さユり|陸を歩き始めて見えたもの

さユりがニューシングル「月と花束」をリリースする。表題曲はアニメ「Fate/EXTRA Last Encore」のエンディングテーマとしてオンエア中のナンバーで、アニメのために書き下ろされたアグレッシブなロックチューンだ。

本作の発売に際し、音楽ナタリーではさユりにインタビューを実施した。昨年、1stアルバム「ミカヅキの航海」の発売を経て「船を降りて陸にたどり着いた感覚になった」と言うさユり。彼女が陸を歩き始めて見つけたものとは?

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 後藤壮太郎

初めて“選ぶ”という行為をした

──表題曲「月と花束」は、歌詞の方向性が従来と異なりますよね。これまでのさユりさんの歌詞は弱い自分を受容する、もしくは他者を肯定するような内容だったと思われますが、この曲では1行目から「花を焼べて」と、何かを手放す選択をしています。

「月と花束」はまさに、初めて“選ぶ”という行為をして作った曲ですね。今まで自分の世界を広げる作業をしてきて、自分自身と向き合う中で遠くに誰か人がいるのが見えて、それによって「私のやってることは誰かとつながってるんだ」っていう実感を得ることができたんです。今回の「月と花束」では、遠くに見えてた誰かのもとまで行って、他者との関わりの中で進んでいくことを考えたときに、より自分と向き合う必要があるということを感じました。

──他者との関係性の中で自己を見つめ直す、みたいな話ですか?

そうですね。そのときに、今までみたいに自分の世界を広げるばかりだと、どんどん自分の輪郭がぼやけてくるような感覚があって。他者との関わりの中で進むなら、自分がどういう人間で、どういうふうに生きたいのかを選ばなくちゃいけないって思った結果、今までだったらもらった花をもらったままにしてたのを、それを燃やすことで燃料にする選択をし始めたっていう。そういう新しい選択肢を得たことで生まれた曲ですね。

──「燃料にする」ということは、単純にいらないものを捨てていくという意味合いではない。

はい。何かを大切にするための、別の方法を見つけたと言うか。今までは、それをするときは大事にとっておくことしかできなかったんですけど、「それって本当に正しいんだろうか?」って考えたときに、もっとほかにやりようがあるんじゃないかって。それは人との関わり方にも通じていて、誰かと関わるとなったときに、自分を大事にしないと、真っ当に関われないことにやっと気付いたんです。

──「自分を大事に」とは?

さユり

そのときに自分がどうしたいのかっていう意思がないと、その人の中には入っていけないということですね。そこから、花の形をそのままとっておくんじゃなくて、自分のために使うという選択をするに至ったと言うか。そうすることで、誰かのために生きることもできるんじゃないかって思えるようになったんです。

大事な物を捨てた

──ちょっと前に“断捨離”が流行りましたけど、実生活において、さユりさんは自分の持ち物を捨てるのが苦手だったりします?

あ、すごく苦手です。と言うか苦手でした。実は、歌詞の「花を焼べて」という表現のもとになった出来事もそれが関係していて。さっき言った通り、私は今まで自分にとって大事な物はずっととっておいたんですけど、それを初めて捨てました。そのときすごく怖かったんです。たぶん自分が何かを大事にするということに対して自信がなかったんでしょうね。でも「それってなんか違うな」ってあるとき気付いて。例えば手紙だったら、文面を読んで、それがちゃんと心の中に入っていることが大事かなと。

──そこに書かれた気持ちは届きましたよと。

そう。それも自分を大事にするってことじゃないですか。物自体は捨ててしまっても、その物から受け取った形のないものが自分の体の中でまた新しい形を取り始めるんじゃないかって。今までできなかった大事な物を捨てるという選択を思い切ってしてみた結果、「本当に大事なものってなんだろう?」みたいなことを考えざるを得なくなったりもしましたね、うん。

「Fate」に惹かれた理由を探していくうちに曲に

──「月と花束」は、アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」のエンディングテーマですね。

さユり

「Fate」のタイアップのお話をいただいたことがきっかけで、この曲ができました。と言うのもこのアニメには、主人公の岸浪ハクノと、彼のサーヴァントであるセイバーというキャラクターがいて、その2人の関係性の中で、誰かのために戦うことで生まれる光や強さみたいなものに魅力を感じたと言うか「あ、今の自分と重なるかもしれない」と思ったんです。そこから、自分の中にあるこの作品に惹かれた理由みたいなものを探す作業をしていく過程でこういう曲になりました。

──「Fate」シリーズの主題歌って、大雑把に言えば流麗かつドラマチックな作風で、エンディングであればバラード調の楽曲が主流だと思われます。しかし「月と花束」はその路線とは異なる、非常にアグレッシブなギターロックですね。

「こんな私だから歌える『Fate』の歌」みたいなことを考えて作りました。歌詞の部分で変化がありました。

──特に2番のサビ終わりの「もう いらないよ」は、今までのさユりさんからは出てこなかったフレーズでは?

そうですね。だからそこは怖かったですね。「いらない」と口にすることで、自分の可能性を狭めちゃうし、誰かに対して「あなたとは交われない」と切り捨てるような感覚を抱いてしまうんじゃないかってずっと思っていて。でも「今ここにいる自分は何者か」「他者との関わりの中で私が私として生きるということはどういうことか」と考えたとき、この言葉が必要になったと言うか……うん、目の前にいる人との関係性の中で自分にできることは限られていると認めなきゃいけないという考えにたどり着いて、だから歌えたフレーズだなって思います。

さユり「月と花束」
2018年2月28日発売 / アリオラジャパン
さユり「月と花束」初回生産限定盤

初回生産限定盤 [CD+DVD]
1700円 / BVCL-857~8

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. 月と花束
  2. 平行線-弾き語りver.-
  3. 日向雨
DVD収録内容
  • 月と花束 MV(フルレングスver.)
さユり「月と花束」通常盤

通常盤 [CD]
1000円 / BVCL-859

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 月と花束
  2. プルースト
さユり「月と花束」期間生産限定盤

期間生産限定盤 [CD+DVD]
1599円 / BVCL-860~1

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CD収録曲
  1. 月と花束
  2. レテ
  3. 月と花束-アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」EDver.-
DVD収録内容
  • アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」-ノンクレジットED映像-
さユり
さユり
福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にフジテレビ系「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」でメジャーデビュー。2016年2月に2ndシングル「それは小さな光のような」をリリースした。同年6月に配信シングル「るーららるーらーるららるーらー」を配信限定で発表し、iTunesトップアルバム総合チャートで1位を獲得。注目度の高まる中、12月に野田洋次郎(RADWIMPS、illion)楽曲提供およびプロデュースによる「フラレガイガール」をリリース。2017年3月に発表したシングル「平行線」はフジテレビ「ノイタミナ」枠のアニメ「クズの本懐」およびドラマ「クズの本懐」のエンディングテーマに使用され、大きな話題を集めた。5月に1stアルバム「ミカヅキの航海」をリリースし、オリコンウイークリーアルバムランキング3位を獲得。2018年2月にアニメ「Fate/EXTRA Last Encore」のエンディングテーマ「月と花束」を発売する。