サイプレス上野とロベルト吉野「Shuttle Loop」インタビュー|道はどんなに険しくとも、おもしろおかしく歩こうぜ! (2/2)

俺はこれからも“俺業”をやっていく

──ちょうど年齢の話が出ましたが、今の日本語ラップシーンの中で、サ上とロ吉はベテランと若手の狭間の世代だと思うんです。そこに関して、自分たち的にはどう捉えていますか?

サ上 知らない若いやつらもたくさん出てきて、実際カッコいい曲も多いんですよ。地元の後輩でCarzって今イケイケのヤツがいるんですけど、そいつは「1分半のトラップ作ったから聴いてください」とか曲を持ってきて、なんかすげー勢いだなって思いますし。トラップやってるヤツもいれば、ブーンバップやってるヤツもいるし、面白いですよ。俺らのちょっと下のZORNとかもすごいし。

サイプレス上野

サイプレス上野

──そういう中で、負けてられないって気持ちはやっぱりありますよね。

サ上 楽曲に対しては、そういう気持ちはめっちゃあります。けど、リリックで「オメーらなんかに負けてらんねー」みたいなことはいちいち言わないですね。「俺はこれからも“俺業”をやってくよ」みたいな。そういう感じが滲み出てればいいのかなと思います。

──特にヒップホップは、リアルに下の世代からの突き上げも来るわけじゃないですか。

サ上 そこに関して言えば、いつか俺たちのスタンスがわかるときが来るよって感じですね。今回の曲でいえば、「万華鏡」で歌ってる「ドレッドのヤンガン心配無用 いつかハゲ出すその時は来るよ」ってリリックは、まさにそういうことで。俺たちだって若い頃は何も考えずに、「ウチら無敵!」ってイキってたけど、スタジオを作ったり家族が増えたりとか、キャリアを重ねるごとに状況も変化していくわけで。若い子からしたら、俺らのことを「おっさんくせーな」って思うかもしれないけど、そういうことは過去に自分も上の世代にガンガン言ってたんで(笑)。

──自分も通って来た道だと。

サ上 はい。若い子が上に嚙みつくのは当たり前なことだと思うんですよ。ただ元気さでいうと、俺らの上の世代のスチャダラパーやRHYMESTERといった先輩もめちゃくちゃ元気なんですよね。ラッパーとしてはもちろん、ウタさん(宇多丸)がラジオで帯番組やったり、かと思えばBoseさんが親子でチキンラーメンのCMに出たり。ああいうこと絶対しなそうな人だったのに(笑)。先輩方がまったく衰えてない。俺らもまだ全然行けるだろうって励みになります。

ロ吉 同感っスね。後輩や先輩方の活躍が励みになりつつ、自分自身DJとして、もっとがんばらなきゃなと思うところはあります。最近どれだけ二日酔いになっても必ずターンテーブルの上に手を置くっていうのはやってるんです。基本的にはイケイケでガンガンやる姿勢ではあるんですけど、謙虚な姿勢は保っていたくて。

ロベルト吉野

ロベルト吉野

──スクラッチの鍛錬は日々怠らないと。

ロ吉 はい。ふざけつつも謙虚でいないと、僕の場合すぐダメになっちゃうんで。自分、ホントは緊張するタイプなんですよ。サ上とロ吉でライブし始めた頃、初来日したときのエミネムの真似して仮面をつけてオリャー!って大暴れしたら自分の中で何かがハジけて、フロアに缶ビール投げたりとか、なぜかそんなことになってしまって(笑)。

サ上 本当は緊張しいの吉野が破天荒な道に(笑)。

ロ吉 「悪魔召喚! やるしかねえ!」って……で、気付いたらこうなってました(笑)。でも、そういうめちゃくちゃなことをしつつ、1日1回は必ずタンテに手を置くようにしてます。

サ上 吉野はこう見えて真面目なんですよ(笑)。

ロ吉 そうしないと自分の中でバランスが崩れちゃうんで。

ロベルト吉野

ロベルト吉野

サイプレス上野

サイプレス上野

若い子が頻繁にチャレンジできる場を作っていきたい

サ上 上の世代といえば、こないだアメフトのスーパーボウルのハーフタイムショーを観て、めちゃくちゃ感動したんですよ。あれにも勇気をもらいました。

──ドクター・ドレー、エミネム、スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、メアリー・J.ブライジ、50セントといったアーティストが素晴らしいパフォーマンスを見せてくれて。あれはすごかったですね。

サ上 夜中に酒飲んで何回も繰り返しあの映像を観てボロボロ泣きましたもん(笑)。ヒップホップ、夢あるなーって。ああいうことが日本でも実現したらいいなと思いました。俺らはB.LEAGUEの横浜ビー・コルセアーズの入場曲をやらせてもらっていて、で、スチャダラパーも川崎ブレイブサンダースの曲を担当している。そういうことを次の世代のやつらがもっとやるようになったら、さらにシーンが盛り上がっていくんじゃないかな。最近そういうことをよく考えてます。

──シーンの裾野を広げていきたい?

