外の暑さよりも、むしろ中の涼しさに夏を感じる
──さユりさんの楽曲は主に江口亮さんが編曲をなさっていて、ちょっとささくれ立ったようなノイジーなアレンジが個人的に好みなのですが、「夏」はアコースティックギターとキーボードだけのシンプルなアレンジで、いいアクセントになっていますね。
ありがとうございます。私もこのアレンジ好きです。
──曲名の通り夏の歌ですが、夏特有の気だるさや寂しさにフォーカスしてらっしゃるのもさユりさんらしいと思いました。
私はメロディと歌詞が同時に出てくるタイプなんですけど、「夏」はサビのメロディと同時に、急に、無意識にサビの言葉が出てきて。「なんでこんな言葉が出てくるんだろう? 面白いな」って思いながら作ってましたね。で、その言葉と音が、ふと自分の中の夏の記憶とリンクしたので、その記憶を手繰り寄せながら夏の歌に仕上げていきました。
──歌詞に「タオルケット」って出てきますけど、今の若い人も「タオルケット」って言います?
私は言います。けど、あんまり聞かない言葉かも。
──ですよね。ちょっと懐かしい響きだなって。
でも、私はそのタオルケットの肌触りというか、そういう細かい感触を頼りにこの曲を作りました。例えば実家から持ってきたタオルケットみたいな、ちょっとくたびれた夏の夜の肌触りを大事にしました。
──それだ。その空気感、伝わります。
夏の家の中って、どこか寂しげというか、外はすごく暑いのに、中は冷房が効いてて涼しいじゃないですか。私にとって「夏が来た」って思う瞬間は、暑さを感じたときじゃなくて、冷房の涼しさを感じたときなんです。その夏特有の、内と外の温度差に抱く違和感というか、距離感というか。私と世界を隔てるような、閉鎖された部屋の中の感じっていうのは、自分の中で引っかかるところ、好きなところでもあって、その空気感を出せたらいいなって。
──「内と外」というのは、さユりさんがお好きな“境界線”ともつながってきますね。
それはありますね、すごく。
歌だけが、自分の“気付き”を外に伝えられる
──ここまでお話を伺って、改めてさユりさんは着眼点がユニークだなと感じました。人から「そういうところを見てるんだ?」とか言われません?
いや、普段はどこを見てるとか言わないように、なるべく普通でいようっていう気持ちで、当たり障りないように物事を見ようと考えて生きていて。そうしたいわけじゃないのに、そうなってしまうのが悩みの種ではあるんですけど。なので唯一、そういう自分の気付きを外に伝えられるのが歌だったりするし、悩みの種だからこそ曲にできる部分もあると思うんですね。
──言い方を変えると、我々はさユりさんの曲を聴くことで、“さユりフィルター”を通して世界を見ることができる、みたいな話にもなりますよね。
それいいですね。うれしいです。
──今回、アルバムのアートワークもすごく凝っていますが、それもさユりさんの世界をビジュアルとして見せる点で重要なのかなと。
ジャケットは、ぜひ手に取って見てほしいです。特に初回生産限定盤Aは透明スリーブに入ってるんですけど、全部で15枚の歌詞カード(14曲それぞれを表す絵柄に、「それでも」の先を見据えた1枚をプラス)が付いていて、自分で好きな歌詞と絵柄を入れ替えて飾れるっていう、すごく素敵な仕様になっているので。
──シングルでも毎回アートワークにこだわりが見られますもんね。
やっぱりCDは、モノとして残るような、「大切にしたいな」って思ってもらえるようなものにしたいなと思ってます。
このアルバムでは、表現したいことの3%しか表現できていない
──インタビューの序盤で、「birthday song」は「10代最後に作った曲」だとおっしゃいましたが、ちなみに20代最初に作った曲は?
えっ?
