ナタリー PowerPush - SEBASTIAN X
永原真夏爆発! “2度目の初期衝動”作を語る
ボーカルの永原真夏によるファンタジーとリアルがポジティブに共存するソングライティングを軸に、ジャンルに捕らわれないポップサウンドを追求するギターレスバンドSEBASTIAN X。彼女たちが昨年10月にリリースした1stフルアルバム「FUTURES」を経て、「2度目の初期衝動」をテーマにしたミニアルバム「ひなぎくと怪獣」を完成させた。
作品全体から放たれるキラキラした爆発力は、バンドが新たな地平に立ったことを感じさせる。ナタリー初登場となる今回は、永原にソロインタビューを実施。彼女が音楽に目覚めたバックグラウンドからSEBASTIAN Xが経てきた変遷、そして本作に注いだ「2度目の初期衝動」が生まれた理由をざっくばらんに語ってもらった。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) インタビュー撮影 / 平沼久奈
24歳なりの衝動を解放した
──作品全体からキラキラした爆発力が放たれていて。資料にも「2度目の初期衝動」と書いてあって、なるほどな、と思いました。
去年の12月にJACCSカードのWEBキャンペーンに提供した「GO BACK TO MONSTER」が、このミニアルバムのトリガーになっていて。当初、この曲はあくまでも「あなたの夢に応援歌」というキャンペーンのテーマに沿って書き下ろした曲で、自分たちの次の作品につながるものになるとは全く思ってなかったんです。すごく肩の力を抜いて作れた曲だったから、結果的に自分が今思っていることを明確に表現できたんですよね。この曲をライブで歌っているときに、自分が駆り立てられるような感覚がずっとあって。この感覚を1枚の作品にしたいなと思うようになったんです。そもそも衝動や爆発力って、10代に限定される感覚なんじゃないかという思いがあったんです。衝動を大事にするアーティストって「ずっと10代の気持ちで」みたいなことを言う人もいるじゃないですか。
──「永遠の17歳」みたいな。
そうそう。それが自分の中でずっと引っかかっていて。私自身は10代のときに「俺は衝動を持ち続ける」って言うような大人に憧れなかったんです。それよりも「大人ってこんなに面白いんだよ!」って言ってくれる人が好きで。大人になるって楽しそう、仕事をするって素晴らしいことだって思わせてくれる人の背中を追い続けたいと思っていたんです。例えば矢野顕子さんって、表現者としてみずみずしい少女性もあるんだけど、それと同時に大人としての遊び心と力強く仕事する真摯さを感じさせてくれるんですよね。それは、都会の大人のたしなみだなと思うんです。すごくカッコいいし、憧れる。なので、自分がこのタイミングで衝動を表現しようと思ったときに、“10代のアンコール”じゃイヤだったんです。私は今、24歳なんですけど、24歳なりの衝動があるはずだと思って、それを探りながらこのミニアルバムを作ろうと。
──10代のアンコールはしたくないし、できないし、今だからこそ表出できる衝動があるはずだと。
そうそう。去年はベースの飯田(裕)くんが体調不良でお休みしていたこともあって、衝動的というよりは理性的に活動を進めないといけない気持ちが強かったんですよね。その反動もあって自分の中で衝動を表現したいという欲求が湧いてきて。「GO BACK TO MONSTER」をきっかけに、それを解放しようと思ったんです。
同じことばかりやっていてもつまらない
──「GO BACK TO MONSTER」の爆発力って、これはもう、パンクですよね。
うん、そうですね(笑)。この4人は、17歳のときにコピーバンドから始めたメンバーなんですけど、パンクはみんなのルーツに共通してあって。最初はTHE BLUE HEARTSやTHE CLASHのコピーをやってたし。
──ああ、このミニアルバムの歌詞の筆致にはTHE BLUE HEARTSに通じる趣も感じました。
THE BLUE HEARTSは大好きですね。このミニアルバムでは、普段だったら使わない単語も意欲的に盛り込んだんですよ。「GO BACK TO MONSTER」の「アイ ワナ デストロイ」とか、「爆撃機」とか、今までだったら絶対に使わなかった類の言葉ですね。歌詞の言葉とバンドのキャラクターの結びつきって強いから、SEBASTIAN Xというバンドと、そういう言葉たちが自分の中で結びつかなかったんです。でも同じことばかりやっていてもつまらないし、言葉は自由だし、自分がそういう言葉を歌うとまた違う印象を出せるかなと思って。
──「GO BACK TO MONSTER」の次に「いけいけ悪魔ちゃん」というタイトルの曲が来るくらい振り切ったと(笑)。
そう(笑)。1年前だったら絶対にこういうタイトルの曲は作らなかったですね。
ミニアルバム「ひなぎくと怪獣」/ 2012年7月11日発売 / 1600円 / HIP LAND MUSIC / RDCA-1024
SEBASTIAN X(せばすちゃんえっくす)
永原真夏(Vo)、飯田裕(B)、工藤歩里(Key)、沖山良太(Dr)の4人からなるバンド。前身バンドを経て、2008年2月に結成される。同年6月に初ライブを開催し、その後定期的にライブを実施。2008年8月に自主制作盤「LIFE VS LIFE」を発表し、文学的な匂いを持つ詞世界やギターレスならではのユニークな音像が話題に。2009年11月に初の全国流通盤となるミニアルバム「ワンダフル・ワールド」を発表。その後も2010年8月に2ndミニアルバム「僕らのファンタジー」、2011年1月に配信限定シングル「光のたてがみ」とコンスタントにリリースを重ね、2011年10月に1stフルアルバム「FUTURES」を発表する。自主企画も積極的に行い、2012年4月には野外イベント「TOKYO春告ジャンボリー」を上野水上音楽堂で開催し好評を博す。同年7月に3枚目のミニアルバム「ひなぎくと怪獣」をリリース。