澤野弘之がTOMORROW X TOGETHERとコラボ!世界に向けて放つダンスミュージック (2/2)

テヒョンさんのがなるような歌い方が好き

──「LEveL」のレコーディングには、澤野さんは立ち会われたんですか?

いや、立ち会っていないんですけど、歌入れが終わった音源を聴いて素直に「カッコいいな」と思いました。正直に言うと、僕は曲作りの段階では個々のメンバーの特徴とかまでは把握しきれていなかったんです。でも、できあがった曲からはそれぞれの個性を感じるというか、そういうレコーディングをしてくれたんでしょうね。例えばサビはテヒョンさんとヒュニンカイさんのお二人が歌ってくれているんですが、僕は特にテヒョンさんのがなるような歌い方が好きで。あるいはヨンジュンさんのラップにもグルーヴ感があったり、自分の求めていたサウンドにしてくれて感謝しています。

──澤野さんの楽曲をボーイズグループが歌うという点においても、新鮮に感じました。

自分でも面白かったです。これは「OUTSIDERS」を作ったときに知ったことなんですけど、日本のアイドルグループは、特にサビは全員で、ユニゾンで歌うイメージがあったんですよ。でも、JO1はそうではないし、K-POPのグループも個々のメンバーが入れ替わり立ち替わりボーカルをとっていく。いわば個人がフィーチャーされる瞬間が用意されていて、それも彼らの魅力の1つなんだなと改めて感じましたね。

澤野弘之

──TOMORROW X TOGETHERとコラボしたことによって、これまで澤野さんの音楽が届いていなかった層にも届くのでは。

僕は期待しすぎるとだいたいコケるので、ほどほどに期待しておきます(笑)。もちろん曲を作っている以上、1人でも多くの人に聴いてもらいたいという気持ちはあるんですけど、僕は曲をリリースしたタイミングで、リアルタイムで反応をもらうという経験がそんなになくて。どちらかというと時間差で、かつ自分の知らないところで以前作ったサントラの曲がバズったりしているので、そういう宿命なのかもしれません。「なんで今この曲が人気なの?」みたいな。話は変わりますけど、去年の11月にアニメ「進撃の巨人」(澤野が劇伴を担当)の完結編が放送されたときは、すごく大きな反響があったんですよ。だから作り手としては、それこそアニメの主題歌であればアニメの放送中に多くの人に届いてくれたほうがうれしいし、そういうものであってほしいと思っていますね。

──時間差でバズるというのも、曲の力があってこそだと思います。

「バズる」って、今は当たり前に使われていて、僕も使うようになっちゃったんですけど、一発ネタ的に扱われるのは好ましくないというか。その1曲に留まらず、そこからほかの曲とか自分が関わっている作品に波及してほしいというのが本音なんですよ。もちろん1曲だけでも話題になってくれるのはありがたいことですけど、音楽に限らずコンテンツの消費スピードが恐ろしく速い中で、すぐに忘れ去られてしまうじゃないですか。だから、なんでもかんでもバズればいいとは思っていないんですよね。

──今は1曲フルで聴いてもらえたらまだいい、みたいなところもありますよね。アニメの主題歌であれば放送時に流れるのはテレビサイズの89秒バージョンですし、あるいはTikTokの振付動画などでサビの15秒間だけ流行ったり。

僕はTikTokはやっていないんですけど、話を聞くと、その15秒以外の部分をみんな知らなかったりするなんてこともあるみたいなんですよね。作り手としてはAメロ、Bメロ、サビという流れを考えて作っているので……それは作り手のエゴと言われればそうだし、たとえ数秒であっても聴いてもらえたらうれしいんですが、できれば楽曲全体に興味を持ってもらいたいし、そういう曲作りをしないといけないですね。

