サイプレス上野とロベルト吉野「Shuttle Loop」インタビュー|道はどんなに険しくとも、おもしろおかしく歩こうぜ!

サイプレス上野とロベルト吉野がメジャー2ndアルバム「Shuttle Loop」を3月16日にリリースした。3年4カ月ぶりとなる本作には、鎮座DOPENESS、STUTS、漢 a.k.a. GAMI、TARO SOUL、KEN THE 390といった旧知のアーティストが客演で参加。それぞれのスタイルで作品に彩りを添えている。

2000年の結成以来、地元・横浜を拠点に活動を展開し、泣いて笑って喧嘩して、その都度絆を強め、ともに歩みを進めてきたサ上とロ吉。山あり谷ありのヒップホップライフを送ってきた2人が本作に込めた「おもしろおかしい」哲学とは?

取材・文 / 土屋恵介撮影 / 吉場正和手書き文字 / サイプレス上野

悩んでるよりも、くだらねーことやって楽しもうぜ

──約3年4カ月ぶりのフルアルバム「Shuttle Loop」は、どんな作品を作ろうと思ってスタートしたんですか?

サイプレス上野 いろんなアーティストに参加してもらって2020年に「サ上とロ吉と」っていう結成20周年コラボ作品を出したんですけど、コロナの影響で20周年ライブとか全然できなかったんですよ。しばらく曲作りも止まっちゃってたんだけど、そろそろオリジナル曲を作らないとねって話になって。ちょうどその頃、ラップをやったことない地元の後輩から「友達の結婚式の余興でラップをプレゼントしたいから参加してくれませんか?」って誘われて、一緒にやることにしたんです。

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

──へえ。

サ上 素人集団で毒我吸(ドクガス)ってユニットを組んで(笑)。やってみたら意外と面白かったんです。俺が全部トラックを作って、METEORとか全然地元に関係ないヤツも参加して。それで全員“●●ガス”って名前を付けて8人くらいでマイク回ししたり。別に売り物を作るわけじゃないし、いいネタをサンプリングしてトラックを作って、みんなでラップしてっていう、ただただ楽しい時間を過ごして。そういうことをやってたら、どんどん制作意欲が湧いてきて、このテンションをサ上とロ吉に持っていこうって感じになったんですよ。

──初期衝動が制作意欲に向いたと。

サ上 はい。そこから楽曲制作に意識が向かっていきました。

ロベルト吉野 あと僕らは、上野くん主催で「建設的」っていうイベントを地元でずっとやってるんですけど、今回はその影響もデカくて。自分たちのイベントなんで、いつもステージの構成を一切決めないでパフォーマンスしてるんですよ。曲が終わったら「次の曲何やる?」みたいな感じでずっとやっていて。

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

サ上 デカい箱でガチガチに構成を決めたライブと全然違って、「建設的」は小箱だし、基本自由なノリでやってるんです。「ロベルト吉野・ザ・ベストテン」と題して、吉野が思うサ上とロ吉のベストテン曲を打ち合わせなしでガチンコのシュートマッチみたいなことをやったり。そんなことをやってるうちに、「悩んでるよりも、くだらねーことやって楽しもうぜ」ってノリがいい方向に向かっていきました。

──ある種の原点回帰というか。

サ上 ホントそうでしたね。

──原点回帰といえば、今回のアルバムには鎮座DOPENESS、STUTS、漢 a.k.a. GAMI、TARO SOUL、KEN THE 390といった、サ上とロ吉にとって旧知の間柄であるアーティストが客演で参加していますね。

サ上 完全に仲間ですね。昔から一緒にやりたいなと思ってたけど、関係が近すぎて逆に忘れてた感じなんですよ。ほかのアーティストのライブとか作品で一緒にやったことはあったけど、せっかくだから参加してもらおうって。

──アルバムの制作はどのように進んでいったんですか。

サ上 DJ MISTA SHARさんがトラックを作ってくれた「NICE DREAM」からスタートしました。で、「STILL 184045」のトラックを俺が作って、そこに、えみそん(おかもとえみ / フレンズ)がベースを入れてくれて。そこから、こういうノリの曲が欲しいよねってアイデアを膨らませていきながら、みんなに声をかけていった感じです。

何かを完成させたら、すぐ次に向かいたくなる

──では、まずアルバムリード曲の「おもしろおかしく」について聞かせてください。

サ上 これはアルバムの最後の最後にテーマが決まった曲ですね。ABEMAの番組「Music 水曜TheNIGHT」に出演した翌日に、漢くんに参加してもらった「MONEY feat. 漢 a.k.a. GAMI」の録りがあったんで、その日は横浜に帰らないで新宿のホテルに泊まったんです。そしたら、隣の部屋でトー横キッズ(新宿・歌舞伎町の東宝ビル横にたむろする若者たち)が宴会やってて(笑)。

