パッケージなどのアートワークも魔法をイメージして作っていただきました。
──liaさんがアートワークの監修的なことをなさったと。
そういう感じです。アルバムの中身に関しては、メジャーデビューして以降に出したシングル集みたいなところもあるんですけど、なんらかのテーマは必要だと思って、リード曲の「暴動」を書き下ろしました。
──アルバムを通して聴いて、改めてshallmはロックバンドであるというのを強く感じました。かつ、ロックはロックでも曲によってシリアスだったりポップだったりダンサブルだったりと、実に多彩ですね。
ありがとうございます。私は普通に生活していてもいろんな気持ちになるし、その都度いろんな曲を聴くので、アーティストとしてもいろんな気持ちに寄り添える曲を作りたいなと思っているんです。と言っても、私は基本的に負の感情を曲にするのが好きで。例えば怒っていたり悲しんでいたりするときに……もちろん怒りにも悲しみにもそれぞれいろんな原因や背景があると思うんですけど、そういう状況にフィットするような曲を作っていきたいです。
選択しなかった未来の話
──例えば6カ月連続リリースのうち、8月配信の「脳内ディストーション」はあからさまにイラついていますよね。
まさに、自分が相当イライラしていたときに書いた曲です。そのイライラの原因はちょっと覚えていないんですけど(笑)。
──liaさんの書く曲は基本的に、どこかひねくれていたり影があったりして、100%ハッピーな曲はないですよね。「センチメンタル☆ラッキーガール」や「まっさかさマジック!」(2024年1月配信)のような、コメディ寄りのドラマやアニメのタイアップ曲は置いておいて。
楽しいときとか調子がいいときの気持ちって、それ以上でも以下でもないというか、自分の中で完結してしまう感じがして。もちろん楽しい曲がそういう気持ちを高めてくれることもあると思うんですが、私は気持ちが落ち込んだときとかに悲しい曲を聴いて、自分の気持ちを整理したりする時間が好きなんです。そうすることで癒されることもあるし、だから負の感情を歌っている曲に惹かれてしまうんじゃないかな。
──「脳内ディストーション」のような、怒っている曲の場合はストレス発散みたいな効果も?
大いにあります。「脳内ディストーション」はライブで歌うとすごくスカッとするんですよ(笑)。
──一方で、3月配信の「花便り」のような優しいバラードもあったりして。この曲はshallmにしては比較的シンプルというか、ほぼAメロとサビだけで構成されていて、それも新鮮でした。
私は季節に合わせた曲を作ることがけっこう多いので、配信するときも、その月に合いそうな曲を選んでいて。よく春は出会いと別れの季節と言われるじゃないですか。そんな春の始まりにふさわしい、これから新学期や新年度を迎えるみんなを後押しできるような曲にしたいなと思って「花便り」を作りました。自分としては“母の愛”を題材にしているんですけど、例えば不安になったりしたときに、誰か1人でも無償の愛をくれる人がいたらがんばれるんじゃないか。そういう気持ちで書きました。
──4月配信の「if 1/2」も季節的には春の曲ですが、こちらは進路みたいなものをテーマにしている?