「俺レベ」のサウンドトラック用に作った曲だった

──カップリング曲の「DARK ARIA <LV2>」はボーカルにXAIさんを迎えたバラードで、めちゃくちゃ暗いですね。

この曲は、もともと「俺レベ」のサウンドトラック用に作った曲で、そのときのオーダーが「感情面で暗い曲」だったんですよ。せっかく「俺レベ」のオープニングテーマをシングルで出すんだから、カップリングも「俺レベ」とリンクしていたほうがいいかなと思って。サントラの時点でXAIさんに参加してもらったんですけど、僕としてもこの曲は特に気に入っていたので、改めて[nZk]バージョンとして作り直した感じです。

──XAIさんはアルバム「V」では「LEMONADE」という、80年代的な空気を感じる軽快なダンスナンバーを歌っていたので、そのギャップにも驚きました。

XAIさんとはいろんなことを試したいと思っていて、だからサントラにもお誘いしたんです。「DARK ARIA <LV2>」では、彼女の歌声のミステリアスな要素をより生かせたんじゃないかな。XAIさんは英語のネイティブスピーカーではないけれども、英詞へのアプローチの仕方がカッコいいし、この曲の作詞をしてくれたベンも感心していました。僕としても、彼女のボーカルの魅力を再確認させてもらいましたね。

──歌詞は全編英語で、わりと抽象度が高いので聴く人によっていろいろな受け取り方ができそうですが、とにかく暗いですね。絶望とか後悔とかそういう次元を超えて、もう何もかもあきらめてしまったような。

そんな感じですよね。ベンには「この曲は暗い、悲劇的なシーンで使われます」と伝えた程度で、僕は歌詞に関しては、解釈が固定されるよりは、おっしゃる通りいろいろな受け取り方をしてほしくて。もちろんこの曲は「俺レベ」のサントラ用に作った曲だし、ベンもそれを踏まえて作詞してくれているんですけど、作品から離れてまったく異なる解釈をしてもらってもかまわないし、そういうほうが面白いと思っていますね。

──アレンジはほぼピアノとストリングスのみで、特にチェロが重くて、何度も言いますが暗いですね。

もともと暗かったオリジナルバージョンを、よりアコースティックに持っていく感じでリアレンジしていて。今言ってくださったように伊藤ハルトシくんに弾いてもらったチェロが暗さを引き立ててくれて、いい感じにハマりました。オリジナルと同じぐらい気に入っていますし、こっちの「<LV2>」がオリジナルだと思われてもいいぐらいのバージョンになったかなと。

──XAIさんのボーカルも、先ほど澤野さんがおっしゃったようにミステリアスで、なおかつ悲痛ですね。

サントラのときにオリジナルバージョンを1回歌ってもらったので「アレンジは変わっているけれども、基本的にはオリジナルと同じ解釈で、XAIさんなりに表現してください」とお伝えしたところ、めちゃくちゃスムーズにレコーディングが進みまして。2分半もない短い曲で、しかも1、2回のテイクで終わりそうになっていたので、XAIさんも「これで終わっていいんですか?」と心配していました(笑)。

澤野弘之

──ちなみに、オリジナルバージョンのレコーディングもスムーズでした?

そうですね。もう、声出しを兼ねて試しに歌ってもらった感じが、僕のイメージしていた歌声に近かったので。「LEMONADE」のときは、初めてご一緒する方だし、曲調的にも歌はパートごとに録ったほうがいいと判断して、実際にそういう録り方をしていたんです。でも「DARK ARIA <LV2>」はそのまま通して歌ってもらったので、よりライブ感も出ているんじゃないかな。

──「DARK ARIA <LV2>」はもともと「俺レベ」のサントラ用に作った曲だとお聞きして納得したのですが、2曲とも、曲調はまったく違うのにダークな空気感は共通していて。統一感のあるシングルだと思います。

ありがとうございます。この2曲を通して、「俺レベ」の世界観みたいなものも受け取ってもらえるといいですね。

歌モノとインスト、バランスよく作れている状況

──「LEveL」は2024年の1発目、かつアルバム「V」リリース後の1発目のシングルになります。そうしたなんらかの区切りや節目で作品をリリースすることに対して、澤野さんは何か考えたりするタイプですか?