サ上 自分の中にもついにそういう気持ちが生まれ始めましたね(笑)。前は「知らねーよ」って感じだったんですけど。若い子たちが友達とラップを作って気軽にライブできるような場をもっと増やしていきたいんですよね。俺、地元で「ENTA DA STAGE」ってMCバトルの大会を主催してて、中学生もエントリーしてくれるんですけど、声が小さすぎて全然聞こえなかったり、立ちすくんで何も言えなくなったり、中にはそういう子もいるんですよ。でも自分がラップ始めた頃もこんなもんだったなって。裾野のほうには、まだ全然できない子がたくさんいるんですよ。そういう子たちを見て、地元の横浜で彼らが頻繁にチャレンジできるような場を作っていきたいなと思ったんです。それが大人の役割だと思うし。

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

──キャリアを重ねて自然とそういうポジションになったわけですね。そしてあくまで地元を拠点にアクションを起こしていきたいと。アルバムの最後の曲「STILL 184045」でも横浜から発信していく思いを歌っていますね。

サ上 ZZ PRODUCTION(サ上とロ吉が所属する横浜のクルー)の仲間も、それぞれ環境の変化でいろいろ立場が変わったりして、今いわゆるZZっぽいことをやってるのが、ほぼ俺たちだけなんです。なので、この曲ではメンバーに向けて歌ってるところもありますね。ここからスタートしたんだという意味も含めて。ただ、この曲はアルバムの締めじゃなく、次につながる感じにしたいなと思ったんですよ。俺と吉野は横浜のドリームランドにある団地で生まれ育って、今まで曲の中で「ドリーム」って言葉を頻繁に使ってきたんですけど、今回のアルバムではあんまり使ってないんですよね。そこには自分の心境とか状況の変化も関係してるのかなって。ドリームランドからさらに視野を広げて、横浜という街全体をこれから盛り上げていければいいなと。

前を向いてたら“おもしろ”が降ってくる

──今回のアルバムは、2020年の結成20周年を経ても、まだまだ前に進んでいこうとするサ上とロ吉の姿勢が色濃く反映されているように思います。そんな2人がこの先に目指す、成し遂げたいことを最後にお聞きしたいです。

サ上 進化しながら仲間と一緒に面白おかしく活動を続けていければいいなと思いますね。俺と吉野のどっちかが果てるまでやっていけるのが一番かな。でも、「ずっと続けるぜ!」っていうより、普通のテンションでやってく感じ。「曲作ったからこれ聴いてよ」ってクルマで仲間に聴かせるときが一番楽しいみたいな。そういう感じで続けていきたいですね。俺たち曲を作るとすぐに飽きちゃうけど、音楽をやること自体には全然飽きたことがないんで。

ロ吉 うん、飽きたことないですね。好きなんですよね、こういうことやるのが。

サ上 そう、単純に好きなんです。レコード片付けてるのも好きだし、プロレスの本読んでるのも好きだし、そうやって好きなことを続けながら音楽をやれてることが楽しいんですよ。そりゃ、つらいこととか嫌なこともたくさんあるけど、どこかで笑ってくれる仲間がいる。その連続だなって思いますね。

ロ吉 ホント、そうっスね。

サ上 ちょっとシリアスな話になっちゃうんですけど、去年の大晦日に兄貴が亡くなって、遺品をヤサに運んだらすごい量の段ボールまみれになっちゃったんです。それを見て、地元の仲間が「どうすんのこれ?」って大爆笑してるんですよ(笑)。それがすごくありがたくて。最初は落ち込んでたけど、笑ってもらえたら気持ちも紛れるじゃないですか。そのあと大量にある兄貴の服を売りに行って、査定の合間に後輩と焼肉食いながら「焼肉代くらいにはなるかな?」なんて言ってたら想像以上の高値が付いて「マジか!」って(笑)。生きていくのって、そういうことの連続なのかなと思うんですよ。つらいことがあっても、めげることなく次に向かってがんばるみたいな。それが「おもしろおかしく」ってことなのかなと思うし。何があっても、笑いながら進んでいければいいんじゃないかって。

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

──人生そうありたいですね。

サ上 前を向いてたら“おもしろ”が降ってくる。それをずっと楽しんで生きていきたいです。

ロ吉 そうですね。体に気をつけながら。

サ上 急にどうした(笑)。すげえ締めだな(笑)。

ロ吉 いや、今週飲みすぎで2回記憶飛ばしてるんですよ。さすがにヤバいなって。“おもしろおかしく”だけど、健康は大事だなって思います。

サ上 じゃあ、「健康に気をつけつつ、皆さんおもしろおかしく生きていきましょう」ってことで(笑)。

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

プロフィール

サイプレス上野とロベルト吉野(サイプレスウエノトロベルトヨシノ)

サイプレス上野(Rap)とロベルト吉野(Turntable)が、2000年に横浜ドリームランドで結成したヒップホップグループ。ロックイベントへの出演やアイドルとの対バンなど、ジャンルレスな活動を繰り広げ、ヒップホップリスナー以外からも人気を集める。2007年には1stアルバム「ドリーム」をインディーズからリリースし、同年「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演を果たした。その後もコンスタントに作品を発表し、2017年9月にはSKY-HIや石野卓球をゲストに迎えたミニアルバム「大海賊」をリリースしてメジャーデビュー。2018年11月にメジャー1stフルアルバム「ドリーム銀座」を発表した。2020年に7月には結成20周年を記念して、奇妙礼太郎、YOUR SONG IS GOOD、ももいろクローバーZ、碧棺左馬刻(from「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」)など豪華客演陣が参加したコラボ作品「サ上とロ吉と」をリリース。2022年3月にメジャー2ndアルバム「Shuttle Loop」を発表した。