そうです。選択しなかった未来の話ですね。私も「あのとき、ああすればよかった」と思うことが、昔はすごく多かったんですよ。でも、いつからか考え方が大きく変わって、最近はちゃんと割り切れるというか「それも運命だったんだな」みたいな。
──そういえば、以前「『運命なんじゃないか?』と考えるのがすごく好き」とおっしゃっていましたね(参照:shallm「境界戦」インタビュー)。
好きです。「すでに結果は決まっているから、自分が今したことは失敗じゃない」と(笑)。例えば、私もたまに「プロのミュージシャンを目指さず、大学に進学していたら……」みたいなことを考えることがあるんですけど、「今が一番楽しい!」「この道でよかった!」と思っています。
自分は無数にある星屑の中の1つ
──ここからは新録曲のお話を伺っていきますが、「閃光バード」「stardust」「暴動」の3曲のうち、「stardust」はすでにライブでは披露していますよね。
はい。「閃光バード」とリード曲の「暴動」はアルバムを作るにあたって書き下ろした曲なんですが、「stardust」は事務所に入ってすぐに書いた10曲のうちの1曲で、去年の秋頃には完パケしているんですよ。だからライブでは何回も歌っていて、やっと正式な音源として発表できてうれしいです。
──ノイジーなギターロックで、ボーカルも非常にパワフルですね。これはshallmの曲に共通することでもあるのですが、歌えたらめちゃくちゃ気持ちよさそうなメロディラインと歌詞だなと思いました。
「stardust」は地声で気持ちよく歌える限界ギリギリの高さの、ベストな音域で作れたかなと思います。自分としても歌っていてすごく楽しいですし、ライブで歌うと自分が活気付くというか、やる気のスイッチがバチっと入ります。なので、必ずセットリストに入れてしまう、お気に入りの曲です。ただ、作詞はかなり苦戦した記憶がありますね。「stardust」はメロを先に作ったんですけど、そのメロと歌詞の語呂を合わせるのがすごく難しくて。
──歌詞の内容としては、自分に納得していないというか、満足していないというか……。
ハチ(米津玄師)さんの「砂の惑星」のミュージックビデオを観ていたら、ふと自分が街のざわめきの中を1人で歩いているシーンが頭に浮かんで。そのイメージをもとに書き始めていったら、自分の存在価値を見つめ直すような歌詞になりました。自分は無数にある星屑の中の1つみたいな、ちっぽけな存在だなって。私は星座が好きなので、よく星に絡めて歌詞を書いてしまうんですけど。
──ちっぽけなりに、例えば「僕が僕を諦められないから」とか、自分が自分であるために抵抗している感じもありますよね。
自分との戦いみたいな曲でもありますね。
甘すぎないラブソング
──「閃光バード」は、非常にダウナーなバラードですね。アルバムの曲順の妙もあると思うのですが、「閃光バード」の前に「センチメンタル☆ラッキーガール」と「まっさかさマジック!」という、shallmのディスコグラフィの中でもとりわけポップな2曲が並んでいるので、落差がすごい。
「閃光バード」は、アルバムのどこに入れるかすごく迷ったんですよ。どこに入れても暗くなるし、例えばほかのバラードと並べてしっとりした流れの中で聴いてもらうことも考えたんです。でも、私としては「閃光バード」をもうちょっと目立たせたかったので、いっそ今まで出してきた曲の中でも特に楽しい「まっさかさマジック!」のあとに入れてみたという。だから賭けだったんですけど、ギャップを感じてくださったならよかったです。
──話が逸れますが「まっさかさマジック!」はアニメ「姫様“拷問”の時間です」のオープニングテーマで、shallmにとって初めてのアニメのタイアップ曲でした。それ以前に担当したドラマの主題歌とはまた違った反応があったのでは?
Xとかで反応を見ていると、コメントにシンパシーを感じるんですよ。私もアニメが好きなので、自分とボキャブラリーが似ているなって。あと、聴いていて思わずジャンプしたくなるポイントのことを「跳びポ」と言うらしいんですけど、「跳びポで天井突き破った」と言ってくださる方もいて。そういう、ある意味ラフな反応は、ドラマの主題歌を歌ったときにはなかったんじゃないかな。
──例えば7月配信の「ヘミニス」はドラマ「私をもらって~追憶編~」の主題歌でしたが、こちらはどんな反応が?
「ヘミニス」はバラードだったこともあってか、今思えばコメントが上品だったかもしれません。もちろんどんな反応でもうれしいし、そこに優劣も何もないんですけど、タイアップによって反応が変わるというのが、自分としては面白い発見でした。
──また話が逸れてしまいますが、「ヘミニス」はラブソングでありながら、あくまでバンドサウンドを基盤にしていて、かつ歌詞もそこまで甘々じゃないのが、ロックバンドとしていいバランス感覚だと思いました。
もともと「甘すぎないラブソング」というオーダーがあったので、そこは意識していたんですけど、「甘すぎない」とはどういうことか、かなり悩みましたね。私はあんまりラブソングを聴かないので、いろんなラブソングを聴いたりしながら「甘すぎない」ラインを探っていったんです。最終的に、恋愛に限定されない大きな愛をイメージして作ったら、ちょうどいいところに着地できました。
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四季の中で夏の曲が一番好き