ナタリー PowerPush - SEBASTIAN X
永原真夏爆発! “2度目の初期衝動”作を語る
理屈を飛び越えた衝動
──「GO BACK TO MONSTER」が象徴的ですけど、このミニアルバムには、夢を描くために自分の中に潜んでる怪獣やバケモノを覚醒させるというテーマが通底していて。だからこそ、真夏さんはこれまで使わなかったインパクトの強い言葉も解禁したと思うんですけど。
そうですね。自分の中に怪獣がいる状況こそが夢なんじゃないかと思って。1曲目の「サディスティック・カシオペア」も歌詞のアプローチこそ違えど、怪獣がいる状態自体が夢なんだと思いながら歌詞を書いたんです。あとは、私にとっての衝動って、苛立ちに近いんです。性格的に苛立ったときにワーッ!と力が出るタイプなので。こうしたいのにできないとか、はやる気持ちが強くて。その中で、自分のポジティブとネガティブ、光と影とか、そういうコントラストにすごく興味があって。前作の「FUTURES」まではずっと「私はどういう人間なのか? みんなはどういう人間なのか? 誰もがコントラストを持っているよね?」っていう気持ちで音楽と向き合ってきたんです。でも、そもそも苛立ってる自分って、そういう細かいところを飛び越えちゃうんですよね。
──苛立ちって、理屈が生まれる前の感情だから。衝動にはネガもポジもないし。
そうそう。今回はその理屈を飛び越えた衝動をつかまえたいと思って。
「私もいつかバンドを組んで歌を歌おう!」
──ちなみに真夏さんの初期衝動ってどういうものだったんですか? 最初に表現欲求を覚えたきっかけというか。
私は小さい頃、絵描きになりたかったんです。けれど、小学校3年生のときに変わって。高校生たちが地域の児童館の1室を無料で借りて、そこでバンドの練習をしていたんですよ。私はそれを間近で見てたんです。で、彼らのライブの本番は地域のお祭りで。お祭りに設けられた特設ステージでそのライブを観たときにすごく衝撃を受けて。「私もいつかバンドを組んで歌を歌おう!」と思ったんです。それが音楽に対する最初の衝動ですね。今でも忘れないです。
──なぜそこまで惹かれたんですか?
言葉とメロディが合わさって、ステージに立って演奏している人たちを初めて至近距離で観たから。私の母は元々音楽をやっていたから、小さい頃からいろんなライブに連れていってもらってたんですけど、いわゆるショーケース的なライブを観ても全然現実味がなかったんです。それが、地域のお祭りという規模感で音楽という文化がそこにあることを間近で感じたときに「バンドで音楽を鳴らすのってこういうことなんだ!」っていう衝撃と発見があって。
──それからどういう音楽に触れてきたんですか?
やっぱり私たちの世代はまず、ゆずに出会うんですよ。中学に上がると、本格的にバンドに興味が湧いて。当時の私はスペースシャワーTVばかり観ているスペシャっ子で。下北沢にあったハイラインレコーズに通ってNANANINEやジャイアントステップ、ヨーグルト・プゥの音源と出会って。
──いわゆる下北系ギターロックと呼ばれるシーンが盛り上がりを見せていた頃ですね。
そう。大好きでした。それから中学後半から高校の最初にかけて、RIP SLYMEをきっかけに日本語ラップにハマって。MELLOW YELLOWやRHYMESTERが所属しているFUNKY GRAMMAR UNITが好きでした。それと同時にパンクも並行して好きになって。高校2年で「やっぱりバンドをやりたい!」と思ってコピーバンドを組んだんです。
──それまで自分で曲を作ることはなかったんですか?
お恥ずかしい話ですが、ポエマーだった時期があって(笑)。中学生のときはパソコンに向かってポエムを書いて、それをファイルに保存して楽しんでました。だけど、ある日それが親に見つかって。
──最悪の事態ですね(笑)。
最悪です(笑)。そこから一生ポエマーにはならないと思って、バンドでオリジナルをやるまでは、詞も曲も書かなかったですね。
17歳から鼻歌で曲作り
──今はどうやって作曲しているんですか?
私は楽器を弾けないので、最初から一貫してアカペラで作っていて。
──鼻歌みたいな感じで?
そう。曲を作ろうと思ったら、だいたい歌詞とメロディが一緒に浮かぶので、そこに手拍子を付けて録音するんです。それをメンバーに渡して、みんながコードを付けてくれるんですよ。それからアレンジしていくという行程ですね。そのやり方は17歳のときから変わってないです。
──メロディの動きがこれだけ自由なのは、そういう作り方によるものなのかもしれないですね。
うん、そうかもしれない。一貫して鼻歌で作っているから、今でも曲を作るときに悩み苦しむ感じがないんですよ。小さいときから変な即興歌みたいなのを作っていたんですけど(笑)、今でもその延長線上でやっている感じはありますね。
ミニアルバム「ひなぎくと怪獣」/ 2012年7月11日発売 / 1600円 / HIP LAND MUSIC / RDCA-1024
SEBASTIAN X(せばすちゃんえっくす)
永原真夏(Vo)、飯田裕(B)、工藤歩里(Key)、沖山良太(Dr)の4人からなるバンド。前身バンドを経て、2008年2月に結成される。同年6月に初ライブを開催し、その後定期的にライブを実施。2008年8月に自主制作盤「LIFE VS LIFE」を発表し、文学的な匂いを持つ詞世界やギターレスならではのユニークな音像が話題に。2009年11月に初の全国流通盤となるミニアルバム「ワンダフル・ワールド」を発表。その後も2010年8月に2ndミニアルバム「僕らのファンタジー」、2011年1月に配信限定シングル「光のたてがみ」とコンスタントにリリースを重ね、2011年10月に1stフルアルバム「FUTURES」を発表する。自主企画も積極的に行い、2012年4月には野外イベント「TOKYO春告ジャンボリー」を上野水上音楽堂で開催し好評を博す。同年7月に3枚目のミニアルバム「ひなぎくと怪獣」をリリース。