──うわ。

サ上 ロビーでばったり会っちゃって「サ上?」とか言われて(笑)。隣の部屋から夜通しギャーギャー聞こえる中、必死に曲の練習をしましたよ(笑)。で、翌日、漢くんとの録りを終えて、ホテルに戻ったら彼らがまだ連泊してたんです。あいつらホテルのスリッパで外を出歩いて、コンビニの前に座ってメシ食ったりしてるんですよ(笑)。なんかすげーなと思いつつ、「おもしろおかしく」のトラックを聴いてたら突然リリックが降りてきて。いろいろあるけど、あいつらにはあいつらなりの生き方があるんだろうなって。俺の知らない新宿のバイブスを感じましたね。

──歌詞からは、「まだまだ進んでいくよ」という2人の強い気持ちが感じられて、中でも「俺たちは見つけたら すぐに閉める宝箱」というフレーズが印象に残りました。

サ上 俺ら、いろんなことにすぐ飽きちゃうんですよ。何かを手に入れたとしても、「ここで満足しちゃったら意味ないよ、早く次行こう」って感じなんですよね。タイトルの「おもしろおかしく」っていうのは、昔組んでたDREAM RAPSってチームのWATAという地元の友達に俺が贈った言葉で。WATAは地域で1番のクレイジーガイなんですけど(笑)。

ロ吉 皆さん今までに会ったことのないタイプだと思います(笑)。

サイプレス上野とロベルト吉野
サイプレス上野とロベルト吉野

サ上 中学時代、俺が海外にホームステイしたとき、日本の友達に手紙を書きましょうということになって。そのときWATAに「おもしろおかしく生きろよ」って書いた手紙を送ったんです。あいつ、その言葉を「俺にとっての人生訓だ」って、いまだに言ってくれるんですよ(笑)。それで、そういえば「おもしろおかしく生きよう」みたいな曲って今まで書いたことがなかったなと思って。実際、サ上とロ吉って、ずっとこんな感じだなって思いますしね。ライブがうまくいっても、すぐ揉めるし(笑)。揉めては仲直りしての繰り返しで。

ロ吉 そうっスね(笑)。この曲はプリプロの段階で、かなりキテる感じがありました。「おもしろおかしく」ってタイトルにも、どっちに転んでも楽しくやろうっていう僕らの精神性が出てる感じがして好きですね。僕はどれだけしっかりしようとしても無理だからなあ……。

サ上 今の勢いのない言い方いいね(笑)。しみじみ再確認した感じで。

ロ吉 地道にはやってるんですけど。

──しっかりできないと(笑)。この曲をはじめ、今回のアルバムには「旅」というワードが随所に出てきますが、2人の中にはサ上とロ吉の活動を通じて、ずっと旅をしてるような感覚があるんでしょうか。

サ上 そうですね。例えば、曲を作ってるときはエネルギー込めてやってるけど、完成した途端に、「じゃあもう次行くか」みたいな感じになっちゃうのもそうですし。あと、新作を引っさげて、いいライブを作り上げていくのも旅の1つだと思うんです。何かを完成させたら、すぐ次に向かいたくなる。まだまだやることはあるなって感じですね。それが旅ってワードに表れてるんだと思います。

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

俺たち今のままでいいんじゃね?

──鎮座DOPENESSさんとの「RAW LIFE feat. 鎮座DOPENESS」では、これまでの道のりと、やめられないラップへの熱い思いが描かれていますね。

サ上 鎮座は同い年で高校生くらいから知ってるんで、「お互いよくやってるね」みたいな感じの曲ですね。もともと俺とあいつは日本語ラップのガチガチなシーンから呼ばれない2人だったんです。でもある時期から、「あれ? 別に俺たち今のままでいいんじゃね?」って感じになっていって。俺はここ数年で、ラップ番組の司会を任されたりするようになったんですけど、鎮座が「変だよな。昔はジブさん(Zeebra)とか相手してくれなかったのに。お前は偉いよ」って言うんですよ(笑)。

──人生どうなるかわからないみたいなことですよね。

サ上 そうですね。そういうことの連続でここまで来たっていう曲を作るなら、鎮座しかいないよねって感じでした。鎮座のリリックも普段とは違う感じで、ちゃんと楽曲に向き合ってくれたんだなと。あいつのリリックが上がってきて、俺、自分のリリックを書き直しましたから。地元の仲間に聴かせたら、泣いてるヤツもいましたね。

サイプレス上野とロベルト吉野

サイプレス上野とロベルト吉野

──確かにここで歌われていることは、いろんな人に当てはまると思いますし、泣ける感じがありますよね。

サ上 そうやっていろんな人に響いてくれるのはうれしいですね。

──「万華鏡 feat. TARO SOUL、KEN THE 390」は、インド音楽とブレイクビーツが融合したような独特な曲ですね。

サ上 この曲は、DJ K10 a.k.a. MAD SAIZERIyAって俺の右腕みたいなヤツと一緒にトラックを作って、全編に吉野がスクラッチを入れてるんです。あと吉野はシタールも弾いてます。

ロ吉 僕、シタールちょっとカジってるんですよ。この曲は、声ネタとかもいい感じにハマって一発オッケーでした。

サ上 TAROとKENのリリックも最高で。2人とも40歳を超えたB-BOYの魂みたいな熱いリリックを書いてくれて、めっちゃありがたかったですね。俺ら2人とも40代に突入したんで。