自分の存在意義は死ぬまでわからない
──「game of life」ではそこはかとない焦燥感が歌詞に表れていると感じました。
そうですね。半ばあきらめに近い焦燥感が曲にも出てると思います。
──なぜあきらめを感じるんですか?
自分が必死に努力しても一番になれないって経験を何度かしたことがあるんですよね。それは別に音楽だけじゃなくて、テストだったり、スポーツだったり。それとすでに世の中にものがあふれすぎてしまって、あらゆるパターンが消費し尽くされてしまっていると感じていて。何か大きな発見をしたり、偉業を成し遂げたりしても大抵のことに対しては先人がいる。それが僕の感じている“あきらめ”だと思います。
──アーティストとしても同じようにあきらめを感じている?
そうですね。先人を超えなくちゃいけないというプレッシャーもある中で、自分のアイデンティティがなんなのか感じづらいものになっている。そうは言ってもアイデンティティを感じなければ自分が生きていく道が見えなくなってしまうから、僕は何が自分らしいものなのか、ずっとあがいて探してるって感じなんですよね。それが焦燥感につながっているんだと思います。最終的にアイデンティティとか、自分の存在意義というものは死ぬまでわからないんじゃないかとも感じていて。だからそんなに深くは考えすぎないようにしているんです。
1晩でオケと歌詞を全部作った
──4曲目に収録された「Halo Hello Continue」はタイトルに「Continue」とあるように、「game of life」を意識して制作された曲だと感じました。
僕、これまでの作品もそうなんですけど全然ストックがないので、「game of life」が形になってからほかの収録曲を作り始めたんです。その中でも「Halo Hello Continue」は最後に完成した曲ですね。「game of life」をぼくりりくんと共作してから、僕の中で歌詞を置いていくイメージがちょっと変わって。今までとは違う感じの曲になったかもしれません。
──「Halo Hello Continue」は、今作の中でも飛びぬけて明るい感じの楽曲ですよね。ただ歌詞を読んでみると、繰り返しの中で生きる苦しさが描かれています。
歌詞が暗いことに関してはホントに無意識なので、今改めて「暗い歌詞を書いたんだな」って自覚したくらいです(笑)。この曲はゲームやアニメでよくある“ループもの”をテーマに書いたものなんですけど、書き始めてから曲が完成するまで一番早かった曲です。「歩道橋と走馬燈」「空と散歩」の2曲を録り終えてからそのままスタジオに泊まり込んで、1晩でオケと歌詞を全部作りました。
──収録曲が形になっていく中で、最後の曲のイメージが固まったということなんでしょうか?
いや、そういうわけでもないんです。ただなんとなく、できるかどうかもわからないのに「このまま泊まって作ってみます」って言い出して(笑)。それで書けちゃいました。歌詞は半ば無意識で書いています。
──曲も歌詞も緻密に作っていくイメージがあったので意外でした。
最近はあまりこういう作り方はしてないですね。「やっぱりやめたほうがいいんじゃないか」って思い返す前に最後まで書いちゃおうって、半ば深夜のテンションで書き上げちゃった感じ。“ザ・衝動”で作っちゃったからこそ、曲調もかなり明るくなったのかもしれません。
僕のカタログ的な作品
──「Halo Hello Continue」は“ループもの”がテーマとおっしゃっていましたけど、実は2曲目「歩道橋と走馬燈」と3曲目「空と散歩」にも「繰り返し」という言葉が入っていて。
(資料を読みながら)ホントだ。気付かなかった。
──ちなみに前回のインタビュー(参照:ササノマリイ「おばけとおもちゃ箱」インタビュー)では歌詞の節々に「消える」という言葉が使われているという話をしていました(笑)。とは言え、同じ言葉が使われているからこそ、作品全体の統一感が生まれている気もします。
さっき無意識に書いたって言ったように、歌詞って考えすぎるときれいな文章を書きたがる癖があるので、なるべくサッと出てきたものをそのまま生かすようにようにしてるんです。そうすると同じ言葉が使われていたりします(笑)。ただ「繰り返し」は、自分自身の根底にある言葉なのかもしれないですね。「何度も同じことを繰り返してるな」って感覚はありますから。
──先ほど伺った焦燥感の話につながるものがあるかもしれませんね。
例えば僕が「いいな」と思ったものを伝えていくだけなら、それはただの焼き増しにすぎないかもしれないんですよね。ただそう思いながらも「好きなものは好きなんだからしょうがないじゃん」という感覚もあって。「歩道橋と走馬燈」と「空と散歩」の2曲は自分の好きな作風というか、好きな曲調をそのまま曲にしているんです。この2曲に関しては「僕はこういう曲が好きだし、こういう曲を書くんです」っていうアピールだと思っていて。ぼくりりくんとのコラボ、リミックス、ピアノの即興も含めて「ササノマリイはこういうことをやるアーティストです」という僕のカタログ的な作品になったんです。焦燥感や不安はもちろんあるけど、いろんな人に聴いてほしいと素直に思えるCDが作れたと思っています。こんなことを自分で言うのは恥ずかしいんですが(笑)。
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楽しんで作れたものがそのまま世に
- ササノマリイ「game of life EP」
- 2017年6月14日発売 / Sony Music Associated Records
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初回限定盤 [CD+DVD]
1620円 / AICL-3344~5 -
通常盤 [CD]
1296円 / AICL-3346
- CD収録曲
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- game of life feat. ぼくのりりっくのぼうよみ
- 歩道橋と走馬燈
- 空と散歩
- Halo Hello Continue
- game of life(To be, or not to be)
- game of life(ピアノ即興曲)※初回限定盤のみ
- 歩道橋と走馬燈(ピアノ即興曲)※初回限定盤のみ
- Halo Hello Continue(ピアノ即興曲)※初回限定盤のみ
- 初回限定盤DVD収録内容
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-ササノマリイLIVE with Slime Synthesizer-
- バイバイ
- タカラバコ
- 透明なコメット
- ササノマリイ
- 2009年にVOCALOIDシーンで「ねこぼーろ」として音楽活動を本格的に開始。「戯言スピーカー」「自傷無色」などの楽曲で人気を集めた。2014年よりシンガーソングライター「ササノマリイ」としての活動をスタートさせ、同年10月に1stアルバム「シノニムとヒポクリト」をリリース。2015年7月には2ndアルバム「おばけとおもちゃ箱」を発表した。収録曲「共感覚おばけ」のミュージックビデオは動画サイトvimeoのstaff picksをはじめとした数多くの賞を受賞するなど海外からも注目された。2017年6月、ぼくのりりっくのぼうよみをゲストボーカルに迎えた楽曲「game of life feat. ぼくのりりっくのぼうよみ」を収めた新作音源「game of life EP」をリリースした。