ナタリー PowerPush - SEBASTIAN X
永原真夏爆発! “2度目の初期衝動”作を語る
妄想過多な性格がファンタジーを生む
──真夏さんのソングライティングはファンタジーとリアルの共存が大きなテーマだと思うんですけど、その源泉はなんですか?
私は妄想過多なところがあって。それが自分の中のファンタジーを生んだと思うんです。普通は社会に出たり、仕事をしながら淘汰されるものだと思うんですけど、私は淘汰されなかったんですね。周りの人の理解もあって、「真夏がそう思うならそれでいいんじゃない?」って言ってくれる人が多かったので。
──自分で死守しようと思ったのではなくて、周りが守ってくれたという感じですか?
どっちもですね。妄想しないとバランスが取れないから守ってきたというのもあります。「自分の妄想過多なところが淘汰されるのはいつかな?」って思うんですけど、それは子供ができたときなのかなって思うんですよね。
──でも子供の存在自体がファンタジーみたいなところがありますからね。新しい何かが生まれるんじゃ?
ああ、そうか! じゃあずっと淘汰されないですね!
親にも後ろめたくない!
──バンドがダイナミックに響かせるジャンルレスなポップネスは、どのように獲得したんですか?
最初はパンクっぽいものをやりたかったから、メンバーには「コードは3つに収めてくれない?」みたいなことをよく言ってたんです(笑)。でも、メンバーそれぞれにプレイヤーとしての欲があることに気付いて、それから展開が多めの激しいサウンドになっていったんですね。その頃は今のメンバーに加えてもう1人ギターがいる5人編成でやっていて、高円寺20000Vとかでライブをしていたんです。
──へえ! そうだったんだ。パンク、ハードコアのメッカですね。
そうなんです。20000Vはハードコアなバンドも多いから、1分半の曲なのに展開が10個くらいあるバンドとかいるんですよね(笑)。それで、私たちもだんだん展開の多いアレンジをすることに慣れていって。「そこにスピリットがあれば展開が多くてもいいぜ!」みたいな感じで(笑)。でも、やっぱりなんだかんだいってストレートなものが好きなメンバーではあるので、少しずつアレンジを削ぎ落していったんです。そうやって試行錯誤している中で、あるとき私が「とびきりポップなバンドにしようよ!」って言って。そのタイミングでSEBASTIAN Xと名乗るようになったんですね。私が考えられる範囲で常に最大級のポップスをやる歌モノのバンド、それがSEBASTIAN Xです。
──ポップに振り切れて、どんどん型にはまらない自由なバンドになっていった?
なっていきましたね。「なんで最初からこうしなかったんだろう?」って思うくらい(笑)。あとは「後ろめたくない!」っていう気持ちもあったし。
──後ろめたくないとは?
親に心配されない、みたいな(笑)。
──あはははは(笑)。
それまでは親が娘のライブを観に行くと、私がステージ絶叫しているみたいな状況だったので(笑)。「お父さん、ゴメンね!」って思っていたけど、SEBASTIAN Xになってからは全然後ろめたくなくて。その後ろめたくない感じを「FUTURES」まで満喫したんですよね。だけど、このミニアルバムではそういうものも超越して。
初めて共感してほしいと思ってる
──このミニアルバムでは、独自のポップネスを築いてきたSEBASTIAN Xと20000Vでライブをしていた頃のバンド熱量が融合した感じがあるんでしょうね。
うん、今まで自分たちの歴史にはあったけど出さなかった面が融合した感がありますね。
──「FUTURES」は真夏さんがかつてないくらい内省的に自分を掘った、陰影に富んだアルバムだと思うんですけど、あのアルバムがなかったらこの融合もなかった?
間違いないですね。今の私には「FUTURES」的なやり方で、「FUTURES」よりも強い何かを見つけ出すことはできないと思ったんです。私にとって「FUTURES」はそれくらい聖域みたいなアルバムだったんです。だから、もうちょっと時間が経たないと同じやり方で曲は作れないですね。じゃあ「FUTURES」で突き詰めた光と影シリーズはいったん置いておこう、「ここで生きててね」みたいな感じで。そんなときに衝動というテーマがポン!と出てきたら「行けー!」ってなって。疑いようのないくらい新しい物語が始まった感じがそこにあったから、それをメンバーにも受け止めってもらったんです。
──リスナーにはこの新しい物語をどう響かせたいですか?
私、初めて共感してほしいなと思ってるんですよ。
──初めてなんだ?
今まではあんまりそう思わなかったんです。自分の中でリスナーに共感してもらうという感覚がうまくつかめていなかったから。でも、今は「このミニアルバムに入っている曲は私の曲でもあるけど、あなたの曲でもあるから!」って素直に、堂々と言えるんです。そういう意味でもすごく大事な作品になりましたね。
SEBASTIAN X「サディスティック・カシオペア」
SEBASTIAN X「ひなぎくと怪獣」トレーラー
SEBASTIAN X「GO BACK TO MONSTER」
ミニアルバム「ひなぎくと怪獣」/ 2012年7月11日発売 / 1600円 / HIP LAND MUSIC / RDCA-1024
SEBASTIAN X(せばすちゃんえっくす)
永原真夏(Vo)、飯田裕(B)、工藤歩里(Key)、沖山良太(Dr)の4人からなるバンド。前身バンドを経て、2008年2月に結成される。同年6月に初ライブを開催し、その後定期的にライブを実施。2008年8月に自主制作盤「LIFE VS LIFE」を発表し、文学的な匂いを持つ詞世界やギターレスならではのユニークな音像が話題に。2009年11月に初の全国流通盤となるミニアルバム「ワンダフル・ワールド」を発表。その後も2010年8月に2ndミニアルバム「僕らのファンタジー」、2011年1月に配信限定シングル「光のたてがみ」とコンスタントにリリースを重ね、2011年10月に1stフルアルバム「FUTURES」を発表する。自主企画も積極的に行い、2012年4月には野外イベント「TOKYO春告ジャンボリー」を上野水上音楽堂で開催し好評を博す。同年7月に3枚目のミニアルバム「ひなぎくと怪獣」をリリース。