──えっ? そっちにはあんまり意識が向かなかったんですね。
そういえば、なかったですね。
──でも、それだけご自身の10代というものに対する思いが強かった。
そうですね。「birthday song」は自分自身に対してもひと区切り付けた、すごく重要な曲です。
──では、ひと区切り付けて、これからどんな20代を過ごしていきましょう。
10代の頃は自分を信じられなくて、「自分の未来が明るいわけない」って思いながら過ごしてきたんですね。そうやって自分の可能性にブレーキをかけながら、例えば曲を作るときも「この曲が最後だ」「これ以上書けない」って思ったりしてたんですけど、こうしてアルバムができあがって、「まだ表現したいことの3%くらいしか表現できてない」っていう気持ちになれたんです。つまり、残りの97%は、今はまだ表現できないけど、これから表現できる可能性があるんだって思えてきた。
──ブレーキが外れたわけですね。
最初のほうで「ミカヅキの航海」は過去と未来を照らすアルバムにしたいって言いましたけど、私自身、少しずつだけど未来が広がってきたので、もっとわくわくするような、面白いことを提案して、音楽にしていきたいですね。
──創作力の残量がまだ97%もあるというのは、これからも楽しみというか、心強いですね。
一方で、私はまだ自分のことを完全に好きにはなれていないし、まだ音楽を追いかけるのに必死な部分も大きいんです。でも、それを忘れる瞬間というか、「音楽が好き」っていう気持ちが、負の感情をちょっとだけ上回る瞬間が最近はあるので、それを増やしていけたらいいなって。
──7月からは全国ツアーも始まりますし、その瞬間もきっと増えるのでは?
その瞬間を、来てくれるお客さんとも共有したいですね。後悔から生まれた「ミカヅキの航海」の曲をステージで演奏して、それを聴いてもらうことで、みんなにも自分の過去に自信を持ってもらいたい。そのうえで、一緒に進んでいきたい。あと最近、リリースイベントなどで「今から告白してきます」とか「ギターを始めました」とか、みんなから能動的な変化について話してもらうことが増えていて。それはすごくうれしくて、素敵なことだと思うから、観てくれる人が何か行動を起こせる、そんなエネルギーを与えられるライブにできたらいいなと思ってます。
- さユり「ミカヅキの航海」
- 2017年5月17日発売 / アリオラジャパン
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初回生産限定盤A
[CD+Blu-ray Disc]
3900円 / BVCL-791~2 -
初回生産限定盤B [CD+DVD]
3500円 / BVCL-793~4 -
通常盤 [CD]
2700円 / BVCL-795
- CD収録曲
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- ミカヅキ
- 平行線
- 十億年
- ケーキを焼く
- フラレガイガール
- 蜂と見世物(サーカス)
- るーららるーらーるららるーらー
- オッドアイ
- それは小さな光のような
- 来世で会おう
- knot
- アノニマス
- 夏
- birthday song
- 初回生産限定盤A Blu-ray収録内容
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- ミカヅキ MV
- それは小さな光のような MV
- 来世で会おう MV
- フラレガイガール MV
- アノニマス MV
- 平行線 MV
- birthday song MV
- 初回生産限定盤B DVD収録内容
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- 東京キネマ倶楽部ワンマンライブ&新宿ReNYワンマンライブ ライブダイジェスト映像
- 酸欠少女さユり アルバム「ミカヅキの航海」発売記念全国ツアー「ミカヅキの航海2017~夜明けの全国ツアー~」
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- 2017年7月21日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2017年7月28日(金)愛知県 ElectricLadyLand
- 2017年7月30日(日)宮城県 仙台MACANA
- 2017年8月11日(金・祝)東京都 TSUTAYA O-EAST
- 2017年8月13日(日)北海道 cube garden
- 2017年8月25日(金)大阪府 BIGCAT
- さユり
- 福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にフジテレビ「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」でメジャーデビュー。2016年2月に2ndシングル「それは小さな光のような」をリリースした。同年6月に配信シングル「るーららるーらーるららるーらー」を配信限定で発表し、iTunesトップアルバム総合チャートで1位を獲得。注目度の高まる中、12月に野田洋次郎(RADWIMPS、illion)楽曲提供およびプロデュースによる新曲「フラレガイガール」をリリース。2017年3月に発表したシングル「平行線」はフジテレビ「ノイタミナ」枠のアニメ「クズの本懐」およびドラマ「クズの本懐」のエンディングテーマに使用され、大きな話題を集めた。5月に1stアルバム「ミカヅキの航海」をリリースする。
2017年5月12日更新