ナタリー PowerPush - 赤飯

甘さと辛さの新食感!アルバム「赤BAN」の真実

アウトプットせずにいれない気持ちが詰まったhate3部作

──hate3部作で、ある種の憎悪というか、ネガティブな感情を表したのはなぜですか?

それはまあ内に秘めてるものだからしょうがないですね……(笑)。僕、めちゃめちゃネガティブですからね。 書く歌詞、書く歌詞、全部ネガティブだから、よく「胃もたれして気楽に聴けない」って言われます。

──でも、そういう気持ちを曲として表現する意味は?

そのとき感じたものをアウトプットせずにはいられないからですかね。今回のhate3部作は、僕が作詞した「アリスインミルクランド」も含め、音楽の力を借りて個人的に攻撃してるんです。かなりドロドロしてますよ。

──えっ、攻撃!?

はい、そうです。攻撃です。人間のクズみたいなやつに向けて。音楽ってそういう使い方もあるんですねー。あはは(笑)。

──は、はい(笑)。

鬱Pが送ってくれたデモ音源をお風呂の中で聴きながら歌詞を書いてたんですけど、ちょうどそのときもhateではらわたが煮えくりかえっていたタイミングだったので「あのクズほんまどないしたろかな……」っていう憎しみの気持ちをどんどん吐き出しました。歌にも「クソが!クソが!」っていうどうしようもない気持ちの高ぶりがよく出てると思います。(ここで赤飯の携帯が鳴り)あっ、スズムからですね。 ちょっと出ていいですか?

──はい、どうぞどうぞ。

偶然コーディネートがかぶった赤飯とスズム。靴下の色まで同じだ。

もしもしー!(以下略。電話を切り)あ、失礼しました! 写真OKだそうです。

──ありがとうございます! でも、このタイミングでスズムさんから電話ってすごい偶然ですね。

ねー! ほかの曲のアレンジがいい感じでできたよっていう報告でした。

──話は戻りますが、hate3部作はテーマが一緒でも歌い方がまったく違っていて。その振り幅にも驚かされました。

スズムと鬱Pのサウンドは、それぞれ歌のアプローチが全然違いますね。リズムの細かさがまず違うんで。スズムの曲に対して鬱Pの曲の歌い方をすると……単純に歌えないですね(笑)。逆もまたしかりです。曲によって、そのへんの歌い方の区別はしてますよ。

「暴れ」しかないみたいなイメージを払拭していきたい

──そんなhate3部作の一方で、心穏やかになる美しいメロディの曲もありましたね。

あ、最後の「またあした」ですか? これは確かにhate3部作と一番対極の位置ですね。僕、昔からすごくおばあちゃん子で、この曲はおばあちゃんに聴いてほしくて歌ったんです。レコーディングも、小さいときの僕とおばあちゃんを想像しながら歌いましたね。

──そうだったんですね。優しい歌声が今作の中では異質な輝きを放ってるなって。

1番はピアノの伴奏だけなんですけど、そこはおばあちゃんが小さい頃の自分に子守唄を歌ってくれてるような気持ちで。2番は、おばあちゃんと夕暮れの中を散歩してるイメージで歌いましたね。最後は少し力強くなるんですが、そこはおばあちゃんの人としての強さみたいなものを表現しました。

──赤飯さんの、本当におばあちゃんが好きな気持ちが伝わってきます。

赤飯

おばあちゃん、僕の今までのアルバム全部聴いてくれてるんですけど、やっぱりうるさい歌が苦手みたいで(笑)。「あれはもう聴いてられへんわー」とかいう曲もけっこうあるので。ちなみに以前リリースした「赤飯おばあちゃんの昔話」は途中で停止ボタンを押したって言ってました。やったね!……と、話はそれましたが、とにかく1曲でもいいから今回も絶対おばあちゃんに喜んでもらえるやさしいものを作りたいなって。おばあちゃんが聴いて安心できるような歌を届けたかったですね。

──ちなみに、この曲で出してるような声って、歌っててどうですか?

すごくラクですよ(笑)。やったね!

──今後はこういうテイストの曲も増えていく? いい意味で、すごく大衆的なJ-POPという感じがしました。

もちろん、自分が納得してやれることはどんどんやりたいです。やたら叫んだりギャーギャー言っててうるさいとか、そういう「暴れ」だけしかないというイメージは払拭したいですよ。それだけしかない人間って思われるのは本当につらいですからね。そういう意味でも「またあした」は自分が持ち合わせている純粋な部分を引き出して形にしてくれた大事な曲です。

最初の頃は「俺がいいと思ってるからこうだ」って思ってた

──__(アンダーバー)さんとのコラボ曲「たのしいホームワーク」に関してはいかがでしょう?

