私自身もただ明るい人間ではない
──「きっと私を待っている」には野村さん、トオミヨウさん、會田茂一さんがプロデューサーとして参加されていて、花さんのセルフプロデュース曲もありますが、作品として統一感がありますよね。そして野村さんの曲はどこに置いても違和感がない気がします。
関取 そうなんです。「君によく似た人がいる」でも「君の住む街」以外が全部セルフだったんでちょっと心配だったんです。でも全然浮かないし、ライブのセットリストにおいても同じなんです。
野村 そう言えば、今回僕がプロデュースした2曲は、どちらもちょっと悲しみを感じる曲ですね。
関取 「逆上がりの向こうがわ」を出したあと、煮詰まってる時期に書いたからですね。
野村 「太陽の君に」を歌った人が「逃避行」ですからね(笑)。「どうした? 何があった?」と思いました。
関取 「太陽の君に」といろんなことを逆にして、対比させたかったというのもあります。マネージャーさんと「もちろんああいう曲は大切だし大好きだけど、作家性というか、自分の核をなす部分をちゃんと出しといたほうがいいよね」という話をして。私自身もただ明るいだけの人間ではないので。
野村 「はじまりの時」は最初、「New Journey」というタイトルだったんですけど、失礼な話だと思いつつも「タイトルを変えたほうがいいよ」と言ったんですよ。
関取 タイトルはいつも何も考えてないんです……。
野村 すごく素敵な歌だし、完成した音源を聴いてもめちゃくちゃいいと思うんですけど、もしこれが「New Journey」だったら、歌の伝わる度合いが半減してただろうなと。シンガーソングライターの曲にはなるべく口を出したくないんですけど、この曲に限っては「はじまりの時」になってよかったなと思います。
「家路」は関取花印のハンコが押してある曲
──花さんプロデュースの「家路」は新境地を感じさせる曲ですね。
関取 ホントですか?
野村 これもめっちゃいい曲! 僕はキャロル・キングがOasisとやってるイメージが浮かびました。
関取 えっ、すごい! 一緒にレコーディングしたメンバーとまさにそういう話をしてたんですよ。私、1970年代に活動していたGallagher & Lyleがすごい好きで。スコットランド出身なんですけど、アメリカ文化を意識しているのか、アルバムのジャケットがウェスタンブーツだったりして(1974年リリースの「The Last Cowboy」)。サウンドもアメリカンなんだけどUKの感じもあり。アイゴンさんにお願いした「青の五線譜」も含めて、今回のミニアルバムはそういう雰囲気が強いかもしれない。それと「玄人になりすぎない感じがほしい」という話をメンバーとはしてました。
野村 僕、花ちゃんのセルフプロデュースの曲もめっちゃ好きなんですよ。なんならこういう曲も一緒にやりたいなと思うぐらい。
関取 え! お願いしたい!
野村 「家路」は関取花印のハンコが押してあるような曲だよね。花ちゃんの新しい発見をお手伝いさせてもらえるのはすごく光栄だけど、僕はいちファンでもあるから、こういうのを聴くとうれしくなる。
関取 このアルバムはどの曲もライブでやるのが楽しみです。もちろん曲によっては編成が違ったりはするんですけど、ライブで演奏するイメージが見えない曲がないんです。
野村 そういえば、「考えるだけ」にはマリンバが入ってるよね。めっちゃ上手な。
関取 これはシーナアキコさんに弾いてもらいました。
野村 Instagramを見たらおもちゃの楽器がいっぱい並んでたけど、あれは「考えるだけ」のレコーディングのときの様子?
関取 そうです、そうです。
野村 お会いしたいなあ。紹介してくれる?
関取 はい! シーナさんには長崎のライブで一度、鍵盤で入っていただいたんですけど、そのときに柔軟な発想で演奏してくださって。どんな曲を書いても何かしらやりようがあるんだなと思わせてくれたし。そのとき、絶対に次のレコーディングにはこの人を呼びたいと思って依頼したんです。シーナさんは、お子さんができてからそれまで「ちゃんとやらなきゃ」と力が入っていたのがほどけて、音楽をやるのがすごく楽しくなったって話していて。そういう考え方を知ることですごく救われたんですよね。
「むすめ」を再録するなら……
──僕は新作全体を通して今後の関取花の可能性を感じました。メジャーデビュー作の「逆上がりの向こうがわ」があったからこそ生まれた作品というか。
関取 まさにそうです。28歳でメジャーデビューしたことは、なんの実績もなかった20代前半とは意味が違って。地道に階段を登ってきて、ポンとお立ち台に乗っかった以上、ここで売れなきゃどうするんだみたいな。売れることはもちろん大事だし、前作はそれを意識しながら作ったのでその意味では正解だったし、自分でもいい作品だとも思うんです。でも、みんなに好かれるような曲を作ることを意識しすぎて、自分を置いてきぼりにしちゃってたというか。それに気付いて沈んだときに、どういう状態で売れたら自分も周りもハッピーになれるのか……と考えるようになって、そこからだいぶ気が楽になったんです。
野村 その思いは曲を聴いてても伝わりますね。個人的なことを言うと、もう少しあとでもいいけど、花ちゃんにとっての森山直太朗さんの「さくら」みたいな曲を作ってほしい。朴訥としているけど、老若男女に問答無用で届く曲。それで言うと「むすめ」にはすごい歌の力を感じるんだよね。聴くたびに泣けるし、最高だなと思います。
──その「むすめ」を野村さんと一緒に録り直してみてもいいかもしれないですね。
関取 ね。面白いかもしれない。
野村 いやいや、オリジナルを超えられないから(笑)。
関取 確かに当時、自分の環境と歌が完全に合致した状態で録ったし。
野村 ギターのちょっとノイジーな感じとかもめっちゃくちゃいいのよ。高いスタジオでキレイに録ればいいという話じゃなくて、初期衝動のエネルギーは音質がどうとかは関係ないんです。最初に歌ったバージョンにはそのときの気持ちも真空パックされてて、本当にいいんですよね。もし「むすめ」を再録するなら、花ちゃんが娘を産んだあとに録るのであれば意味があるかなって思います。もしそういう話があったら、絶対に声をかけてほしい(笑)。
関取 そうなったらやばいですねー。
野村 「もしも僕に」(2017年2月リリース「君によく似た人がいる」収録)も最高だよね。「もしも僕に」と「むすめ」は、自分に子供がいてもいなくても同じ気持ちで聴ける曲だと思う。こんなこと歌える人、僕は知らなかったから。この2曲は関取花というアーティストの一番のアイコンですよ。
関取 めっちゃうれしい……でも、いつもいいこと考えながら生きてるわけじゃないから(笑)、何曲も書けるわけではないんですけど、いいタイミングでポロッと出てきて、それが直太朗さんの「さくら」みたいになったら最高ですね。
※記事初出時、本文中の一部曲名に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
ツアー情報
- 関取花「春の五線譜ツアー」
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- 2020年4月4日(土)北海道 cube garden
- 2020年4月5日(日)新潟県 ジョイアミーア
- 2020年4月10日(金)岩手県 the five morioka
- 2020年4月11日(土)宮城県 誰も知らない劇場
- 2020年4月16日(木)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2020年4月17日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2020年4月19日(日)福岡県 Gate's7
- 2020年4月24日(金)大阪府 Music Club JANUS
- 2020年4月30日(木)東京都 マイナビBLITZ赤坂
2020年3月4日更新