いや、そうでもないですね。ただアルバムのときは、特に「V」は5枚目のアルバムで、「5」という数字もキリがいいので、1つの区切りみたいなものを感じましたね。あと、ちょうど今年は[nZk]プロジェクトを立ち上げてから10周年を迎えるので、なんとなく節目が近付いているという感覚はあるんです。だからといって「10周年です!」を押し出したいと思うタイプではないし、たぶん自分の中で「10年もやってこられたんだな」としみじみする程度じゃないですかね。もちろん10周年を迎える年の最初に「俺レベ」のオープニングテーマとしてTOMORROW X TOGETHERとコラボしたシングルを出せるというのは、偶然ではあるけれども、非常にいいタイミングだとは思っています。

──澤野さんにとって、2023年はどんな年でした?

[nZk]プロジェクトとしては、まず「V」からスタートした年で、このアルバムでずっと尊敬していたASKAさんをはじめいろんなボーカリストとコラボすることができたり、その後、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)さんとまたご一緒できたりして(2023年8月に配信リリースされた「odd:I」)。必ずしもたくさんリリースしていたわけじゃないけれども、それぞれのタイミングですごくやりがいのあることをやらせてもらったし、[nZk]は今後もこのまま、その時々のタイミングで、そうしたコラボとかを楽しんでやれればいいなと思っています。

──リスナーとしても楽しみです。

あと昨年は、劇伴作曲家としての活動とは別に、音楽プロデューサーとして今後の活動について模索した年だったのかなと思います。2022年からSennaRinのプロデュースを始めるとともに、NAQT VANE(ナクトベイン)という新しいプロジェトを立ち上げて、まだスタート地点に立ったばかりではあるんですけど、ここから先どうやって活動の幅を広げていくか。それを考えるうえで重要な年になったし、そういうタイミングでたまたま運よく、澤野弘之としてAwichさんとコラボできる機会があったりして(2023年9月に発売されたトレーディングカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」の新セット「エルドレインの森」のテーマソング「Twin Fates」)。そういった形で発表できるものがすでにいくつかあるので、それも楽しみながらやっていきたいですね。

──お話を伺っている時点で楽しそうに見えます。

楽しいですよ。やっぱり歌モノとインスト、どちらの活動もあることでバランスが取れている……音楽制作は飽きるようなもんじゃないですけど、ずっと歌モノを作っていると、どこかでインストを作りたくなってしまうんですよね。幸いにも、今はどちらもバランスよく作れている状況で、例えば歌モノではできないことはサウンドトラックの仕事をいただいたときにやれるし、その逆も然りなんですよ。いわば双方で自分の音楽的な欲求を発散できる。そういうありがたい状況を今後も維持していきたいというか、維持することで、より音楽活動を充実させられたらと思っています。

澤野弘之

プロフィール

澤野弘之(サワノヒロユキ)

作曲家。ドラマ「医龍」シリーズやNHK連続テレビ小説「まれ」、アニメ「進撃の巨人」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど映像作品のサウンドトラックを中心に、楽曲提供や編曲など精力的に音楽活動を展開している。2014年春にはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]を始動。2020年4月に作家活動15周年を記念したベスト盤「BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2」をリリース。2021年3月に岡崎体育、優里、アイナ・ジ・エンドらをボーカリストに迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の4thアルバム「iv」、6月にアニメ「86―エイティシックス―」のエンディングテーマ2曲を収録したシングル「Avid / Hands Up to the Sky」を発表した。12月にキャリア初のピアノソロアルバム「scene」をリリース。2022年にはたかはしほのか(リーガルリリー)参加の「LilaS」、JO1の河野純喜と與那城奨をゲストボーカルに迎えた「OUTSIDERS」を発表。2023年1月にASKA、suis(ヨルシカ)らをボーカリストとして迎えた5thアルバム「V」をリリースした。2月には東京・TACHIKAWA STAGE GARDENでライブ「SawanoHiroyuki[nZk] LIVE 2023」を実施。2024年1月にTVアニメ「俺だけレベルアップな件」のオープニングテーマ「LEveL」をリリースした。

衣装協力
カットソー(kiryuyrik / キリュウキリュウ)24200円
(問い合わせ先:キリュウキリュウ 03-5728-4048)