うーん。ほんとはもっとじっくり録音していろいろ詰めていきたかったけど、一緒に作業できるまとまった時間がお互いにうまいこととれなくて。せっかくアンちゃんと一緒にやれたのに、やや薄味になってしまった感があって。ギリギリのタイミングでちょっと自分で味付けしてみたんです。(iPadを取り出し)僕、サンプラーを使って遊ぶのが好きなんです。この中に録らせてもらった友達の声やら、いろんな音がいっぱい入ってて。最終的にはアンちゃんと自分の声だけでなく、かなりの人の声が入り乱れる仕様になりました。10人以上登場してますよ。一番活躍してるのは……ふわりPですかね。ソロパートもありますし(笑)、いつの間にやら大所帯コラボです。

──投稿済みの楽曲も収録されていますね。例えば「吉原ラメント」は昨年11月に投稿済みの曲ですが、録音時のエピソードはありますか?

赤飯

11月かー。早いですよね。これは当時できたパフォーマンスでは一番いいものが出せたと思ってます。何回も何回も録り直して。仕上がった歌を聴いてもらって、意見をもらっては録り直して……っていう事を繰り返してブラッシュアップさせて、この形に落ち着きました。

──そういうときは、自身でテイクのジャッジをするんですか?

いや、これができないんですよ。だから本当にいろいろ意見を参考にしながら録り直して、よくなっていった感じですね。僕もまだまだ勉強中の身だし、自分では気付けないこともいろいろあるので。

──ちなみに、以前からずっとそういうスタンスですか?

いや、最初の頃は「自分がいいと思ってるからこうだ」って感じでした。でもそれがいいときもあれば悪いときもあって。どうしても1人で作業してると視野が狭くなっちゃうんですよね。いろんな人の意見を聴くことで自分にはなかった発想が得られたり、よりよいものが作っていける今の作り方や歌のほうが僕は好きですね。

ニューアルバム「赤BAN」 / 2013年6月19日発売 / 2000円 EXIT TUNES QWCE-00255
ニューアルバム「赤BAN」
収録曲
  1. 赤心性:カマトト荒療治
    [作詞 / 作曲:スズム]
  2. いーあるふぁんくらぶ
    [作詞 / 作曲:みきとP]
  3. Bad ∞ End ∞ Night
    [作詞:ひとしずく / 作曲:ひとしずく×やま△]
  4. 古書屋敷殺人事件
    [作詞 / 作曲:てにをは]
  5. 竹取オーバーナイトセンセーション(Sharp Rock arrange / suzumu)
    [作詞 / 作曲:Gom(HoneyWorks)編曲:スズム]
  6. ポーカーフェイス
    [作詞 / 作曲:ゆちゃP]
  7. 嗚呼、素晴らしきニャン生
    [作詞 / 作曲:Nem]
  8. 「Crazy ∞ nighT」
    [作詞:ひとしずく / 作曲:ひとしずく×やま△]
  9. 吉原ラメント
    [作詞 / 作曲:亜沙]
  10. 如月アテンション(starpop's arrange / suzumu)
    [作詞 / 作曲:じん(自然の敵P)編曲:スズム]
  11. 人生リセットボタン
    [作詞 / 作曲:kemu]
  12. 異国人形館殺人事件
    [作詞 / 作曲:てにをは]
  13. たのしいホームワーク / アン飯:赤飯×__(アンダーバー)
    [作詞 / 作曲:ピノキオP]
  14. アリスインミルクランド
    [作詞:赤飯 / 作編曲:鬱P]
  15. 過食性:アイドル症候群
    [作詞 / 作曲:スズム]
  16. またあした
    [作詞 / 作曲:ふわりP]

MIX&MASTERING : yasu(Tinkle-POP)

赤飯(せきはん)

赤飯

ソーシャルネットワークの音楽シーンを中心に活躍する男性の歌い手。パワフルなボーカルから女性のような透き通った声までさまざまな歌声を使いこなす。2011年に自身初のアーティストアルバム「EXIT TUNES PRESENTS SEKIHAN the BEST」を発売。以降のアルバムが3作全てオリコン週間ランキングトップ10に入るという、歌い手初の偉業を達成した。2013年6月には4枚目のオリジナルアルバム「赤BAN」を発表。同年9月には東京・Zepp DiverCity TOKYOにてワンマンライブを敢行する。