音楽ナタリー Power Push - 関取花「黄金の海であの子に逢えたなら」特集 関取花×鴻上尚史対談

“野望”抱くシンガーを支えた演劇界の大御所

初のフルアルバムとなる「黄金の海であの子に逢えたなら」を9月2日にリリースした関取花。彼女の作品を高く評価する著名人の1人に、劇団「第三舞台」の主宰として知られ、現在は「KOKAMI@network」(コウカミ・ネットワーク)や「虚構の劇団」で活動を行う鴻上尚史の名が挙げられる。音楽ナタリーでは関取と鴻上の対談を企画し、出会いのきっかけやお互いの魅力について語ってもらった。対談の途中、関取はミニアルバム「いざ行かん」発表後スランプに陥っていたことも明かす。苦悩する彼女を鴻上がどのようにアシストしたのかも話題となった。

取材 / 成松哲 文 / 高橋拓也 撮影 / 上山陽介

1人だけ青春の輝きから取り残されている

──2013年4月頃、鴻上さんが「関取さんの『むすめ』に最近ハマっている」というツイート(参照:鴻上尚史(@KOKAMIShoji) | Twitter)を公開されたのが、お2人の関わるきっかけだったそうで。

関取花

関取花 エゴサーチして見つけました(笑)。鴻上さんがTwitterをやっていたことは知らなかったので、最初は嘘かなって思って。

鴻上尚史 あ、アカウントが嘘ってこと?

関取 そうですそうです。よくあるじゃないですか、botとか。

鴻上 なりすましってことね。

関取 でも「鴻上さん本人のつぶやきじゃなかったとしてもいいや」と思って、すぐアカウントに「ありがとうございます!」ってリプライを飛ばしました。

鴻上 で、2013年の5月から6月にかけて上演した「キフシャム国の冒険」のときじゃないかな。花ちゃんが楽屋に来てくれて。

関取 有名な方に対してプレッシャーを感じてしまうことがあるんですけど、鴻上さんに初めて会ったときはそういう雰囲気はなかったのですごく楽しくお話できたんですよ。

──鴻上さんが関取さんを知ったきっかけは?

鴻上 「むすめ」についてつぶやく以前、俺は「PlayYou.House」で花ちゃんを見つけたんですけど……。

──シンガーソングライターが共同で楽曲制作をしたり、ライブしたりする様子を動画配信していたソニーのシェアハウス企画ですよね。関取さんやGoose houseなんかが参加していた。

鴻上 文化祭みたいにワイワイしてるほかのメンバーと違って、1人だけ青春の輝きから取り残されている感じの花ちゃんに興味を持って、探っていったら神戸女子大学のCMで使われてた「むすめ」って曲にたどり着いたんだよね。

──関取さんの楽曲に惹かれた理由はなんだったんでしょうか?

鴻上尚史

鴻上 花ちゃんは自覚してるかわかんないけど、声にすごく力があってね。花ちゃんと(齊藤)ジョニーさんが「汽車のうた」を演奏してる動画があるんだけど、それでまずハマったんだよね。あとはインタビュー記事を読んでみると、中学生のときにバスケ部を引退したあと、卒業前でやることもないからカラオケボックスで歌っていたと言っていて(※参照:関取花「中くらいの話」インタビュー)。

関取 で、一緒に行ったバスケ部のみんなに褒められたから……。

鴻上 歌おうと思ったっていう。この無自覚さっていうか「これだけの声を持ってて、始まりはそんな理由か!」みたいな。そういうのもまた面白かったですよね。

──鴻上さん言うところの「青春の輝きから取り残された」ルサンチマンみたいなものから歌い始めたのかと思いきや(笑)。

関取 そうではなくて、褒められたいから歌ったっていう(笑)。

鴻上 あはははは(笑)。

関取 「あー、いいね」みたいな感じじゃなくて、「えっ!? すごいね!」ってニュアンスで褒められたこと自体初めてだったので。「これは歌を伸ばしていくのもありなのかな」と思ったんです。

関取花(セキトリハナ)
関取花

1990年12月18日生まれの女性シンガーソングライター。幼少期をドイツで過ごし、日本に帰国した後の高校時代より軽音楽部で音楽活動を始める。2009年には「閃光ライオット2009」で審査員特別賞を受賞し、2010年に初の音源となるミニアルバム「THE」をリリース。2012年には神戸女子大学のテレビCMソングに採用された「むすめ」が話題を呼び、同11月には「むすめ」を含む全6曲収録のミニアルバム「中くらいの話」を発表した。2014年2月には3rdミニアルバム「いざ行かん」を発売し、同年7月よりFm yokohamaでレギュラー番組「どすこいラジオ」がスタート。2015年9月2日にニューアルバム「黄金の海であの子に逢えたなら」をリリースした。

鴻上尚史(コウカミショウジ)

1958年愛媛県生まれ。早稲田大学在学中の1981年に劇団「第三舞台」を結成し作・演出を手がける。1987年上演の「朝日のような夕日をつれて」で第22回紀伊國屋演劇賞、1994年上演の「スナフキンの手紙」で第39回岸田國士戯曲賞など数々の賞を受賞する。「第三舞台」は2011年の「深呼吸する惑星」の上演後解散。現在はプロデュースユニット「KOKAMI@network」と若手の俳優らとつくった「虚構の劇団」で作・演出を担当。舞台公演のほかにも映画監督や小説家、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。近著に、「幸福のレッスン」(大和書房)、「クール・ジャパン!? 外国人からみたニッポン」(講談社新書)など。